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最終更新日:2024.08.26
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イノベーション人材の特徴とは? タイプ別の必要スキルや社内育成の方法も解説

イノベーション人材の特徴とは? タイプ別の必要スキルや社内育成の方法も解説

変化が激しく将来を予測することが難しい「VUCAの時代」と称される近年の社会では、従来の価値観、評価に基づく会社経営、事業を継続できなくなることも珍しくなく、多くの企業がその経営を強化するべく、変化の必要性に迫られています。 企業が変化を実現する手段としては、IT技術やデジタルサービスなどを活用して企業・組織・経営・事業などを変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進も広く知られており、盛んに行われるようになっています。

それと並行して注目されているのが「イノベーション」の実現と、それに必要な「イノベーション人材」の存在です。

本記事では、イノベーション人材の概要その活用、求められるスキル、社内で採用・育成する場合の教育研修の方法などについて解説します。


1.イノベーション人材の特徴とは?

1.イノベーション人材の特徴とは?

「イノベーション人材」を端的に言うと、イノベーションを起こすことを見込むことができる人材のこと。本章では、根本となる「イノベーション」についておさらいしながら、イノベーション人材について解説します。

(1)イノベーションとは?

イノベーション(innovation)とは、「変革する、刷新する」といった意味の英語「innovate」の名詞形で、「革新」「新機軸」のように訳されます。 経済、ビジネス分野で現在のイノベーションという概念を知らしめたのは、経済学者のジョセフ・シュンペーター氏です。

シュンペーター氏は1912年刊行の『経済発展の理論』で、イノベーションを「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合すること」と定義し、企業発展のためにはイノベーションが必要であると提唱しています。

そして、このイノベーションを起こし企業や事業に変化をもたらすことを期待される人材が、イノベーション人材ということになります。日本では、イノベーションが「技術革新」と訳されることもありますが、イノベーションの対象は技術だけにとどまりません。

(2)企業におけるイノベーション人材の必要性

DXとは、単にIT技術やデジタルサービスを導入するだけではなく、その手段を通じて企業や組織、ビジネスに変革を起こすことが本質的な目的とされています。 イノベーションも同様に、何かを変化させればいいというだけではなく、周囲が驚くような、時には破壊的とまで評されるほどの、革新的な変化をもたらすことが求められます

そのためには、企業組織の経営やビジネスをとりまく市場環境、時代の変化、事業の課題を理解し、社内外で必要な調整を行いながら適切なアクションをうながす、といった多様な能力が必要となります。 また、「変化」を起こすためには従来の価値観や成功体験から離れた判断も必要です。そうしたことを実現できる人材として、イノベーション人材を求める声が高まっているのです。

(3)日本企業とイノベーション人材

少子高齢化が加速、労働力人口が減少傾向にある日本では、さまざまな業界で人材不足が深刻化しつつあります。そうした社会環境のなかで多くの企業は人材採用、育成に悩みをかかえ、人事戦略に苦心しています。さらに、多彩な能力を有する優秀な人材となれば、イノベーションという切り口に限らず、多様な分野で必要とされているのが現状です。

例えば、経済産業省が2015年にまとめた「民間企業のイノベーションを巡る現状」(※1)では、オープンイノベーション実施の障害になるものとして、約7割の会社が「オープンイノベーションのための人材が社内で不足している」と回答しています。

イノベーションと同様、高水準のスキルを有する人材を求める傾向のあるDX推進においても人材不足が叫ばれており、情報処理推進機構が2021年4月に公開した「デジタル時代のスキル変革等に関する調査」(※2)では、回答した事業会社の88.2%が、事業戦略上必要なIT人材が量的に不足していると回答しています。

近年のイノベーションにおいては先端的なIT技術やデジタルサービスが必要となることも多く、こうした調査結果をみても、イノベーション人材の不足に悩み、人事戦略上の課題として人材採用・育成の問題を抱える企業の存在が浮かび上がっています。

2.イノベーション人材のタイプと必要スキル

2.イノベーション人材のタイプと必要スキル
多彩な能力を有するイノベーション人材というと、ある1人のすぐれた人物がすべてを差配するようなイメージが思い浮かぶかもしれません。しかし現実的には1人でイノベーションを実現することは難しく、チームを構成してイノベーションに向けたプロジェクトに取り組むことになります。

イノベーション実現のため多様な課題に取り組むことになるチームには、どのような人材が必要となるのでしょうか。人事戦略上どのような人材を採用・育成するべきか、その方針を打ち立てるためには、この点を理解しておく必要があります。 本章では、一般的に求められることの多いイノベーション人材のスキルについて、共通で必要とされるスキルと、分野ごとに必要となるスキルについて解説します。

(1)イノベーション人材に共通して必要とされるスキル

会社の経営層、現場の事業担当者、社外の顧客、パートナーなど、さまざまな関係者と適切な関係を構築しながら、高度な変化・創出を実現するイノベーション人材には、共通して以下のような能力が必要とされます。

  • 関係者との適切な対話や、説得力を生むプレゼンテーションを行うことができるコミュニケーション能力
  • プロジェクトとして協働し、イノベーションに向けてチームとして動くことができる能力
  • IT・デジタル技術の最新動向やその活用・開発を理解し、ビジネスに取り入れるための知識
  • 前例や従来の価値観にとらわれず、未来志向で新規の試みに積極的に取り組むことができる意欲

(2)分野別①プロデュースを担当する人材

イノベーションを創出し企業やビジネスに変化を起こすプロジェクトをマネジメントする人材として、全体を統括するプロデュース担当者は不可欠の存在といえます。具体的には、下記のような能力が求められます。

  • ビジネスを取り巻く市場環境、経済や技術動向、企業、事業の課題などを把握、分析して、イノベーションの創出につなげる力
  • メンバーのスキルやアイデアを活用し、その動きを支援するマネジメント能力
  • プロジェクトの全プロセスを統括して的確な意思決定を行い、物事を前に進めるリーダーシップ

(3)分野別②デザインを担当する人材

イノベーションを実現するプロジェクトや、新規に創出する組織、ビジネスのあり方を企画し、具体的な形に発展させる人材として、ビジネスデザインの担当者は欠かせません。次に挙げるような能力を有する人材が望まれます。

  • チームメンバーや関係者間での相互理解・合意形成を支援し、チームの協働を促すファシリテーション能力
  • 市場環境の動向や顧客の課題、自社の課題をふまえ、組織やビジネス、製品・サービスのアイデアを生み出す着想力
  • 思いついたアイデアやコンセプトを組み合わせ、具体的な組織・ビジネスの創出に着地させる企画力

(4)分野別③テクノロジーを担当する人材

アイデアとしてまとめられた組織や事業、製品やサービスの創出に関する企画を具現化する人材として、IT領域も含め技術面を担うデベロッパー人材の力は非常に重要です。以下のような能力を有する人材の活用もまた、イノベーションを実現するうえで不可欠といえます。

  • IT・デジタル分野をはじめ、対象となる領域で先進的な技術を調査・分析し、ビジネスにおける活用につなげる能力
  • プロジェクトの全体を理解し、将来的な構想までふまえて必要となる技術を適切に評価し、選定することができる能力
  • 実行に移したフローに対してフィードバックを受け、それを技術・開発に反映することで改善を図るPDCAを継続的に実行できる力

3.イノベーション人材の育成ポイント

3.イノベーション人材の育成ポイントイノベーション人材の必要性が広く叫ばれるようになった近年は、イノベーション人材の育成を目的とする教育プログラムやワークショップ、セミナーがさまざまなところで開発、実施されています。

例えばBrew株式会社では、変革、イノベーション人材/土壌育成のプログラムとして「組織発酵学」を提供しております。多様性、自立性、変化への対応など、視野を広げる人材育成、発酵型組織を養成するプログラムと謳われています。

また、その動きは大学教育にも波及しており、東京大学でスタートした「i.school」では、大学生、大学院生を対象にワークショップ型の教育を提供しています。人間の創造性に関する学術的知見などをベースにワークショップを設計している点など、独自性のあるi.schoolの取り組みはメディアなどでも取り上げられています。

イノベーション人材は社外から採用するという方法もありますが、社会全体で人材不足といえる日本では人材採用のみに頼ることも難しいものです。会社や事業の現状を把握し強化につなげていくという観点でも、社内の既存人材を活用する人事戦略は有用です。 では、社内の人材をイノベーション人材として育成するためには、どのようなポイントをおさえて教育研修を実施するべきでしょうか。

(1)組織の心理的安全性を高める

「心理的安全性」とは心理学用語で、組織やチームのなかで自分の意見を気兼ねなく安心して言える状態を指します。この言葉を提唱したエイミー・エドモンドソン氏は、人が集まってチームを構成し、学習を繰り返しながら成果をあげていくための条件の一つとして、この心理的安全性を挙げています。

従来の価値観やビジネスのあり方にとらわれず新規のアイデアを創出し、イノベーションを実現するためには、失敗や人事評価、人間関係の悪化などを気にすることなく、忌憚なく意見交換できるチームであることが重要です。 したがって、優秀なイノベーション人材を育成しそのスキルを定着させるためには、心理的安全性の高い組織という土壌をつくることが大前提となります。

(2)イノベーションに必要なマインドセットをもつ

「マインドセット」とは、人が物事を判断したり行動したりする際、その人が基準とする考え方、思考様式、心理状態のことです。一般的には教育や先入観といったインプットから形成されるもので、信念や価値観といったものはもちろん、思い込みや暗黙の了解も含まれます。 社内で長年にわたり仕事をしてきたビジネスパーソンには、自分自身が意識していないような価値観の刷り込み、ビジネスの成功体験から生まれた固定概念などが根付いていることもしばしばあります。

しかし、新規の発想でビジネスを創出するイノベーションの実現のためには、従来の価値観や人事評価、固定概念といった“縛り”から自由になる必要があります。イノベーション人材に必要なマインドセットを、メンバー全員がもつことが肝要です。

(3)研修は座学と実践を組み合わせる

社内で人材育成の研修を実施する場合、セミナーを受講するなど、座学で教育を受けるイメージが強いのではないでしょうか。 しかし、イノベーション実現のために必要とされるスキルは前述のように高度なものであり、現場ごとの状況に応じた実践力が求められるものです。座学のセミナー研修などでテキストを見ながら講師の話を聞くだけではなかなか身につきません。

本当の意味でのイノベーション人材を育成するためには、座学のセミナー研修などで基礎知識を習得したあとに、実際のイノベーション創出プロジェクトの現場あるいはそれに近いところで実践経験をする必要があります。 現場で実践して足りない知識やスキルがあれば、その都度学習し、必要あればまたセミナーを受講するなどして身につけます。

その実践と振り返りの繰り返しが、イノベーション人材としての能力を育成することになるのです。 さらにいえば、研修の方法として実践教育を含むワークショップ形式のセミナーなどを選択するのも有効です。

まとめ

変化の激しい時代を企業が生き抜くためには、既存の企業経営のあり方、既存の製品やサービスの提供を通じた事業運営、既存の価値観やマネジメントのあり方にとらわれず、新規性のある革新的な変革を実現することが不可欠です。そのために、DX推進と並んで注目が高まっているのがイノベーションの実現であり、そこで求められているのがイノベーション人材です。

高度なスキルを要するイノベーション人材を新規採用だけで補うのは困難であることが予想され、多くの企業では社内の人材を育成してイノベーション人材として採用することが必要となります。 イノベーション人材の育成も容易なことではなく、その教育研修にも適切な方法を選ぶ必要がありますが、教育研修を支援するような新規サービスもさまざま登場しておりますので、そうしたものを参考に検討するといいでしょう。

ただ、企業としてイノベーション人材を育成し、その能力を存分に生かすためには、教育研修だけでなく、人材が活躍できるような組織づくり、制度づくり、マネジメント体制の構築が不可欠です。従来の企業運営や人事評価制度に固執していては、変化を追求するイノベーション人材の動きが縮こまってしまいます。そうならないよう、企業はその動きを支援し、新規の取り組みを推進する姿勢を評価することが求められます。

少し古いデータですが、リクルートが2015年に実施した調査(※3)では、企業の新規事業創造と人事部門の関わり方の状況が浮き彫りになっています。 会社として新規事業創造のために取り組んでいる施策を尋ねた質問(複数回答)では、「新規事業創造のための専任部門の設置」(48.5%)に次いで「評価制度への新規事業創造を推奨する観点の導入」(34.2%)、ほか「新規事業創造を担える人材の積極的な採用」(23.7%)などに多くの回答が集まりました。

また、新規事業創造に対して人事ができることを尋ねた質問(自由記述)では、人材の配置や育成に関するコメントが多く集まったほか、新たな風を吹き込む外部からの採用、挑戦的な風土を醸成するための評価制度などを挙げる声が聞かれました。 イノベーションを実現するプロジェクトの活動を通じ、忌憚なく意見交換できる風土、失敗を恐れないチャレンジ精神などが社内に広がっていけば、それこそが企業に大きなイノベーションをもたらし時代を生き抜く力を生む土壌になるでしょう。


(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

出典
※1:民間企業のイノベーションを巡る現状(経済産業省)
※2:デジタル時代のスキル変革等に関する調査(独立行政法人情報処理推進機構 社会基盤センター)
※3:イノベーション推進における人事の役割(リクルートマネジメントソリューションズ)