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最終更新日:2024.08.28
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【プロ監修】新規事業やDX推進プロジェクト立ち上げ期、PMがすべき対策とは?

【プロ監修】新規事業やDX推進プロジェクト立ち上げ期、PMがすべき対策とは?

システム開発、新規事業の立ち上げ、経営課題の解決、IT技術を駆使したデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進などなど、近年の企業では、プロジェクト単位で業務を進める場面が多く見られます。

しかし、プロジェクトという単位で業務を進めるにあたり、特にその立ち上げ期にはさまざまな問題が生じがちです。
目的達成に向けてプロジェクトチームやメンバーを率いるプロジェクトマネージャー(PM)にとっては、プロジェクトを成功させることができるのかと不安を感じる時期でもあります。

本記事では、プロジェクトの立ち上げ期によく見られる問題とその対処について解説し、PMの役割に就く方がプロジェクトを成功へと導けるよう、プロジェクト立ち上げ期におさえておきたいポイントについて解説します。

※本記事は業務プロセス改革など企業の課題解決構想やグランドデザイン立案のご支援や、システム開発における要件定義から移行までを一気通貫で支援してこられた、豊富な経験を持つプロフェッショナル監修のもと制作しました

1.DX推進や新規事業のプロジェクト立ち上げ期に起こりがちな問題

1.DX推進や新規事業のプロジェクト立ち上げ期に起こりがちな問題
近年は世界各国でDX推進の必要性が叫ばれており、日本企業もその例外ではありません。
新規にプロジェクトチームを組んでDX推進に取り組む企業が増えており、DX推進に関する市場規模も年々増加しています。

ところが、マッキンゼーが2016年5月に発表した論文(※1)によれば、DX推進プロジェクトの70%は目標を達成していないという調査結果が引かれています。
また、経済産業省が2020年12月に公開した「DXレポート2(中間取りまとめ)」(※2)では、「DX推進指標の自己診断に取り組み、結果を提出した企業の中でも、95%の企業はDXにまったく取り組んでいないか、取り組み始めた段階」であると分析されています。

組織で日々行われる通常業務と異なり、プロジェクトという単位で進められる業務には特有の難しさがあります。特に、IT分野の先端技術などを活用して、ビジネス、企業組織など経営そのものの変革を目指すDX推進プロジェクトや、新たな事業の創造を目指す新規事業プロジェクトでは、その難しさがさらに高まるのも想像に難くありません。

そのなかでも、プロジェクトの立ち上げ期に常につきまとう3つの問題について、そのポイントを解説します。

1)プロジェクトのビジョンやゴールがない

「古くなったシステムが使えなくなるので、どうにかしなければ」「変化の激しい社会を勝ち抜くためにDX推進が必要だ」こうした考えからプロジェクトが始まることは決して珍しくありません。

一見すると上記はプロジェクトの目的やゴールに見えがちですが、ここに挙げられているシステムの再構築やDXの推進は、企業がある目的を達成するための「手段」あるいは事業継続のための最低要件であると考えられます。

そして、本当の意味でプロジェクトの目的・ゴールとなるべきは、競争優位を獲得し、あるいは安定的に収益を得るためのビジネスモデルを構築するために、古くなったシステム(あるいは業務自体)を「どう」したいか、DX推進によって「何を」「どのように」変革したいか、といった「ビジョン」なのです。

しかし、この「ビジョン」や「ゴール」が明確に定まっていない状態でプロジェクトがプロジェクトマネージャー(PM)におりてくることもまた多いものです。ビジョンやゴールが定まらないと「手段」を選ぶことも、個々のタスクやスケジュールを計画することもできません。そこでどう動けばいいかわからないと悩むPMの姿も散見されます。

2)現場の協力が得られない

例えばシステム開発のプロジェクトでは、IT部門の担当者はもちろん、開発されたシステムを実際に活用するエンドユーザーにもメンバーに加わってもらい、協力を得る必要があります。

また、企業の変革、すなわち、製品やサービス、ビジネスモデル、組織や業務そのものの変革を目的とするDX推進プロジェクトでは、IT部門をはじめ、営業や企画、あるいは管理部門なども含め事業を推進する各部門はもちろん、経営陣も含めて、全社的なプロジェクトへの参画・協力が必要不可欠となります。

データ、デジタル技術で「何ができるのか」という視点も重要ですが、ビジネスとして、更に言えば経営として「どうしたいのか、どうあるべきなのか」という視点を含め、両輪で検討を進める必要があるからです。

しかし、プロジェクトメンバーの多くは通常業務とプロジェクト業務の兼務であり、どうしても本業優先になりがちです。システム開発やDX推進のプロジェクトでは、そもそもの目的が共有されていない、あるいは何を協力すればよいのか明確に伝わっていない、必ずしもプロジェクト参加が現業の業務と同等にみなされないなどさまざまな要因から各部門が支援に消極的・非協力的なスタンスをとることも多いでしょう。

プロジェクトの推進において、利用部門などの意志決定者やエンドユーザーメンバーの協力を得られない状態は大きな問題となってしまいます。

3)人材の採用や育成ができていない

システム開発のプロジェクトにおいては、開発のタスクを担ったり、業務要求がシステムに適切にデザインされているか品質管理を行うエンジニアの存在が不可欠です。
更にDX推進プロジェクトでは、ビジネスの現場や自社の経営のことと先端的なIT技術の双方を理解し、ありたい姿をデザイン・共有し、プロジェクトの具体的なゴールとプロセスを計画できるようなDX人材が必要です。

とはいえ、特にIT分野を中心に人材不足の傾向が強まりつつある日本企業では、そうした業務を任せられる人材の採用・育成は容易ではありません。
社内に可能性のある人材がいても、前述のように現業との兼ね合いでプロジェクトに十分な時間を割けないことも多くあります。

そもそもプロジェクトの予算も決して潤沢ではなく、ギリギリのリソースで進められるプロジェクトも少なくないでしょう。
そうしたなかで、「必要とするスキルや経験を備えた人材がいない(足りない)」という状態は、プロジェクトのスムーズな進行を妨げる要因となってしまうのです。

2.DX推進や新規事業のプロジェクト立ち上げ期に推進担当者ができること

2.DX推進や新規事業のプロジェクト立ち上げ期に推進担当者ができること

プロジェクトのプロセス進捗管理や課題管理、リスクの評価・分析、成果物の品質チェック、あるいは管理に伴う各種ドキュメントの作成や管理など、プロジェクトマネージャーの責任や業務は多岐にわたります。

そのなかでも、プロジェクトの目的やゴールの達成に向けて、プロジェクトをどのように立ち上げ、どのような役割分担とスケジュールでタスクを進めていくか、その計画をデザインするのは、プロジェクトマネージャーの重要な仕事です。

ここからは、前述の「起こりがちな問題」を踏まえたうえで、プロジェクトの成功へ向けて、その立ち上げ期にプロジェクトマネージャーが特に留意して対応するべきポイントについて解説します。

1)ビジョンの共通言語化

プロジェクトの目的やビジョンが明確になっていないというのは、プロジェクトが進むべき道を設定できないということを意味します。目的達成の最適な手段や計画を検討、判断するために、目的やビジョンを明確に言語化し、合意形成しておくことは、プロジェクト全体の成否を左右する重要なプロセスです。

プロジェクトマネジメントの担当者はまず最初に、経営者や事業責任者、その他の意志決定者などプロジェクトオーナーとの対話を通じて「システムの再構築であれば業務やシステムを何のためにどのように変えていきたいのか」「DX推進であれば何を変革したいのか、どのような変革を目指すのか」といったプロジェクトの目的やビジョンを明確化し、プロジェクトオーナーはもちろん関係するステークホルダーとも合意を形成しておく必要があります。

そしてその目的やビジョンに加え、それらをを踏まえて明確に定義されたプロジェクトのゴールやプロセス、成果物をメンバーに共有します。プロジェクトのゴールやプロセスがぼんやりしているとメンバーは不安になりますし、モチベーションも高まりません。

プロジェクトメンバーはもちろん、社内の意志決定者や関係者がイメージしやすくなるよう、目的やビジョンを可視化した資料はもちろん、成果物イメージなども含め、なるべく具体的なプロジェクト計画に関するアウトプットを作成して共有することで、常に今何を行うべきか何を決定すべきかを各自が明確に理解できることになります。またプロジェクトの進行過程でも常に意識合わせをすることが大切です。

2)顧客と自社の課題を見つける

新規事業を立ち上げるプロジェクトの場合、あるいはDX推進プロジェクトでビジネスの変革を目的とする場合は、「顧客に対する新たな価値の創造」という視点が不可欠です。そこで、自社の課題やアイデアだけではなく、市場や顧客のニーズを踏まえた検討を行う必要があります。

プロジェクトマネジメントの役割を担う推進担当者としては、そうした点も考慮して、社内外の多様な関係者とディスカッションする場を設けたり、社内のアイデアを幅広く吸収、フィードバックしたり、更に課題に対する対応策を具体化した上で会社として意志決定できるようなプロセスや機能の設定を行うことが望ましいでしょう。

3)プロジェクトで活用できる資源を分析・理解する

新規事業立ち上げプロジェクトもDX推進プロジェクトも、企業にとっては大きな投資です。「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を中心とする経営資源をプロジェクトでどこまでどのように活用できるのか分析し、経営上許容される範囲で計画することで、初めてプロジェクトのスタートを切ることができます。

特に重要なのは人材の確保です。必要な人材を社内だけでまかなうことが難しい場合は、コンサルティング会社やフリーランスのプロフェッショナル人材など、外部のリソースを一時的に活用するという選択肢もあります。

外部人材の活用には「即戦力をアサインできる」「高度な知見・経験からアドバイスを受けられる」「自社とベンダーの意思疎通の仲介を期待できる」といったメリットがあります。 経営資源は有限ですので、予算が取れないなら何かを削ることになりますし、メンバーのアサイン可能日数が減るならその分タスク遂行の所要期間は長くなります。

資源の采配とプロジェクト計画はすべてトレードオフの関係にあります。
不足を勢いで乗りきろうとせず、常にこのトレードオフを考慮して適切な取捨選択を考え、必要であればプロジェクトオーナーにエスカレーションし最終判断を仰ぐことが、プロジェクトを成功へ導くための重要なポイントです。

4)プロジェクトの体制・仕組みづくりを行う

本業と兼務で事に当たる新規事業立ち上げプロジェクト、異なる本業・スキル・価値観や部門間の利害関係を背負ったステークホルダーが社内横断で携わるDX推進プロジェクトなど、プロジェクトにはさまざまな背景をもつ多様な人材が参画します。

プロジェクトマネジメントを担う担当者としてはプロジェクトを円滑に管理、推進できるよう、プロジェクト組織やプロセスをデザインすることが重要です。更にはそのプロジェクトのアウトプットを最大限価値あるものとし、ゴールに到達することができるよう、メンバーのタスク実行やアイデア立案、挑戦を支援しフィードバックする仕組み、風通しよく話ができる雰囲気の醸成、現実的に意志決定から実行へ移すプロセスなどを計画し作り上げていくのも重要な仕事です。

前述の「ビジョンの共有」もその一部です。これはいわば、プロジェクトに“魂”を入れるタスクです。メンバーは、自身のタスクが自社、組織、あるいはプロジェクトにどう貢献できるのか、プロジェクトのタスクやミッションの達成がどのように社内評価につながるのか、プロジェクトでの経験が自身のキャリアにどう生きるのか、といった点に不安や迷いを感じるものです。

むしろそれらについて自らの納得感があれば、そこに各メンバーのコミットメントが生まれ、自ずと指示されずとも、良いアイディアを創造し、主体的にタスクに取組み、必要なコミュニケーションやエスカレーションを行い、更にその結果をフィードバックすることで、より一層前向きかつ主体的な取組みが加速するという好循環が生まれます。

プロジェクトが事業や組織の未来創造にどう繋がるのか、経営陣がプロジェクトを重視しコミットしていること、プロジェクトへの貢献と社内評価やキャリアパスとのつながりなどをきちんと示すことは、そうした迷いを払拭し、モチベーションを高めることにつながり、更に言えば労働集約型で個々人のスキルに依存しがちな「プロジェクト」のリスクを低減し、成果を最大限に引き上げることに繋がります。

3.まとめ

プロジェクトという形態は、新規事業の立ち上げやDX推進など、ある目的を実現するために限られたスケジュールの中で編成された組織です。
その組織がチームとして動き出せるようにするためには、プロジェクトマネージャーが自ら動き、計画を立案して進行をリードすることが求められます。

プロジェクトマネージャーの計画、管理スキルが、プロジェクトの成功に大きく影響する要素であるのは間違いありません。
標準的に、プロジェクトマネージャーは実務担当者としてすぐれた能力を発揮してきた人材が、更に期待され、プロジェクトのリーダーとして管理やマネジメントを任されるというケースがよく見られます。

しかし、即戦力の実務担当者として能力を発揮することと、リーダーとしてプロジェクトを計画しその責任を負うことはまったく別の話であり、異なるスキルセットが必要です。

プロジェクトをジグソーパズルにたとえると、絵全体を俯瞰して個々のパーツ(=タスク)に最適なピース(=メンバー)を選択し、配置するのがプロジェクトマネージャーの仕事です。

人材が不足しているプロジェクトなどで、優秀なプロジェクトマネージャーがメンバーに任せるべきタスクを自身で受け持ってしまうことがありますが、マネージャーが“パズルの1ピース”になってしまっては計画やプロセスを俯瞰できなくなってしまい、本来必要なリスクを的確に察知しアクションを取ることやプロジェクトに魂を入れる対応が不十分となってしまいます。

プロジェクトにアサインする側もアサインされる側も、このスキルの違いをきちんと理解し、実務担当者の時から意識できること、また育成において配慮しておくことは、プロジェクトの成功のために欠かせないポイントですし、人材育成やキャリアデザインの観点で非常に重要です。

プロジェクトのゴールや進み方を決めるのは、プロジェクトマネージャーの責任であり裁量でもありますが、プロジェクトの立ち上げ期に組織や仕組み、プロセスなどを含め、計画をデザインし、人の配置や役割分担を決めることには苦労も多い上に、明確に体制や計画を編成しスタートしても、想定外のリスクや課題が発生することもあるでしょう。

時には、プロジェクトが暗礁に乗り上げたり、解決困難な事象が起き、その都度プロジェクトマネージャーとしての判断を求められることも多くあります。そういった事態に直面すると、優秀なプロジェクトマネージャーほど悩み、自分を責める傾向があります。

しかし、企業の経営者や上位意志決定者の支援のもと、プロジェクトマネジメントを遂行できる経験とスキルを有する人材だからこそプロジェクトマネジメントを任されたのだと自覚し、プロジェクトマネジメントとしてのポイントをおさえた理解とそれまでの経験をもって、自らを信じて、自分自身で考え抜き臨むことで、必ずプロジェクトの成功へ向けて推進していくことができるはずです。

監修者プロフィール 高橋 静代
企業の変革、課題解決を目的として、業務プロセス等の変革に係る構想立案から、新システム構想・グランドデザイン策定支援、またパッケージ導入・スクラッチ開発判断やベンダー選定などのプロジェクト初期段階の支援や、更にERP/スクラッチ開発を問わずシステム導入・刷新に伴う最初から最後までのタスク推進支援や推進に係る助言を、クライアントに伴走した立ち位置でご支援・ご助言することを得意とするコンサルタント。
ITコンサルティング会社では、PMとして計画からシステム導入まで責任を担うことはもちろん、ビジネスユニットの責任者も経験している。経営を理解し、提案活動からプロジェクト立上げの支援、プロジェクト開始後のPM、グランドデザインから要件定義・移行までの支援を一気通貫で対応できるのが強み。



(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

出典 ※1:The ‘how’ of transformation(McKinsey & Company)

※2:D Xレポート2 中間取りまとめ(経済産業省)

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