日本国内の人口減少や少子高齢化、IT技術の発達、AI技術の躍進などによって、中小企業を取り巻く環境は大きく変化しています。
中小企業が生き残るためには、これまでやってきた事業に加え新規事業を推進していく必要があります。
しかしながら、新規事業開発には課題が多く、新規事業展開に失敗している企業は少なくありません。そこでこの記事では、新規事業開発の特徴や進め方を紹介したうえで、課題や成功のコツも解説するので、ぜひ参考にしてください。
■目次
1.新規事業開発とは?
新規事業開発とは、自社で新たなビジネスをゼロから立ち上げることを指します。経済情勢の変化や消費者ニーズの多様化に合わせて新規事業を立ち上げることで、新たな販路の確保、既存事業の進化などが期待できます。
ただし、新規事業開発はこれまでに経験したことない領域への挑戦であるため、既存の事業より大きな労力や費用を要する場合が多いです。成功を収めるためにも、あらかじめ目的や進め方をしっかりと確認しておきましょう。
2.新規事業開発の特徴
新規事業開発のプロセスや課題を解説する前に、その特徴を適切に把握しておく必要があります。新規事業開発の種類と特徴を見ていきましょう。
新規事業開発の種類
新規事業開発の戦略には、新市場開拓や製品開発、事業多角化、事業転換などの種類があります。それぞれの特徴は以下の通りです。
種類 | 特徴 |
---|---|
新市場開拓 | 新規の市場で既存の製品・サービスを展開する戦略で、新たな販路の確保を目的とする。 |
新製品開発 | 既存の市場で新しい製品・サービスを展開する戦略で、既存顧客への展開を目的とする。 |
事業多角化 | 既存の事業を維持したまま、新規の市場で新しい製品・サービスを展開する戦略。新たな分野での事業成長が期待できる反面、リスクは高い。 |
事業転換 | 既存の事業を縮小・廃止しながら、新規の市場で新しい製品・サービスを展開する戦略。既存の事業を維持したまま新たに展開する事業多角化よりも、リスクは高くなりやすい。 |
出典:中小企業庁「中小企業白書2017」(P2、第2-3-1図「企業の事業展開の戦略について」参照)
新規事業開発に成功した場合、売上高・企業知名度の向上や新規顧客の獲得、人材育成などの成果が得られるでしょう。
新規事業開発は成功率が低い
新規事業開発の成功率は、決して高くはありません。中小企業庁の「中小企業白書2017」によると、中小企業向けの調査では、新規事業に取り組んだ企業のうち「事業が成功した」と回答した割合は約28.6%です。
そのうち、経常利益率が増加したのは約半数にとどまっていることから、新規事業に取り組んで経常利益を向上できたのは、全体の15%程度といえます。
特に新規事業開発では、既存のノウハウを流用しづらいケースもあるため、試行錯誤しながら事業を進めていかなければなりません。事業の成功確率を高めるには、既存事業の枠組みにとらわれない、柔軟な考え方が不可欠といえるでしょう。
出典:中小企業庁「中小企業白書2017」(P5、第2-3-5図「新事業展開の成否別に見た、経常利益率の傾向」参照)
3.新規事業開発のプロセス
新規事業を進める際は、情報収集・分析や事業モデルの構築などのプロセスをたどる必要があります。ここからは、新規事業の手順を4つのステップに分けて解説します。
STEP1 事業の目的を明確化して担当者を決定する
新規事業を始める目的には、市場の拡大や売上高の向上、人材育成など、自社の課題によってさまざまなものが該当します。新規事業の方向性を定めるためにも、まずは目的を明確化させることが大切です。
また、新規事業開発で発生するタスクは多く、既存事業との兼任は困難なため、専任で携われる担当者の配置が必要になります。担当者を選ぶ際は、営業・経理・製造など複数の部門から選抜すれば、組織横断的な意思決定を下しやすい体制が作れるでしょう。
STEP2 情報を収集・分析する
次に、新規事業の市場や競合、自社の現状・課題などの情報を収集します。収集した情報をフレームワークに落とし込んで分析すれば、安定性の高いアウトプットや時間短縮につながるでしょう。
なお、事業分析に使える代表的なフレームワークとしては、PEST分析とSWOT分析を挙げられます。
PEST分析とは、外部環境を技術、社会、経済、政治の4つに分類したうえで脅威を洗い出し、自社にどのような影響をもたらすかを分析するフレームワークです。特に、新規事業開発は、流通や営業に関する基盤が確立されておらず、外部環境の影響を受けやすいため、このフレームワークが有効と言えます。
一方、SWOT分析とは、企業の内部環境と外部環境をまとめて分析できるフレームワークです。内部環境の分析では自社の「強み」と「弱み」を確認でき、外部環境の分析ではPEST分析で洗い出した要素を盛り込みながら、「機会」と「脅威」の項目を確認できます。
各フレームワークの細かな手順は本記事の新規事業開発に役立つフレームワーク内で解説しているため、是非チェックしてください。
STEP3 事業計画を立案する
続いて、分析した情報をもとに事業モデルを構築し、事業計画を立案します。その際、最終目標に向けた事業進捗を管理するために、中間目標となる「マイルストーン」を設定し、具体的なスケジュールへと落とし込むことが大切です。例えば、飲食産業で将来的な店舗数を増やす場合、「中期目標の店舗数」などがマイルストーンとなります
スケジュールを決めたあとは、販売・営業ルートの確保や、プロジェクトチームの発足などを実施し、事業環境を整えましょう。新規事業のスムーズな立ち上げには、事業環境がポイントとなるため、整備の抜け漏れがないように注意しなければなりません。
STEP4 事業計画に基づいて事業を推進・改善する
立案した計画をもとに事業を進めながら、効果測定を定期的におこない、状況に応じて改善を重ねましょう。事業計画に対する進捗の遅れや、市場にリリースした製品・サービスに課題がある場合は、迅速な対応が必須です。
PDCAを繰り返して改善すれば、流通している製品・サービスの品質向上ができ、事業の精度をより高められます。新規事業開発のチーム全体で連携を取りながら、日々改善できるように体制を強化しましょう。
4.新規事業開発に必要なスキル、能力
新規事業開発に必要なスキルや能力は、以下の通りです。
新規事業開発をスムーズに進めるためにも、必要なスキルや能力をチェックしておきましょう。
データ収集力や分析スキル
新規事業開発の土台を作るためには、まずは対象とする市場の顧客ニーズや需要の変化、競合他社の動向などを詳しく調査する必要があります。市場の動向を把握することで、顧客ニーズに沿った商品が生まれやすくなり、新規事業が成功する確率も自ずと高くなるでしょう。
また、新規事業開発をスムーズに進めるためには、膨大な情報の中から正しい情報を得るためのリテラシーも必要です。誤った情報や偏ったデータをもとに新規事業開発を進めてしまうと、顧客ニーズに沿った事業開発が難しくなってしまいます。情報源の偏りやデータ不足によるミスリードを防ぐためにも、データ収集力と正しい情報を分析するスキルを身につけておきましょう。
論理的思考
論理的思考とは、複雑な物事を多角的に分析し、飛躍や矛盾のない筋道を立てる考え方です。論理的思考を用いることで、現状の課題を分析して解決策を見出したり、各データの因果関係を把握したりすることができます。現状把握やデータ分析を行うことで、自社の課題の洗い出しや、どこを改善すれば解決できるのかを判断する材料になるでしょう。
なお、先入観を持ち、自社にとって都合のいいデータのみを収集して開発を進めた場合、分析不足により大きな損失につながる恐れがあります。思いもよらぬトラブルを防止して、着実に新規事業を進めていくためにも、論理的思考を持っておくことが大切です。
しっかりと筋道を立てて考える癖をつけ、論理的思考力を鍛えておきましょう。
プレゼンテーションスキル
プレゼンテーションスキルとは、物事を具体的にかつわかりやすく伝え、相手の共感を誘って行動を促す力のことを指します。プレゼンテーションスキルを高めることで、新規事業の要点を相手にわかりやすく伝えることができ、円滑にプロジェクトを進めることができるでしょう。
新規事業はゼロからのスタートであり、全体の概要や魅力を想像しにくいため、高いプレゼンテーションスキルが求められます。プレゼンテーションスキルが不足している場合、どんなに優れた新規事業の案であっても魅力を上手く伝えることができず、上層部からの承認を得ることが難しくなってしまう恐れがあります。
上司やチームメンバーに対して全体の概要や魅力をしっかりと伝えるためにも、プレゼンテーションスキルを高めておきましょう。
リーダーシップ
リーダーシップのある人材がチームに加わることで、団結力が高まりモチベーションを保ちやすくなるほか、メンバー1人ひとりの適正に合わせた指示を出すことで、新規事業が円滑に進みやすいです。新規事業開発は社内外から集められた数人のチーム単位で行動することが多く、いかにうまく連携をとれるかがカギとなります。
また、新規事業開発では、業務管理、営業、販路確保など、部門を越えた実務が発生することもあります。そのため、新規事業開発を効率的に進めるためには、チーム全体をまとめあげ、的確な指示を出すことのできる人材が必要となるのです。
5.新規事業開発でよくある3つの課題
成功率が低いとされる新規事業開発には、どのような課題があるのでしょうか。以下の項目では、よくある3つの課題と対策法を紹介します。
人材不足
新規事業開発を担う人材には、想像力や企画力、情報収集能力、コミュニケーション能力、交渉力などさまざまなスキルが必要です。しかし、労働力人口が減少傾向にあるなかで、これらのスキルを持つ人材を確保するのは容易ではありません。
先述の「中小企業白書2017」では、事業の成否に関わらず、多くの企業が「必要な技術・ノウハウを持つ人材の不足」を課題に挙げています。
出典:中小企業庁「中小企業白書2017」(P15、第2-3-12図「新事業展開の成否別に見た課題」参照)
人材不足を早急に補うには、外部リソースの有効活用なども有効でしょう。
資金不足
資金不足が原因で、軌道に乗り始めた新規事業が頓挫してしまうケースもあります。特に、新規事業開発は見通しを立てづらいため、事業を進めるうちに思わぬところでコストが発生することもあるでしょう。
この場合の対策として、事業コストは多めに見積もっておき、事業の進捗状況などに応じて予算配分を柔軟におこなうことが大切です。場合によっては、金融機関の融資や自治体の制度融資も活用して、事業資金が不足しないように注意しましょう。
ノウハウ不足
新規事業開発では、事業の見極めや市場ニーズの把握など、マーケティングの知識・技術が不可欠です。加えて、スピード感のある取り組みも重要ですが、そもそもマーケティングに関するノウハウが社内に不足している場合は、事業の進捗が遅れる原因になりえます。
このように、自社のリソースだけで必要な業務をカバーできない場合は、事業の一部を外部の専門家へ委託することも検討しましょう。外部にサポートを依頼すれば、不足したノウハウを補えるうえ、委託先の企業が持つノウハウを自社へ取り込めます。
6.新規事業開発を成功させるための3つのポイント
新規事業開発を成功へ導くには、押さえるべきポイントがあります。
ここからは、新規事業開発を進めるうえで押さえておきたい3つのコツを紹介します。
情報収集は念入りにおこなう
新規事業開発に取り組む際、情報収集は念入りにしましょう。なぜなら、市場の課題やニーズを把握して事業に取り組まなければ、顧客が本当に求める事業の実現は難しいためです。
具体的には、新規参入する市場の現状や将来的な予測、競合他社の動向はもちろん、自社の強みや弱みなどの情報も徹底的に収集・分析しましょう。収集した情報で仮説を立てて検証する一連のプロセスを通じ、何度も試行錯誤することが、事業を成功させる鍵となります。
情報共有を徹底する
新規事業開発は、企業全体の協力を得なければならない場合が多いため、事業開発メンバーだけでなく、組織の上層部や他部署とも情報を共有できる体制を作っておきましょう。迅速に情報共有できる体制を構築しておけば、進捗状況に合わせて協力を仰ぎやすくなります。
また、こまめな情報共有は進捗確認の役割を果たし、チーム全体のモチベーション維持にもつながります。
外部の専門家を活用する
新規事業には、専門的な知識とノウハウを持つメンバーが必要です。自社にノウハウがない場合は、新規事業に特化したコンサルタントなどに業務の一部を委託することも検討しましょう。
外部の専門家を活用すれば、社内の貴重なリソースを節約できるうえ、専門的な知識やノウハウを自社に蓄積できるようになります。さらに、第三者の視点から事業内容を判断してもらえるため、無駄なコストやリソースがかかっていないかの確認にもなるでしょう。
7.新規事業開発に役立つフレームワーク
ここからは、新規事業開発に役立つ3つのフレームワークを紹介します。
新規事業開発を効率的に進めるためにも、上記3つのワークフレームを覚えておきましょう。
SWOT分析
SWOT分析とは、経営戦略を立てる際に、内部環境と外部環境におけるプラスの部分、マイナスの部分を洗い出す分析手法のことです。
【内部環境】
- S:強み(Strength)/自社や自社のサービスに対してプラスにはたらく内部環境の要素
- W:弱み(Weakness)/自社や自社のサービスに対してマイナスにはたらく内部環境の要素
【外部環境】
- O:機会(Opportunity)/自社や自社のサービスに対してプラスにはたらく外部環境の要素
- T:脅威(Threat)/自社や自社のサービスに対してマイナスにはたらく外部環境の要素
以上の4つの要素を使って分析すると、既存事業の改善点や新規事業の将来的リスクを見つけることができます。競合他社に負けないために必要なポイントの発見にも役立つため、覚えておくと良いでしょう。
なお、SWOT分析の手順は以下の通りです。
- 明確かつ具体的な目標を設定する
- PEST分析や3C分析を用いて客観的な情報を収集する
- 外部環境(機会と脅威)の分析を行う
- 内部環境の強み、弱みを分析する
- クロスSWOT分析を行う
- クロスSWOT分析の結果をもとに計画や戦略の見直しを行う
SWOT分析を行う場合、外部要因である「機会」と内部要因である「強み」を混同しないように注意が必要です。機会は外部に存在しているチャンス、強みは自社内にある要素と区別し、チーム内で共有しておきましょう。
PEST分析
PEST分析とは、外部環境を4つの要因に分類し、それぞれが自社にどのような影響を与えるかを分析する方法を指します。PEST分析の4つの要因は以下の通りです。
- P:政治(Politics)/国の政策、政府の動向、市民団代の動向、最高裁の判断変更、外交関係の動向など
- E:経済(Economy)/インフレ、デフレの進行、経済成長率、金利、為替など
- S:社会(Society)/世帯数、人口動態、教育、健康、環境に関する情報など
- T:技術(Technology)/特許、情報提供企業の投資動向、技術革新に関する情報など
外部環境の変化は、分析する対象の規模が大きければ大きいほど数年単位で変化していくため、中長期的な戦略を策定するのに役立ちます。
また、PEST分析の手順も確認しておきましょう。
- 公的機関のデータやシンクタンクの調査レポートなどから情報収集を行う
- 政治、経済、社会、技術の4要素に分類する
- 手順2で分類した情報を「事実」と「解釈」の2つに分類する
- 手順3で事実に分類した情報を「機会」と「脅威」の2つに分類する
- 手順4で分類した情報を「短期」と「長期」の2つに分類する
- 分析結果を新規事業の施策に落とし込む
なお、PEST分析は4種類の外部環境のうち、自社での制御が難しいマクロ環境の分析に向いています。新規事業を開発する場合、自社の現状だけでなく市場の将来性や変化などを予測しておくことで、現代のニーズに沿った新規事業を開発することが可能です。PEST分析を活用し、新規事業戦略の方向性を明確化しておきましょう。
3C分析
3C分析は、顧客(Customer)、自社(Company)、競合他社(Competitor)の3つの軸から情報を調査し、事業における自社の戦略を検討する分析方法です。変化の激しい競合や市場の状況を把握したうえで自社が行うべきことを判断できるため、新規事業開発の際に重要視されます。
なお、3C分析の3つの要因は以下の通りです。
- C:顧客(Customer)/市場規模、市場の成長性、顧客の消費行動、顧客のニーズなど
- C:自社(Company)/事業の現状、企業理念、資本力、現有ビジネスの特徴、現有リソースなど
- C:競合他社(Competitor)/競合他社の強みや弱み、競合他社の現状や市場シェア
また、3C分析の進め方は、顧客や競合の情報を分析した後、自社の分析を行うのが基本です。インターネット上の情報や一般論だけでなく顧客の生の声も積極的に利用し、情報を過不足なく集めて分析を行いましょう。
8.まとめ
ここまで、新規事業開発に取り組むメリットや、成功のコツについて解説してきました。
一方で、実際に新規事業開発に取り組んだ場合に顕在化しやすいのが、人材に関する課題です。人材不足が社会的な課題となっているなか、新規事業で十分なリソースを確保するのが難しいためです。
そこで、新規事業開発を検討中の企業に向け、成功のポイントやプロ人材活用事例をまとめたお役立ち資料をご用意しました。ぜひダウンロードのうえ、ご活用ください。