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最終更新日:2024.08.26
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【プロ監修】メタバースを活用したビジネスの可能性とは? 検討時の注意点やポイントも解説

1.メタバースとは?

ビジネスの世界で近年注目が集まる「メタバース」。そのビジネス展開には多様な可能性が期待され、日本でも多くの企業がメタバースに関する取り組みを開始しています。

その一方、メタバースを活用したビジネス展開には課題も多く、新規事業の参入分野としてメタバースを選択すること、特に短期的に投資を回収し収益を上げるようなスパンでの事業展開はまだまだ困難とみる向きもあります。

今回は、自社の事業においてメタバースの活用を検討する場合の注意点、おさえておきたいポイントなどについて解説します。

1.メタバースとは?

1.メタバースとは?

「メタバース」とは、メタ(「超」を意味する英語)とユニバース(「宇宙」を意味する英語)からなる合成語です。概念としては漠然としたもので、明確な定義があるわけではありませんが、一般的には多人数が参加するオンライン上の仮想3次元空間を指します。

ユーザーは、アバターを操作して仮想空間内で行動します。MMORPGなどの3Dゲームでも同じように、ネットワーク上の仮想空間でアバターを操作するかたちで行動できますが、ゲームの場合はシナリオがあり、ユーザーの行動もそのシナリオに沿ったものになります。他方、メタバースの仮想空間ではシナリオはなく、自由に行動できます。

また、仮想(バーチャル)空間という点では、これまでにもさまざまなバーチャル空間が存在し、それを利用したサービスも多々展開されています。そうした既存サービスとメタバースとの違いを、国立研究開発法人産業技術総合研究所は次のように分析した上で、〈社会的に見て、既存のバーチャル空間サービスが「遊園地(価値消費の場)」なのに対し、メタバースは「会議室(価値創造の場)」にもなれることが最大の違い〉としています(※1)。

  • 現実世界によく似た形を持つデジタル空間の中に、時間の概念がある
  • ユーザーが「これは自分の身体だ」と認識できる程度に、操作がタイムリーにアバターへ反映される
  • 「会社員のわたし」「親としてのわたし」「趣味の仲間と会う時のわたし」など、その時々にフィットした姿かたちを選択できる

2.メタバースを活用したビジネスの可能性

2.メタバースを活用したビジネスの可能性
メタバースの概念自体は以前から存在しましたが、大きく注目されるようになったのは2021年。フェイスブック(当時)が社名を「メタ(正式社名はメタ・プラットフォームズ)」に変更し、事業の軸足をメタバースの構築や関連サービスへシフトすると発表したことから、広く認知されるようになりました。

1)メタバースの市場規模と注目度

新型コロナウイルス感染症拡大を受け、人の対面やリアル店舗への往来は世界で減少。この状況はオンライン上のビジネス成長を後押ししており、メタバース市場への期待も例外ではありません。

メタバースはその特性から、ゲームやスポーツイベント、音楽ライブなどのエンターテインメント、コミュニティ、販売、教育、広告など多様な分野において、ビジネスを活況に導く可能性があると期待されています。

アメリカの調査会社Emergen Research202111月に発表した調査結果(※2)によると、世界のメタバース市場規模は2020年にはすでに476.9億米ドルに達しており、2028年には8289.5億ドルに成長と、急速に大きく成長することが予想されています。

2)進むメタバースの取り組み

その経済成長への期待から、世界各国の企業が相次いでメタバース関連の取り組みを開始しており、日本企業もその流れに続いています。

VR(仮想現実)・AR(拡張現実)領域におけるイベント企画などを手がける株式会社HIKKYは、メタバース上で行う世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」を2018年から開催。バーチャル店舗でアバターなどの3Dアイテムだけでなく、洋服やPCなどのリアル商品を売買できるなど、メタバースの先駆け的なイベントとして世界中から多くの来場者を獲得しています。

また202111月、日産自動車株式会社は、VRコミュニケーションプラットフォーム「VRChat」というVR空間で、銀座の展示場を再現したバーチャルギャラリー「NISSAN CROSSING」をオープン。バーチャル空間で展示を見られるほか、新車発表会などのイベントも計画されており、デジタルコミュニケーションの場として活用が期待されています。

3.ビジネスにおけるメタバース活用の注意点

3.ビジネスにおけるメタバース活用の注意点
こうした状況を踏まえ、「自社でもメタバースを活用した新規事業を始めたほうがいいのではないか」と考える企業も少なくないでしょう。しかし、メタバース活用の事業化を検討する前に、留意すべき注意点があります。

1)すぐには売り上げに結びつかない

さまざまな可能性が広がると期待されているメタバースですが、メタバースはその概念自体が漠然としたものであり、その活用も始まったばかり。実際のビジネスとしてはまだ黎明期で、技術・市場・サービスのすべてが開拓段階にあります。したがって、開拓した土壌で刈り取れる売り上げがすぐに育つかといえば、必ずしもそうではないというのが実状です。

例えばVRヘッドセットを「メタバース対応」として展開するなど、従来のビジネスの延長線上で「メタバース関連」事業をおこすことはできるでしょう。ブロックチェーン技術を活用した「The Sandbox」「Decentraland」などのゲームも人気です。

しかし、従来の「仮想空間」の枠に止まらず、メタバースを活用してオリジナリティのあるプロダクトを一から開発し一定以上の売り上げを立てるといったようなことは、技術面、人材面、市場面などから見てまだ難しいことが多いとみられています。名うての企業がメタバース関連の取り組みを開始していますが、その取り組みには投資的な側面も少なからずあるのです。

2)想像以上に時間と費用がかかる

メタバースの活用ですぐに売り上げを立てることが難しい一方で、想像以上にかかるのが時間と費用です。

メタバースを活用するには、VRARなどの技術を利用して仮想空間を構築し、そこに参加するアバターを用意する必要がありますが、これだけでもスキルを有する技術者の能力が必要で、人材を確保できたとしても開発に時間がかかるでしょう。

開発などの技術的な準備と並行して、新しいビジネス、新しいサービスを展開する市場自体を育てていく観点も必要で、一朝一夕にビジネスの成功を達成できることはほとんどありません。

メタバースの分野で本格的にビジネスを立ち上げようと思ったら、数年間は売り上げが立たない反面開発費がかかり続け、その間赤字となることを許容できるような環境が求められます。

4.メタバースを活用したビジネスの検討でおさえるべきポイント

4.メタバースを活用したビジネスの検討でおさえるべきポイント
自社の事業においてメタバースの活用を検討する場合には、おさえておきたいポイントがあります。

1)時間軸の設定

前述の日産自動車は、VRChat上での取り組みを、リアル店舗の来訪数や売り上げ台数の増加といった直近の数字に結び付ける施策としてではなく、デジタルコミュニケーションの一環としてとらえています。そして「あと10年、20年もすれば、リアルの発表会からメタバース上の発表会がメインになるかもしれない」という可能性も考えながら、さまざまなイベントを開催を計画しているとか。つまり、それだけ長いスパンでメタバースの取り組みを考えているということです。

先ほど述べたように、メタバースを活用したビジネスを立ち上げ、売り上げが立つようになるまで成長させるには、長い時間を要することになります。何年かかるかは市場や企業の状況、事業の規模、ビジネスの内容などによって異なりますが、必要となる時間軸を設定し、それを意識しながらプロジェクトを進めることが重要です。

2)プロジェクトを推進するコミットメント

メタバースを活用した新規事業を一から立ち上げるのは非常に困難です。その困難なプロジェクトを成し遂げるには、「メタバースでこういうことを実現したい」という強い思い、社内外から批判を受けても前項の時間軸で取り組みを継続できるようなコミットメント、胆力が必要です。

5.まとめ

『日経TechFind』が202112月に実施したオンラインサービスに関する消費者の意向調査(※3)では、3次元空間でアバターを操作し他者とコミュニケーションする複数のオンラインゲームについて普段から利用している回答者は2.16.6%。VR機器を活用してメタバースを体験できる複数のオンラインゲームについては0.60.8%という結果でした。

また、バーチャル空間のアバター用にバーチャル上のファッショングッズを買ってみたいと答えた人は全体の19.4%。こうしたサービスはメタバースの一部ではありますが、それでも「メタバースに関連するようなサービスは、まだマジョリティ層には届いていない」ことを示すデータの一つといえるでしょう。

ビジネスの世界では、ややもすると「メタバース」という言葉がひとり歩きしているかのような現在ですが、「新しいことをすれば売り上げが立ちそう」と漠然と考えてメタバースの活用に着手しても、事業としての成功には高いハードルがつきまとうことになります。

一方で、メタバースは「次世代のインターネット」ともいわれる新たな概念です。スマートフォンが登場し、スマートフォン用のゲームが開発されてビジネスが成長したように、メタバースというインパクトのある分野でその関連ビジネスが成長を遂げる可能性も十分あります。

数カ月や半年といったスパンで「メタバースで売り上げを立てたい」と考えると難しいですが、「将来的にオンライン上がこういう世界になるから、メタバースの取り組みを始めたい」といった考えで取り組みを始めるのは、企業にとって有意義な取り組みになるのではないでしょうか。



(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

出典
※1:話題の〇〇を解説 メタバースとは?(産総研マガジン)
※2:2028年に8,289億5,000万米ドルに達する世界のメタバース市場規模(PR TIMES)
※3:ちょっと待った! そのメタバース戦略、大丈夫?(日経クロステック)

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