2021年10月にFacebookが社名を「Meta(メタ)」に改名し、メタバース(仮想空間)へ注力すると表明したことが話題となりました。メタバースとはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)を利用して、インターネット上に構築された仮想空間のことです。
メタバースといえばこれまでゲームが主流でしたが、今後ビジネスに活用できるプラットフォームとして注目されています。
ブルームバーグではメタバースの市場規模は2020年の5000億ドル(約56兆円)から、2024年には7833億ドル(約88兆円)まで伸びると予測しており、エンターテイメント業界だけではなく、観光や医療など幅広い分野で活用が進むと言われています。
日本でも、日産などメタバースをビジネスに活用する事例が増えてきました。グリーをはじめ、今後新規事業としてメタバースへの投資を表明しているIT企業もあります。
とはいえ「ゲームの仮想現実と何が違うのか」「新規事業として何ができるのか」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
そこで本コラムではメタバースなどの仮想空間でのビジネスについて、基本的な考え方やビジネスに活用するポイントなどを解説します。
■目次
1.メタバースとは?これまでの仮想空間との違い
メタバースは「高次の」「超える」という意味の「Meta」と、「宇宙」という意味の「Universe」を合わせた造語であり、一般的にインターネットにおける3次元の仮想空間を意味します。 メタバースは、今後の成長分野として経済産業省からも注目されています。
経済産業省が2021年7月にまとめた資料によれば、メタバースを「多人数が参加可能で、参加者がその中で自由に行動できるインターネット上に構築される仮想の三次元空間」と解説しています(※1)。
例えば任天堂の人気ゲーム「あつまれどうぶつの森」もメタバースの一種です。このゲームでは、仮想空間でアバターを操作、無人島を開発したり他のプレイヤーと交流できたりします。
「他の人と交流できる」という点がメタバースの大きな特徴であり、仮想空間の中で人々がコミュニケーションや取引できるため、ビジネスを展開しやすいと言えます。
ただしメタバースは単なる仮想空間ではなく、より現実に近づけるためVRやARといった技術が使われます。VR (Virtual Reality)は3DCGなどを利用して、その場にいるような臨場感を体感できる技術で、一方のAR(Augment Reality)は、現実の映像にコンピューターで作成した画像や文字を重ねる技術で「ポケモンGO」などのゲームにも使われています。
VRやARの技術を活用することで、現実世界の商品やサービスを仮想空間内に展開しやすく、新たなビジネスチャンスが広がっているわけです。
※1:「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」の報告書を取りまとめました(経済産業省)
2.メタバースでのビジネスが注目される2つの理由
メタバースが注目されたのは、2021年に行われたFacebook社の改名が大きなきっかけです。さまざまな記事やコラムでメタバースが特集されました。
しかし、それだけではありません。多くの企業がビジネス用途として注目しているのには、「コロナ禍によるユーザーの行動変化」「NTFや仮想通貨によってマネタイズがしやすくなった」という2つの理由があります。ここではこの2つについて解説します。
1)コロナ禍によって、対面コミュニケーションが難しくなったため
コロナ禍によりユーザーや取引先と直接コミュニケーションがとりづらい状況に置かれています。実際に大規模な展示会やイベントの中止によって、事業戦略の見直しを迫られている企業も多いのではないでしょうか。
こうした状況の中、メタバース(仮想空間)を利用したコミュニケーションにシフトする動きが進んでいます。例えば2021年に行われた仮想空間による大規模イベント「バーチャルマーケット」では、延べ100万人が来場し、百貨店など70以上の企業が仮想空間に出展したことも話題となりました(※2)。
またコロナ禍の大きな影響を受けているのが観光業であり、インバウンドの減少は深刻な問題となっています。
長引くコロナ禍でインバウンド需要が戻らない可能性もあり、新たな事業としてメタバースに注目が集まっています。例えば韓国では、メタバースを使って旅行体験を提供するインバウンド向けキャンペーン「Come Play with Korea, K-VIBE Festa」を2021年に開催(※3)しました。今後もインバウンド需要を取り込む施策として、世界でメタバース活用が進むでしょう。
※2:来場者数100万人超え!ディズニーやFacebookも出展する世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」、次回開催を発表!(PR TIMES)
※3:韓国観光公社、メタバースを活用した新グローバル・キャンペーン「Come Play with Korea, K-VIBE FESTA」を開始(Business Wire)
2)仮想空間は仮想通貨やNFTとの親和性が高いため
メタバースでは、実際の商品や仮想空間のデジタル商品の商取引にも期待が集まっています。実際にビームスなどの日本企業も、メタバース上での商取引に取り組み始めました。
こうした仮想空間上の商取引で需要が高まっているのが、ブロックチェーンを使った仮想通貨やNTFです。
仮想通貨で商取引がしゃすくなる
日本でも話題となっている仮想通貨(暗号通貨)ですが、世界の市場規模も急成長しています。
ブルームバーグの解説コラムによると、2021年市場の時価総額が3兆ドル(約340兆円)を達成しております。これは 2020年末の水準の約4倍にも上ります(※4)。
仮想通貨によって、メタバース上での手軽で安全性の高い商取引が可能となります。ブロックチェーンを使った仮想通貨が今後より存在感を増すことで、メタバース自体での商取引が拡大することが考えられます。例えばアメリカの小売り大手ウォルマートでは、メタバース参入の準備として、独自の仮想通貨やNTFを発行すると言われています(※5)。
※4:暗号資産市場の時価総額、3兆ドルを突破-昨年末比で約4倍に膨らむ(Bloomberg)
※5:ウォルマート、独自の仮想通貨とNFT発行へ-メタバースへ準備(Bloomberg)
NTFでデジタルデータの模造や不正販売を防げる
NTF(Non-Fungible Token)はまだ日本では聞きなれないワードかもしれません。
NTFは偽造できない所有証明書つきのデジタルデータのことで、仮想通貨と同じくブロックチェーンにおいて取引されます。 一般的なデジタルデータは複製しやすく、不正に第三者が販売できてしまうリスクがあります。
しかしブロックチェーンを使ったNTFでは、権利者や所有者が明確なため模造や不正販売の防止につながります。海外ではNTFを使ったデジタルアートがオークションにて約75億円で落札された事例もあります(※6)。 仮想通貨やNTFによってメタバースでの安全な商取引が可能となり、より今後の拡大が期待されています。
カナダのリサーチ企業によると、2020年のメタバース市場規模は約5兆5千億円であり、2028年には100兆円規模へ拡大するとの見方もあります(※7)。
※ブロックチェーン解説:ネット上の取引履歴(ブロック)を、鎖(チェーン)のように分散してつなげて残す仕組み。ビットコインなどの仮想通貨に使われる。
※6:BeepleのNFT作品が75億円で落札、アート界に変革の兆し(TechCrunch Japan)
※7:メタバースで100兆円規模の巨大経済圏が誕生する?注目される理由と関連企業10選(MONEY PLUS)
3.メタバース(仮想空間)のビジネスは3つに分類される
メタバースはまだ新しい概念のため、実際にどんな新規事業が展開できるかわかりづらいのも事実です。
経済産業省では、仮想空間でのビジネスを大きく3のパターンに分類して解説しています。ここでは3つのパターンについて、具体例を挙げながら解説します。
1)仮想空間内で自社サービスを提供
自社で仮想空間を開発・運営、その中でサービスを提供するパターンです。現在最も多いのがこのパターンであり、「あつまれどうぶつの森」「Fortnite」といったオンラインゲームは、これに該当します。
ユーザーからサービスやコンテンツの利用料などで収益を上げるBtoCのビジネスモデルです。
2)仮想空間プラットフォームの構築・提供
業からの依頼に基づき、仮想空間のプラットフォームやコンテンツを構築して収益を得るBtoBのパターンもあります。
例えば兵庫県のネットベンチャーは2020年に仮想空間プラットフォーム「monoAI xRCLOUD」を提供開始(※8)し、NTTドコモに採用された実績があります。10万人が同時接続できる点が特徴で、大規模なバーチャルイベントにも対応できるものです。
コロナ禍でリアルなイベントや展示会の実施が難しい中、こうした企業向けビジネスも増えることが想定されます。
3)メタバース
(1)と(2)を組み合わせた、新たなビジネスパターンとして注目されるのがメタバースであり、仮想空間プラットフォームを構築・運営するだけではなく、第三者がビジネスできるよう開放するモデルです。
この場合プラットフォームへの出展料や販売手数料によって収益を得るビジネスモデルとなります。例えば京都のネットベンチャーが2017年から提供しているプラットフォーム「cluster」は、2018年にはソニーが仮想空間で有料の音楽イベントを開催したことで大きな話題を集めました(※9)。
プラットフォームとしての規模が大きければ、高い集客力が期待できます。多種多様な企業・個人が集まるため、イノベーションが起こりやすいのもメリットと言えるでしょう。
こうしたメタバースに関する企業は投資対象としても注目されています。アメリカではすでにメタバース関連銘柄を特集した投資信託も登場しております。メタバース構築に関連したインフラ企業やコンテンツ開発企業の銘柄などの成長が期待されています。
※8:monoAI,10万人同時接続可能なVRイベント空間「monoAI xR CLOUD」を提供開始(GamesIndustry.biz Japan Edition)
※9:クラスター「インターネットにまだ乗っていない体験を、インターネットに乗せる」(THE21)
4.メタバース(仮想空間)事業の成功に必要な4つのポイント
メタバースが注目されているとはいえ、2022年1月現在では国内で新規事業に取り組んだ事例は少ないのが実情です。そのためビジネス活用に関するノウハウは乏しい状況ですが、先行してメタバース事業に投資して、一定の評価を得ている企業もあります。
例えば日産自動車では、仮想空間プラットフォーム「VRchat」上にバーチャルギャラリーを開設しました。メタバースのメリットを生かした事例として、様々な媒体でコラムや特集記事で紹介されています。本コラムでも日産のメタバース事例(※10)をもとに、これから取り組む上でおさえておきたい4つのポイントを解説します。
※10:「VR日産ショールーム」に見るメタバース広報戦略(東洋経済オンライン)
1)現実とリンクした仕掛けを用意する
日産のバーチャルギャラリーは、東京・銀座に存在する自動車ギャラリーを忠実に再現しました。窓の外には銀座の街並みを表現し、最新車種をVRでリアルに再現するなど現実感にこだわりました。リアルな体験が大きな話題を集めれば、来場者が写真をSNSで拡散するなど高いPR効果が期待できます。
2)ユーザー同士で交流するためのコミュニティを開放する
本来であれば、バーチャルギャラリーのターゲットは自動車に関心があるユーザーですが、日産のバーチャルギャラリーはより広いユーザーを意識し、バーチャルギャラリーをユーザー同士で交流できる場として開放しました。
これによってYouTuberなどクリエイターが集めることに成功し、新たなユーザーの開拓につながったと言えます。
3)経営陣や社員が積極的に交流を図る
日産のバーチャルギャラリーでは役員やスタッフをアバターとして登場させ、来場者がコミュニケーションできるようにしました。ユーザー同士の交流だけではなく、スタッフとユーザーの交流にも注力したというわけです。
現実ではこうした交流が難しい今、仮想空間だからこそできる取り組みと言えるでしょう。
また「仮想空間と親和性がある」「先進的な取り組みをしている」という企業イメージの向上にもつなげています。
4)VRクリエイターと協業する
24時間365日、世界中のユーザーから集客ができるのがメタバースの大きな強みのひとつです。コロナ禍が長引く中、日産のようにメタバースでマーケティングや新規事業に取り組む企業が急増することが予想されます。
しかしVR/AR技術やメタバースのユーザー動向に詳しくない企業がいきなり参入しても、当然成功は難しいでしょう。ここでポイントとなるのがクリエイターとの協業です。
実際に日産でも、さまざまなクリエイターと連携して体験型バーチャルギャラリーを立ち上げました。
高品質なものを制作できるだけではなく、クリエイター自身がインフルエンサーとなって仮想空間で自社をPRしてくれるメリットもあります。
5.メタバース(仮想空間)の活用事例 5選
海外を中心に、メタバースで大きな事業に取り組む企業も増えています。ここでは現在よく知られている5つの事例について解説します。
1)あつまれ どうぶつの森
任天堂が2020年に発売したNintendo Switch用のゲームです。2021年3月時点で販売数は3,263万本にもなり、日本だけはなく世界で高い人気を誇っています(※11)。
仮想空間でユーザーが無人島をカスタマイズするゲームですが、オンラインで他のユーザーと交流できるため、コミュニティとしても活用されています。
ゲーム販売で収益を上げる従来型のビジネスモデルですが、企業やブランドがアイテムや交流の場を提供できる仕組みも提供しております。企業は直接ユーザーに営業活動はできませんが、マーケティングなどに利用されています。
※11:「あつもり」の累計販売本数3,263万本! 任天堂、2021年3月期の決算資料を公開(GAME Watch)
2)Fortnite(フォートナイト)
Fortniteは2017年にアメリカのエピックゲームズ社がリリースしたオンラインゲームです。Fortniteのメインは仮想空間で多人数が参加する戦闘ゲームであり、日経ビジネスによると、世界のユーザーは約3億5000人(※12)にも上ります。
オンラインゲームがスタート地点ですが、コミュニティ機能を拡充させ、メタバースのプラットフォームにシフトしています。日本でも、米津玄師など著名なアーティストがFortnite上でバーチャルライブを開催しています。
Fortniteサービス自体は無料で利用できます。そのため仮想空間上で使えるアイテムなどの販売で収益を上げるというビジネスモデルです。今後はよりコミュニティ関連ビジネスに注力することが予想されます。
※12:世界3億5000万人が集うゲーム、「フォートナイト」の磁力(日経ビジネス電子版)
3)VARP
「VARP」は2020年に日本企業が新たに立ち上げたメタバースプラットフォームです。
エンターテイメントに特化し、仮想空間で音楽ライブなどを体験できる機能を搭載(※13)しています。
最近では人気バンド「RADWINPS」がVARP上でバーチャルライブを開催、大きな話題を集めました(※14)。
※13:仮想空間上であらゆるエンタメ共体験を可能にする ヴァーチャル パーク システム「VARP」の提供を開始(PR TIMES)
※14:RADWIMPSが新次元ヴァーチャルライブ・エクスペリエンス”SHIN SEKAI”を世界同時開催(EYESCREAM)
4)VRChat
アメリカVRChat社が提供するVRchatは、1,000万以上のアバター(利用者の分身)を誇る、世界最大級のメタバース(※15)です。2021年には投資家から8000万ドルの資金調達を実現しました。
今後さらなる機能拡充が期待されています。 高度なVR技術を利用し、リアルに近いコミュニケーションが体験できる点が特徴です。
テレビ朝日やリコーなど日本企業が多数出展するイベント「バーチャルマーケット」もVRChat上で開催されるなど、企業のビジネス活用も進んでいます。上述した日産のバーチャルギャラリーもVRChat上で実施されました。
※15:VRChatがAnthos Capitalと提携し、8000万ドルのシリーズD資金調達を完了(Business Wire)
5)REALITY
スマホゲームを手掛けるグリー社もメタバースに注力する企業のひとつです。
100%子会社のREALITY社を中心に、今後メタバース事業に100億円規模の事業投資を行うことを表明しています(※16)。現在はバーチャルライブ配信アプリ「REALITY」にて、アバター(分身)を使ってコミュニケーションできる仕組みを設けています。
REALITYでは企業向けサービスも展開し、仮想空間上で企業がイベント開催やマネタイズができるサービス「REALITY XR cloud」を提供しています<(※17)。
※16:グリーが子会社REALITY中心とする「メタバース」事業参入を発表、グローバルで100億円を投資し数億ユーザーを目指す(TechCrunch Japan)
※17:REALITY XR cloud(REALITY株式会社)
6.まとめ
Facebook社がMetaに改名したことで注目を集めるメタバースですが、本コラムで解説した通り「コロナ禍による対面コミュニケーションの自粛」や「NTFや仮想通貨やNTFなどのブロックチェーン技術の台頭」などで市場規模も急成長、ビジネスシーンでの需要も高まっています。
業種を問わず、あらゆる企業にとってメタバースは新たなビジネスチャンスと言えます。
しかし現実のビジネスと同じ発想で新規事業を立ち上げても、成功は難しいでしょう。
日産の事例を見てもわかる通り、メタバースの特性をよく理解した上でコミュニケーション戦略をとる必要があります。また企業向けのメタバース構築サービスも増えており、自社に合うものを選択するスキルも求められます。
こうなると現実のビジネスへの理解力もあり、さらにメタバースや新たな技術をわかりやすく解説してくれるパートナーが必要です。
優れたパートナーとうまく組めるかどうか、ここがメタバースビジネスの成功に最も重要と言えるでしょう。
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(株式会社みらいワークス フリーコンサルタント.jp編集部)