ビジネスコラムColumn
最終更新日:2024.08.26
経営企画/ESG

【プロ監修】ダイバーシティマネジメントで異なる価値観を活かす

【プロ監修】ダイバーシティマネジメントで異なる価値観を活かす

近年、社会の変化に伴い、働く人の属性や意識の多様化が進んでいます。日本においても女性・若者・高齢者・障がい者・外国人労働者など多様な働き手の参画により、ビジネス環境における人材の多様性は増しています。加えて、新規事業の立ち上げやDX推進などのプロジェクトを動かすような場合には、社内外の多様な価値観を持ったエキスパート人材の起用が必要になることも。

そうしたビジネス環境で、企業の競争力向上のための戦略としても近年注目を集めているのが、ダイバーシティマネジメントです。人材の多様性を受け入れるダイバーシティマネジメントとは、具体的にどのような意味をもつものなのでしょうか。

本記事では、総合人材会社で組織エンゲージメント向上のプロセスデザインなどに携わったプロフェッショナル監修のもと、ダイバーシティマネジメントの背景やおさえておきたいポイントについて解説します。

1.ダイバーシティマネジメントとは?

1.ダイバーシティマネジメントとは?

昨今よく耳にするようになった「ダイバーシティ」という言葉は、「ダイバーシティ&インクルージョン」という英語が略されたもので、直訳すると「多様性の受容、包括」といったことを意味します。 もともとは移民国家であるアメリカで、人種や肌の色、宗教、ジェンダーといった属性の異なるあらゆる人々が差別を受けず共生できる社会の実現を目指す考え方として広まりました。

近年は、その中でも特に企業において、多種多様なバックグラウンドをもつ人々が働くことを前提とし、企業が多様性を受け入れ生かしていくという観点でのダイバーシティマネジメントに注目が集まっています。

日本企業におけるダイバーシティマネジメント

従来の日本企業では、企業で働くビジネスパーソンの大半は男性であり、多くの人が正社員としてフルタイムで働いていました。しかし現在、働く人の属性は多様化しており、その働き方も正社員・フルタイムとは限りません。また、昨年来の新型コロナウイルス感染拡大によって在宅ワークやテレワークが広がり、勤務場所までも多様になりました。

少子高齢化が加速し労働人口が減少する日本では、企業はそうした多様な人材の属性、価値観を柔軟に受け入れるだけでなく、その多様な人材がもつそれぞれの強みを生かし組織力を高めることが、人材戦略として不可欠となっています。

2.ダイバーシティマネジメントの導入メリット

2.ダイバーシティマネジメントの導入メリット

前述のとおり、働く人々の属性や状況はすでに多様化しているのが現状です。したがって企業としては、人材を雇用、または業務委託契約を結んで事業活動を行う以上、必然的に多様な人材のマネジメントを行うことになります。一人ひとりが異なる価値観を持ち、仕事に対する考え方や目標も様々な中で、企業としては、組織が目指す目標を全体に共有し同じ目標に向かって進めるよう、マインドセットを整える必要があります

また、日本経済団体連合会(経団連)が2020年10月に発表した〈「ポストコロナ時代を見据えたダイバーシティ&インクルージョン推進」に関するアンケート結果〉(※1)では、ダイバーシティマネジメントの推進が経営にもたらす影響として、次のような項目が挙げられています。

1)意見の偏りを低減できる

現在の日本企業においても、経営層の中心は日本国籍をもつ男性であり、そのマジョリティの価値観のみで行われる意思決定では意見の偏りが生じがちです。多様な人材を採用し、その意見を取り入れることができれば、より柔軟な意思決定が可能になるでしょう。

また、企業内のチームとして共通の目標を理解し全員で進むというプロセスにおいても、さまざまな意見交換が行われます。その場でも多様な意見をもとに意思決定や共通理解の醸成が促されることも、この一環といえます。

2)生産性が向上する

正社員としてのフルタイム勤務以外の働き方を採用し、人材個人個人の能力に応じた適材適所の配置と、希望や制約に応じた働き方の採用が可能になれば、人材のパフォーマンスは高まり、企業としての生産性向上が期待できます。

チームという単位においても、共通の目標とそこへ進むための自身の役割を理解できていれば、生産性は自然に高まるのではないでしょうか。

3)優秀な人材の獲得や維持が可能になる

前項のような人材活用が可能になれば、人材の流出を防ぎ、優秀な人材の獲得にもつながる可能性があります

また、正規雇用やフリーランスなどの人材活用を採用できる会社は、自社のニーズに合う人材を的確に確保・活用しやすくなります。

4)柔軟に変化可能な組織になる

日本社会や企業としての慣習・単一の価値観にとらわれた企業は、変化するのが容易ではありません。多様な価値観を尊重し、多様な意見を生かした意思決定を実現できる組織は、社会の要請に応じて変化し続け、その競争力を高めることができるでしょう。

5)ステークホルダーからの評価が向上する

多様な人材を受け入れ適切にマネジメントできる企業は、持続可能性を高めることになり、その経営方針は社内外のステークホルダーから高く評価されることになります。

人材の多様性を受容し、チームで事業の目的や目標を共有する。そして目的や目標に向かって一人ひとりが能力を発揮することで、結果としてビジネスパフォーマンス高まるはずです。そうした評価の向上は、人材獲得や資金調達にも少なからず影響するでしょう。

3.ダイバーシティマネジメント施策の具体例

企業において、人材の多様性を受容しマネジメントするといっても、マネジメントする人材やチームの規模、企業の置かれている状況などによって必要なマネジメントは異なり、その手法も多様です。 ここでは、日本企業におけるダイバーシティマネジメントの取り組みについて、その施策の一例をご紹介します。

1)NTTデータ

システムインテグレーター大手のNTTデータは、経営トップがダイバーシティマネジメントを推進。女性活躍推進、LGBTQなど性的マイノリティに関する取り組み、障がい者雇用の促進、定年退職者の再雇用の促進などについて具体的な目標を打ち出し、細やかに施策を実施しています。

そうした施策に対する取り組みの結果は組織や個人の評価に直結。ダイバーシティマネジメントを名目だけでなく実質的に推進・徹底するという姿勢が、その人事制度からくみ取れます。

2)カルビー

スナック菓子メーカーのカルビーは、「女性の活躍なしにカルビーの成長はない」という信念のもと、女性の活躍推進を最優先課題とし、グループを挙げて注力しています

2010年4月に5.9%であった女性管理職比率は、2021年4月には21.8%まで増加。従業員が育児と仕事を両立するためのハラスメント対策や支援制度も手厚く、ワーキングマザーの退職を防いでいるのはもちろん、男性の育児もサポート。その結果は、年々伸びる売上高に表れています。

3)資生堂

「LOVE THE DIFFERENCES(違いを愛そう)」をスローガンに掲げる資生堂も、ダイバーシティマネジメントを推進する企業として知られています。その筆頭に挙がるのはやはり女性の活躍支援ですが、その取り組みは15年以上前から続いています

2020年には国内の資生堂グループで1370人の社員が育児休業を取得し、職場復帰後も育児と仕事の両立をサポートするセミナーやメンタリングプログラムを実施するなどし、定着率94.1%を確保。女性リーダーの育成にも意欲的で、国内の資生堂グループの女性管理職比率は34.7%(2021年1月時点)、取締役会での女性比率は46.2%(2021年3月時点)となっています。

4.ダイバーシティマネジメントにおける課題

4.ダイバーシティマネジメントにおける課題

先にも述べたように、人材の多様化は進んでおり、そうした人材のマネジメントは企業にとってもはや選択の余地なく必要なものになっているといえます。

しかしながら、長い間、男性・正社員がマジョリティとして組織を主導してきた日本企業では、制度的にも風土的にも多様性の受容に対する難易度はまだまだ高いのが実状です。人材サービスのアデコが、20代~60代の働く人を対象として2017年に実施したアンケート調査(※2)では、〈「ダイバーシティ」を推進する上でのデメリット〉として、マネジメント面に関する危惧が寄せられました。その結果は大きく次のような項目に分類されます。

1)人事評価や人材マネジメントの難しさ

多様な価値観やバックグラウンドをもつ人材をマネジメントするのは、当然簡単なことではありません。そして、多様な能力をもつ人材の活躍は、一定の人事制度の基準では評価することが難しい場面もあるでしょう。 

働き方の面でも「正社員・フルタイム勤務」以外の働き方が増え、その勤務状況や進捗をマネジメントすること自体の難易度も上がっています。会社とビジネスパーソンがともに納得できる評価を実現することに対する懸念があがるのも理解できます。

2)円滑なコミュニケーションの難しさ

海外にルーツをもつ人、外国語を母語とする人、在宅勤務の人……。言語、文化、就労環境などの異なる従業員とのコミュニケーションには、最初は多かれ少なかれ“壁”があるものです。

新型コロナウイルス感染拡大でテレワークが広まってから、「オフィスでは従業員の顔を見てちょっと声をかけることもできたが、在宅勤務ではそうもいかない」という声がよく聞かれるようになりました。そうした状況も、この課題に拍車をかけています。

3)一部従業員の負担が増大する懸念

育児や介護のため時短勤務する人、障がいのある人、日本語に慣れていない人といった多様な人材を採用し、その能力を生かすことは、企業としての競争力向上につながります。

他方、そうした人材の能力だけでは届かない部分(例えば勤務時間や言語など)ではチームメンバーのフォローが必要になるケースもあるでしょう。マネージャーとしては、従業員間で負担の偏りが生じないようにすることや、生じてしまった場合のケアは重要な課題です。

5.ダイバーシティマネジメントの成功につながるポイント

5.ダイバーシティマネジメントの成功につながるポイント

では、企業が人材の多様性を受け入れ、その能力を企業としての力にかえるためには、どのようなポイントに留意するべきでしょうか。

1)取り組み方針の明確化と目標の共有

ダイバーシティマネジメントというと難しく感じるかもしれませんが、その肝はあくまで人材管理であり、組織のミッションを達成し企業として実現したいビジョンに向かうための戦略です。

マネジメントする立場にある場合は、目の前の目標達成の先に、所属企業がどんなビジョンに向けて進んでいるのかつながりを意識することが大切です。そして、多様な人材をマネジメントしてチームの力を最大化するためには、チームに課されたミッションとともに、その先のビジョンまで共有することが非常に重要なプロセスになります。

2)公正・公平な評価制度の導入

多様な人材の能力を最大限に生かすためには、多様な価値観をもつ従業員自身が、公正・公平に評価されていると感じられるような評価制度を導入し、その意味を社員に対して適切に説明し理解を得ることは不可欠です。

評価の前提として、各従業員の目標設定も必要でしょう。目標設定は、まず個人のビジョンや目標から考えます。そしてその個人目標と組織のビジョン・ミッションを接続する意識が大切です。自身の目標達成につながる感覚や組織のミッション・ビジョンへの貢献度合いがリンクしていれば、従業員自身のエンゲージメントも高まります。

3)対話機会や1on1の実施

組織に人材が存在しその能力を活用しようとする限り、人材マネジメントは必要です。人材の多様性が増すほどその必要性は高まるでしょう。多様な価値観をもち多様な働き方をとる人材を適切にマネジメントするためには、コミュニケーションのとり方にも留意が必要でしょう。 日常的なコミュニケーションはもちろんですが、定期的に1on1行い、チームやマネジメントに対するフィードバックを得ることも欠かせません。

また、ミッションやビジョンの意味の理解を促しそれを共有するという観点では、四半期や上期・下期といったタイミングでチームミーティングの機会をもち、チームで共通の方向性を確認しあうというプロセスを積み上げることも大切です。

【セミナーアーカイブ無料公開中】

>>本当に取り組むべき意識行動改革とは

6.まとめ

ダイバーシティマネジメントというと、人種の違い、国籍の違い、ジェンダーの違い、言葉の違い、育ってきた環境の違い、文化の違い、障がいの有無といったような属性の違いをもつ従業員のマネジメントをイメージしがちです。日本社会においては、女性の活躍推進がことさら大きく取り上げられやすいという実状もあります。

しかしそもそも、企業が一人で運営されているものではない限り、それはダイバーシティな状態、すなわち多様性が存在するといえます。そして、複数人でチームや組織を構成し、皆で共通の目的に向かって進む以上、従業員の属性にかかわらずミッションやビジョンの共有は不可欠なプロセスです。

とはいえ、企業で働く人の多様性が進む中、本当の意味で受け入れその能力を生かすには、課題も少なくありません。そのなかでは、マネージャー自身が、自身の価値観について見直す必要に迫られる場面もあるでしょう。また、企業・組織としては日々ダイバーシティマネジメントに尽力するマネージャーへの手厚いサポートも必要になるでしょう。マネージャーをサポートすることも求められます。そうしたプロセスを経て組織として必要な変化を遂げ、人材がパフォーマンスを最大化できる組織になることが、企業としての競争力強化につながるはずです。

監修者プロフィール 竹内正人(クリエイティブ ファシリテーター)
デザイン会社にて、プロジェクトマネージャー/ディレクター/IA(情報設計)など複数ロールを経験後、事業会社に移り自社サービス・プロダクトのUXデザイン、EX(Employee Experience)デザイン、企業ブランディング等、多岐にわたる業務を担当。 その後独立し、現在はクリエイティブ ファシリテーターとして、クライアント企業のプロジェクトデザイン/マネジメント/推進・伴走支援等を行っている。 また、ライフワークとしてキャリア教育支援活動「しごとポケット」のプロデューサーとしても活動している。
https://www.tumugi-design.com/




(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

※1:「ポストコロナ時代を見据えたダイバーシティ&インクルージョン推進」に関するアンケート結果(一般社団法人 日本経済団体連合会)
※2:働く人の「ダイバーシティ」に関する意識調査(THE ADECCO GROUP) 

非表示

【期間限定】市場動向などざっくばらんに30分無料相談