店舗ビジネスをDX化するメリットとは?最新トレンドや事例を解説
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最終更新日:2024.08.28
DX/最新技術

店舗ビジネスをDX化するメリットとは?最新トレンドや事例を解説

1.店舗DXとは?

外出自粛やテレワークなど、コロナ禍によって消費者の行動や価値観が大きく変化しています。こうした中、店舗運営にデジタルを活用した店舗DX(デジタル・トランスフォーメーション)が注目されています。

ECや非接触決済などデジタル化を進める店舗は増えていますが、DXはこうしたデジタル化だけではありません。AIやビッグデータなどを活用して、ビジネスを大きく変えるのが店舗DXです。店舗運営業務の効率化とあわせて顧客に新たな体験や価値を提供、その結果収益向上が期待できます。

しかし「ECは取り組んでいるがどうすればDXになるのかわからない」「システム開発コストがかかりすぎるのでは」と考える方も多いのではないでしょうか。そこで店舗DXを実現に向けて知っておきたいメリットや最新トレンド、先行している事例について解説します。


1.店舗DXとは?

1.店舗DXとは?

DX(デジタル・トランスフォーメーション)は、日本語では「デジタルによる変革」という意味。店舗運営にAIなどのデジタル技術やシステムを導入して、ビジネスを大きく変える取り組みのことです。

店舗DXが必要とされる大きな理由が、コロナ禍による消費者行動や価値観の大きな変化。経済産業省の調査によれば、2020年は巣ごもり需要などで食料などは支出が増加しました。その一方でファッション(被服)や娯楽関連の支出は大きく減っています(※1)。テレワークの普及で、ビジネススーツが売れなくなったという事象がわかりやすい事例でしょう。

さらにコロナ禍で進んでいるのがオンライン化。ネットショッピングの利用が広がっているほか、ネット配信サービスなどサブスクリプションサービスの人気も高まっています。リアル店舗での消費から、ネットでの消費にシフトする傾向が見られます。

社会が大きく変わる今、店舗ビジネスで収益を上げるには現状のままでは厳しいでしょう。デジタルを活用してビジネスを大きく変える店舗DXの実現が必要というわけです。

1)店舗DXは「オンライン型」と「オフライン型」に分かれる

店舗DXには大きく「オフライン型」と「オンライン型」の2パターンがあります。

  • オフライン型 顧客がリアル店舗に来店する前提がオフライン型。例えばセルフレジシステムの導入はオフライン型です。セルフレジによって顧客はレジ待ちの時間が減り、スムーズに購入できるようになります。
  • オンライン型 店舗を丸ごとデジタルへ移行させるのがオンライン型。例えばネット上の仮想空間にバーチャルショップを設けるパターン。バーチャルショップはECと違い、店内にいるような感覚で店員とやりとりをしながら購入できるのがポイントです。

他にもアプリなどを活用したオンライン型店舗DXが増えています。例えばあるシューズショップでは足のサイズを自動測定できるアプリを開発。顧客がオンラインで手軽にオーダーシューズを注文できるサービスを立ち上げました。

2)店舗DXと「Raas」の違い

小売業でのデジタル活用というと、最近は「RaaS」が話題になっています。RaasRetail as a Service)」は「小売業のサービス化」という意味。店舗DXと似た概念ですが、ターゲットが異なります。

店舗DXのターゲットは主に顧客。顧客の購入体験をよくして収益向上を狙う、いわばBtoCです。一方「Raas」は企業が主なターゲットというBtoB自社で開発したレジシステムを他社に提供したり、マーケティングデータを他社へ提供したりするケースが想定されます。

つまり店舗DXに取り組むには、顧客の視点が重要。「顧客の購入体験をどう変えるか?」「顧客の課題をどう解決するか?」という発想が求められます。

2.店舗をDX化する3つのメリット

2.店舗をDX化する3つのメリット

店舗のデジタル化は、人手による業務の削減につながります。つまり業務の効率化や人件費などのコスト削減が期待できます。しかしこうした業務効率化やコスト削減だけがメリットではありません。DXはその名の通りビジネスを変革して、最終的に収益の向上につながる点が大きなメリットです。

ここでは店舗DXがどう収益向上につながる具体的な3つのメリットを解説します。

1)顧客満足度を向上させ、リピーター増加につながる

たとえばあるレストランチェーンは、スタッフがオーダーを受ける代わりにタブレット端末でオーダーを受け付けるシステムを導入しました。これによって顧客は味やカロリーなどを細かく調整してオーダーできるようになりました。

端末の導入によって接客業務を削減できるのもメリットですが、カスタマイズという新たな購入体験を提供できる点がポイント。顧客に新しい価値を提供できることでリピーターが増え、収益向上が期待できます。

2)新規顧客の獲得につながる

顧客開拓の手段としても店舗DXは注目されています。例えばある老舗店舗がネット上の仮想空間にバーチャルショップを開設したところ、若年層など新たな顧客の獲得に成功した事例もあります。他にもSNSなどのオンライン施策を利用すれば、今まで接点のなかった世代や地域のユーザーを集客できる可能性もあります。

オフライン型なら、キャッシュレス決済の導入も新たな顧客獲得につながります。経済産業省の資料によると日本のキャッシュレス決済比率は約2割にとどまっていますが、海外ではすでに46割に達しています(※2)。キャッシュレス決済導入によって、訪日外国人など新たな顧客を取り込めるというわけです。

3)データの収集・活用ができる

店舗DXによって、従来得られなかったデータの収集が可能になるのも大きなメリット。例えば店内にあるさまざまな機器をネットに接続することで、店内の顧客行動データを収集できるようになります。データを分析すれば業務改善や新たなサービスの開発につながるわけです。

3.店舗DXを実践する上で注意すべき2つのポイント

3.店舗DXを実践する上で注意すべき2つのポイント
さまざまなメリットがある店舗DXですが、実現する上で注意したいポイントが2つあります。

1)DX関連人材の確保が必要

店舗DXではAIをはじめ最新のテクノロジーを活用します。つまりこうしたテクノロジーに精通している人材が必要。しかしテクノロジーの知識だけではなく、テクノロジーを使ってビジネスの企画立案ができるスキルも求められます。

またDXでビジネス全体を変えるとなると、レジシステムや在庫管理、勤怠管理などさまざまなシステムにも影響が出てきます。つまり複数の部門をまだいたプロジェクトになるため、多様なメンバーをまとめてプロジェクトを推進できる人材も必要です。

しかしこうしたDX人材は日本では不足しているのが現状です。総務省の情報通信白書によると、企業がDX推進する上で感じる課題として圧倒的に多いのが人材不足。5割の企業が人材不足を感じていると言います(※3)。今後DXに取り組む企業が増えれば人材の獲得競争が激しくなり、DX人材の採用が難しくなるでしょう。

社内の人材を育成する方法もありますが、どうしても育成には時間がかかります。採用や育成だけではなく、外部パートナーへの委託などの対応策も検討すべきでしょう。

2)自社や取引先の状況にあわせたDX戦略が必要

DX実現のために新たなシステムを開発するとなると、コストがかかり費用対効果が出ないのではという懸念もあります。また新しいシステムを導入しても従業員がすぐに運用できないのでは、という心配もあるでしょう。

既存システムを生かしてDXを推進することも可能ですが、やはり注意が必要です。特に小売業では、ベンダーなど他社と連携した業務が多くあります。既存システムを大きく変えてしまうと、他社との連携業務に影響が出てしまう可能性が高いわけです。

業務内容をよく見極めた上で、「どんなシステムを構築するか」「どんな手順で導入するか」という戦略をしっかり立ててから、DXを推進する必要があります。

4.おさえておきたい店舗DXの最新トレンド

4.おさえておきたい店舗DXの最新トレンド
店舗DXにはオンライン型・オフライン型それぞれにさまざまな種類があり、違った技術が使われています。これから店舗DXに取り組むなら、最近のトレンドもおさえておきたいところ。ここでは今トレンドとなっている4つの店舗DXのかたちを紹介します。

1)バーチャルショップ

ネット上の仮想空間に、CGなどを使ってバーチャルな店舗を設けるケース。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などのデジタル技術を利用することで、リアルに近い店舗を再現します。

24時間365日、世界中の顧客をターゲットにできるのがバーチャルショップの強み。また仮想空間ならではのサービスを提供することも可能。例えば家具を扱うバーチャルショップなら、顧客が自由にレイアウトやコーディネートを試せるような仕組みも設けられます。

仮想空間は「メタバース」とも呼ばれ、世界の市場規模が急拡大しています。こうした中バーチャルショップに参入する企業も増えています。

2)スマートストア

スマートストアは店内にAIカメラやセンサーを設けて、顧客が何を買い物かごに入れたか自動判別します。セルフレジを置くケースもありますが、決済もスマホアプリで行うことで店員もレジも配置しないケースもあります。

コロナ禍で非接触対応が求められる中、トレンドとなっているスマートストア。特に最近はAmazonが海外展開する「Amazon Go」のように、店内にレジを置かないスタイルが注目されています。

日本でも大手コンビニのファミリーマートが参入するなど、少しずつスマートストアが増えています(※4)。管理者は必要ですがオペレーションはほぼ無人で運用できるため、スマートストアは人手不足の解決策としても注目されています。

3)体験型ショップ

顧客に物を販売するのではなく、体験してもらうことを目的とした店舗。最近話題を集めているのが、アメリカで生まれ2020年日本にも進出した「be8ta」(ベータ)という体験型ショップです(※5)。

be8ta」では、店内にメーカーから委託販売という形で商品を陳列しています。「プロダクトはあるけれど販売するノウハウがない」というスタートアップ企業などが利用しています。

店内では商品の販売もしていますが、主な目的は顧客に体験してもらうこと。顧客にとっては、購入する意思がなくても気軽に入店して体験できるメリットがあります。

販売を主目的としないのは「be8ta」は他の収益源があるためです。体験型ショップはスマートストアと同じく、顧客に体験してもらうことでさまざまなデータを得ることができます。実はこうしたデータは高い価値があり、企業にデータを提供して収益を得るというビジネスモデルです。

4)オンライン接客

ビデオ通話やチャット、SNSなどを使って、オンラインで顧客と店員がリアルタイムでコミュニケーションできるのが特徴です。特にオンライン接客の利用が進んでいるのがアパレル業界。顧客は店舗で店員に相談する感覚で、着心地やサイズ、コーディネートについて相談することができます。

通常のECはメールなどのやりとりがメインのため、接客が手薄になりがちです。しかしオンライン接客によってきめ細かい対応が可能となります。

オンライン接客専門の運用スタッフを置くこともありますが、最近は実店舗にいる従業員がオンライン接客業務も行うケースも増えています。「このスタッフのいる店舗に行ってみたい」いうように、店舗の来店促進効果も期待できます。

5.日本企業の店舗DX事例

店舗DXへの理解を深めるためには、すでに実現している事例を知っておきたいところ。ここでは、いち早く店舗DXに本格的に取り組んでいる日本企業の事例を紹介します。

1)ファーストリテイリング(ユニクロ)はデジタルを活用した新店舗をオープン

ユニクロやGUといったファッションブランドの製造販売を行うファーストリテイリング。以前からECやアプリなどデジタルを活用していますが、最近はセルフレジシステムの導入など店内でもさまざまな取り組みを推進しています。

2020年には、「スタイルヒント」という新店舗を東京・原宿にオープン(※6)。店内には240台のディスプレイが設置されており、顧客がアプリから投稿したコーディネート画像が表示されます。

このシステムには画像検索機能が搭載されており、コーディネート画像をもとに欲しい商品がどの売り場にあるか調べることができます。まだ試験運用という扱いに見えますが、デジタル技術を使った新しい店舗形態として今後の展開が注目されます。

2)三越伊勢丹HDはバーチャルショップを開設

コロナ禍による外出自粛などで厳しい状況に置かれているのが百貨店業界。全国主要百貨店の8割は赤字とも言われています(※7)。

こうした中で店舗DXに取り組んでいる百貨店が、三越伊勢丹HD。三越伊勢丹HDでは、仮想空間プラットフォーム内にバーチャルショップを開設しました。顧客は専用アプリを使って仮想空間にアクセスして、アバターと呼ばれる分身を操作して店舗にいる感覚でショッピングができます。バーチャルショップで販売するのは基本的にリアル店舗と同じものですが、最近はアバター向け衣装など仮想空間で使うアイテムの販売も始めています(※8)。

三越伊勢丹HDではバーチャルショップ以外にもさまざまなDX事例があります。例えばAI自動採寸システムを使った、紳士服のオーダーメイドサービス※9)。これは顧客が来店せずアプリで採寸とオーダーができるシステムです。顧客はアプリを通じてスタッフに相談することもできるのがポイント。デジタルだけで完結させるのではなく、百貨店が持つ専門性の高いスタッフを生かす工夫もしています。

3)ビックカメラはECにオンライン接客を導入

家電小売の大手ビックカメラは、マイクロソフトと組んでECにオンライン接客システムを導入。実際にオンライン接客のほうがオーダーにつながりやすいと言います(※10)。実店舗で豊富な接客経験のある従業員が対応している点も、成果につながった要因かもしれません。

ビックカメラではオンライン接客の他にも、ネットでオーダーした商品を店舗で受け取れるサービスも開始しています。他にも店頭の棚札をスマートフォンで読み込むとレビュー(感想)が見られるサービスなど、ECとリアル店舗の連動に注力しています(※11)。

6.まとめ

コロナ禍で社会が大きく変化する中、テクノロジーを活用して店舗ビジネスを変革させる店舗DXの必要性はますます高まっています。

店舗のDX化というとセルフレジ導入など、業務効率化やコスト削減というイメージが強いかもしれません。しかしDXのメリットは新たな顧客を獲得したり、新たな顧客体験を提供したりできる点。これによって収益向上につながります。

ファーストリテイリングなどすでに店舗DXに取り組む企業も増えていますが、アクセンチュアの調査によれば小売業は他の業界と比べて、DXが遅れています(※12)。

これはデジタルに強い人材が業界内で不足している、ということも大きな要因でしょう。つまり他の業界にも目を向け、幅広い視点でDX人材を探す必要があります。



(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

出典:消費動向に見る、withコロナのトレンド(経済産業省)
※2:キャッシュレスの現状及び意義(経済産業省) 
※3:DX推進、人材不足が課題 IT企業に偏り―情報通信白書(時事ドットコム)
※4:ファミマ の無人決済店舗1000店にみる、コロナ禍で 2極化するコンビニの成長戦略(ダイヤモンド・チェーンストアオンライン)
※5:日本進出した米国発の体験型ストア「b8ta」は何がスゴイ? 「販売を主目的にしない」ビジネスモデルを解説(ネットショップ担当者フォーラム)
※6:「ユニクロ 原宿」ウィズ 原宿にオープン、UT専門売場&世界初アプリ連動型フロアで構成(ファッションプレス)
※7:コロナで百貨店の売上高 1兆5,000億円減少 百貨店の8割が赤字(東京商工リサーチ)
※8:ファッション業界がメタバースで見つけた可能性とは(DG Lab Haus)
※9:三越伊勢丹がオンライン上で完結する紳士服の簡単カスタムオーダーサービス開始(WWD)
※10:「オンライン接客」で激変する家電販売。ビックカメラ×MSタッグの裏側(Business Insider Japan)
※11:すでにある価値を魅力として進化させる – ビックカメラのDX推進から学ぶ5つのポイント(PLAZMA by Treasure Data)
※12:業種別・企業規模別のDXの状況と課題が明らかに 〜DXサーベイの調査・分析結果から見る日本企業の現状(アクセンチュア)

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