パンデミック以降、既存ビジネスへの依存から脱し企業として生き残るための戦略として、新規事業の立ち上げを模索する企業が増加しています。
しかし、既存ビジネスには詳しい経営者や社員も、新規事業の立ち上げに関するノウハウや経験はもっていないというケースも多く、新規事業の立ち上げをどのように進めればいいかわからないと悩む企業も少なくありません。
本記事では、中小企業の課題解決支援や地域企業の活性化をサポートするコンサルティングサービスを手がけるプロフェッショナル監修のもと、新規事業の立ち上げプロセスや成功の確率を高めるためのポイントについて解説します。
■目次
1.企業にとって新規事業の立ち上げを行う必要性
企業が継続して成長していくためには、新規事業の立ち上げが必要です。経営の柱となる事業が業績不振の危機に陥った際に、経営の柱が1本しかないとすぐに経営が傾いてしまいます。
経営の安定化を図るためにも、新規事業の立ち上げを行うことが重要なのです。ここからは、新規事業立ち上げに必要な2つのポイントについて解説していきます。
【新規事業の立ち上げを行う必要性】
次世代の人材育成
新規事業を立ち上げる経験は、次世代の人材を育成する上で重要なファクターと言えます。なぜなら、他部門に渡って横断的にマネジメントを行うことにより、リーダーシップを養成することができるからです。
また、新規事業は企業の業績にも影響を及ぼすため、経営層の視点に立ったマインドを享受することもできるでしょう。ただし、新規事業立ち上げには下記のようなスキルが要求されます。
ロジカルシンキング(論理的思考力)
論理に矛盾や破綻が生じないように物事を順序立てて、体系的に整理する能力を指します。後天的に鍛えることが可能な能力とされているので、日々の課題を壁打ちしながら、答えを導き出すトレーニングを行いましょう。
情報収集スキル
大量の情報の中から新規事業に必要な情報を収集するスキルを指します。市場の特性や規模、顧客ニーズなどを把握することで、仮説が立てやすくなり、作業効率が向上します。
マネジメントスキル
目標達成に向けての経営層との折衝やメンバーの管理、プロジェクトの進捗など、横断的に管理、運営するスキルのことです。ヒト、モノ、カネを効率良く管理し、リーダーシップを発揮することで向上できるスキルと言えます。
コミュニケーションスキル
内外の関係者との折衝にはコミュニケーションスキルは必須です。分かりやすく伝える力、相手の考えを傾聴する力どちらも必要になります。
また、相手のモチベーションや能力を引き出すことで、マネジメントスキルにも寄与できるでしょう。
競争力の維持と向上
競争力を維持しつつ、新たなチャレンジをしながら向上していかないと、継続的な企業運営は難しいと言えます。日本経済の成長力は年々鈍化しており、市場規模自体が縮小していることから、同業他社にいつポジションを奪われてもおかしくありません。
競争力の維持と向上に必要なことは、次の3つです。
自社の強みを活かした差別化
既存の知見やノウハウを有効活用し、競合他社と差別化を図ります。独自性を求めることで、競争力が強化され、企業の持ち味を最大限に発揮できるでしょう。
自社の強みを活かした事業効率化
業務プロセスや工程の見直しによるコストダウンなどにより、事業効率化を図ることで、コスト競争力を高めることが可能です。顧客満足度を維持しつつ、収益性もアップさせることができます。
リスク分散
既存事業を持ちながら新規事業に取り組むことで、経営リスクを分散することができます。たとえば、社会情勢により新規事業の業績が悪化しても、既存事業で損失を補填することは可能です。
収益の柱を複数持っていることで、安定した企業運営を行えるでしょう。
2.新規事業の形態
新規事業の形態は、主に次の3種類が挙げられます。
- 企業内で新規事業立ち上げの部署を設立する
- 企業内の既存事業部で新規事業を立ち上げる
- 新しく会社を設立して新規事業を立ち上げる
企業内で完結することがほとんどですが、ベンチャー企業やスタートアップ企業の場合は別会社を設立することも多いです。
また、上記の3種類に加えて、企業が新規事業を立ち上げる場合と個人が新規事業を立ち上げる場合があります。それぞれの違いは以下の通りです。
企業で新規事業を立ち上げる場合 | 個人で新規事業を立ち上げる場合 | |
---|---|---|
資金調達の方法 | 企業の資金 | 金融機関 クラウドファンディング |
リソースを確保する方法 | 従業員 外部人材 |
個人のスキル 外部人材 |
意思決定者 | 幹部 | 事業主 |
新企業設立の必要性 | 基本的には必要なし | あり |
個人で新規事業を立ち上げる場合は事業主が裁量を持つことができるため自由度が高いメリットがあるものの、資金やリソースの面においては企業が有利です。加えて、企業が保有している技術やノウハウをそのまま引き継げるため、新規事業立ち上げに必要なコストを抑えられます。
3.日本企業における新規事業への注目度と取り組み状況
東京商工会議所の調査によると、2020年3月のコロナ禍以降、新たな取り組みを実施したと回答した中小企業は、全体の60.6%でした。うち28.5%は、新分野の展開や業態、業種や事業転換など、事業再構築に取り組んでいると回答しています。
また、地域情報サイト「まいぷれ」を運営する株式会社フューチャーリンクネットワークも同時期に、新規事業を検討する地方企業の経営者を対象として意識調査を実施しております(※)。
- 「磐石な経営基盤にするため」(50.5%)
- 「新規事業で再起を図りたい」(22.5%)
- 「コロナ禍で事業転換を考えている」(18.0%)
など、さまざまな理由で新規事業を検討しているという回答が寄せられています。
新型コロナウイルスの影響は、収束に向かっている現在においても全世界にわたっており、その影響もあらゆるところに及んでいます。日本においても、都市部でも地方部でも企業にとっては厳しい状況が続いているのが実状です。他社に後れを取らないためにも、新規事業の立ち上げはマストと言えるでしょう。新規事業のアイデアが思いつかないという方は、下記の資料を参考にアイデアを考えてみてください。
4.新規事業の立ち上げにおける進め方の7つのプロセス
新規事業のアプローチや立ち上げのプロセスにもいろいろなものがありますが、ここでは多くの企業で採用されている7つのプロセスについて解説します。
【新規事業の立ち上げ7つのプロセス】
【プロセス 1】自社の理念・ビジョンや社会的存在意義を明確にする
自社の経営理念や達成したいビジョンを明確にすることは、新規事業の展開も含め会社として活動する“軸”になります。その理念やビジョンが魅力的なもの、有意義なものであれば、社員のモチベーションも高まり、新たな人材も集まりやすくなるでしょう。
その理念やビジョンのなかには、社会的な存在意義も位置づけられます。
「社会のこのような課題を解決したい」「社会に対してこうした分野で貢献したい」といったように、社会における自社の存在意義を明確にとらえることができれば、それが会社の強い“軸”になるのです。
反対に、その“軸”をもたない会社は「会社をつぶさないこと」に判断基準の重点が置かれがちで、新規事業を立ち上げる際も短期的な利益の視点ばかりで考えてしまうことが散見されます。そうした考えは、社員からも社外の顧客からも見透かされてしまい、ビジネスとして大きな成功を遂げることは難しくなります。
自社の理念やビジョンや社会的存在意義を見つめ直し、会社として達成したいことや解決したい社会課題などを再度考え、5年後や10年後に自社がどうなっていたいかを考える——。
このプロセスは、新規事業を創出する前段階として非常に重要なものです。ここで明確にした“軸”が、新規事業のアイデアを生み出したり絞り込んだりする際にも重要な判断基準の一つとなります。
【プロセス 2】自社や顧客の課題を見つける
新規事業のアイデアを生み出すアプローチとしてはさまざまなフレームワークがありますが、「誰」の「どんな課題」を解決する商品、サービスであるのかを入り口に考えることで、確実なニーズにつながる事業を考えやすくなります。
市場の課題、顧客が抱えている課題、業界としての課題、あるいは自社が悩まされている課題、競合他社の課題……課題はあちこちに存在しています。前STEPで社会課題の解決を自社の“軸”として定めた場合、その課題ももちろん対象となります。
【プロセス 3】事業領域を決め、事業のアイデアを生み出す
事業領域(事業ドメイン)とは言葉のとおり、事業を展開する領域を指します。
事業領域というとターゲットとする市場や業界を定義することと混同されがちです。
しかしながら事業領域はもう少し広い視野で「誰のどんな課題を解決するか」「誰にどのような価値を提供するか」といったことを範囲として定めるものです。
そのうえで、新商品やサービスなど新規事業の具体的なアイデアを検討する段階に入ります。 アイデア出しや絞り込みは時間がかかりますが、迷ったときは最初のステップで明確にした理念やビジョンや社会的存在意義に立ち返ることが重要です。
「このアイデアは『5年後、10年後のありたい姿』に向かうベクトルに合致するものなのか」「社会的存在意義の実現にかなう事業となり得るのか」といったように考えることで、会社としての“軸”をぶらさず事業アイデアを発展させやすくなります。
【プロセス 4】事業アイデアを分析・予測する
前プロセスまでで生み出した事業アイデアをより具体的でより成功確率の高いものにするため、市場の状況や需要などを分析、予測して、実際の事業化に向けてさらに練り上げていきます。
分析や予測については最低限、その新規事業の市場にはどのような特徴があるのか、成長性やリスクはあるのか、すでに存在している競合となるプレイヤーはいるのか、といった市場性に関するものと、新規事業のターゲットとその特徴、ボリューム、ターゲットとなる層のニーズといった事業性に関するものについて調査し分析するのが一般的です。
【プロセス 5】新規事業立ち上げの環境を整備する
新規事業の立ち上げには、ヒトモノカネに代表される経営資源の投入や、事業展開に関するノウハウや情報の集約が不可欠です。
具体的にどのようなヒトモノカネやノウハウ、情報が必要かということを洗い出し、実際の調達へと進めましょう。
労働人口の減少などで人材不足の傾向があるなか、新規事業立ち上げを任せられるノウハウや経験を有する優秀な人材はさらに確保が困難です。社内の人材に任せるとしても、既存事業との兼ね合いもあります。
そうした場合は、社員の人材採用を検討するのはもちろん、一時的に外部のプロフェッショナル人材を業務委託で招き入れて活用し、プロジェクトをリードしてもらいながら、そのノウハウを社内に吸収するという方法もあります。
【プロセス 6】現実的な行動計画を立案する
前STEPの環境整備も含めて、新規事業を展開するために必要な行動を洗い出し、いつ誰がどのようなことをするのか、現実的な計画に落とし込みます。
【プロセス 7】各行動の成果を検証して改善する
具体的な行動を開始したあとは、計画に沿って進捗しているか、行動の成果は目標を達成するものであったか、立てていた仮説は正しかったかどうか、といったことを定期的にチェックする必要があります。
行動が計画より遅れていたら、行動の成果が目標に達しないものであったら、立てていた仮説とは異なる結果が表れたら……などの場合はその原因を特定して改善します。
このPDCAを繰り返し改善を積み重ねることで、商品やサービスがブラッシュアップされ、事業の精度がより高まります。
5.新規事業を立ち上げる際に経営者やマネジメント担当者が行うべきこと
新規事業立ち上げの際はプロジェクトメンバー任せにせず、経営者やマネジメント担当者が主導でプロジェクトを遂行する必要があります。特にプロジェクトがある程度軌道に乗るまでは、経営者やマネジメント担当者による牽引が必要になるでしょう。
まずやるべきことは、プロジェクトメンバー全員が新規事業に対する理解を深められるようにすることです。なぜ新規事業を立ち上げるのか、なぜこの商材(サービス)にしたのか、自社を取り巻く環境がどうなっているのか、ライバルとなる同業他社の動向や、参入予定の市場の傾向がどうなのか…など、細かく情報共有をしておきましょう。
ある程度ビジョンを共有できていないとプロジェクト全体の舵取りが難しくなり、結果的にバラバラの方向性で進んでしまうことも多くなります。反対に共通認識があればマインドも育ちやすく、プロジェクトの土壌が仕上がっていきます。
まずは新規事業に対する理解と共感を得ることを第一に考え、オンボーディングしていくことが重要です。そのほかにも新規事業立ち上げを成功させるためのポイントは多数ありますが、詳しく知りたい方は下記の資料をご活用ください。これまでに数々の新規事業立ち上げに携わってきたプロフェッショナル人材が、成功率を高めるポイントを解説しています。
5.新規事業の立ち上げを成功させるための9つのポイント
もともと新規事業の成功確率は“千三つ”といわれるほど低いものとされてきました。そして今は、将来を予測することが難しいVUCAの時代です。精緻に計画を積み上げても、その事業が成功するとは限りません。
そういう状況で、新規事業を少しでも成功へ近づけるためには、どのような点に留意すればいいのでしょうか。本章では、特に重要なポイントを3つ解説します。
【新規事業を成功させるための3つのポイント】
(1)経営陣の適切なコミットを引き出す
新規事業の立ち上げは、企業として明確に掲げた理念やビジョンや社会的存在意義に向かう戦略的な活動の一つとして重要な位置づけとなるものです。そして商品やサービスを開発しビジネスを立ち上げるには少なからぬ投資が必要になり、時間もかかります。
そうした性質の活動に対し経営陣が積極的に関与しないのも問題ですが、誤った認識やスケジュール感の違い、社内政治などの理由で新規事業立ち上げの動きに“圧力”がかかるのもまた問題です。
企業の経営層と、新規事業を立ち上げるプロジェクトチームの意思疎通および適切な連携は、新規事業の成功には重要なポイントです。
(2)現場の方々の理解を得る
日本企業で行われる新規事業立ち上げプロジェクトの大半では、社内の既存事業や社員との連携が不可欠です。さまざまな場面で、社内の各部門の現場で働く方々の協力が必要となります。
しかし、現場の社員の方々は日々の業務に追われており、新たな仕事が発生してもなかなかキャッチアップできません。 なかには、社長の思いつきから新規事業立ち上げの動きが始まることもありますが、トップダウンで無理に現場に押しつけても、現場の方々が「新規事業なんて、自分の担当範囲外の話なのに」という意識であれば実際に物事を進めることはできません。
現場の方々の協力を得て新規事業を成功させるためには、その新規事業が現場の方々の“自分事”になることが肝心です。
会社がその新規事業をどういう目的で、どのような位置づけで行っているかということを現場の方々にもきちんと理解してもらえるよう、適切に伝達することが、新規事業の成功の鍵を握るといっても過言ではありません。
(3)商品・サービスを届けることまで意識する
新規事業を成功させるには、新たな商品やサービスを開発するだけでなく、マーケティングやプロモーション、実際の流通にのせるプロセスなど、上流から下流まですべての工程に目を配り、その仕組みを整える必要があります。
社内ではそうしたプロセスが別々の部門によって管轄されていることが多いですが、その場合は関連部門を横断してプロジェクトを管理できるような体制を敷き、コンセプトをぶらすことなく新規事業を届けるところまで設計する必要があります。
こうした社内連携の必要性を考えても、冒頭の「経営陣の適切なコミットを引き出す」は欠かせないといえます。
(4)リソースの調達方法を検討する
新規事業の立ち上げにあたり、これまでにないリソースを調達しなくてはいけないシーンが出てきます。資材や原料など具体的な「物」なこともあれば、自社にはないノウハウやスキルを持つ優秀な「人」なこともあるでしょう。また、資金など「金」が必要なときは、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から資金を調達する、政府機関や非営利団体からの助成金や補助金を受ける、などさまざまな手段を講じて資金調達する必要があります。
まずは新規事業を問題なく遂行するために何が足りないか、自社の内情を見渡しながらリストアップしてみましょう。
(5)行政や他業種との連携をとる
新規事業の立ち上げにおいて、行政や他業種との連携を取ることは大きな成功の鍵となります。
たとえば行政と連携する場合、事業許可の獲得、規制の調査、補助金や助成金などが得られます。業界団体や産業団体と連携し、業界全体のトレンドや動向を把握するなど情報収集に努めてもよいでしょう。さらに、大学や研究機関と連携して技術革新やイノベーションを促進する、地域コミュニティと連携して新規事業の露出を増やす、ということも可能です。
また、他業種と連携をとる場合、自社にはないノウハウや知見、技術を取り入れられるほか、リソースの共有ができます。各社の強みを活かして連携をとることで、新規事業の価値やクオリティがより高まるでしょう。
上記のように戦略的なパートナーシップを構築することで、新規事業に関する情報の活用や市場の拡大などに役立ちます。リスクについて正しく評価して徹底するなどフレキシブルな考え方もできるようになるので、外の関係者も積極的に頼りましょう。
(6)補助金を活用する
(5)でも触れましたが、市区町村、経済産業省や厚生労働省、各産業団体などが主導している補助金や助成金があります。これらを活用すれば、自己資金だけでは賄えない投資ができます。
補助金は、特定の条件を満たす企業やプロジェクトに対して政府機関や地方自治体、産業団体などから提供される非返済性の資金支援です。新規事業を立ち上げるときは特に大きな資金が必要となるため、条件を満たすものがあれば活用しない手はありません。
ただし、申請書類の準備や締切に合わせた提出などの事務手続きにより、思わぬリソースを割かれてしまう可能性もあります。情報収集は早めに行い、時間をかけてでも確実な準備ができるよう対策していきましょう。
(7)最新情報や未来の情報を収集する
新規事業の立ち上げに成功するためには、最新情報や未来の情報を収集することも欠かせません。たとえば同業界における競合他社の動向や戦略を調査して競合分析することで、自社特有の強みを把握することが可能です。また、競合調査を行うことで市場調査にも繋がり、市場のニーズやトレンドを把握するのに役立ちます。
なお、情報収集や分析を行う際は、アクセラレータプログラムやベンチャーキャピタルから提供される情報やネットワークを活用し、技術トレンドを把握するなど手法は多彩です。自社にノウハウがないときは、専門家やコンサルタントに相談してもよいでしょう。
(8)ツールを活用する
情報収集に役立つデータ分析ツールを使ったり、自社の商品やサービスに新たなターゲットを設定できないか、顧客管理ツールを使ったりしながら商機を狙うのも有効です。ツールを活用することで新規事業の立ち上げや運営を効率化でき、成功に繋がる可能性も高まるため、ぜひ活用してみましょう。
その他、実際にプロジェクトが始動し始めて以降は、キャッチコピー制作やブランディングのためにデザインツールを使ったり、Webサイト制作最適化のためにマーケティングツールを使ったりするのもおすすめです。
(9)事業撤退ラインを決めておく
残念ながら新規事業が成功するとは限らない以上、事前に事業撤退ラインを決めておく必要があります。一般的には、事業が収益を上げるための目標や期待収益を設定し、その基準を下回った場合に撤退を検討することが多いです。具体的な売上目標や利益目標を設定し、定期的に達成度合いを評価していきましょう。
また、市場の反応や顧客のフィードバック、競合との比較、リスクとリターンのバランス次第で継続か撤退か決める方法もあります。無理に事業を継続すると、却って収益を大きく悪化させる要因となるので、戦略的撤退のライン引きをしておきましょう。
なお、新規事業を成功させるためのポイントや進め方をもっと詳しく知りたい方には下記の資料がおすすめです。当記事では紹介しきれなかった詳細なノウハウが凝縮されているため、新規事業の成功率が各段に上がります。
6.新規事業を立ち上げるの際の4つの戦略
新規事業を立ち上げる際の戦略として、下記4つが挙げられます。
【新規事業を立ち上げる際の戦略】
以下でひとつずつ解説します。
新規市場開拓戦略
新規市場開拓戦略とは、企業が既存の市場や顧客層とは異なる市場や顧客層に進出するための戦略です。
新たな地域、産業、製品やサービスのセグメントなどに参入する新規事業の場合、ノウハウがない領域を開拓する必要があるため、市場調査に基づいた綿密な戦略が求められます。具体的には、市場分析とニーズの特定をしてターゲットを明確にしたり、その領域に刺さるマーケティングとプロモーションを意識したりすることが挙げられます。
市場の拡大や新たな収益源の確保に向けて特に重要な項目となるため、市場や顧客のニーズを正確に把握し、適切な戦略を展開するよう意識していきましょう。
新製品、サービス開発戦略
新製品、サービス開発戦略とは、企業が市場に新たな製品やサービスを導入する際の戦略です。市場ニーズや顧客の要求に基づいて新製品やサービスの開発をする必要があり、事前の情報収集が欠かせません。また、コンセプトや概要を策定しながら設計、開発プロセスを進め、顧客のフィードバックを取り入れながら形にしていく必要があります。
同時に、製品を安定供給するための技術革新も必須です。製品ではなくサービスの場合、提供者であるスタッフの教育や研修、モチベーションアップも視野に入れておきましょう。最新の技術やデザイン手法、生産プロセスなどを導入し、競争力のある製品やサービスを提供することがポイントです。
多角化戦略
多角化戦略とは、既存の事業領域や市場だけでなく、新たな事業領域や市場にも進出することを意味する言葉です。企業のリスクを分散しながら成長機会を拡大するための戦略であり、事業間のシナジー効果も期待できます。
なお、多角化戦略は既存の事業領域や市場と関連性のある新たな事業領域にすることや、全く関連性のない新たな分野を事業領域とすることもあります。また、原材料や部品の生産や供給などに参入する上流多角化や、製品やサービスの販売や流通などに参入する下流多角化なども多いです。
自社の狙っていきたい分野を検討し、目的に沿った事業領域を選択しましょう。
事業転換戦略
事業転換戦略とは、企業が事業モデルや経営戦略を変更し、新たな方向性に向かって事業を再構築する戦略です。古いビジネスモデルや収益モデルから脱却したいときに使われることが多く、市場の変化、競争の激化、技術の進化などの影響を受けて判断するケースがあります。
具体的には、製品やサービスの抜本的な革新、ビジネスモデルの変革、市場や顧客の再定義などが挙げられます。製品を完全リニューアルする、売り方やプロモーション方法を変える、ターゲットを変えるなど、時代のニーズに合ったフレキシブルな判断ができれば、留まることなく事業を成長させ続けることが可能です。
どのような方向性で新規事業を進めていくか悩んだ際には、フレームワークを活用するのがおすすめです。以下の資料では良いアイデアを出す方法やフレームワークの活用事例を解説しているため、ぜひお役立てください。
7.新規事業の立ち上げを成功させるために必要なフレームワーク19選
新規事業の立ち上げを成功させるためには、フレームワークの活用がおすすめです。フレームワークとは考え方の枠組みのことで、作業の効率化や思考の整理を素早く実施できる利点があります。
ここからは新規事業に役立つ4つのフレームワークをご紹介します。
【新規事業立ち上げを成功させるための4つのフレームワーク】
新規事業のアイデアを生み出すためのフレームワーク
新規事業にとって大切なことは、良質なアイデアを提案することです。アイデアをもとに達成すべき目標やプロジェクトの計画が決まるため、新規事業の根幹とも言えます。
しかし、一朝一夕で思い浮かぶものではりません。フレームワークを活用することで良質なアイデアを創出してみましょう。
ペルソナ設定
新規事業のサービスを利用する典型的な顧客像を作り込み、顧客ニーズを把握するフレームワークです。年齢、性別、職業、年収、家族構成など、多岐に渡る詳細な情報を設定し、顧客像を絞り込みます。
ペルソナを設定することで、よりターゲットを限定したサービスを提供できることがメリットです。
KJ法(親和図法)
ブレインストーミングなどで考え出したアイデアを、関連性のあるもの同士でグループ化し、因果関係のあるものを結びつけて図示化するフレームワークです。
課題の本質のあぶり出し、新たなアイデア創出、少数意見の吸い上げなどに有効とされています。KJ法は言語データを分かりやすく図解にするのに役立ち、品質管理の新QC7つ道具としても有名です。
6W2H
5W1Hが派生したフレームワークです。「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、誰に、どのように、いくらで」の頭文字を取ったもので、目的や要件を確認するのに用いられます。
対象となる情報が不明確な場合は、効果が見込めない可能性もあるので注意が必要です。
マンダラート
9×9の81のマス目にキーワードを入力することで、アイデアや思考を可視化して整理できるフレームワークです。野球選手の大谷翔平が学生時代に利用していた目標達成シートとして有名です。
短時間でアイデアを創出でき、目標を順序化することで、成功までのプロセスが明確にできます。
オズボーンのチェックリスト
9つの視点から強制的にアイデアを抽出するフレームワークです。転用、応用、変更、拡大、縮小、代用、再配置、逆転、結合の9つの視点から、発想を飛躍させることで意外なアイデアが生まれます。
フォアキャスティング型
フォアキャスティング型とは、企業が将来の需要や市場動向を予測し、その予測に基づいて生産計画や戦略的な決定を行う管理手法です。過去のデータやトレンドを分析しながら判断するのが特徴であり、将来の需要や市場状況を予測して備えることが可能です。
フォアキャスティング型のフレームワークを導入する場合、過去のデータをどの程度保有しているかが重要な指標となります。過去の事例を参考にしながら将来予測する手法なため、ナレッジが蓄積されている企業に強みのある手法と言えるでしょう。
バックキャスティング型
バックキャスティング型とは、目標やビジョンを設定し、その達成に向けて逆算して行動計画を策定する戦略手法です。現状と目標の差分を可視化しながら「足りない部分を埋める」ような戦略となるため効率がよく、最小限の工数、コストで最大限の効果を狙えます。
バックキャスティング型の戦略を成功させるには、明確な将来ビジョンの設定と逆算による行動計画の策定が欠かせません。段階的に目標を設定しながら定期的に効果検証したり、時には戦略を大きく変化させる柔軟性を持っていたりすれば、本来の目標を忘れることなく効果的な施策を立案できます。
新規事業の方向性を決めるためのフレームワーク
新規事業の方向性を決めるためにフレームワークの活用がおすすめです。組織や社員の方向性がブレてしまうと、目標の達成が難しく、モチベーション低下の要因になりかねません。
ここからは、方向性を決めるためのフレームワークを解説します。
MVV(Mission、Vision、Value
マネジメントで有名なピーター・F・ドラッカーが提唱した「企業経営の方針」です。企業がミッションを達成するためにはビジョンが必要であり、ビジョンを実現するためにはバリュー(価値観)を決めることを説いています。
言い換えると、新規事業において目指すべき方向性を示すのに有効なフレームワークです。
3C分析
顧客、市場、競合、自社の3つの視点から、事業の方向性や問題点を分析するフレームワークです。3C分析を活用し、自社の強みや市場シェア、顧客ニーズなどを調査し、適切な市場戦略を策定する土台となります。
分析のポイントは、情報の取捨選択を行い、3つの視点を客観的に意識することが重要と言えます。
ロジックツリー
様々な問題を整理しつつ、要素ごとに分解し、改善や解決方法を見つけるフレームワークです。問題を大きな1本の木と捉え、要素を分解することで枝、葉をつけるイメージからロジックツリーと呼ばれています。問題が見える化されるため、組織全体に方向性を供給できるでしょう。
ビジネスモデルキャンバス
ビジネスモデルキャンバスとは、ビジネスモデルを可視化し、理解するためのフレームワークです。複雑なビジネスの構造を整理するのに役立つ考え方であり、下記の構成要素について分析しながら進めます。
- 顧客セグメント(カスタマーセグメント)
- 価値提案(バリュープロポジション)
- 収益の流れ(収益モデル)
- チャネル(配送チャネル)
- 顧客関係(カスタマーリレーションシップ)
- 主要な活動(キーアクティビティ)
- 主要なリソース(キーリソース)
- 主要なパートナーシップ(キーパートナーシップ)
- コスト構造(コストモデル)
ビジネスモデルキャンバスでは、これらの要素をひとつのキャンバス上に図示し、ビジネスモデル全体を簡潔に表現していきます。これにより、自社の足りない部分や強みや弱みを可視化できます。
新規事業立ち上げに効果的なマーケティング戦略のためのフレームワーク
効果的なマーケティング戦略を構築するには、自社の強みやノウハウを活かし、顧客ニーズを的確に捉える必要があります。フレームワークを利用すれば、情報分析や戦略の立案、施策の実行などが可能になるでしょう。
おすすめのフレームワークをご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
STP分析
マーケティングの父と称される経営学者のフィリップ・コトラーが提唱したフレームワークです。セグメンテーション(市場細分化)、ターゲティング(狙う市場)、ポジショニング(立ち位置)の頭文字を取った分析法になります。
顧客ニーズを知り、自社の立ち位置を明確化し、勝てる市場をターゲティングできるため、マーケティング戦略がしやすくなる特徴があります。
SWOT分析
強み、弱み、機会、脅威の4つの要因から構成された2×2のマトリクスを使用し、企業の現状を把握することができるフレームワークです。戦略立案に役立つほか、既存事業の改善点や新規事業のリスク分析にも活用できます。
ソニーやトヨタ、任天堂などの一流企業もSWOT分析を利用しており、実績のあるフレームワークと言えるでしょう。
PEST分析
政治、経済、社会、技術の頭文字を取ってPEST分析と呼んでいます。企業が制御できないマクロ環境の分析に適しており、社会の変化を予測することで効率的なマーケティング戦略の構築に効果的です。
PDCAサイクル
Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)を繰り返し、業務効率化や品質を改善するフレームワークです。
古くから使われている手法のため、最近ではOODA(ウーダ)と呼ばれる、短期的な改善を進める手法へ置き換わってきています。
新規事業の評価、改善を行うためのフレームワーク
新規事業立ち上げ後の評価、改善は、事業が上手くいっているのか、上手くいっていない場合はどんな改善をする必要があるのかを知る上で重要です。
なぜなら、評価、改善次第で計画の見直しや事業撤退の判断を下すことも考えられるからです。それでは、新規事業を評価するのに有効なフレームワークを紹介します。
アンゾフの成長マトリクス
経営戦略の父と呼ばれているイゴール、アンゾフが提唱しているフレームワークです。
2×2のマトリクスを製品、市場と既存、新規の4つに分類し、市場浸透、市場開拓、製品開発、多角化のどの成長戦略をとるべきか視覚化して把握できます。
BMO法
新規事業の事業化の見込みが立った時に、事業化を行うか、市場に参入するかを数値化して判断できるフレームワークです。事業の魅力度と自社適応度の評価項目の合計点で、事業化の成功確率を算出できます。
IRR法(内部収益率法)
投資判断の基準となる指標で、新規事業に投資した金額が、将来戻ってくる金額と比較していくらの価値があるのかを評価する手法です。IRRが期待収益率を上回れば投資有利と判定することができます。
KPI
KPI(=Key Performance Indicator)は「主要業績評価指標」とも呼ばれており、組織やプロジェクトの目標や業績を測定し、評価するための指標として活用されています。達成度や進捗を定量的に評価するときは特に使いやすく、組織パフォーマンスや成果のモニタリングができます。
一般的なKPIの例として、売上高、利益率、顧客満足度、生産性、品質指標、リターンオンインベストメント(ROI)、顧客獲得コスト(CAC)などが挙げられます。いずれも数値で示せる定量的な指標であり、目標と現状との差分を可視化するのに便利です。
なお「もっと詳細にフレームワークを知りたい」「フレームワークを活用して新規事業を進めた事例が知りたい」という方は、下記の資料をご参考ください。新規事業のリスクやアイデア創出の方法についても解説しているため、成功率を高められます。
8.新規事業立ち上げの成功事例3選
新規事業の立ち上げでどのような失敗も絶対に避けるというのは実際には難しいことですが、最終的に成功へ導くためには、つまずきや失敗を乗り越えて成功へたどりついた事例から学べることもたくさんあります。
本章では、新規事業の立ち上げに成功した企業の事例と、その成功を促したポイントを解説します。
(1)京セラ
京セラ株式会社がライオン株式会社と協業して開発し事業化したのは、音が出る子供の仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi(ポッシ)」です。骨伝導技術を用い、ブラシの振動で音楽が流れるようにして、多くの子供が嫌がる歯磨きを楽しい時間に変えるというコンセプトを実現しました。
発端となったのは、プロジェクトチームのリーダーが開発していた振動デバイスと、自身の子供が歯磨きを嫌がるという課題でした。それをもとにさまざまな仮説を立て、インタビューを実施してニーズを検証した結果、同じ悩みをもつ親御さんがいるとわかりました。
事業立ち上げに際しては、新規事業創出の支援に関する豊富なノウハウを有するSSAP(Sony Startup Acceleration Program:企業の新規事業創出を支援する、ソニー株式会社のアクセラレーションプログラム)のサポートを受け、ライオンのもつ安全性確保のノウハウを生かしながら、ユーザープロトタイプをスピーディーに製作しました。
これによってニーズの検証や製品の改善を実現できたことが奏効した事例です。
(2)LIXIL
株式会社LIXILは、車椅子ユーザーの方がお一人でも玄関のドアをスムーズに開けられるよう、スイングドアの自動化を実現しました。電動オープナーシステム「DOAC(ドアック)」を開発しリリースしました。プロジェクトチームは2人の構成と小規模でしたが、通常なら3年かかるとされた製品化をおよそ1年で成功させています。
このビジネステーマはLIXIL社内で何度も検討されていたものの、さまざまな課題があり製品化に至っていなかったものでした。特に課題となったのは、新規事業を立ち上げるプロジェクトメンバーの育成と、車椅子ユーザーの方という限定されたターゲットに訴求するマーケティングでしたが、前述のSSAPとの協働で人材育成のトレーニングやマーケティングに関する支援を受けることができ、それによってプロジェクトが成功へと導かれています。
(3)三井物産
三井物産株式会社が社内起業制度の第1号案件として展開した事業は、AIスピーカーを活用したシニア世代向け音声サービスです。シニア世代の方々の生活をより豊かなものにすることを理念として掲げ、新会社を設立して事業を開始しました(現在は株式会社NTTデータが運営)。
三井物産の社内起業制度は、三井物産と起業を提案した社員の双方が出資する仕組みで、社員は会社の支援を受けながら新規事業の立ち上げに注力することができます。また三井物産は2019年にはイノベーションラボ「Moon」を設立し、新しいビジネスの創出をサポートしており、この数年で、多くのアントレプレナーを社内から輩出しています。
9.新規事業立ち上げはフリーコンサルタント.jpにお任せください
「新規事業立ち上げで失敗したくない」「どのように進めていけばいいかわからない」という際は、フリーコンサルタント.jpがおすすめです。25,000人以上のプロフェッショナル人材が在籍しており、最短即日でニーズに沿った人材を紹介いたします。
新規事業に携わってきた経験豊富な人材が、最新の市場動向や技術、ノウハウを惜しみなく提供するため、成功に近づくことができます。相談は無料のため、まずはお気軽にご相談ください。
10.まとめ
社会情勢の激しい変化、新型コロナウイルス感染症の流行、人手不足など、さまざまな外部要因の影響を大きく受ける日々のなかで、とにかく新規事業を立ち上げて現状を打開しなければと考える企業は増加しています。
しかし、足元の売り上げに困り、業務改善に悩み、人材採用に苦心し……といったように目の前の状況が混沌としているなかで、どうにか新規事業を立ち上げたいが経験もノウハウもなく、何に困っているかすら紐解けなくなっているという企業も少なからずあるのではないでしょうか。
そんなときは、自社の会社としての理念やビジョン、こうありたいという社会的存在意義を改めて見つめ直し、「5年後、10年後に当社はこうなっていたい」という姿を明確にすることをおすすめします。
それによって、現状の課題を紐解き新規事業を創出する“軸”、あるいはそこに潜んでいた潜在的な課題を見出すことができるようになるでしょう。そして、その理念やビジョンや社会的存在意義を現場の人材の方々にもきちんと伝えて共感を得ることができれば、社内のモチベーションは高まり、企業としてのポテンシャル強化にもつながるなど、企業として大きな強みとなります。
自社の方のみで新規事業の創出を行うのが難しいという場合は、新規事業創出に強い外部のプロフェッショナル活用も検討する必要があるでしょう。
なお弊社は、国内最大規模のプロフェッショナル人材データベースの運営企業です。
『新規事業創出の旗振りを行うことができる人が社内にいない…』
『新規サービスのローンチ後にマネタイズするまでの力添えが欲しい…』
と感じていらっしゃる企業様はお気軽にご相談下さいませ。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)
監修者プロフィール 浅尾 慎介(地方創生を主軸に業務改善コンサルティングを得意とするプロ人材) コンサルティングファームでは、製造業、製薬業をクライアントに業務改革、システム導入プロジェクトに従事した。課題解決、ステークホルダー間の調整を得意としている。 広告代理店では、制作に携わり、YouTubeを活用したプロモーションなどを行った経験がある。
※出典 【新規事業を検討する地方企業の経営者111人にアンケート】約4割が「サブスクモデル」を検討経験あり「中長期的な売上につながり、経営基盤が安定する」との声(株式会社フューチャーリンクネットワーク)