新型コロナウイルス感染症の流行によって市場環境が激変している時代、新規事業を立ち上げて新しいビジネスモデルへの転換を図りたい企業も多いでしょう。
しかし、経済産業省の調査によると企業が実施した新規ビジネスの8~9割は失敗に終わるそうです(※1)
なぜ企業の新規開発は失敗してしまうのでしょうか?
もっとも大きな理由の1つは企業があまり市場をよく調査せずに製品やサービスを開発してしまうことです。
表面的な市場規模や顧客のニーズはわかっても表に出てこないような市場の慣習や顧客の行動原理など、先行事例を調査して深い部分まで知る必要があります。
市場にどれだけ詳しくなるかで会社の新規事業の成功が決まると言っても過言ではありません。
この記事では、市場調査やマーケティングリサーチの展開手法の仕組みについて紹介します。
1.市場調査とは?
市場調査とは、企業などの組織が製品やサービスの開発を行う上で、アンケートやインタビューを駆使して市場に関するさまざまな情報を収集・分析・活用する仕組みを言います。
市場調査には定量調査と定性調査が存在しますが、これらはどのように違うのでしょうか。このセクションでは定量調査と定性調査の違いを紹介します。
1)定量調査
定量調査は、人数や割合、傾向値などの明確な数値や量で示すことができる定量データをベースに、集計・分析・活用する調査手法を言います。
具体的には以下の通りです。
- インターネットリサーチ:インターネットから市場の情報を得る
- インターネットアンケート:インターネットを介してアンケートを行う方法
- 会場アンケート:調査対象者を指定会場に集めてアンケートやインタビューを行う方法
- ホームユースアンケート:サンプル品を送り試用した感想や評価をしてもらうアンケート方法
- 郵送アンケート:郵送でアンケートを送り回答してもらう方法
- 街頭アンケート:街を歩いている人に声をかけて、質問に回答してもらう方法
- 電話アンケート:対象者に対して電話をかけ、口頭で回答をもらうアンケート方法
インターネットリサーチだけを定量調査だと思っている方がいますが、それは間違いです。会場アンケートや電話アンケートなどの対面型の調査回答でも数値化できるデータは全て定量調査です。定量調査のメリットは市場の全体像を把握しやすいことです。数値ではっきりと傾向が出るためわかりやすいのです。
また、一般的に使われる指標に照らして判断できるので客観的で科学的な活用がしやすいのも特徴です。一方で定量調査のデメリットは結果を読むのに統計学の知識が必要なことです。
統計データはあくまでも1つの切り口で数値化されたデータであって、現実をそのまま反映したものではありません。
現実を数値化するにはその裏にある膨大な回答情報を切り捨てており、そのまま信じてしまうと現実を正しく認識できません。
統計データはどのような切り口で数値化するかによって印象がまるで変わるので正しくデータを見るスキルがないと事実誤認をしてしまうのです。
2)定性調査
定性調査とは消費者や会社の顧客による発言や行動といった、数量や割合では表現できないものから、新しい理解やヒントにつながる質的データを得る調査展開手法を言います。
定性調査の手法としてはインタビューや質問が主体になります。
具体的には以下の通りです。
- グループインタビュー
- デプスインタビュー
- 電話インタビュー
- 行動観察調査
定性調査のメリットは定量調査には現れてこない顧客の生の回答がインタビューや質問で聞けるということです。
行動や自社の顧客の何気ない会話からもヒントを得たりするので、顧客自身も気づいてない潜在的なニーズを掘り起こせることがあります。
一方で定性調査のデメリットは客観性に乏しいことです。
数値データのように誰が見ても同じという保証がないので、調査する人間にマーケティングスキルやインタビュースキルが乏しいと根拠のない思い込みで結論を展開してしまうことがあります。
3)市場調査とマーケティングリサーチの違い
市場調査は現在の市場動向を把握することですが、マーケティングリサーチはさらに未来の市場動向に対して把握し、回答された情報を活用することを目的とします。
市場調査はすでに現在の現象が存在していますので数値データが把握できますが、未来の現象は数値データが把握できません。
したがって、マーケティングリサーチはどちらかというと客観性や論理性ではなく、感情的な側面が強くなります。
つまりこれは消費者の未来の感情を予測する展開手法であると言われています。
2.新規事業を立ち上げるための市場調査手法
ではどのように会社の新規事業立ち上げのための市場調査を展開すればよいのでしょうか。このセクションでは市場調査の具体的な活用手法を紹介します。
1)調査目的を明確にする
まず新規事業に参入する意図や目的をしっかりと確認します。
事業展開のストーリーを考えながら最終的に達成すべきKPIが何かを決めていきます。
この時に会社の経営者がどのような成果を期待しているのかもちゃんと確認した上で決めましょう。
新規サービスは立ち上げてしばらくは売り上げもあまりあがらず、赤字が続くのが普通です。
表面的な利益額や売り上げのみをKPIにしてしまうと黒字化するまでの期間が長く、経営者や現場担当者が自信を失ってしまう可能性があります。
あくまでも自社の事業全体の将来的な評価を高めるような目標を立てることが大切です。
2) 調査手法を決定する
どのような手法を用いて市場調査を実施するかを決定します。
調査の課題と目標によって適切な調査手法を選択することが重要です。
市場調査はさまざまな目的が考えられます。
例えば市場分析であれば、消費者の顕在ニーズやライフスタイル、ターゲット層、購買行動、競合他社の動向など市場の基礎的な資料を集める目的があります。
それ以外にも製品やサービスのアイデアを創出する際に市場調査から資料を得るということもあり得るでしょう。これはターゲット層へのアンケートやインタビューで現在どのような不便や不足があるか調査し、製品やサービスのアイデア創出の資料にするのです。
また、ターゲット層が好む媒体や普段の情報収集の仕方を知るということも市場調査の重要な目的です。例えば昨今の若年層はインターネットの検索エンジンをあまり使わないことで知られています。彼ら彼女らはわからないことや知りたいことがあればSNSの検索機能を使って調べるのです。そのため若年層向けのサービスを立ち上げるのにSNSをおろそかにして黒字化は見込めないでしょう。
市場調査においては定量調査と定性調査のどちらかを決めることになりますが、それぞれの調査においても具体的な手法を決める必要があります。
3)調査を実施する
決められた調査手法に従って調査を実施します。
相手のニーズをうまく引きだすことができる調査員が担当することが重要です。
特に定性調査の場合はマーケティングスキルが豊富な人材を担当者に据えなければ誤った資料が出てしまいがちです。きちんと対応できる担当者を据えましょう。
新規サービスのアイデアを得るために市場調査を行うのは良いことですが、平均的な消費者からはどうしてもありきたりな意見しか出ない場合が多いです。
なぜならば消費者自身も潜在的なニーズや将来のニーズには気づいてないからです。
消費者にアイデア出しを頼るのではなく、消費者自身も気づいていない潜在的な悩みや課題は何かという観点が必要となります。この場合、消費者からエクストリームユーザーを選んで調査するのも1つの手法です。
エクストリームユーザーとは製品やサービスに対して極端な使い方をしているコアなユーザーのことです。例えばキャッシュレス決済サービスを開発するのに「現金を一切持たない主義」のユーザーを調査するということが考えられます。
また、ポジティブなユーザーだけではなく、極端にネガティブなユーザー(いわゆるアンチ)に対して調査をすることも有効です。
例えば上の例でいえばキャッシュレス決済サービスに過大なリスクを感じていて現金しか使わないユーザーを調査するということが考えられます。
4)調査結果の分析と仮説検証を行う
調査結果を資料としてまとめます。資料作成は高いスキルが必要になるため、リサーチ企業などに依頼するのも有効です。
5)意思決定を行う
調査結果の分析から導いた考察をベースに、マーケティング施策を考案します。
仮説検証の市場調査を実施した場合、検証結果をもとに次のアクションを決定します。
仮説立案の市場調査を実施した場合には検証のためのアクションを決定することになります。
3.市場調査を行う上で注意したいポイント
このセクションでは市場調査を行う上で注意したいポイントを解説します。
1)調査ターゲットを設定する
市場調査の際には新規の製品やサービスのターゲットとなる年齢層や性別などを明確にすることが重要です。
例えば同じサービスでも30代の女性と40代の女性では感じ方や評価が異なることが多いです。
また、値段については世帯年収額や既婚か未婚かによっても感じ方が異なるでしょう。
新規の製品やサービスを立ち上げる際にはターゲットの条件を細かく設定することが重要です。
2)仮説を適切に立てる
定量調査では仮説を立ててから調査を行うことが非常に重要です。
仮説とは調査したいことに対する仮の答え、予想のようなものです。
まず仮説を立て、その仮説が真実であるか検証するようにデータを集めていきます。
仮説をしっかり立てないと調査結果をどのように活用すれば良いのかわからなくなるので重要なポイントです。
3)調査の目的を明確にする
何のために市場調査を実施するかを明確にすることも重要です。
目的の明確化は調査が成功するかどうかを決めると言っても過言ではありません。
目的を明確にするにはまず新規ビジネスの立ち上げに際してどのような課題があるか、不足している情報は何かを洗い出し、それに対する答えとして調査を実施します。
4)市場調査にかかるコストと所要時間を想定する
市場調査の規模によって、調査にかかるコストと時間が大きく変化します。
当然ながら大規模な調査になればなるほど時間とコストも膨大になります。
市場調査を行う際には費用対効果を意識しましょう。
多くの調査を行えばその分だけ多くのデータが得られます。
しかし、不必要に膨大なデータを収集してしまうと、得られる答えは変わらないのに費用だけが増えるということになりかねません。
これを防ぐにはどの程度のサンプル数で必要十分なデータ数を得ることができるかを明確にすることが重要です。そのためには統計学の知識が必要になるでしょう。
4.まとめ
この記事では新規ビジネスを立ち上げる際の市場調査について解説しました。
市場を理解することは新規ビジネスの立ち上げにおいて必要不可欠です。
調査の目的とターゲットを明確化し、仮説を立て、最小限のコストで調査手法を決定することが重要です。
また、このような市場調査に関してはマーケティングや統計学のスキルを持つ人材が必要となる場合が多いので、場合によっては外部の企業に委託することも考えましょう。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)