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最終更新日:2024.08.26
経営企画/ESG

事業デューデリジェンスがM&A成功の鍵!成功させるための調査方法と流れを解説

近年の日本では、中小企業の後継者不足に伴う事業承継の問題は深刻な課題となっています。会社のオーナーとしては、本来であれば後継者に事業を承継し企業やビジネスを継続させたいと考えていても、後継者が見つからなければそれがかないません。

そうした課題を解決する選択肢の一つとして広く実施されるようになっているのがM&A(企業の合併・買収)です。買い手となる企業にとっても、優良な技術や製品・サービスを有する企業を適正な価格で得ることができれば、自社の経営に大きなプラスとなります。

しかし、M&Aともなれば相応の費用が生じることになり、その取引にはリスクも伴います。失敗してしまえば影響は甚大ですが、M&Aを成功させるのは容易なことではありません。そこで、M&Aを成功へ導くために重要となるのが「事業デューデリジェンス(DD)」というプロセスです。 本記事では、事業デューデリジェンスの概要と目的、リスクとリターンを把握するための手続きの流れ、おさえておくべきポイントなどについて解説します。


1.事業デューデリジェンスとは?

「事業デューデリジェンス」とは何かということを解説するにあたり、まずは「デューデリジェンス」という言葉についておさらいしておきましょう。

「デューデリジェンス」は「Due Diligence」という英語で、日本語に直訳すると「当然払うべき努力」といった意味。「デューデリ」と略されるほか、英語の頭文字をとって「DD」と略されることもあります。

デューデリジェンスはM&Aや事業承継などの前だけでなく、投資家の投資や金融機関の引受業務などに際しても行われます。その内容を一言でいうと、「投資対象の状況を見極め、リスク・リターンを把握するための調査」です。 M&Aに際して行われるデューデリジェンス(DD)では、M&Aや事業承継などにおいて買収・譲渡対象となる企業(譲渡企業)の経営実態を把握するため、必要に応じて財務、税務、法務、人事、経営環境などさまざまな項目を調査します。

そのなかでも、事業(ビジネス)面に焦点を当ててM&Aや事業承継などの売り手企業(譲渡企業)の企業価値を分析・判断する目的で行われるのが「事業デューデリジェンス(DD)」。「ビジネスデューデリジェンス(DD)」と呼ばれることもあります。

1.事業デューデリジェンスとは?

1)M&Aにおける事業デューデリジェンス(DD)の必要性

M&Aでは、買い手は多額の資金を投じて会社を買収します。多額を投じて企業の譲渡を受けたあと、その投資に見合う金銭的利益、あるいは自社の経営や既存事業への好影響といったメリットを得ることができなければ、M&Aは失敗に終わってしまいます。

そして、M&Aにはさまざまなリスクも伴います。前述のように利益が投資額に見合わない懸念はもちろん、売却企業の本当の価値よりもはるかに高額な買収費用を支払ってしまう、売却企業に重大な問題があるといった可能性もあるわけです。買収後にリスクが発覚し実際に損害をこうむることもまた、M&Aの失敗とみなされます。

そうならないよう、買い手はM&Aに際し売り手企業の経営実態を詳細に調査して、事業の将来性、自社とのシナジー、抱えているリスクなどを適正に、売買契約を決断する前に、把握する必要があるのです。

2)事業デューデリジェンス(DD)における調査対象

事業デューデリジェンスの目的を大きくまとめると、「売り手企業(譲渡企業)の価値を把握すること」「売り手企業が有するリスクを明確にすること」「M&Aや事業承継にかかる経営判断や買収後に向けた準備に備えること」の3点です。その目的を達成するために必要な情報が、事業デューデリジェンスにおける調査の対象となります。

具体的には、売り手企業の製品・サービスの製造や営業実態、ビジネスモデル、企業が有する内部資源、企業や事業を取り巻く外部環境や市場動向、顧客、競合、仕入れ先、会社が保有している技術などを調査。それらの情報をもとに売り手企業の事業を分析して、買い手企業とのシナジー効果や経営統合効果、リスクとメリットなどを評価したうえで企業価値を判断します。

中小企業などでは特に、企業の経営と事業の状況は不可分であることも少なくないため、事業デューデリジェンスにおいても先に挙げた財務、税務、法務、人事、経営環境などが調査対象となるケースもあります。そのほか、会社のIT環境やガバナンスなどが調査対象となることも。

2.事業デューデリジェンスにおける基本的な流れ

一言で「事業デューデリジェンス」といっても、調査規模や対象項目などはケースバイケースです。今回は、一般的な事業デューデリジェンスの手続きや実行の流れについてそのステップを解説します。

2.事業デューデリジェンスにおける基本的な流れ

1)調査チームを構成する

事業デューデリジェンスは、買い手企業が自社で行う方法と、外部の専門家やサービスに依頼して行う方法があります。調査は専門的な内容に踏み込みますし、買い手自身が調査を行うのは客観性に欠ける面も否定できませんので、基本的には外部に依頼して支援を受けるのが望ましいでしょう。

2)売り手企業と秘密保持契約を結ぶ

事業デューデリジェンスでは、売り手企業に対して、会社の財務、税務、法務、経営、取引、事業、人事情報に至るまで、多岐にわたる重要情報の開示を求めることになります。また、調査によってM&Aの取引に関する情報が流出してしまうと、双方の企業の経営に影響が及びます。情報を適切に扱うため、買い手企業と売り手企業の間で秘密保持契約を締結するのは不可欠です。

3)具体的な調査方針を決める

事業デューデリジェンスのスケジュールや予算を明確にしたうえで、財務、税務、法務といったデューデリジェンスのどの種類を実施するか、どういった項目をどのように調査・分析するかなど、事業デューデリジェンスで実施する調査の方針を決定します。事業デューデリジェンスで必要な情報を漏れなく把握・判断するためには、方針をきちんと設計しておくプロセスが欠かせません。

4)売り手企業の実態把握をする

売り手企業からすでに入手している情報を整理しておきましょう。この段階で、会社の登記簿謄本や定款などの基本情報、株主構成を把握できる資料、決算書などの財務書類、事業計画書や仕入れ・販売実績など事業の体制や状況を確認できる資料を入手・整理しておくと、以降のプロセスを効率的に進めやすくなります。

5)担当者間の打ち合わせを行う

外部の専門家など事業デューデリジェンスの調査に携わるメンバーが集まり、打ち合わせを実施します。事業デューデリジェンスの対象となる売却企業とM&Aの概要、今回の調査方針、これまでに入手した財務資料や事業計画書などの情報・資料について説明・共有しましょう。

複数のデューデリジェンスを実施する場合は、種類ごとに打ち合わせを行うのが一般的ですが、各種調査の担当者の連携が必要となることも多いです。必要な支援を適切に受けられるよう、調査全体の概要や必要なポイントを全担当者で把握できるようにしておくことが重要です。

6)請求資料のリストを作成する

事業デューデリジェンスに必要となる情報や資料は状況によって異なりますが、ほとんどの場合は事前に収集した情報や資料だけでは足りません。会社の財務、税務、経営、取引、事業、人事情報などについて、必要となる情報・資料のリストを作成し、売却企業に提供を依頼します。

7)資料を確認し調査・分析する

事業デューデリジェンスの担当者は、収集した会社の財務、税務、経営、取引、事業、人事などの情報・資料に基づいて各種調査・分析を行います。疑問点や不明点があれば追加で確認。調査を進める過程で新たに必要となった情報・資料も都度請求します。

8)経営者に聞き取り調査を実施する

情報や資料だけでは把握できない内容については、外部の専門家などの担当者が売り手企業の経営者に聞き取り調査を行います。調査実施に際しては、M&Aに関する情報が売り手企業の社内で広まることのないよう注意が必要です。

9)専門家からの報告を確認する

外部の専門家などの担当者は、調査結果をもとに売り手企業の状況を多角的に分析。すべて終了すると報告書としてまとめられ、依頼主である買い手企業に提出されます。報告を受けた買い手企業は報告内容を確認。疑問があれば確認し、不足があれば追加で調査を依頼することもあります。

10)報告内容を踏まえ対応する

買い手企業は、事業デューデリジェンスの報告結果に基づき、M&Aの実施可否や買収金額について議論。最終的に方針を決定します。調査結果を受けて買収費用の引き下げを考える場合は、売り手企業と価格交渉を行うことになります。

3.事業デューデリジェンスにおける分析方法

事業デューデリジェンスを成功させるには、適切な方法で分析する必要があります。ここでは、事業デューデリジェンスで使われる次の6つの分析方法について紹介します。

これらはすべて重要で、M&A実施企業がM&Aに際してこの6つの分析を行うことによって買収リスクを縮小させたり、買収後の戦略が練りやすくなったりします。

1)ビジネスモデル分析

ビジネスモデル分析は、M&A対象企業の事業を調べることを指します。ビジネスモデルを分析することで、自社の現状や未来を広い視野で見ることができます。

事業デューデリジェンスを行うのであれば、ビジネスモデル分析は当然に行うのではないか、と感じる方もいるでしょう。もちろんそのとおりです。むしろ、ビジネスモデル分析を行ってからM&Aするかどうかを検討することもあります。

それでも事業デューデリジェンスでビジネスモデル分析が必要になるのは、会社や事業を買う企業が、M&A中にM&A後のことを考えていかなければならないからです。M&A実施企業が自社のビジネスとM&A対象企業のビジネスを協業させるには、協業プランを描いておく必要があります。また自社のビジネスとM&A対象企業のビジネスがバッティングしていれば無駄を省く方法を考える必要があります。

ビジネスモデル分析でビジネスモデルを改良できれば、M&A対象企業の稼ぐ力はより強化されます。M&A後のビジョンを描くためにも、ビジネスモデル分析は事業デューデリジェンスで欠かすことができません。

2)SWOT分析

SWOT分析は、強み(ストレングス)、弱み(ウィークネス)、機会(オポチュニティ)、脅威(スレット)をリサーチすることです。M&A実施企業がM&A対象企業に対してSWOT分析を実施することで、M&A完了後のマネジメントやハンドリングがしやすくなります。

M&A実施企業は、M&A対象企業の強みを伸ばし、弱みを潰し、ビジネスチャンスを活かし、脅威を排除することでM&A効果を最大化することができます。M&Aは、M&A対象企業のポジティブ面を増やしてネガティブ面を減らす好機なのです。

3)マーケット分析

マーケット分析は、M&A対象企業が保有するマーケットを調べることです。マーケット分析を行うことで、M&Aを実施する企業は、そのマーケットでビジネスを拡大させられるのかどうか、シナジーを生み出せるのかどうかを検討できるようになります。

仮にM&A実施企業とM&A対象企業が同じマーケットで事業をしていても、あらためてマーケットを分析することで、そのマーケットの攻略戦略を描き直すことができるでしょう。

また、マーケットが同じ場合、M&A対象企業の商圏を獲得することで規模のメリットが得られるようになります。たとえば業界2位の企業が3位の企業を買収した場合、1位に躍進できることがあります。このように買収する企業がどの程度のマーケットを保有しているかによって、今後の企業規模や事業展開にも大きく影響を及ぼすため、買収前には必ずマーケット分析を行うことをおすすめします。

4)競合他社分析

競合他社分析は、M&A対象企業のライバル企業を調べることです。M&A対象企業の競合他社を知ることで、M&A後の他社への対策を練ることができます。

M&A実施企業は、有利なビジネスを展開できるようにM&A対象企業をサポートしていく必要があります。事業デューデリジェンスで競合他社分析を実施しておけば、M&A実施企業がM&A後にすぐに競合他社対策を実行できビジネスを有利に進めることができます。

5)収益性分析

収益性分析は、M&A対象企業の収益構造や稼ぐ力などを調査することです。事業デューデリジェンスのなかで収益性分析を行うことで、M&A対象企業の稼ぐ力を強化させる案を考えることができます。稼ぐ力が強力な企業はM&Aされにくいわけなので、裏を返せばM&A対象になる企業は大なり小なり収益性に問題を抱えていると推測できます。したがって事業デューデリジェンスのなかで収益性を分析し弱点を見つけることで、今後の伸びしろも見えてくるでしょう。

ちなみに収益性分析では売上高、原材料、営業利益、経常利益、純利益などを調べます。たとえば、魅力的な商品、サービスをつくっているのに売上高が小さければ販売力を強化する必要があります。また、売上高が大きいのに利益が小さければ、無駄なコストが発生している可能性があるでしょう。

収益性分析をおこなうことで、上記のように改善するポイントが分かるため、M&A対象企業の収益性を分析すれば、赤字事業を黒字化する方法が見つけられます。

6)事業ポートフォリオ

事業ポートフォリオ分析では、M&A対象企業がどの事業にどれくらいの経営資源(人モノカネ)を投じているのかなどを調べます。事業ポートフォリオを分析することで、M&A後に効率的に経営資源を投じることができるようになります。

歴史が古い事業はとくに、不採算部門であってもしがらみが多いことでなかなか切り離すことができないケースがあります。しかしM&A実施企業なら経営効率を高める目的を掲げて英断できる可能性があります。

4.事業デューデリジェンスを成功させるためのポイント

事業デューデリジェンスの最終的な目的が、M&Aを成功させるためであることは先に述べました。逆にいえば、事業デューデリジェンスに漏れや不足があれば、M&Aの失敗につながってしまいます。そうならないよう、事業デューデリジェンスを実施するうえでおさえておきたいポイントについて解説します。

3.事業デューデリジェンスを成功させるためのポイント

1)買収額に見合う事業デューデリジェンスを実施する

事業デューデリジェンスには少なからず費用がかかります。多くの項目について調査・分析を行うとなれば、それだけ多くの専門家に依頼する必要が生じますし、一定の調査期間も要することに。とはいえ、コストをおさえるために調査内容を削るのは本末転倒です。無理に費用を削ろうとすれば調査が不十分なものとなり、最終的にリスクを見逃してしまったり、企業としての判断を誤ることにつながるでしょう。

反対に、買収額の規模に対して過度の調査費用をかけるのも考えものです。調査が不足するのも困りますが、必要以上の出費となってしまっては、M&Aで得られる利益がその分消えてしまうことになるからです。事業デューデリジェンスは、M&Aの規模、買収額に見合う費用を投じ、自社のケースに必要な調査を過不足なく行えるようにしましょう。

2)優先順位をつける

M&A成功のためには事業デューデリジェンスを過不足なく行うことが重要、とはいえ調査にかけられる費用や時間にも限りがあります。事業デューデリジェンスではさまざまな項目が調査対象となり得ることは先に述べましたが、その必要性や優先度合いはケースバイケースです。

限られた予算やスケジュールのなかで、今回のM&Aにおけるリスクとリターンを適正に評価できるような事業デューデリジェンスを効率的に行うためには、調査・分析対象とするデューデリジェンスの種類や項目およびその内容について優先順位を決めましょう。

3)チェックリストを作成する

事業デューデリジェンスの範囲は多岐にわたることが多く、実際に調査・分析を進めていくなかで調べようと思っていたことや疑問に感じたことなどがあっても、つい忘れてしまいがちです。また、売り手企業の経営者に聞き取り調査を行う際も、事前に質問を考えていたのに聞き忘れてしまったということも。

調査すべき項目、収集が必要な資料、聞き取り調査で質問することなどは、忘れないようメモしてチェックリストとしてまとめておきましょう。売り手企業に資料の提供を依頼する際や聞き取り調査を行う際は、そのチェックリストを渡しておくのも有効です。

4)情報管理の方法を決める

事業デューデリジェンスでは、売り手企業と秘密保持契約を結び、財務、税務、法務、経営に関する資料、製品・サービスの取引実績やビジネスに関する情報、社員の人事情報まで、必要な情報を収集します。つまり、それだけ注意を必要とする情報を扱うことになります。また、M&Aの取引に関する情報が意図せず流出すれば、企業の経営にはもちろん、企業で働く社員にも大きな影響を及ぼします。

そうしたことに留意して、入手した情報・資料を厳重に管理し、かつ事業デューデリジェンスに関わる関係者が必要とするときには効率的に共有できるよう、管理方法を検討しておきましょう。

5.まとめ

変化の激しい社会にあって、企業が競争力を保ち続けることには困難がつきまといます。そのなかで、すぐれた技術、将来性のある製品・サービス、安定した財務状況、他にないビジネスモデルなどを有する企業をM&Aという手段で手に入れることができれば、企業にとっては大きな力となります。

しかし、売り手企業の価値に対して多すぎる額で買収すれば損害が生じてしまいますし、売り手企業の価値を見誤って買収費用を低く見積もればM&Aの取引が成立しません。買収したいと考えるあまり、売り手企業に潜むリスクを見逃したまま買収してしまえば、その後の経営に悪影響が出ることも。そこで、M&Aを成功させるために実施するのが事業デューデリジェンスです。目的として掲げられている「売却企業の価値把握」「売却企業のリスクの明確化」「経営判断や買収後に向けた準備への備え」を達成することができれば、M&Aは成功へ近づくでしょう。



(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

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