製品やサービスの開発による事業展開を進めるには、市場調査が欠かせません。効果的な市場調査を行い、収集したデータを活用することで製品やサービスの開発、販売に役立てられるでしょう。
そこで今回は、市場調査について、マーケティングリサーチとの違いや実施するメリット、具体的な調査方法などを詳しく紹介します。過去の成功事例についてもまとめているため、市場調査を検討中の方はぜひ参考にしてください。
■目次
1.市場調査とは?
市場調査とは、過去のデータを用いて現在の市場を分析し、自社製品を効果的に売り出すための施策を立てることを指します。市場調査のほか、マーケットリサーチと呼ばれるケースもありますが意味合いは同じです。顧客が求めていることを把握し、現代の市場で自社の製品を効果的に売り出すには、市場調査を行うことが重要となります。
例として、新しく炊飯器を開発するケースを考えてみましょう。さまざまなメーカーで開発が進んでおり、自社製品をより強く売り出すためには、顧客のニーズや競合他社の状況を把握することが重要です。具体的なデータとして、以下のような市場調査を行います。
- 1世帯あたりの炊飯器の所有率
- 使用する年齢層
- 年齢層に対する価格層
- 買い替えのペース
- 炊飯器に求められている機能
- 競合他社の数や市場占有率
上記のように細かくデータを収集、分析することで、顧客ニーズに沿った施策が考案できます。また、競合他社の分析も同時に行うことで、自社の強みを打ち出していくにはどうすれば良いのかも自ずと見えてくるでしょう。
2.市場調査とマーケティングリサーチとの違い
市場調査やマーケットリサーチと混同しがちなワードとして、マーケティングリサーチが挙げられます。似たようなワードですが意味合いは異なるため、正しく理解しておきましょう。
2つの具体的な違いは以下の通りです。
それぞれ詳しく解説します。
過去と未来のどちらを重視するか
市場調査は、市場における過去から現在に至るまで、利用者数やシェア率などのデータを把握し、分析することを指します。一方でマーケティングリサーチとは、市場の現状を把握したうえで、今後の動きを予測して分析することです。
すなわち、市場調査は過去のこと、マーケティングリサーチでは未来のことを重視して分析を行います。
市場調査のように、過去のデータをもとに自社サービスや製品の現状に関して理解を深めることは非常に大切ですが、中長期的な見方をすると、マーケティングリサーチにより市場の将来について分析や予測することも極めて重要です。市場の将来について考えることで、自社の目標を達成するためにはどのようなことを行えばよいのかが明確になります。そのため自然と失敗のリスクを抑えることができ、目標達成へより近づけるでしょう。
目的
市場調査とマーケティングリサーチは、過去と未来という調査対象となるデータの時間軸が異なるため、その目的も異なります。
市場調査の場合、現在の市場を把握し、ニーズに基づいた新製品や新サービスの開発に役立てることが目的です。一方でマーケティングリサーチの場合は、市場の現在から将来像を予測し、今後の開発や販売戦略の検討に役立たせるために行います。
3.市場調査を行う3つのメリット
新製品の開発や販売に欠かせない市場調査には、3つのメリットがあります。
市場調査を行うことで得られるメリットについて、具体的に見ていきましょう。
①市場への理解が深まる
市場調査の実施によって、狙っている市場の規模やトレンドに加え、競合他社の動き、将来の成長性がわかります。
市場への理解を深めることは、新製品の開発や新規事業を立ち上げる際に非常に重要です。その市場で戦う前に、どれだけ勝ち目があるのか十分に調査しなければいけません。
あらかじめ市場に対する理解を深めておけば、戦略の考案のほか、そもそも進出すべきかどうか、あるいはすでに進出しているが撤退すべきかなどの意思決定に役立てられるでしょう。
②調査結果に基づいた事業が展開できる
市場調査を実施することで、顧客のニーズや好み、購買行動が把握できます。これらの顧客に関するデータを分析することで、製品やサービスの開発をより効果的に進められるでしょう。
さまざまなメーカーが、新製品の開発や販売、新規事業の展開を毎日のように行っています。その中で、顧客に受け入れてもらえるものを作り出すには、顧客のニーズを正しく理解することが極めて重要です。
顧客と同じ目線を持ち、顧客のニーズに合わせた製品やサービスの開発を進めることで、顧客満足度が上がり、自ずと事業も拡大していく可能性が高いでしょう。
③事業展開におけるリスクを抑えられる
市場調査によって、新製品やサービスの開発、販売を効果的に進めるだけでなく、事業展開におけるリスクについて理解することもできます。
たとえば、すでに市場で大きく展開している競合他社がいたり、自社の展開する市場の規模が小さすぎたりすると、思ったような売上に繋がらない可能性があります。また、社会情勢を踏まえ、顧客からのニーズに変化が見られることもあるでしょう。市場調査を行わずにただ自社商品を売り出しているだけでは、他社との差別化が図れず、顧客のニーズに沿った売り方ができないため、利益が減少してしまう恐れがあります。
このように、事業展開を行う場合はリスクがつきものです。完全にリスクをなくすことはできませんが、少しでも軽減して現実的なビジネス戦略を立てるには、市場調査が欠かせません。
4.市場調査の種類4つ
市場調査には、次の4つの種類があります。
どの調査も製品やサービスの開発に役立てられますが、得られるデータはそれぞれ異なります。4つの市場調査の種類について、順番に見ていきましょう。
①販促調査
販促調査はセールスプロモーションとも呼ばれ、顧客の購買意欲に対してアプローチを行い、実際に購買へと促す調査のことを指します。ターゲット層に合わせた広告やイベントをいくつか用意し、それぞれがどれだけのインパクトを顧客へ与えるのか調査することで、どのような訴求がターゲット層に刺さりやすいのかを調査することが可能です。
どれだけ素晴らしい製品やサービスであっても、必要としている顧客の目に留まらなければ、購買には繋がりません。調査時に評価が高かったものを実際の販促で採用することで費用対効果の改善が期待でき、収益の拡大を目指せるでしょう。
②価格調査
価格調査では、顧客に対して製品やサービスの詳細を説明し、どれくらいの価格であれば購入してもらえるかを調査します。
製品やサービスを販売するうえで、価格設定は非常に重要です。市場の相場よりも高すぎる価格設定にしてしまうと、どれだけ優れた製品やサービスであっても、なかなか購買につながりません。
一方で、価格を安く設定してしまうのも避けるべきです。価格が安ければ多くの顧客が手に取るかもしれませんが、利益が制限されたり、ブランド価値が下がったりします。これらを踏まえたうえで価格調査を行い、高すぎず安すぎもしない価格設定にすることが大事です。
③商品開発調査
商品開発調査とは、開発する製品やサービスのターゲットとなる顧客のニーズを把握するために、顧客が今使っている製品やサービスについて、どのような要望や不満を抱えているのかを調べることを指します。現状の課題を具体的にすることで、新しい製品やサービスの開発、改善のためのヒントになるでしょう。
なお、商品開発調査に限らず、調査内容はできるだけ精度を上げたほうが、より効果的な結果が得られます。商品開発調査であれば、要望や不満をより具体的に伺うために「現在使用している商品のどのような部分に不満があるか」「どういった商品があれば利用したいと考えるか」など、掘り下げた質問を用意すると良いでしょう。
④ブランドイメージ、認知度、満足度調査
ブランドイメージ、認知度、満足度調査では、自社や競合他社の展開する製品やサービスが、顧客からどのように認識されているかを調べます。自社だけでなく競合他社についても調べることで、自社の製品やサービスの特徴を客観視しながら比較、分析を行うことが可能です。
また、現状の問題点を確認したり、必要な改善策を探ったりするために利用することもできます。たとえば、競合他社と比較して自社の製品やサービスがあまり認知されていないようであれば、現状の販促やマーケティング戦略を見直す必要があるでしょう。逆に認知度に対して販売数が少ないようであれば、展開する製品やサービスの満足度に問題がある可能性があります。
上記のように自社の製品やサービスにどのような課題があるのかが発見できるため、ほかの市場調査と同様に、収益拡大に繋がる重要な調査です。
5.代表的な市場調査の方法
市場調査の方法は、次の11個が挙げられます。
今回は、3つの代表的な市場調査の方法に合わせて、具体的なやり方を解説していくので、ぜひチェックしてください。
定量調査
市場調査の方法として最初に知っておきたいのが、定量調査です。人数や規模、割合など、具体的に数字として把握できるデータを調べることができます。
調査結果が数量や割合といった具体的なデータで得られるため、誰から見ても説得力のある分析が行えるのがポイントです。数値で表したデータは、仮説の検証や需要予測の裏付けにも用いることができます。
ただし、説得力のある分析を行うには、調査分野の専門知識や、結果をわかりやすくまとめる文章力などのスキルが必要です。また、あらかじめ用意した質問事項に対して回答を行ってもらう形式でデータを集めるため、必要なデータに合わせて事前に質問を準備しておく必要があります。
インターネットリサーチ
近年でもっともオーソドックスな定量調査として挙げられるのが、インターネットリサーチです。アンケートサイトへ掲載する質問を用意し、そこで調査対象者からの回答を集めます。
定量調査といえば、これまで電話調査や郵送調査、訪問調査が用いられていました。これらと比較すると、コストを抑えながら短い期間でデータを集められるといった点で、インターネットリサーチは優れています。
ビッグデータ分析
ビッグデータ分析とは定量調査の手法の1つで、Webサイトのアクセス数や顧客の属性データなど、種類や形式を問わず、企業や組織のもとで日常的に集められる膨大な量のデータを用いる分析方法です。ビッグデータ分析を行うことで、事業展開などの際に活用できるデータを得られる可能性が高まります。
たとえば、ECサイトにおけるビッグデータとしては、ユーザーの購入履歴や閲覧履歴、クリック履歴が挙げられます。ECサイトにはインターネットを介して多くの人が毎日訪れるため、ビッグデータをもとに、顧客が求めている商品の分析が可能です。
郵送調査
調査票を調査対象者宛に郵送し、記入してから返送してもらう調査方法が郵送調査です。
インターネットリサーチと比べると、回収率の面では劣ります。しかし、インターネットリサーチはインターネットを利用しない人からの回答が望めない一方で、郵送調査であればどの世代からも満遍なく回答を得られるのがポイントです。
インターネットリサーチと同様に低コストで実施できるため、併用してみるのももよいでしょう。
会場調査
自社の製品やサービスを直接試せるイベントを開催し、その評価データを集めるのが会場調査です。
その場に集まった調査対象者から高確率でデータを収集できるほか、会場で調査を行うため機密性が保てるのもポイントです。一方で、イベントを開催する会場の手配や人手など、相応のコストが発生するデメリットもあります。
ホームユーステスト
調査対象者に指定した会場へ足を運んでもらう会場調査とは異なり、調査対象者の自宅に直接製品を届けて試してもらう方法がホームユーステストです。
イベント会場の手配が不要でありながら、製品を直接試したうえでの回答が得られます。一方で、調査対象者が実際に使用する様子は見られないため、直接試してもらう会場調査と比較すると分析結果に多少のずれが生じる可能性があります。
定性調査
具体的な数値データを調べる定量調査に対し、調査対象者の行動や言葉といった数値化できないデータを集めて分析するのが定性調査です。
数値化された量をもとに分析する定量調査と比べると、定性調査は質問への回答をもとに分析します。数字のような具体的なデータではありませんが、定性調査にはインタビュー形式での調査も含まれるため、その場で質問内容を臨機応変に調整することが可能です。状況に応じて踏み込んで質問することで、定量調査では得られないような結果が得られる可能性があります。
対面調査
調査対象者と対面で話しながらデータを集めるのが対面調査です。対面で行われるため、調査対象者の反応や表情を直接観察できます。定性調査のなかでもとくに信頼性が高いデータが集められるのがポイントです。
一方で、調査には時間やコスト、労力がかかる点には注意しましょう。また、調査対象者から回答を引き出すための調査員のスキルも問われます。
電話調査
電話で調査対象者から回答を得るのが、電話調査です。直接話しながら回答が得られるため、対面調査のようにデータを集められます。
対面調査と比べると、調査対象者が多くてもある程度効率よく実施できますが、一方で人によっては電話に出てもらえず、データが集められないケースがあります。
街頭調査
路上で対象質問者にインタビューやアンケートを行うのが街頭調査です。特定のエリアに訪れる人を対象に定性調査を行いたい場合に最適です。
しかし、回答が欲しくてもすべてのターゲットに答えてもらえるわけではない点には気をつけなければいけません。
覆面調査
顧客からデータを得る定量調査や定性調査とは異なり、自社や競合他社の接客サービスを調査するために行うのが覆面調査です。ミステリーショッパーとも呼ばれます。
第三者である調査員が何も知らない顧客の1人として、自社や競合他社を訪問し、接客サービスを調査します。顧客目線で自社や競合他社がどのように見られるのか調べられるため、定量調査や定性調査だけでは得られないデータが得られるでしょう。
6.市場調査を行い成功した事例
市場調査で得られたデータは、さまざまな形で活用できます。市場調査を活用して実際に成功した事例を3つ紹介するので、ぜひチェックしてください。
いずれも、名の知れた大企業です。これから紹介する3社でどのような市場調査が行われているのかを把握し、自社に応用できる部分がないか検討してみてください。
セブン&アイホールディングス
セブン&アイホールディングスは、国内でコンビニエンスストアやスーパー、レストラン、銀行、ITサービスといったさまざまな事業を展開する企業です。
セブン&アイホールディングスでは、独自の製品ブランド「セブンプレミアム」を展開しており、同ブランドから高品質で高価格の「金の食パン」を販売しています。しかし開発当時は安価な食パンが主流であったため、既存メーカーからは「高い食パンは売れない」と言われていました。
しかし、自社のビッグデータや、パン市場の競合を入念に調査した結果、顧客のニーズが、安いものから価格相応の美味しいものに移っていると分析したのです。結果として相場よりも高価格の「金の食パン」は予測通り大ヒットを記録しました。
ホーユー
ホーユーは、市販品市場のシェア率43%を占める日本の大手化粧品メーカーです。ヘアカラー商品の市販品市場は減少傾向にあることから、市販品市場の将来のためにも率先して以下3つの市場調査を実施しました。
- 店頭での行動観察調査
- 新規ユーザーへのデプスインタビュー
- 既存ユーザーへのグループインタビュー(ワークショップ)
とくにグループインタビューでは、店頭に置いていた見本が、顧客から商品選びの参考にされていないことが判明しました。そこで、他社もまきこみながら、見本は撤去する案が現在進行しています。
他にもPOPに記載する内容など、店頭に設置する販促ツールを刷新する動きが進んでいることから、市場調査をうまく活用した事業が進んでいると言えるでしょう。
アサヒビール
アサヒビールは、ビールやチューハイ、焼酎、ウイスキー、ワインなどアルコール飲料を国内で幅広く展開している企業です。
ノンアルコールビール「ダブルゼロ」を売り出すものの、シェア率2%と当初の売れ行きが伸びずに悩んでいました。そこでノンアルコールビールを飲む頻度やタイミングに関する定量調査を行った結果、顧客はノンアルコールビールに対して「低カロリーよりもビールと同じような味」を求めていることが分かりました。
上記の調査結果を踏まえて新商品の開発を進め誕生した、ビールに近い味のノンアルコールビール「ドライゼロ」はシェア率24%と「ダブルゼロ」を大きく上回る売れ行きを記録しています。
7.市場調査の進め方
市場調査の主な進め方は、次の通りです。
- 目的とゴールを設定する
- 市場調査にかけられる予算の検討
- 市場調査の方法を選定する
- 質問事項を決める
- 実際に調査を行う
- 集まったデータの分析
- 意思決定
市場調査を行う際は、最初に目的とゴールを決めましょう。何のためにやるのか、どこを着地点とするかによって、今後の方針が具体的になります。
続いて市場調査にかけられる予算を決めてから、市場調査の方法を選定します。調査方法を決める際は、自社、競合問わず、すでに実施された調査結果を収集し、どんな結果が得られているのかを踏まえて調査方法を考えると良いでしょう。細かく調査を行うことで、これまで気が付かなかった顧客ニーズや、自社の強みを発見できる可能性が高いです。
調査方法が決まったら質問事項を詳しく決めます。そして、調査方法がまとまったら実際に市場調査を開始します。調査後は、集まったデータをまとめて分析し、必要な意思決定を行いましょう。
より具体的な進め方については、こちらを参考にしてください。
8.市場調査に関するよくある質問
市場調査を行うにあたって、あらかじめ知っておきたい事項を2つ紹介します。
どちらも市場調査を行う際に重要な部分となるため、事前にチェックしておきましょう。
海外の市場調査はできる?
国内だけでなく、海外でも市場調査は可能です。
製品や事業の海外展開を視野に入れるのであれば、必ず海外市場を対象にした調査は行いましょう。日本と海外では文化がまるで異なる場合があるため、市場の事情も大きく違う場合があります。市場規模やニーズ、競合他社に加え、規制や法律、慣習といったものも詳しく調査しましょう。
市場調査にかかる費用や期間は?
市場調査には、いくつかの調査方法があります。調査方法によってはコストを抑えることも可能ですが、相応の費用や期間は必要です。
定量調査は1万〜100万円ほど、定性調査であれば10万〜300万円ほどを目安にするとよいでしょう。また、市場調査を企画してから意思決定までの期間は1ヵ月半ほどとされています。
9.まとめ
市場調査とは、現在の市場の状態を具体的なデータを用いて分析し、自社の製品を効果的に売り出すために施策を立てることです。
市場調査を効果的に実施することで、分析に必要なデータが収集でき、それらを活かして製品やサービスの開発や販売を行えるほか、事業展開のリスクも抑えられます。市場調査を活用して、市場の現状やリスクを踏まえながら製品やサービスの開発や販売に役立てましょう。
しかし市場調査を効果的に実施するには、調査する分野の専門的な知識や文章をまとめるスキルが求められます。「市場調査を行いたいけど知識やスキルに自信がない」「調査をしているリソースが足りない」といった場合には、外部のプロフェッショナルを頼るのも1つの選択肢です。
みらいワークスは、国内最大級の19,000名以上が登録しているプロフェッショナル人材データベースを運営している企業です。
市場調査に必要なスキルを持ったプロの人材をお探しの場合は、お気軽にお問い合わせください。