DXを推進するには、DXに適応した「DX人材」が必要不可欠です。今回は、DX人材に焦点を当て、DX人材の分類や人材の採用・育成方法などを解説していきます。DXに興味のある方やDXに取り組んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
1.DX人材とは
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、IT技術を用いて生活やビジネスを変革していくことを指します。DX人材は、このDXを推進するために必要なスキルやマインドセットを備えた人材のことです。
DXは企業の一部署だけではなく、社全体を巻き込む事業です。そのため、単にデジタル技術に精通した人材を確保するだけでは不十分です。部署をまたいでスムーズにDXを推進するには、事業・技術・経営の3つの観点に通ずるDX人材が求められます。
ただし、すべての素養を満たすDX人材を確保・育成するのは難しいため、3つの役割を1つのチームで分担している場合がほとんどです。
2.DX人材が求められる背景
近年、あらゆる産業で、デジタル技術を利用した新しいビジネスモデルが生まれています。このような環境下で競争力を維持・強化していくためには、DXをスピーディーに進めていかなければなりません。
DXを推進することで、業務の効率化や顧客満足度の向上を図れるほか、企業の競争力も高められるでしょう。
しかし、IPA(情報処理推進機構)の「DX白書2021」によると、DXに取り組んでいる企業は調査に回答した企業のうち約56%にとどまっています。DXが進まない背景として挙げられるのは、ITやDXに詳しい人材を確保・育成できる環境が整備されていない現状です。
継続的なDX推進には、一定の内製開発力(社内開発力)を備えることが望ましいとされています。DXが求められる環境下で、DXを担えるDX人材が求められているのです。
出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX 白書 2021」
3.DX人材の7つの職種
利便性の高いIT社会の実現を組織目標とするIPA(情報処理推進機構)は、DXに対応する人材として次の7つの職種を挙げています。各職種の定義や役割を簡単に見ていきましょう。
プロダクトマネージャー
プロダクトマネージャーは、デジタル事業の実現を主導するリーダー格の存在です。
プロダクトとは、企業が販売する製品やサービスを指します。プロダクトマネージャーの役割は、このプロダクトの管理です。具体的には、市場分析やターゲット選定、商品開発といった上流工程から、実際にプロダクトを販売するためのマーケティング戦略立案やブランド管理といった下流工程まで、幅広く担います。
プロダクトに関する幅広い事項に携わるため、プロダクトマネージャーには課題設定力や実行力、調整力などが求められます。
ビジネスデザイナー
ビジネスデザイナーは、デジタル事業(マーケティングを含む)の企画・立案・推進などを担う人材です。
製品やサービスの質がどれだけよくても、それが顧客に伝わらなければ利益にはつながりません。製品やサービスを販売するためのビジネスモデルを設計するのが、ビジネスデザイナーのおもな役割です。ビジネスデザイナーは、ビジネスの成否を左右する存在といえるでしょう。
ビジネスデザイナーには、ビジネスと技術の両方に関する知識や発想力、ファシリテーション能力が求められます。ビジネスへの深い理解が必要なビジネスデザイナーには、自発的に行動して仕事ができる人が向いています。
テックリード
テックリードは、デジタル事業に関するシステムの設計から実装までを担い、他の部署との窓口にもなってチームをリードする人材です。エンジニアリングマネージャー、アーキテクトとも呼ばれます。
また、テックリードはエンジニアのまとめ役でもあるため、社内のエンジニアから登用したり、外部から経験者を雇用したりして確保されます。
データサイエンティスト
データサイエンティストは、事業・業務に精通したデータ解析・分析ができる人材です。IT業界だけでなく、あらゆる業種で必要とされるデータサイエンティストの存在は、事業の正しい運用・改善にも欠かせません。
データサイエンティストには、統計学の知識やプログラミングスキル、ビジネススキルなどが必要です。
先端技術エンジニア
先端技術エンジニアは、機械学習やブロックチェーンなどの先進的なデジタル技術を持った人材です。
企業を取り巻く環境は常に変化しているため、DXで変革をしたあとも、常に環境に合わせた変革が求められます。最先端の技術は未発達で変化も大きく、先端技術に対応するためには専用の知識を持ったエンジニアが必要です。
先端技術エンジニアには、先進技術を自ら学び取り入れる能力が求められます。好奇心旺盛な人や、新しい技術を抵抗なく吸収できる人が、先端技術エンジニアに向いているでしょう。
UI/UXデザイナー
UI/UXデザイナーは、デジタル事業に関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材です。
UIはユーザーインターフェース、UXはユーザーエクスペリエンスのことを指し、これらは相互に結びついています。この2つの質を向上させることで、より快適かつ魅力的なサービスをユーザーへ提供できるようになるのです。
UIデザイナーは機械やソフトウェアなどUIをデザインし、UXデザイナーはユーザーの体験をデザインするのが役割です。
UI/UXデザイナーには、デザインに関する知識やスキル、コミュニケーションスキル、ブランディングの知識が求められます。
エンジニア/プログラマー
エンジニアとプログラマーは、デジタル事業に関するシステムの実装やインフラ構築、保守・運用、セキュリティなどを担う人材です。
DXの技術面の根幹を担う職種であるため、エンジニア/プログラマーには高度なプログラミングやエンジニアリングの能力が求められます。
4.DX人材に求められるマインドセットとは?
スキルや知識だけでなく、マインドセットもDX人材に求められる要素の一つです。DX人材にはどのようなマインドセットが必要なのでしょうか。その一部をご紹介します。
DX人材にまず必要となるのが、他者と連携する力です。DXはしばしば既存のシステムを大きく変える一大事業となります。そのため、DXの推進は一部署だけでなく会社全体で取り組む必要があり、そこで求められるのが部署の枠を超えた連携です。DX人材には、周囲を巻き込み、コミュニケーションを取りながら認識を1つにする力が欠かせません。
また、問題を正しく見極め、解決に必要な手段を導ける力も必要です。DXにおける課題の洗い出しや解決策の選定は、簡単なように見えて実際は難しい手順の一つです。
課題の設定を誤ると間違った方向に事業が進み、DX化に失敗してしまう可能性もあります。さまざまな視点から課題を正確にとらえ、解決に導く能力がDX人材には求められているのです。
さらに、新しいデジタル技術が次々と生まれる社会のなかでは、好奇心を持って情報を収集し、自社に技術を取り込めないかを考え続けられる力も必要になります。DXは一度実行すれば終わりというわけではありません。時代の流れに合わせて、柔軟に新技術を取り込める力が必要です。
5.DX人材に対する各企業の課題
DXに欠かせないDX人材ですが、その確保には多くの企業が苦戦しています。
IPA(情報処理推進機構)が公表している「DX白書2021」をもとに、DX人材に関する課題の概要を解説します。
「DX白書2021」にて示されている調査結果では、DXの推進を担う人材の量が過不足ないと答えた企業は15.6%、質が過不足ないと答えた企業は14.8%でした。また、米国におけるDX人材の量と質に関する調査結果も示されており、DX人材の量も質も日本は米国に比べてはるかに足りていません。
このような状況下で、DX人材の量と質を確保するべく、社員の学び直しが重要視されているのです。しかし、同白書では、社員の学び直しをおこなっていない企業が46.9%にものぼることが示されています。さらに、ITリテラシー向上のための施策を53.7%の企業が実施していないとの結果も示されており、DX人材は量も質も足りておらず、人材を育てる環境も整っていないことがわかるでしょう。
DX人材を集め育てるには、社内でDX推進のための環境を整備し、人材を確保・育成できる仕組み作りの構築が必要です。
出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX 白書 2021」
6.DX人材を外部から採用する方法
DX人材を獲得する方法には、外部からDX人材を採用する方法と、内部の人材を育成する方法の2通りがあります。ここからは、それぞれのメリット・デメリットと、運用のポイントを解説します。
外部からDX人材を採用するメリット・デメリット
外部から人材を採用するメリットは、即戦力となる人材を確保できる点にあります。自社が求めるスキルを持った中途社員を採用できれば、すぐにDXに取り組めるだけでなく、社内での人材育成の手間も省けるでしょう。
一方、外部人材の採用にあたってのデメリットは、採用活動が難航する可能性の高さです。IT人材が不足する昨今、DX人材の需要は高まっています。中途社員を採用するには、同様にDX人材を求める競合他社との人材獲得競争に勝たなければなりません。必然的に採用コストは高くなり、最悪の場合、採用可能な人材が見つけられないケースも考えられます。
DX人材を外部から採用するポイント
DX人材を外部から採用する場合は、自社にとっての課題を明確にしてから採用活動をおこないましょう。先述のとおり、DX人材にはいくつかの職種があり、それぞれ担う役割が異なります。必要な人材を見極めず闇雲に人材を求めても、DX推進にはつながりません。
また、DXは社全体を変える事業であり、外部の人材が改革しようとすると社内で反発が出るおそれがあります。外部の人材を迎える前に社内の体制を整えておき、社としてどのような姿勢でDXに取り組むのかを明確にして、採用者に安心感を持ってもらいましょう。
7.DX人材を社内で育成する方法
続いて、DX人材を社内で育成する場合のメリット・デメリット、育成時のポイントを解説します。
社内でDX人材を育成するメリット・デメリット
社内で人材を育成する場合、まず採用活動の必要がないため費用や手間を減らせる点がメリットです。また、社内の事情に精通している人材がDX推進業務を進めることから、意思疎通が比較的楽であり、社内での反発も抑えられます。
他方、デメリットとして挙げられるのは、DX人材の育成には時間がかかるため、長期的な体制を整える必要がある点です。特にDXを初めておこなう企業では、社内でDX人材を育成するのは難しいと考えられます。
DX人材を育成するポイント
DX人材をすべて自社で用意すると、多くの時間がかかります。組織的な判断が必要な上流工程を担う職種は自社で育成し、それ以外の工程を担う人材は外部から雇うなど、適宜配置を調整しましょう。必要であれば一部を外部の業者に委託するのもおすすめです。
また、社内でDX人材を育てる環境がない場合は、人材育成をサポートしてくれる企業との連携も視野に入れるとよいでしょう。専門の企業と連携すれば、自社の人材を育成できるだけでなく、人材育成のノウハウも蓄積できます。
8.まとめ
ここまで解説してきたように、高度なスキル・知識とDX実現に最適なマインドセットを持つ人材を確保するためには、外部から採用する手法と、内部で育成する手法の2通りがあります。
ただし、社会全体で人材不足が課題となるなか、外部から優秀な人材を採用することは容易ではありません。一方、社内に人材を育成できる環境が整っていない場合、内部での育成も難しいのが現状です。
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