1999年に「男女共同参画社会基本法」が、2015年には「女性活躍推進法」が制定され、性別に関係なく、活躍できる機会が増えました。
しかし、帝国データバンクが2023年に行った「女性登用に対する企業の意識調査」の結果では、女性管理職の割合は平均9.8%と過去最高の数値ではあるものの10%にも満たない数値となっており、上層部を男性が占めている企業がまだまだ多いのが現状です。
一方、2022年に内閣府男女共同参画局が発表した「諸外国における企業役員の女性登用について」のデータ「各国の企業役員に占める女性比率の推移」ではフランスが45.3%、ノルウェーが41.5%、イギリスが37.8%、ドイツが36.0%、アメリカが29.7%となっており、12.6%の日本は世界に大きく遅れを取っています。
本記事では、女性管理職を増やす方法やメリット、成功事例、女性管理職が置かれている現状を詳しく解説していきます。
■目次
女性管理職を増やすことで生まれるメリット
政府は2003年に「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待する。」という目標を掲げました。ところが、女性管理職の水準は、30%の水準に満たず10%に留まっています。その理由には、女性管理職の採用メリットを理解していないことが挙げられます。
本項目では、女性管理職を増やすことで生まれるメリットについて紹介していきます。
優秀な人材を獲得できる
女性管理職の採用は、女性が働きやすい会社であるというイメージに繋がるでしょう。
たとえば、同性にしか相談できないような内容が相談できたり、結婚や育児、現場復帰などにも理解がある企業、セクハラ問題などのハラスメントに厳しい企業である、といった印象に繋がり、優秀な人材獲得にも良い影響を及ぼします。
女性キャリア形成のロールモデルができる
そもそも女性管理職が増えない原因として、管理職になることで増える責任や家庭との両立の難しさなど、ネガティブなイメージが影響を及ぼしています。
ところが、女性のキャリア形成のロールモデルとする女性管理職がいることで、具体的にどのようなことをすればよいのか、自分でも管理職が可能なのか判断を行いやすくなるでしょう。そうすることで、これまで管理職を目指せないと思っていた人が、目指せると考える意識改革やモチベーションアップにも繋がるのです。
離職率低下に繋がる
女性管理職がいることで育児休業を使いやすくなったり、その他のライフスタイルの変化が起きても仕事を続けやすい環境になり、離職率の低下に繋がるでしょう。
出産や子育てで退職する女性社員は多く、利用できる制度があっても環境や空気によって制度を利用できない人もいます。女性が管理職になることで、仕事と家事育児の両立に悩む社員とも密接にコミュニケーションが取れるようになり、離職率の低下に繋がったり、新たな制度の考案にも期待できます。
女性社員の能力や適性を引き出せる
女性社員がいることで、男性目線では気づきにくい問題点に気づき、業務改善や効率化に繋がることもあるでしょう。たとえば、家庭を持っている女性は、就業時間内にしっかり仕事を納めるため、いかに時短で効率的に働けるかを工夫している人が多いです。
また、女性はコミュニケーション能力や、共感性、周りへの気配りに長けていると言われています。社内の雰囲気や相手の立場に寄り添った発言や、伝え方で業務に取り組むことから、社内の雰囲気も柔らかくなるでしょう。
考え方や視野が広がり、リスク対応力が向上する
男性では気づきにくい女性ならではの視点で、問題の発見や改善を行うことにより、企業成長にも繋がるでしょう。
女性視点での考え方や視野が広がることで、物事を客観的に見ることができるため、冷静に判断できるようになります。そのため今後起こりうるリスクに対して、事前に対処することができたり業務全体に目が届くようになり、仕事のパフォーマンス向上にも繋げることが可能です。
このように女性管理職を増やすことは本人以外にも企業や社員に対してもメリットが豊富にあります。
女性管理職登用の現状
帝国データバンクが行った「女性登用に対する企業の意識調査」では、女性管理職の割合が30%を超える企業は2021年で8.6%、2022年で9.5%、2023年で9.8%という割合になっています。
徐々に増えているものの微々たる増加でしかなく、現在の加速度では国が掲げる2030年までの達成は難しいと言えるでしょう。
目標を達成するためには、企業ひとつひとつが採用への取り組みを強めていかなくてはいけません。自社の成長や、時代に合った企業づくりのためにも女性管理職を採用するメリットを理解して積極的に採用を行っていくべきと考えられます。
海外は女性管理職が多い
海外では日本に比べて、管理職に女性を投与することに真摯に取り組んでいます。フランスでは2030年までに女性比率40%以上が義務化されており、ドイツでは30%以上が義務化されています。その他の国でも、女性管理職登用の義務化や登用しなかった場合には罰金や取締役への支払いが一部停止、会社の解散などのペナルティが課せられています。
一方、日本の女性管理職登用は、目標であって義務ではないため、登用しなかった場合でもペナルティも課せられません。
日本の女性管理職の比率や割合
厚生労働省が発表した「令和2年度雇用均等基本調査」によると、課長相当職以上の管理職を占める女性の割合は12.4%という比率になっています。
また、女性管理職の比率を企業の規模で確認してみると、小規模企業が平均12.5%で、中小企業は9.9%、大企業は6.8%という結果になりました。
日本の女性管理職の問題に機敏に取り組んでいると思われる大企業の方が、女性管理職の比率が低く、根強い問題であると考えられます。企業規模の大きさや人数の多さから、女性が役職者になるまでに退職したり、仕事と育児の両立の難しさから女性本人が希望しないことが影響しているといえるでしょう。
管理職になりたいと考える女性は少ない
株式会社識学が実施した調査結果によると、女性で管理職になりたいと考えている人はわずか4%でした。
女性管理職を増やすことは企業へのメリットだけでなく、社員自身にも次のようなメリットがあります。
- 給与が上がる
- 仕事の幅が広がる
- 自身の成長に繋がる
- 自分の意見が通りやすくなる
しかし、メリットに気付けていない点や、企業が社員に対してメリットを示していない点も課題といえるでしょう。
女性管理職になりたいと思う割合が少ない理由
女性管理職になりたいと思う割合が少ない理由として、以下の理由が挙げられます。
また、現在女性管理職の割合が30%を超えていたとしても、上記の理由がクリアできていなければ女性管理職が減ってしまう可能性もあるので、必ず確認しておきましょう。
企業の仕事と家庭を両立するための制度が整っていない
女性は出産や子育てを行うことによる負担が大きいため、仕事と家庭を両立するには相応の制度が必要です。しかし、現状において女性の負担を減らせるような制度や環境が整っていない企業も多く、管理職になりたくないという女性がほとんどです。
そのため、育児休暇の制度を充実させたり、制度を利用しやすい環境づくりをしたりすることが必要不可欠です。
管理職の女性が少なく、なりたいと思う女性が少ない
身近に管理職として働く女性がいないため、管理職として働くイメージが掴めず、選択肢にすら浮かんでいない女性も多いです。
そのため、まずは女性管理職が0人という状態に終止符を打つことが必要です。女性管理職を増やすことで、女性の管理職に対するハードルが低くなり、管理職という立場に抵抗を持つ方が少なくなるでしょう。管理職になるには多少能力が劣っても役職を与えたり、社外取締役として女性を登用することも重要です。
責任が重くなる
責任が重くなるという理由から、管理職になりたくないと思っている女性も少なくありません。女性は結婚や妊娠を経て、生活環境に変化が生じる人も多いです。自分に余裕がないときに裁量の大きな仕事をこなせるかどうかに不安を感じていることからも、管理職になりたいと思う女性が少ないのです。
とはいえ、責任が増えることによる見返りもあるので、女性社員にそれを理解してもらう必要があります。たとえば、裁量が増えることで仕事が進めやすくなったり、自分が行いたかった事業を進められる可能性があるなど、管理職ならではのメリットを伝えるようにしましょう。
昇格の基準が明確ではない
管理職への昇進、昇格の基準が明確になっていないことで「管理職にはなれない」と最初から諦めてしまっている場合もあります。
そのため、昇進、昇格の基準を明確にして、女性社員に「管理職は誰でも目指せる」という意識を持ってもらわなければなりません。キャリアパスを示すことができれば、管理職を目指そうと思う女性も自ずと増えていくものです。
女性管理職を増やした成功事例4つ
本記事で紹介したように、日本の女性管理職に対する体制はまだまだ整っているとは言えません。
しかし、女性管理職を増やすために取り組み、成功した企業もあります。今回は女性管理職を増やした成功事例として以下の4企業と施策を解説します。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリはD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進している企業の一つです。ジェンダー平等のためのグローバルな認証基準である「EDGE Assess(エッジ・アセス)」を2022年に日本で初めて取得した企業でもあります。
株式会社メルカリでは「merci box」と呼ばれる福利厚生を2016年に導入し「産育休中8ヶ月間の給与を100%保障」など魅力的な制度が反響を呼びました。翌年には子どもがいる女性社員の100%、男性社員の90%が育児休暇を取得しており、優秀な人材の離職をストップするように制度がしっかり機能しています。
株式会社メルカリの企業サイトでは2023年6月時点で「多様性に関する情報」として、管理職に占める女性社員の割合が20.4%、取締役に占める女性の割合が30.0%と公表されています。日本の平均よりもはるかに女性管理職が多いことで、優秀な人材の更なる採用が見込まれるでしょう。
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ
株式会社リクルートマーケティングパートナーズではDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)推進の第一歩としてジェンダー平等に取り組んでいます。
2021年に「2030年までにリクルートグループ全体で、上級管理職、管理職、従業員それぞれの女性比率を約50%にする」という政府が掲げている目標値30%よりも高い目標を公表しています。
- 無意識バイアス排除の仕組みづくり
- 管理職に求める要件を明文化
- ライフイベントの影響を受けやすい女性社員向けに年代別にキャリア形成支援研修を実施
- 管理職へのマネジメント支援
- 管理職に必要なスキルを学べる階層別のスキル研修
また、上記のような取り組みを行っており、結果2023年4月時点で管理職の女性の割合は30%となりました。
アサヒビール株式会社
ビール業界大手のアサヒビール株式会社を子会社に持つアサヒグループホールディングス株式会社は「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンステートメント」の取り組みを行っています。
主な取り組みとしては、性別差別の撤廃、女性の地位向上に向けたグループCEOからのメッセージ発信、国内グループ各社の経営層を対象としたパネルディスカッションの開催などを積極的に行っています。
そんなアサヒビール株式会社は、2021年には国内外グループ8社の経営層女性比率を2030年までに22%から40%以上にすることを目標に設定しています。2022年時点では、27%と2021年度の22%から5%の増加が見られています。2030年の目標数値である40%に向けて、女性比率の増加に今後も期待できるでしょう。
味の素株式会社
味の素株式会社では、基幹職(課長職より上位の職、管理職)の女性比率30%を目標としており、2010年にイギリスで設立された女性活躍を推進する世界的キャンペーン組織である30% Clubの日本団体である30% Club Japanに参画しています。
女性活躍のための環境づくりとして、以下のような取り組みが行われています。
- コアタイムなしのフレックス制
- リモートワークの導入
- 退社時間を16時30分に変更
- 女性従業員へのキャリア支援
積極的な活動の結果、女性活躍推進企業として令和4年度「なでしこ」銘柄に選定されました。このことから、女性登用化が進み、2020年に初めて女性の営業支社長が誕生しました。
女性管理職を増やすために企業がやるべき取り組み・施策
女性管理職を増やすために企業がやるべき取り組みや施策を解説します。
上記の6つに取り組むことで会社のイメージは大きく変化し、女性管理職の割合も増加することでしょう。
ワークライフバランスの整う環境づくりを行う
女性管理職を増やすために、ワークライフバランスの整った環境づくりが必須です。
女性の仕事に関する根強い課題は、結婚や出産に伴ってキャリアが途絶えてしまうことです。そのため、産休や育休制度以外にも、リモートワークや時短勤務、フレックスタイム制の導入、出産や育児、家庭との両立など多くの不安材料を払拭できるよう、制度が利用しやすい環境作りも必要といえるでしょう。
また、女性管理職を増やして、女性が働きやすければ良いわけではなく、社員全体が働きやすい環境でなければなりません。その点も考慮しながら環境づくりすることで、多様な働き方を尊重した制度となるでしょう。
女性の昇格基準や目標などを具体的に示す
昇進、昇格の基準が目に見えることで、女性が管理職を目指すことが現実的になります。
基準を設ける際は、前述したように男女で別々の基準を設定しなければなりません。そもそも、男社会としての歴史が長い企業だと女性管理職を見据えた人事制度すらできていない可能性があるため、根本から見直さなければならない企業もあるでしょう。
また目標として、いつまでに女性管理職をどの程度増やすと掲げることで、キャリア昇進にも繋がりやすくなり、女性の意識を変えることにも繋がります。
福利厚生制度の見直しを行う
福利厚生制度を見直すことで女性の離職率低下に繋がり、女性が管理職を目指せる環境に近づきます。女性への福利厚生といえば、出産や育児に関するものが一般的ですが、それは最低限のレベルです。福利厚生として充実させることで、女性社員からの評価が得られやすいものとして以下のようなものが挙げられるでしょう。
- 社員食堂の設置
- バースデー休暇
- 生理休暇
- 結婚休暇
- 講座・セミナー参加費用の補助
常に体調が万全で仕事に臨むことが難しい女性にとって、生理休暇の導入は大切です。生理休暇を導入する場合は、生理休暇を躊躇せずに取得できる環境づくりも不可欠になるでしょう。
出産や育児で一度職場を離れてしまうとブランクを感じてしまう方もいるので、スキルやキャリアの向上を補助するような福利厚生制度があると有用です。
また、直接女性社員へのヒアリングを行い、どのような福利厚生を求めているか確認してみるのもよいでしょう。
社内の意識改革
女性管理職を増やすために、制度を充実させることと同じくらい、社内での意識改革も重要です。
目標や評価基準を設けたり、福利厚生を充実させたところで意識が変わらず女性の管理職が増えなければほとんど意味がありません。女性社員自身も、管理職を目指せることを理解して働き方の意識改革をする必要がありますが、それよりも上層部の意識改革が行われなければ何の解決にもならないことが多いです。
このような問題は凝り固まっていて、男尊女卑になっていることに内側からでは気づかない場合もあります。積極的に女性を管理職に登用しようという意欲が社内の風潮を変えるきっかけになることでしょう。
女性管理職のために研修などを行う
女性が管理職につきやすくなるための研修を行いましょう。たとえば、リーダーシップやマネジメントに関する研修など、管理職として必要になるスキルの習得に繋がるものが有効です。
家事や育児などの両立を行えるような制度作りを行う
家事や育児などの両立を行える制度づくりを行うことで、管理職へのハードルが低くなるでしょう。
ライフワークバランスの整った環境や福利厚生制度などを紹介してきましたが、他にも以下のような制度があると社員の強い味方となるはずです。
- 子どもの熱による保育園からの呼び出しなど突発的な事態に対応できる柔軟性
- 男女問わず気兼ねなく育休が取得できる雰囲気づくり
- メンタル面をサポートできる相談窓口の設置
まとめ
女性管理職を増やすメリットや施策、課題などを紹介してきました。日本企業の女性管理職に関する問題は深刻で、政府が掲げた2030年の目標到達は現状では厳しいでしょう。
そのために企業はライフワークバランスの整った環境や意識改革、ロールモデルの育成、福利厚生の見直しなど、すべきことが山積みです。
女性管理職の課題を解決するため、制度設計に長けたプロフェッショナル人材や、人事コンサル領域のプロフェッショナル人材を利用した場合、是非お気軽にみらいワークスへお声がけください。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)