
漫画・アニメ・実写映画と幅広く人気を集める『キングダム』は、戦国時代を舞台にした物語である一方、組織づくりやリーダーシップ、戦略など、ビジネスにも通じる要素が数多く描かれています。
なかでも印象的なのが、秦国へ複数の国が同時に攻め込む「合従軍編」です。
秦という強大な相手に対し、普段は敵同士である国々が共通の目的のために手を組む。この考え方は、現代のビジネスにも応用できます。
例えば、自社だけでは足りない技術や顧客基盤を他社とのアライアンスで補う、M&Aによって新しい市場へ参入する、外部のプロフェッショナル人材を活用して不足する知見を取り込む、といった方法です。
特に、新規事業を立ち上げたいもののノウハウがない場合や、既存事業の成長が頭打ちになっている場合には、「自社だけで戦わない」という発想が有効です。
本記事では、『キングダム』の合従軍を題材に、その戦略がなぜ有効だったのか、現代ビジネスではどのように応用できるのか、さらに複数組織による協業を成功させるためのポイントまで解説します。
※本記事は『キングダム』合従軍編の一部ネタバレを含みます。
■目次
1.キングダムの合従軍とは?
『キングダム』の合従軍編では、強大化する秦国を倒すため、複数の国が連合して秦へ侵攻します。
作品内では、楚・趙・魏・韓・燕などが秦へ攻め込み、秦国最大級の防衛拠点である函谷関を舞台に大規模な戦いが繰り広げられます。
TVアニメ『キングダム』でも合従軍編では、列強諸国による連合軍と秦との大規模な戦いが描かれています。
合従軍が結成された背景
合従軍結成の背景にあるのは、秦の急速な勢力拡大です。
『キングダム』では、嬴政(えいせい)が「中華統一」を掲げ、秦が他国の攻略を進めていきます。
それまで楚・趙・魏・韓・燕などは、互いに領土を奪い合う競争相手でした。しかし、秦がこのまま強大化すれば、自国もいずれ滅ぼされる可能性があります。
そこで、普段は敵対している国々が「秦を止める」という共通の目的のもとで手を組みます。
このように、単独では対抗することが難しい強者に対して、複数の勢力が連合する戦略が「合従」です。
なお、「合従」と「連衡」は厳密には異なります。合従は複数国が連合して秦に対抗する政策、連衡は各国が秦と個別に同盟を結ぶ政策です。現在では、状況に応じて勢力同士が結び付くことを広く「合従連衡」と表現する場合があります。
合従軍と函谷関の戦いの結果
秦を圧倒するほどの大軍となった合従軍ですが、最終的に秦を滅ぼすことはできませんでした。
秦軍は国門である函谷関に主要な将軍を集結させ、合従軍の侵攻を食い止めます。
さらに作中では、李牧が函谷関とは異なるルートから秦の王都・咸陽を狙い、蕞へ進軍します。
秦にとって国家存亡の危機となりますが、嬴政や信、蕞の住民、さらに楊端和率いる山の民などの働きによって秦側が持ちこたえ、最終的に合従軍は撤退します。
つまり合従軍編は、「圧倒的な戦力を集めれば必ず勝てるわけではない」ことも示している戦いです。
この点は、複数企業によるアライアンスや共同プロジェクトにも通じます。
2.なぜ合従軍は秦を倒す有効な戦略だったのか
結果だけを見れば、合従軍は秦を滅ぼせなかったため「失敗した戦略」に見えるかもしれません。
しかし、戦略そのものは非常に合理的です。ビジネスの観点から考えると、合従軍には主に3つの強みがあります。
単独では勝てない相手にも複数組織なら対抗できる
最も分かりやすいメリットは、複数の組織が持つ経営資源を組み合わせられることです。
企業に置き換えると、以下のような強みを組み合わせられます。
- 技術力
- 顧客基盤
- ブランド
- 販売チャネル
- 人材
- 資金
- データ
例えば、自社には優れた技術があるものの営業力が弱い企業と、大規模な顧客基盤を持つ企業が協業すれば、お互いの弱点を補完できます。
自社だけですべてを揃えようとすると、採用や開発、営業組織の構築に時間がかかります。
他社の強みを活用することで、単独では実現できなかった事業を短期間で成立させられる可能性があるのです。
競合と組むことで市場構造そのものを変えられる
合従軍の興味深い点は、普段は争っている国同士が手を組んだことです。
ビジネスでも、競合企業同士が必ずしもすべての領域で競争する必要はありません。
例えば、
- 共同研究・開発
- 共同物流
- 販売チャネルの共有
- 業界標準の策定
- データ連携
- コンソーシアムの形成
など、特定領域では競争しながら、別の領域では協力することがあります。
自社と競合のシェアだけを奪い合うのではなく、協業によって市場そのものを拡大できれば、両社が利益を得る可能性があります。
つまり、「誰と戦うか」だけでなく「誰と組むか」も競争戦略の一部です。
短期間で自社にない強みを獲得できる
新しい能力を自社でゼロから構築するには時間がかかります。
例えばAIを使った新サービスを立ち上げたい企業が、自社でAIエンジニアを採用し、組織を作り、技術検証を行っていると、事業化までに長い時間がかかる可能性があります。
一方で、既に技術を持つ企業や専門人材と協業すれば、立ち上げ期間を短縮できます。
ビジネス環境の変化が速いほど、「自社で作るまで待つ」こと自体が機会損失になるケースもあります。
そのため、成長スピードを優先したい場合には、外部との連携が有効です。
3.現代ビジネスにおける「合従軍」の3つの形
キングダムの合従軍をそのまま現代企業へ当てはめることはできません。
しかし、「自社に不足する経営資源を外部との連携で補う」という点では、現代ビジネスにもさまざまな方法があります。

①M&A|企業ごと取り込んで競争力を高める
合従軍的な発想を実現する方法の一つがM&Aです。
M&Aでは、企業や事業を買収することで、技術、人材、顧客、ブランド、販売チャネル、市場シェアなどをまとめて取り込めます。
例えば、既存事業が成熟し、新市場へ参入したい企業があるとします。
一から新しい商品を開発し、営業組織を作り、顧客を獲得する方法もありますが、その市場ですでに事業を展開する企業を買収することで、参入スピードを大幅に高められる可能性があります。
一方、M&Aでは企業文化や人事制度なども含めて統合する必要があるため、買収後のPMIまで考える必要があります。
②アライアンス|資本関係を持たずに協業する
より柔軟に他社と連携したい場合には、アライアンスという選択肢があります。
アライアンスでは、企業同士が独立性を保ちながら、特定の目的に向けて協力します。
例えば、
- 共同商品開発
- 販売提携
- 共同マーケティング
- データ・システム連携
- 共同研究
などです。
M&Aほど大きな投資を必要とせず、必要な領域だけで連携できる点がメリットです。
一方で、上下関係が明確なM&Aとは異なり、基本的には対等な企業同士の協業になります。
そのため、「誰が最終判断するのか」「どちらが何を担当するのか」「成果をどう分配するのか」を決めておかないと、プロジェクトが進まなくなる可能性があります。
③業務提携・外部人材活用|不足する機能だけ補う
企業同士で大規模な提携を行わなくても、必要な機能だけ外部から補う方法があります。
例えば、
- 新規事業の立ち上げ経験がない
- マーケティング戦略を作れる人材がいない
- システム開発をリードできるPMがいない
- M&Aの経験者が社内にいない
といった場合です。
この場合、外部のコンサルタントやプロフェッショナル人材を一定期間プロジェクトへ参画させる方法があります。
必要な時期・領域だけ外部の知見を活用できるため、M&Aや企業間アライアンスよりも小さな単位から始められます。
4.ビジネスが停滞したときに「合従軍」が有効な4つの場面
他社や外部人材との連携は、常に行えばよいわけではありません。
特に有効なのは、自社単独では突破しにくい課題に直面した場面です。
①新規事業を立ち上げたいが社内にノウハウがない
新規事業は、既存事業とは異なる市場や顧客を対象にするケースが多く、社内に知見がないことも珍しくありません。
例えば、市場調査、事業戦略、PoC、商品開発、マーケティング、営業体制構築など、複数の専門性が必要です。
すべてを自社で習得してから始めていると、立ち上げが遅れてしまいます。
そこで、外部企業や専門人材を取り入れながら事業を進めれば、実務を進めつつノウハウも社内へ蓄積できます。
②事業成長が頭打ちになっている
既存の商品や顧客だけでは成長が難しくなった場合にも、他社との連携は有効です。
例えば、自社だけではリーチできない顧客を持つ企業と販売提携したり、自社サービスと相性の良い商品を持つ企業と共同提案したりする方法があります。
新商品を一から作らなくても、既存の経営資源の組み合わせを変えるだけで、新しい売上機会を作れる可能性があるのです。
③競合が強く自社単独では勝てない
合従軍そのものに最も近い状況です。
自社より規模・ブランド・資金力のある企業と正面から戦っても、競争条件が不利な場合があります。
その際は、自社の技術力、他社の販売力、別企業の顧客基盤のように強みを組み合わせることで、競争条件そのものを変えることができます。
「競合より強くなるには何を自社で改善するか」だけではなく、「誰と組めば競争優位を作れるか」という視点を持つことが重要です。
④新しい市場へ短期間で参入したい
新しい業界や地域へ参入する際は、その市場特有の商習慣や顧客ニーズを理解する必要があります。
自社だけで情報収集から始めると、参入までに時間がかかります。
既に市場内に顧客やネットワークを持つ企業と組めば、立ち上げを早められる可能性があります。
海外展開などでも、現地企業との提携や現地事情に詳しい専門家の活用が選択肢になります。
5.キングダムの合従軍が敗れた理由から学ぶ「協業の落とし穴」
『キングダム』の合従軍は、単純な兵力だけで考えれば秦にとって非常に大きな脅威でした。
それでも秦を倒すことはできませんでした。
もちろん、作中の敗因を単純に「組織連携の問題」だけで説明することはできません。
しかし、複数の組織が一つの目的のために動く難しさという点では、現代の企業間連携にも多くの示唆があります。
①目的は同じでも各組織の利害は異なる
合従軍には「秦を倒す」という共通目的があります。
しかし、それぞれの国は独立した国家であり、長期的な利害まで同じではありません。
企業間アライアンスでも同様です。
例えば「共同サービスを成功させる」という目的では一致していても、
- A社は新規顧客を獲得したい
- B社は自社技術を普及させたい
- C社はデータを蓄積したい
など、本当の目的が異なる場合があります。
この状態を放置すると、投資額や優先順位について意見が分かれやすくなります。
協業前に、各社が何を得たいのかまで明確にする必要があります。
②意思決定が遅くなりやすい
複数組織が関わるほど、意思決定に必要な関係者が増えます。
自社だけなら事業責任者の判断で進められる内容でも、「一度持ち帰ります」「法務確認が必要です」「経営会議に諮ります」という状態になる可能性があります。
その結果、せっかく複数企業のリソースを集めても、単独企業より意思決定が遅くなるケースがあります。
協業では、最初に意思決定のルールを決めることが重要です。
③成果・利益の配分でもめやすい
協業が成功した場合、「誰がどれだけ成果を得るのか」という問題も発生します。
例えば共同サービスの場合、
- 売上をどう分配するのか
- 顧客情報を誰が保有するのか
- 知的財産を誰が持つのか
- 追加投資を誰が負担するのか
などです。
事業がうまくいくほど問題が大きくなるケースもあります。
そのため、成功した場合のルールまで協業開始前に決めておくことが大切です。
④責任者が不明確だとプロジェクトが進まない
『キングダム』の合従軍には、各国の有力な将軍が集結します。
一人ひとりは非常に強くても、それだけで一つの軍として機能するわけではありません。
企業間プロジェクトでも同じです。
各社から優秀な人材を集めても、「全体を誰が統括するのか」が曖昧だと、それぞれが自社の事情を優先してしまいます。
協業では、各企業の担当者とは別に、全体最適で判断できるプロジェクトリーダーが必要です。
6.ビジネス版「合従軍」を成功させる5つのポイント
では、複数企業・組織による協業を成功させるには、何が必要なのでしょうか。
①共通の目的を明確にする
まず、「なぜ一緒に取り組むのか」を具体化します。
「新しい市場を開拓する」といった抽象的な目的だけでは不十分です。
例えば、「○年までに新市場で○億円の売上を作る」「共同サービスを○月までにローンチする」「既存顧客○社へ共同提案する」など、共通のゴールを具体化しましょう。
②各社が提供する強み・役割を明確にする
各社が何を提供するのかを決めます。
例えば、
- A社:商品・技術
- B社:営業・販売網
- C社:システム開発
といった形です。
役割が曖昧だと、同じ業務を複数社が行ったり、逆に誰も担当しない業務が発生したりします。
「誰が何をやるか」だけでなく、成果物と責任範囲まで定義するとよいでしょう。
③意思決定者を1人または少人数に絞る
企業間連携では、全員の合意を毎回取っているとスピードが落ちます。
そこで、
- 日常的な判断はプロジェクト責任者
- 一定額以上の投資はステアリングコミッティ
- 事業撤退は経営層
など、判断内容ごとに意思決定者を設定します。
合従軍のように異なる組織をまとめる場合ほど、全体を俯瞰できるリーダーが重要です。
④利益配分・KPIを事前に決める
成果の評価方法も統一しておきます。
例えば、売上、新規顧客数、利用者数、リード獲得数、開発進捗などです。
各社が違うKPIを見ていると、一方では成功でも、別の企業では失敗という状況になりかねません。
金銭的な利益だけでなく、顧客データや知的財産、実績など、各社が得る成果も整理しましょう。
⑤撤退条件も決めておく
アライアンスを始める段階では、成功する前提で話が進みがちです。
しかし、すべての協業が成功するわけではありません。
そのため、「○カ月以内に一定の成果が出なければ終了する」「KPIが一定水準を下回った場合は見直す」などの条件も設定します。
撤退条件を事前に決めておけば、成果が出ていないにもかかわらず、関係性だけを理由にプロジェクトを継続するリスクを抑えられます。
7.キングダムの函谷関の戦いから学ぶ「自社単独で戦わない」という発想
合従軍からビジネス上もっとも学びたいのは、「強い組織=すべてを自分で持つ組織ではない」という点です。
環境の変化が速い市場では、自前主義にこだわるほど成長が遅くなる場合があります。
自前主義にこだわると成長が遅れる
不足する能力をすべて採用・育成・開発で補うには時間がかかります。
特に新規事業では、「その能力が本当に必要か」すらまだ分からない段階があります。
そのため、初期段階では外部サービスや外部人材を利用し、事業が成長してから内製化する方法もあります。
「最初から持つ」のではなく、必要なタイミングで必要な能力へアクセスできる状態を作ることも競争力です。
競争と協調を使い分ける
企業経営では、「競合=敵」と単純に考えないことも重要です。
顧客獲得では競争していても、物流や技術基盤では共同化した方が双方にメリットがあるケースがあります。
どこで競争し、どこで協力するかを切り分けることで、競争力を維持しながらコストや開発期間を削減できます。
必要な機能だけ外部から取り込む
外部との連携は、必ずしも大規模なM&Aである必要はありません。
| 課題 | 選択肢 |
|---|---|
| 他社の技術・市場を丸ごと獲得したい | M&A |
| 両社の強みを長期的に組み合わせたい | 資本・業務提携 |
| 特定の商品やサービスだけ共同展開したい | アライアンス |
| 一時的に不足する専門性を補いたい | 外部プロ人材 |
| 定型業務を外へ切り出したい | アウトソーシング |
つまり重要なのは、「内製か外注か」の二択ではありません。
事業の目的やフェーズに応じて、最も速く成果につながるリソースの組み合わせを考えることです。
8.キングダム合従軍の史実を簡単に解説
『キングダム』の合従軍編は完全な創作ではなく、中国戦国時代の史実をベースにしています。
『史記』には、諸侯が秦の勢力拡大を危惧して連合し、秦へ攻め込んだものの、函谷関で秦軍の反撃を受けて敗走した旨が記されています。
一方で、史料に残されている記述は『キングダム』ほど詳細ではありません。
函谷関での各将軍の細かな配置や戦術、一騎打ち、人物同士のやり取りなどには、作品独自の脚色が多く含まれています。
そのため、「合従軍が秦へ攻め込み、最終的に敗れた」という大きな歴史の流れは史実をベースにしつつ、その過程をドラマとして膨らませたものが『キングダム』の合従軍編と理解するとよいでしょう。
9.まとめ|停滞を打破するには「自社だけで戦わない」という選択肢もある
『キングダム』の合従軍は、普段は敵対する複数の国が、強大な秦に対抗するために連合した戦略です。
現代のビジネスでも、自社単独では解決できない課題に対して、
- M&A
- アライアンス
- 業務提携
- 外部プロ人材の活用
などを組み合わせることで、競争力や事業スピードを高められる可能性があります。
特に、
- 新規事業を始めたいがノウハウがない
- 既存事業の成長が頭打ちになっている
- 強い競合に自社だけでは対抗できない
- 新市場へ早く参入したい
といった状況では、「自社をどう強くするか」だけではなく、「誰と組めば突破できるか」まで考えることが重要です。
一方で、複数の企業や人材が集まるだけでは、合従軍と同じように大きな力を十分に発揮できない可能性があります。
共通の目的を定め、各社の役割を明確にし、全体を統括するリーダーを置くことが欠かせません。
事業が停滞したときこそ、自社だけで解決しようとするのではなく、社外の技術・企業・人材まで含めて使える経営資源を見直してみましょう。
フリーコンサルタント.jpでは、新規事業、経営戦略、M&A、マーケティング、プロジェクトマネジメントなど幅広い経験を持つプロフェッショナル人材をご紹介しています。
社内だけでは不足する知見や経験を補いながら、プロジェクトを前進させたい場合は、外部プロ人材の活用も選択肢の一つです。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)





