事業ドメインとは、経済活動を行う事業領域のことを指します。消費者ニーズ、市場トレンド、社会情勢、自社の強みや保有資産など、複数の観点から理想的な事業ドメインを設定すれば、大きな失敗を減らせるでしょう。また、スピーディーな意思決定をする際のフレームワークとしても使えるのが利点です。
本記事では、事業ドメインの考え方や設定方法まで幅広く解説します。具体的な社名を挙げて成功事例も紹介するので、チェックしてみましょう。
1.事業ドメインとは?
事業ドメインとは、自社が経済活動を行う事業領域を指す言葉です。事業ドメインを設定する際は「顧客(誰に)」「技術(どんな商品サービスを)」「機能(どのように提供するか)」を考え抜きます。
例 |
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顧客(誰に) |
0~3歳までの子どもを育てているパパ、ママ |
技術(どんな商品サービスを) |
無添加を軸とした体に優しい野菜フレーク |
機能(どのように提供するか) |
子連れで入りやすいレストランとのタイアップ |
事業ドメインは、目標によって設定するべき内容が異なります。そのため、上記3項目全てを満たせるようなものにすることもあれば「働く人たちの生活を応援する」「学ぶ人たちの勉強を支える」など、自社の強みを活かした特定領域に特化して作成することもあります。
細かく事業ドメインを設定することで、自社がどの分野に資源を投下するべきなのかがわかるでしょう。さらに、自社が経済活動を行わない領域も明確になるため、むやみに多角化して、資源を無駄にしてしまうリスクも未然に防ぐことができます。
なお、自社の強みが既に顕在化している消費者ニーズに沿った事業ドメインであるケースもありますが、なかには潜在的なニーズに沿った事業ドメインであることも少なくありません。そのため、ブルーオーシャン市場の発見につながることもあります。
自社の存在意義と経営戦略を決定づけるものとなるため、成長性のある事業ドメインにしていくことが大切です。
*事業ドメインと市場セグメンテーションの違い
市場セグメンテーションとは、既に顕在化している消費者ニーズにフォーカスして、市場を細分化する手法です。消費者の年齢や性別、地域、家族構成、趣味など細かな属性ごとにアピールできるため、ニーズに合った商品サービスの開発やマーケティング、カスタマーサポートが可能です。具体的なターゲット層やペルソナを設定できるため、事業の成功確率が各段に上がります。
一方、事業ドメインは自社の持つ強みを活かして今後切り込んでいく事業領域のことです。消費者のニーズや嗜好を分析したうえで市場を細分化し、ターゲット像を明確にしていく市場セグメンテーションとは異なり、事業ドメインはあくまでも自社の強みを重視しながら事業領域を設定します。事業展開の大枠を決めるのが事業ドメインである、と理解すると良いでしょう。
*事業ドメインと経営理念の違い
経営理念とは、企業の存在意義や目指すべき姿を言語化したスローガンのことです。具体的な商品サービスや販売戦略が丸ごと経営理念になることは滅多になく、それよりも行動指針や自社ならではの考え方など抽象的な事象が含まれることが多い傾向にあります。
一方、事業ドメインは、販売する商品サービスやターゲット層、販売手法を設定した事業領域のことです。価値観や信念を表す経営理念とは根本的に異なるため、混同しないよう注意しましょう。
*事業ドメインと企業ドメインの違い
企業ドメインは、企業全体の活動領域を定義する言葉です。全社的に取り組む大きなプロジェクトやメインの事業に活用されることが多く、事業ドメインの上位概念として使用されています。
一方、事業ドメインは事業部単位で設定することができます。企業ドメインよりも小規模な領域を設定することができるため、全く異なる商品サービスを複数有している大企業でも活用しやすく、精度の高いドメインを設定できるのが強みです。
2.事業ドメインを設ける3つのメリット
事業ドメインを設けることで、次の3つのメリットが得られます。
下記で1つずつ解説します。
①経営資源を有効活用できる
明確な事業ドメインを設定することで、何にどの程度注力するべきか可視化され、経営資源の有効活用につながります。
特に大きなプロジェクトになる場合、どのタイミングでヒト(人材)やモノ(設備)、カネ(資金)に、どの程度投資すべきかがわかるため、必要資源の無駄遣いや準備不足による失敗のリスクを避けることが可能です。
特に経営資源が限られている中小企業ではメリットが大きく、スピーディーな投資と資源分配の意思決定を支えてくれます。資源が限られている中で無駄遣いをしてしまうと、企業にとって大きな痛手となってしまうため、事業ドメインの設定はマストであると言えるでしょう。
②企業の方向性がまとまる
事業ドメインを設定して広く従業員に周知することで、企業全体の方向性がまとまります。
従業員全体が自社の事業領域や経営戦略を理解することになるため「今後どのような商品やサービスを売り出していきたいか」「どのような販売戦略で販路拡大を目指すのか」など、将来的なイメージがしやすくなるのもメリットです。将来のビジョンが明確になることで、各個人が目的を理解したうえで働けるようになります。
また、自分の役割やどのように事業に貢献しているかが理解しやすくなるため、組織全体のモチベーションも上がりやすく、一体感を高める効果もあります。
③自社の強みがアピールしやすくなる
事業ドメインには自社の強みをふんだんに盛り込むため、自社の強みをアピールしやすくなります。顧客へのアピールはもちろん、株主や取引先へのアピールにも活用できるのがメリットです。自社は「この分野に強い」「最近ここに力を入れている」と明確に発信できるため、企業イメージもより良い方向へ変化していくでしょう。
また、事業ドメインの公表により、投資家や金融機関からの良い評価を得やすくなるため、資金調達しやすくなる副次的な効果も発揮されます。資金調達がしやすくなることで、事業展開もスムーズに行えるようになるため、事業ドメインはなるべく早めに設定しておきましょう。
3.事業ドメインを設定した5つの成功事例
ここでは、事業ドメインを設定した企業事例を紹介します。
特に成功事例を中心にピックアップしているので、参考にしてみましょう。
*Appleの事例
Appleは元々、パソコン製造会社としてスタートしました。現在は世界最先端技術をふんだんに活用したデジタルデバイスの開発、販売に注力しており、イノベーション創造において世界トップランカーとして知られています。
Apple製品ならではの独創的なデザインや機能で話題となり、現在では最新デバイス販売の度に大きなニュースが出るようになりました。事業ドメインを確立することで、生活に変革をもたらすイノベーターとして変化し、業界最先端の地位を手に入れたのです。
*タニタの事例
タニタはもともと、体重計などの計測機器メーカーでしたが、健康管理に関するニーズが高まるのとともに、健康優良企業としてブランディングを始めています。
食品の塩分濃度を測れる機器の開発や健康維持、増進に役立つフィットネスジムのリリースにも挑戦し、健康分野に強い会社として知名度を上げています。計測機器の開発や販売から、事業ドメインを改めて「健康をつくること」へ設定しなおすことで、ブランド価値をより高めた事例と言えるでしょう。
*マクドナルドの事例
マクドナルドは、創業当時は地方のハンバーガーチェーンでしたが、現在は世界各国に店舗を拡大している高いブランド力を持ちます。「Think Global, Act Local」という「世界規模で考え、地域規模で実践する」といった考え方をもとに事業ドメインを確立することで、成功を収めました。
マクドナルドでは、顧客だけでなく従業員や近隣事業所を含めた「全ての人」を対象にサービスを手掛けています。美味しさを追求しながら定期的にメニューの追加や改良を繰り返し、いつ来ても楽しく安全なファストフードチェーンとして広がりました。
*セブンイレブンの事例
セブンイレブンは「近くて便利」という企業理念を基盤に事業ドメインを設定し、ライフスタイルや環境変化に寄り添った商品やサービスを提供しています。特に、コンビニエンスストアのなかでも先んじて宅配便受付やマルチコピー機の設置、銀行ATMの設置に乗り出しており「生活サービスの拠点提供」に力を入れています。
便利だからこそ利用者数も増え、現在では店舗数世界最大のコンビニエンスストア店舗として知られるようになりました。事業ドメインを設定したことによりサービスの幅が広がり、地域にとって欠かせないコンビニとなった成功事例であると言えるでしょう。
*ユニクロの事例
ユニクロはファストファッション業界における先駆者であり、シンプルなデザインの服を手軽に安く購入できるブランドとして存在価値を示しました。そのカギは、事業ドメインを「LifeWear(究極の普段着)」というコンセプトに沿って確立した点です。デザインがシンプルな分、カラーバリエーションやサイズ展開を増やすなど「誰が着てもぴったりな服が見つかる」ことに価値を置いて販路を拡大しています。
「普段着」のような狭い領域でも、事業ドメインを工夫しながら定めることで、強力なブランド化に成功した事例であると言えるでしょう。
4.【4ステップ】事業ドメインの設定方法
ここでは、事業ドメインの設定方法をステップ別に解説します。
「事業ドメインをどう設定すればいいのかわからない」という場合には、下記を参考に整理していきましょう。
①自社の現状を把握する
まずは自社の状況を正確に把握するため、強みや弱みを可視化します。自社が保有している資金はもちろん、多様な人材、特許などの知的財産、取引先層なども強みのひとつとなります。競合他社と比べて優れている部分や、劣っている部分があれば全て書き出し、将来性や業界内でのポジションを明確にしていきましょう。
また、同時に自社の経営理念の見直しを行うことも重要です。万が一経営理念と大幅にズレる事業ドメインにした場合、事業の軸や施策内容がブレてしまい、従業員からの不信感や現場での混乱を招く原因になる恐れがあります。
②大まかな方向性を定める
自社の現状が洗い出せたら、次は事業ドメインの大まかな方向性を決定します。「顧客(誰に)」「技術(どんな商品サービスを)」「機能(どのように提供するか)」のうち、明確にわかる部分だけでもどんどん埋めてしまうのが良いでしょう。事業ドメインの方向性を決めていないと、設定すべき項目や、自社が本当に売り出したいポイントがわからなくなって迷走してしまいます。
なお、既に参入済みの市場で事業ドメインを設定するのであれば、扱う商品やサービスを変更するのがおすすめです。反対に、新規参入の市場をターゲットにするのであれば、競合と比較することで差別化に繋がり、事業が成功しやすくなります。
③事業ドメインの効果やリスクを検証
設定した事業ドメインによりどのような効果が発揮されるのか、どのようなリスクが出てきそうかを可視化します。短期的な利益だけでなく長期的な伸びや将来的な自社成長についても考えておけば、事業ドメインを活用した長い成長戦略が描けるでしょう。
特に「コア・コンピタンス(他社を凌ぐ圧倒的な能力)」と「ケイパビリティ(組織的な能力や強み)」が盛り込めていれば、確度の高い事業ドメインとして活用できます。反対に、圧倒的な強みや真新しい価値観がない限り、他社と同じような戦略になってしまい、事業が失敗してしまう恐れがあります。
④取締役会の承認決議を得る
取締役会から、作成した事業ドメインに対する承認決議を得るため、社内会議にかけていきます。事業ドメインは事業目標と異なり、経営資源の分配にも影響する大きな決定事項です。当然動くお金も人材も大きくなるほか、自社のイメージ戦略にも関与してくるため、一事業部だけの独断的な判断で設定にしない方が良いでしょう。
なお、承認作業では「なぜこの事業ドメインにしたのか」「他の事業ドメインではない理由がどこにあるのか」など客観的な要素も加えて説明していくことが重要です。事業ドメインを設定した明確な根拠を提示することで説得力が増し、承認を得やすくなります。周りの意見も取り入れながらブラッシュアップし、説得力のある事業ドメインにしていきましょう。
5.事業ドメインを設定するときに役立つフレームワーク
最後に、事業ドメインを設定するときに役立つフレームワークを紹介します。事業ドメイン設定に迷ったときは、下記のいずれかを試してみましょう。
それぞれ詳しく解説していきます。
*CTF分析
CTF分析とは「Customer(顧客)」「Function(機能)」「Technology(技術)」の分野で自社の強みを可視化していくフレームワークです。事業ドメインを構築する3要素と似通っており、主力事業の範囲を模索するときに役立ちます。
「誰に何をどのように提供するか」を判断するときに役立つので、思考整理のフレームワークとして活用しても良いでしょう。
*SWOT分析
SWOT分析とは「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の分野で自社を取り巻く環境を可視化していくフレームワークです。
「Strength(強み)」と「Weakness(弱み)」では、自社の内部環境について整理できます。反対に「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」では、社会や市場の変化を可視化できます。自社の内部環境と市場の状況を比較しながら情報を整理できるため、戦略を後押しできるか客観的な判断がしたいときに便利です。
6.まとめ
事業ドメインとは、自社の事業分野や領域を指します。事業ドメインを事前に設定しておくことで、ステークホルダーへのアピールやブランディング戦略を行うことができるほか、従業員の一体感やモチベーションの向上を図ることが可能です。
なお、事業ドメインを設定するためには、まず自社の強みを可視化し、どんな分野で事業展開していくかイメージしてみましょう。本記事で紹介したフレームワークや企業事例も参考にしていけば、期待度の高い分野が見つかるかもしれません。
また、事業ドメインの設定方法がわからない方や、自社にあった事業ドメインを設定したいと考えている方は、より客観的な意見を出してくれる外部のプロフェッショナルに頼ることもおすすめです。
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