社内稟議は、企業内で業務を実行する際に、決定権を持つ上層役員に許可を得ることを言います。
紙による稟議書の作成が一般的と言われていましたが、近年では社内稟議書の電子化が進んでいます。このような、ワークフローシステム化は、業務効率を上げ、事業の生産性を高めるなどのメリットがあるため、多くの企業から注目を集めているのです。
この記事では、社内稟議書の役割や課題、電子化することで得られるメリットについてご紹介します。また、電子化する際の注意点についても、説明しているためぜひ最後までチェックしてみてください。
■目次
1.社内稟議とは?
社内稟議の意味を正確に知らないという方がほとんどではないでしょうか。
社内稟議とは、企業などの組織内での活動に対して、上司や経営層に承認してもらうことです。
予算や規模が大きくなれば、課長から部長、というように複数人の間で順に決裁が行われます。
新規事業プロジェクトを立ち上げる場合、コストや人材などさまざまなリソースが必要となります。企業としてこれらのリソースに見合うリターンがあるのか、事業戦略にマッチしているか、リスクが大きくないかといった経営面での判断が必要となります。
しかしあらゆる事項を決める度に管理職や経営層を集めて会議を行うのは、効率的ではありません。そこで全員で会議をする代わりに文書を作成して、課長→部長→役員・・・という流れで回覧、決裁してもらうことが社内稟議の目的です。
複数人がそれぞれの視点でチェックするため、課題を洗い出しやすい点が社内稟議のメリットです。また決裁が下りれば社内で正式にGOサインが出たことになるため、他部門から協力を得やすくなるというメリットもあります。
社内稟議と決裁の違い
社内稟議と決裁、意味は似ていますが厳密には違いがあります。最もわかりやすい違いは「立場」と「承認する役職者の人数」です。
もともと「稟」という字には「申し出る」という意味があります。
つまり社内稟議は申請する側の視点です。担当者から見て、管理職、さらにその上の経営層という流れで複数人に承認してもらうという意味です。
一方で決裁とは決裁権のある役職者の視点であり、下から上がってきた申請を承認するという意味があります。
社内稟議の種類
社内稟議は大きく「契約稟議」「購買稟議」「採用稟議」という3つの種類に分かれます。
(1)契約稟議
外部企業と業務委託契約を結ぶ場合など、他社と契約を締結するときに上げる稟議のことです。
稟議書とあわせて契約書の原案や契約先企業の与信情報などもそろえて稟議に回します。
(2)購入(購買)稟議
製品やサービスを購入するときに上げる稟議のことです。
購入費用によって、決裁者が変わります。
稟議書とあわせて、製品やサービスの詳細がわかる資料や見積もりをそろえて稟議に回します。
(3)採用稟議
社員採用にあたって採用活動を始めるために上げる稟議のことです。
職種や求める能力のほか、人材紹介会社や採用広告にかかるコストも含めて稟議に回します。
社内稟議が必要なシーン
実際に社内稟議が必要になるシーンは、取引先との手続きと社内的な手続きに分けることができます。
取引先との手続き
- 新規取引先との契約締結(新規取引契約、業務委託契約など)
- 物品や設備の購入(パソコンなどの高額備品や生産機器など)
- システムの導入(営業管理システムやセキュリティシステムなど)
社内的な手続き
- 人材の採用(社員の採用や昇格人事など)
- 出張旅費の清算
取引先との手続きや社内の手続きの多くに費用が発生します。
一定額以上になると稟議書を提出するルールを設けている企業は多いです。上記以外にも、各企業ごとに社内稟議が必要なシーンに違いがありますので、自社の社内規定を確認してみましょう。
2.社内稟議に潜む課題
社内稟議は複数の承認者を回覧するため、意思決定のプロセスが可視化され、責任の所在が明確になることがメリットです。その半面、稟議書の作成から最終的な決済が下りるまでに時間とコストを要することがデメリットと言えます。
ここからは、社内稟議に潜む課題を取り上げるので、自社の現状と比較しながら深掘りしていきましょう。
- 1.承認まで時間がかかる
- 2.稟議書の管理に手間がかかる
- 3.作成するたびにコストがかかる
1.稟議承認まで時間がかかる
稟議書作成から最終的な決済まで、複数の承認者を経るため、稟議の承認を得るまでに必然的に時間がかかってしまいます。
加えて、承認者には上司や部門長などの役職者が多いため、いつも時間に余裕があるとは限りません。会社を不在にするケースや、多忙で稟議書に目を通すことが遅れることも想定されます。そのため、稟議書を提出する際は、時間に余裕を持たせることが必要条件となってきます。
また紙の稟議書の場合、稟議書がどの承認者まで回覧されているのか、リアルタイムで把握することができないことから、進捗を確認するには承認者へ直接連絡を取る手間が生じます。
以上のように承認までに多大な時間がかかることで意思決定のスピードが遅れ、ビジネスチャンスを逃す可能性もあります。
2.稟議書の管理に手間がかかる
稟議書の多くは書面で保管するため、数が増えれば増えるほど整理やファイリングなどに時間を要します。そのうえ保管期限が長期にわたるため、手間やコストは継続的にかかるでしょう。
また、稟議書には企業の機密情報などの重要事項が記載されていることもあり、慎重に取り扱う必要があります。
労力、コスト、セキュリティの観点から、稟議書の管理には多大な手間がかかることは否めません。
3.作成するたびにコストがかかる
稟議書が用紙1枚だけで完結することは稀で、基本的には説明資料や見積書などの添付資料が欠かせません。その分印刷回数は増え、コストがかさみます。
また、稟議書は作り直しが多い文書のひとつです。文書の内容に誤りがあったり、誤字脱字があったりなど、問題があれば差し戻されるケースが多々あります。その都度作成し直すことを考えると、長い目で見たときの企業の印刷コストは膨大な金額になると言えるでしょう。
3.決裁を通すための社内稟議の書き方
稟議書をスムーズに回覧させるためには「決済を通すための社内稟議の書き方」が重要になります。
ただし、要望や必要事項を書き連ねるだけでは、決済をもらうことはできないでしょう。ここからは、社内稟議の書き方のコツを4つご紹介します。
- 実行の目的や目標を明確にする
- 申請理由や背景を明記する
- 得られるメリットやリターンについて説明する
- 想定されるリスクやデメリットももれなく記載する
1.実行の目的や目標を明確にする
稟議書を作成する際は、目的、目標を明確に提示しましょう。
稟議書を通す必要があるということは、通常の仕事とは違い、緊急度や重要度の高い領域の仕事のはずです。稟議書の目的や目標が不明確だと、承認する側にとっては「本当にこの稟議は必要?」と疑問を持たれ、最終的に決裁が下りないこともあることでしょう。
誰が読んでも納得できるような目的や目標を定めてから、稟議書の作成を行いましょう。
2.申請理由や背景を明記する
申請理由や背景を明記することで情報を補完できるため、理解度は格段に上がり、決済をスムーズに通すことができます。
稟議書に記載されている内容を回覧する全ての方が熟知しているとは限りません。むしろ、稟議書の内容に関係する部署以外の人は、ほとんど把握していない可能性もあります。そのため、申請理由や背景はしっかり明記し、回覧した全ての方に理解してもらえるように記載しましょう。
3.得られるメリットやリターンについて説明する
稟議書の内容を実行することで、どのようなメリットやリターンが得られるのかは、承認者、決済者が一番気にしているポイントと言えます。特に重視している点は「自社の利益につながるか」です。利益に結びつく施策であれば、決済が下りる可能性は高まります。
そこで重要なのが、具体的なデータや数値を使いながら、納得してもらえる根拠を示すことです。たとえば、単に「人件費が削減できます」と記載されていても、どのぐらい削減できるのか情報が少なく、信憑性を疑われます。
しかし「1日あたり10%生産性が向上することで、〇〇万円人件費が削減できます」と具体的な数値が記載されていれば、説得力が増します。
また、自社で調査したデータ以外にも、市場動向や公官庁のデータを使用することで、より説得力のある稟議書を作成することができます。
4.想定されるリスクやデメリットももれなく記載する
稟議書の起案者にとっては、稟議を通したい気持ちが強いばかりに、メリットだけを強調して記載してしまうことがあります。しかし、想定されるリスクやデメリットを正直に記載することも重要です。
稟議書を受けとる側からすれば、メリットよりもデメリットが気になることもあるでしょう。稟議内容によっては、多額の資金やコストがかかることも予想されるため、失敗した場合の損失が頭をよぎってしまうからです。
大切なことは、メリット、デメリットどちらも記載して、承認者、決済者に公平な判断をしてもらうことです。仮に決済が下りなかった場合は、デメリットが上回っていたと考えられるため、不安を払拭できるような起案の練り直しが必要でしょう。
4.【効率化】社内稟議書は多くの企業でワークフローシステム化が進んでいる
社内稟議書は、多くの企業でワークフローシステム化が進んでいます。従来は紙の稟議書を各担当者ごとに回覧板形式で回していくのが一般的でしたが、近年はオンライン化が進み、基幹システムや社内ポータルサイト上で回せるようになりました。
上図では、紙媒体による社内申請、決済が全体の3割近くまで減少していることがわかります。システム、メール、チャット等によるオンライン化に対応している企業は全体の6割近くを占めており、もはやオンラインでの稟議が主流になりつつあると言えるでしょう。
これは働き方改革による業務効率見直しや、新型コロナウイルス感染症対策に伴うテレワークの浸透などによる影響が考えられます。在宅でも短時間で承認、チェックができるオンライン稟議は、今後も幅広く導入されると予想できます。
5.社内稟議申請を電子化するメリット5つ
従来は紙の稟議書に判を押印し、社内を回覧する方法が主流とされてきました。しかし、近年ではワークフローシステムを利用して、稟議書を電子化する動きが加速しています。コロナ禍でのテレワークの普及が、電子化を後押ししたと言えるでしょう。
ここからは、社内稟議申請を電子化するメリットを5つご紹介します。
稟議承認までがスピーディーに進む
社内稟議を電子化した場合、システム上でボタンひとつクリックするだけで稟議が進むので、紙の稟議書をバトンタッチしていく手間がかかりません。
また、不備があったときの差し戻しもボタンひとつで完了し、コメントも記入できるのでコミュニケーションもスムーズです。そのため、複数の承認者が必要な稟議書であっても、申請から承認まで1日足らずで完了することもあります。急ぎの稟議のときほど活用しやすい手法であり、業務効率化にも貢献するでしょう。
稟議の進行状況が分かりやすい
オンライン稟議システムは「稟議書作成中」「承認待ち」「承認完了」などのステータスが現れる他「〇〇部門△△課長の承認待ち」など担当者の表記もできるので、進行状況がわかりやすくなるでしょう。もし滞りがあれば担当者に直接声をかけることができるので、管理側の工数も減らせます。
また、権限が付与されている人であれば、自分の管理下にある稟議書の全てを閲覧できるため「なぜ稟議が跳ねられたのか」などの理由分析を行うのにも便利です。
データの保管管理が簡単
稟議書に管理番号をつけたり、ワークフローシステムに則って次の承認者にバトンタッチしたりすることも自動化できるので、申請書作成の手間がかかりません。
完了した稟議書もデータとして保存できるので、後で参照したくなったときの検索も容易です。
監査効率がアップする
監査の際に稟議書を参照するときも、データ化されていれば必要な情報をすぐに引き出せます。また監査担当者に一定の権限を与え、自発的に稟議書を検索できるように設定するなど、一時的にフレキシブルな使い方ができるのもメリットです。
管理番号で検索、稟議書タイトルで検索、担当者名で検索するなど、さまざまな探し方ができるため、倉庫から稟議書を探し出す時間も削減できます。
紛失のリスクが減らせる
オンライン稟議書は全てデータ化されて管理されるので、紙の稟議書のように社内・社外問わず紛失の可能性が少ないでしょう。定期的なバックアップや災害復旧プランを実施することにより、データそのものを守ることも可能です。データの紛失や破損に備えやすく、情報漏洩のリスクも減らせます。
また、全てデータ化されるため「飲み物をこぼした」「誤ってシュレッダーしてしまった」などの破損、汚損も怒りにくいです。確実かつ正確に稟議書を保管したいのであれば、データ化をおすすめします。
6.社内稟議申請を電子化する場合の注意点2つ
メリットだけを見てしまうと、すぐにでも社内稟議申請を電子化したいと思われるでしょう。しかし、電子化にはデメリットもあるため、注意が必要です。
ここからは、電子化にともなう2つの注意点をご紹介します。
導入に時間やコストが必要
既存のワークフローシステムを導入する場合、社員数に応じて月額料金がかかることが多く、企業規模が大きく、利用期間が長いほどコストが膨らむのがデメリットです。
また、基幹システムを大幅に改修する場合でも開発費用がかかる他、自社開発であればその分時間もかかるので、オンライン化できる日が遠のくかもしれません。
なるべく安く簡潔な手段を試すとしても、コストも時間もゼロにすることはできないでしょう。そのため、あらかじめ予算を確保し、厳密なスケジュール管理をしながら進行していくことが欠かせません。
適切なデータ管理能力が必要
たとえばセキュリティ対策が不十分で大部分の稟議書データが破損した場合、必ずしも復旧できるとは限りません。社外に流出した場合は重要な機密情報が知られてしまう原因となり、貴重なビジネスチャンスを失ったり具体的な損失が出たりすることも考えられます。
そのようなトラブルを未然に防止するためにも、システム上のセキュリティ対策を完全にしておくことはもちろん、使う側である社員のITリテラシー向上も必須です。どんな使い方をするべきか丁寧なオンボーディングをしながら、軌道に乗せていきましょう。
7.社内稟議書をスムーズに通すためのポイント4つ
社内稟議がスムーズに通るかどうかは、3つのポイントがあります。
ここでは、この3つのポイントに分けて、具体的なコツを解説します。
実績を重ねて信頼を高めておく
日頃から信頼関係を作っておくことで「この人からの提案なら信頼できる」と判断されやすいです。
逆に、日ごろから適当な対応を行っていたり、細かなミスが多かったりする人は信頼が少ないため、なかなか提案が通らないということもあるでしょう。そのために、日ごろから丁寧に仕事をしたり、正確な情報を提供したりして信頼を高めておくと良いでしょう。
分かりやすい言葉で説明する
事前知識のない方が見た場合、難しい言葉や専門用語があると必要性が伝わりにくいため、誰にでも分かりやすい言葉で説明することを心がけましょう。内容がうまく伝わらなかった場合、稟議書が差し戻されたり、決済が下りなかったりする可能性もあります。
分かりやすい言葉で説明するコツは、難しい言葉や専門用語を極力使用しないか、別の言葉に言い換えることです。ただし、文章の構成上どうしても必要な時は、専門用語の説明書きを入れるなどの配慮は欠かせません。
不要なデータは記載しない
説得力を高めるために、詳細なデータを添付することは重要です。しかし、必要のないデータを盛り込んでしまうと、伝えたい内容がブレてしまい、承認や決済の判断に迷いが生じます。
可能な限り不要なデータは記載せず、内容を補強する最小限のデータに留めましょう。
ダラダラと長い文章で書かない
一文が長くなるほどに不要な言葉が増え、読みにくくなってしまうため、ダラダラと長い文章で書かないことがポイントです。少しでも伝えようとする気持ちは分かりますが、読み手にとっては逆効果になってしまうでしょう。
ダラダラと長い文章にならないようにするには、一文を短くすることがポイントです。具体的には、一文の文字数を40〜60文字前後に抑えると良いでしょう。また、「一文一意(一つの文章には一つの内容を記載すること)」を意識することで、文章を短くする効果もあります。
さらに、書いた文章を音読して確かめるのもおすすめです。ダラダラした文章は、リズムが悪いため読みにくい印象を受けます。
8.まとめ
新たなプロジェクトを立ち上げる上で障壁となりやすい社内稟議ですが、通りやすい稟議書作成のためには、そもそも社内稟議の意味や本来の目的を整理することが第一歩であるため、なぜ必要かをよく理解した上で臨むことが重要です。
ただし、社内稟議を通すためには2つの重要なポイントがあります。
まずは申請者自身のイメージ戦略です。どんな業務でも丁寧に対応するなど、普段から信頼を得ておく必要があります。事前の根回しができるよう、社内のコミュニケーションも日ごろから積極的に取り組みましょう。
また実際に申請するときは、熱意のアピールも効果的です。
もうひとつのポイントは稟議書の書き方です。
読みやすさに配慮した上で、リターンやリスク回避策など経営層が知りたいことを記載しておくことが重要です。
社内稟議は将来のキャリアも左右する重要な業務です。
自分のやりたいビジネスにチャレンジできる可能性が広がります。若手のうちから社内稟議のコツや周りの人材の使い方に慣れておくと、将来大きな強みになるはずです。
とはいえ若手のうちはひとりでは必要事項を網羅できません。
社内外の人材をうまく活用して、説得力のある稟議書に仕上げましょう。
リスクマネジメントや新規事業の経験の豊富な外部プロフェッショナルに頼るのも1つの選択肢となります。
なお弊社は、国内最大規模のプロフェッショナル人材データベースの運営企業です。
『新規事業の旗振り経験が豊富なプロフェッショナル』や
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(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)
出典
※1:緊急事態宣言下でも稟議申請・決裁は31.4%が「紙」で実施!約4割が「そもそも在宅では稟議不可」など紙媒体の課題噴出(ワークフロー総研)
https://www.atled.jp/wfl/article/68/