需要予測とは、過去の販売データや販売に関わるデータをもとにAIの機械学習機能などを活用して結果の推測を行うことです。精度の高い需要予測を行うことで、適切な在庫管理や経営資源の分配、顧客へ最適なタイミングでサービスの提供を行うなど、利益を効率的に最大化できる可能性が高まります。
しかし「需要予測をしたいが、どうすればいいのかわからない」という方は多いのではないでしょうか。そこで今回は、需要予測の手法やポイントを解説します。需要予測を行い、自社の今後の動きについて戦略を考えたい方におすすめなので、最後までチェックしてください。
1.需要予測とは?
需要予測とは、これまでの販売データを活用して、商品やサービスの需要を短期的、長期的に予測することを指します。予測をもとに、原料の仕入れや生産量の調整などを行うことで、効率的かつリスクを最小限に抑えた経営が可能です。
特に大手企業で大量の在庫を仕入れる必要がある事業部門にとっては、過剰在庫は大きなリスクとなるため、需要予測はとても重要であると言えるでしょう。
2.需要予測の必要性
現代において効率的に利益を最大化させるには、需要予測が欠かせません。需要予測の精度を欠くと、過剰在庫、管理コスト増大、販売の機会損失など、生産から販売まで多くのリスクを抱えることになります。
ここからは需要予測の必要性について、具体例を3つご紹介します。
①適切な在庫管理を行える
需要予測を導入することにより、商品やサービスに対する見込み客の購買予測ができ、前もって適切な仕入れを行えます。そのため、過剰在庫を抑制する効果も期待できるでしょう。
なお、過剰在庫のリスクによる影響は、下記の3つが挙げられます。
過剰在庫リスクは、企業経営にとって大きなダメージにつながる危険性もあるので、需要予測による適切な在庫管理は欠かせません。
キャッシュフローの悪化
すぐに販売を見込めない在庫が増加することで、手元の事業資金が減少し、資金回転効率が低下します。最悪の場合、経営が厳しくなり、倒産してしまう恐れもあります。
在庫管理のコストがかかる
倉庫などの保管費用や人件費が余分にかかります。また、倉庫スペースが限られる場合は、余分な商品を移動するための時間や運送費などが発生します。
在庫の廃棄
賞味期限や使用期限のある製品の場合、長期間保管することで品質が劣化し、廃棄になることもありえます。
②業務効率の向上
精度の高い需要予測ができれば、適切な人員数や生産量が把握でき、業務効率の向上に繋がります。生産現場では見込み生産の比重が大きいため、無駄な資源の削減にも期待できるでしょう。
一方で予測の精度が低ければ、機械が稼働しすぎて発生する設備トラブルや、原材料の不足などによる無駄な作業停止、過剰人員あるいは人員不足をかかえることになるため、業務効率は低下します。
③人為的なミスの防止
予測の精度や、製造における適切な人員数を確保する観点から、データを用いて需要を分析する需要予測は、人為的なミスを防止する上で重要です。経験則による需要分析では、人の勘に頼る場面が多く、必ずしも予測の精度が高いとは言えません。
また、一部の人員しか需要予測が行えない場合は、急な休みや退職に伴い、需要予測ができる人材がいなくなる可能性もあります。属人化するほどマニュアルに落とし込むのが難しくなるため、経験が伝承されないことも考えられるでしょう。
3.需要予測の種類4つ
需要予測にはいくつかの方法があります。ここからは4種類の需要予測についてご紹介します。
①過去のデータを用いた統計的な定量的予測
これまでに集積してきた販売データや顧客の購買行動、気温などの外的要因を加味して需要予測を行う方法です。
たとえば、豆腐メーカーを例に挙げてみましょう。まずはどんな時期にどんな豆腐が売れるのかはもちろん、購入者層や気候的要因も合わせて、過去のデータを用いて分析していきます。気温が何度になるころからどの商品が売れ始めるのか、誰をターゲットにするのかなど、需要予測を活用すればより詳細な予測が可能です。
実際に、日本気象協会のデータを用いながら需要予測を行った豆腐メーカーでは、年間コストでは数千万円単位でのロス削減に繋がっています。
なお、年々変わる天候やトレンド、株価乱高下など、過去のデータだけで判断できない要因をどのように評価するかで、予測の精度は変わります。データと予測を上手に使い分けながら、需要予測を行うことが重要です。
②担当者や専門家の意見や情報に基づいた定性的予測
担当者や専門家による需要予測は、これまで培ってきた経験やスキル、知識を活用します。
代表的な予測技法の一つに、デルファイ法が挙げられます。デルファイ法とは、専門的な知識や経験を持っているメンバーに対してアンケートを行い、回収した結果を全員に見せ、再び回答を求めるという過程を複数回実施することで、意見を取りまとめる手法です。業界予測や財務戦略、リスク想定など、高い専門性が求められる分野の予測を立てる際に用いられます。
なお、人的な経験をもとに予測しているため、予測の精度にブレが発生する点に注意しましょう。対策方法としては、複数の需要予測を掛け合わせ、精度向上を図ることが挙げられます。
③市場調査による予測
対象の商品やサービスを展開する市場の調査を行い、需要を予測する手法です。新製品やサービスを導入するにあたり、ターゲット層に向けてアンケート調査やインタビュー調査、観察調査などを行い、その結果をもとに需要予測を立てます。
なお、市場調査のポイントとして、以下の3つが挙げられます。
- 実施目的の明確化
- ターゲット層の明確化(ペルソナの設定)
- 想定結果を予想し、結果と対比する
上記を意識しながら市場調査を行うことで、目的にブレが生じにくく、より精度の高い市場調査が行えます。以上の点を考慮しながら、市場調査を実施しましょう。
④AIや機械学習を用いた予測
AIや機械学習を用いることで、集積した販売データやビッグデータなどから関係性を見つけ出し、将来の変化を予測することができます。
以前、市場予測や分析を行う際は、AIや機械学習の精度や認知度が高くなかったため、担当者や専門家の経験に頼る部分が大きく、AIや機械学習を使用している企業は多くありませんでした。一方、現代では第3次AIブームを皮切りに、AIや機械学習の精度が大きく向上したため、認知度も向上し、大量のデータを処理できるAIや機械学習を用いるのが主流になりつつあります。
しかし、AIや機械学習のメリット、デメリットを理解した上で導入しないと、無駄な費用や時間を費やすことになるため注意が必要です。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
利便性 | 集積したデータをそのまま使える | 複数のデータが必要(ビッグデータなど) |
必要な人材 | 経験則に頼らない正確な需要予測ができる人材 | AIのスペシャリストが必要 |
スピード | 意思決定の迅速化 | 条件整備による最適化に時間がかかる |
コスト | 計画の最適化によるコスト削減 | 精度上げるためのコストが多額 |
AIや機械学習の導入は、ビジネスに大きな利益をもたらす一方で、システム自体の扱いの難しさや、専任の担当者の配置などで多大な導入コストが懸念されます。そのため、導入前に自社のニーズにマッチするか検討が必要と言えるでしょう。
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4.データ分析を活用した需要予測の手法5つ
データ分析を活用した需要予測として5つ手法があります。手法を選択する上でのポイントをまとめましたのでご覧下さい。
それぞれ詳しく解説していきます。
①算術平均法
算術平均法とは、全てのデータを合計し、データ数で割る方法のことで、普段目にする一般的な平均を指します。
誰でも簡単に計算できるため、需要予測法としては導入しやすい点がメリットです。アンケート結果の平均を求めたい場合や、平均単価などを求めたい場合などに向いています。ただし、シンプルな手法であるが故に、詳細な需要予測は困難である点を考慮しておきましょう。
②移動平均法
移動平均法とは、一定期間のデータの平均値を割り出し、需要予測に活用する方法です。株価指標である、日経平均の折れ線グラフにも用いられています。たとえば、過去3ヶ月分の売上平均から予測値を計算した場合、移動平均は下記の通りです。
売上 | 3か月移動平均 | |
---|---|---|
2023年5月 | 200万 | ー |
2023年6月 | 250万 | ー |
2023年7月 | 280万 | ー |
2023年8月 | 300万 | 243万(5月+6月+7月÷3) |
2023年9月 | 320万 | 276万(6月+7月+8月÷3) |
2023年10月 | 280万 | 300万(7月+8月+9月÷3) |
2023年11月 | 340万 | 300万(8月+9月+10月÷3) |
2023年12月 | 400万 | 313万(9月+10月+11月÷3) |
上記のように、データが次月に移動することから、移動平均法と呼びます。
移動平均法のメリットは、棚卸資産の評価額が常に把握できるため、適切な販売戦略を立案することに役立つ点です。一方でデメリットは、仕入れが発生する度に計算が必要になり、担当者の業務量が増大する可能性がある点が挙げられます。
移動平均を使いこなすことで、原価管理の精度が上がり、原材料や人件費のムダを確認することができるでしょう。
③指数平滑法
指数平滑法とは、過去のデータから将来を予測する計算方法です。より新しいデータを重視しながら計算する方法のため、過去に遡るほど重要度が指数関数的に減少します。そのため、過去のデータよりも最新データが需要予測の結果に反映されやすいです。なお、具体的な計算方法は、以下の通りです。
予測値 = α × 前回実績値 + (1 – α) × 前回予測値
外れ値がある場合は、需要予測結果に歪みが生まれる可能性があるので注意しましょう。
また、過去のデータの傾向のみを考慮して計算するため、市場の動向や季節性の影響を反映するのは難しいでしょう。季節性を加味する場合は、ウィンターズ法(季節傾向モデル)を用いて長期的な需要予測をすることをおすすめします。
④回帰分析法
回帰分析法とは、収集したデータをもとに因果関係のある数値の関係性を割り出し、需要予測をする手法です。売上結果に影響を与える要因となる、顧客数や販管費、周辺人口、天候などの影響力の違いを把握できます。
数値化されることによって、売上結果とさまざまな要素にどんな因果関係があるのかを読み取れるため、根拠のある推測が可能です。また、分析結果をもとに、それぞれの影響度に応じた対策の立案や、優先度を決定できるため最適なビジネス展開が可能となるでしょう。
しかし、データに偏重がある場合やデータ量が少ない場合、正確な需要予測が難しくなります。また、複雑な計算処理のため、正しく分析できないと誤った予測につながる可能性もあります。そのため、計算時には関数や参照する値が正しいかどうかに注意しましょう。
⑤加重移動平均法
加重移動平均法とは、移動平均法の一種で、最新の需要変動の影響を勘案し算出します。古いデータよりも新しいデータを重視するため、トレンドの分析を行いたい場合や、データの変動が大きく、最新データが重要となる場面に役立つでしょう。計算方法は、以下の通りです。
加重移動平均 = 重み付き計算値の合計 ÷ 重みの合計
なお、加重移動平均の算出には過去のデータが必須です。過去のデータが少ない場合、予測の精度が下がってしまう点に注意しましょう。また、重みを適切に設定する必要があるため、専門知識を保有した人材に行ってもらうことをおすすめします。
5.需要予測を行うときの4つのポイント
需要予測を誤ると、かえって過剰在庫や経営不振に繋がるなどの結果を引き起こす場合も考えられます。失敗を避けるためにも、需要予測を行う際は以下の4つのポイントを抑えながら実施しましょう。
①過去のデータを用いて誤差を減らす
誤差が少なければ少ないほど、将来の需要予測の精度は向上し、適切な在庫管理や業務の効率化につながります。過去のデータを用いながら需要予測をすることで、より自社の経営状況に沿った予測が立てられるでしょう。
②元データの量と質を上げる
元データの量と質が不足すると需要予測の精度は落ちます。量、質ともに向上させるには、以下の点に注意が必要です。
- 分析に必要なデータだけを用意する
- 信憑性の高いデータを使用する
- データの抜けがない
- データ収集は継続的行う
③予測値と実績値の比較と分析を行う
需要予測の結果と実測値を比較、分析することで、どのぐらいの誤差があるのか、誤差の発生要因を確認しましょう。誤差を減らすことで需要予測の精度も高まり、効率的に利益を追求できます。
④担当者の過去の経験だけに頼らない
担当者の過去の経験だけに頼ると、需要予測が属人化するため、一定の人間しか担当できなくなります。また、データに基づかない予測は、精度のバラつきの発生原因になるため、データによる需要予測も検討しましょう。
6.AIを活用した需要予測の事例
実際にAIを活用した需要予測の事例をご紹介します。
どちらも大幅なコストカットや作業効率の向上に貢献している事例のため、ぜひチェックしてください。
イトーヨーカドーで発注業務の生産性が3~4割向上した事例
イトーヨーカドーでは、発注量の不足が顧客離れの要因と指摘されていました。当時イトーヨーカドーが行っていた需要予測は、担当者の経験則に頼る部分が大きく精度が高くなかったため、顧客の求めているものが店頭に揃っていなかったのです。
より多くの顧客を集めるためには、課題である発注量の少なさを解消する必要があります。そこで、イトーヨーカドーは発注量増加による在庫過多や廃棄、担当者の負荷を軽減するためにも、AIを発注業務に採用しました。需給予測の精度向上と、欠品対策や発注時間の削減に注力した結果、下記のように業務効率が大きく上がったのです。
- 売上前年比アップ
- 発注業務の生産性が3~4割向上(冷凍食品に限ると42%短縮)
- 欠品率27%削減
- 在庫日数の改善
欠品率も減少したことから顧客満足度の改善につながっています。
スシローで廃棄量が75%減少した事例
スシローでは、業界に先駆けてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進してきました。その結果、需要予測の精度は向上し、廃棄する食材は75%削減に成功しています。
主な施策として、総合管理システムによる需要予測を始めました。
店長の経験則やスキルにプラスして、ITによる需給予測を加味したことで、日本で問題になっているフードロスにも一石を投じた形になりました。
また、廃棄が減ることにより原価率が50%におよぶ上質な寿司を提供できるようになりました。その結果、顧客の満足度も上昇したため、相互にメリットのある素晴らしい取り組みと言えるでしょう。
皿にICチップを取り付けて単品管理
単品管理することで、リアルタイムに売れ筋を把握することが可能になったほか、鮮度が落ちたかを自動判断し、廃棄することも可能になった。
「1分後」「15分後」の需要を予測
各席の着席時間や人数、滞在時間などから喫食パワーをはじき出し、スタッフはその数値を見ながらラインに寿司を投入することで、廃棄が減少した。
在庫管理の精度アップ
顧客のニーズを数値で把握することで、売れ筋の商品の在庫切れを防止する。
7.まとめ
需要予測は、これからの時代を生き抜くうえで企業にとって、欠かせない戦略のひとつと言えるでしょう。ただし、需要予測を正しく理解し、重要なポイントを抑えなければ、成果を上げることは難しいと言えます。
なお、需要予測を行うときは、次の4つのポイントを意識しましょう。
精度の高い需要予測を行うことで、自社の需要や今後の戦略について分析することが可能です。ぜひ本記事で紹介した手法やポイントを活用して、需要予測を行ってください。
なお、需要予測のやり方がわからない方や、需要予測の制度をより高めたいと考えている方は、みらいワークスのプロ人材マッチングサービスがおすすめです。需要予測に強い即戦力の人材が、過去のデータを元に精度の高い予測を立ててくれます。需要予測にお困りの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。