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最終更新日:2024.08.26
人事/組織構築/業務改善

リスキリングとリカレント教育の違いを徹底解説!メリット、デメリットから導入事例まで紹介

急速に技術革新が進むに伴って「リスキリング」や「リカレント教育」が注目を集めています。2020年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で「リスキリング革命」という単語が使われたことをきっかけに、日本だけでなく世界的にも従業員の再教育についてニーズが増加することとなりました。

しかし、リスキリングやリカレント教育などの言葉が浸透していくのとは裏腹に、2つの違いがあまり分かっていない方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、リスキリングとリカレント教育の違いについて詳しく解説します。リスキリングやリカレント教育に力を入れるメリット、デメリットや実際の導入事例にも触れるので、今後の教育体制について悩んでいる人は参考にしてみましょう。

1.リスキリングとリカレント教育の違い

まずは、リスキリングとリカレント教育の違いについて解説します。

リスキリング

リスキリングとは、必要とされるスキルの大幅な変化に伴う「学び直し」を意味する言葉です。つまり、全く新しいスキルを習得することがリスキリングであると捉えると良いでしょう。特に「全く未経験の職種に就職、転職、異動を行うとき」「今の仕事で新たなスキルが必要になったとき」には、リスキリングが必須になります。

なお、リスキリングが注目を集めるようになった背景のひとつに、爆発的なスピードで進む技術革新が挙げられます。一昔前にはなかったAIやデータサイエンスの活用幅が格段に広がったことにより、当然ながらAIやデータサイエンスを使いこなせる人材が必要となりました。

一方で技術革新に人材の教育が追いついておらず、変化に対応しきれていないのも現状です。そのため、リスキリングによる最先端技術の習得が急務となりました。
スピーディーに変化する市場動向や多様化する顧客ニーズについていくために、リスキリングは必須の項目になりつつあります。

リカレント教育

リカレント教育とは、学校教育を離れて社会に出た後でも、必要に応じて再び教育を受け、また就職するといった学習と就労のサイクルを構築することです。リスキリングが実務と並行しながら学ぶことがほとんどであることに対し、リカレント教育は一度実務の現場を離れます。

たとえば、キャリアアップに必要なスキルや知識、技術の不足を感じた場合、休職したうえで職業訓練や大学などの学習機関へ通うことができます。このように、必要なスキルを個人が好きなタイミングで学習する仕組みを作ることで、忙しい社会人でも新しい知識や技術を身に着けることができるのです。

研修を受け、必要なタイミングで再度仕事に戻るサイクルを構築できるため、学びの負担が少なく、短期的に集中してスキルを習得できるのがリカレント教育の強みです。
なお、学習内容は多岐に渡り、会社の部署単位で実施される「集合研修」から「社会人入試を使った大学院や専門学校への進学」など個人単位での取り組みまで学べます。

生涯学習との違い

生涯教育とは、その名の通り生涯を通して学習や個人で通う趣味のスクールや対人関係の学びなど、内容は多岐にわたります。学びに関することであれば何でも「生涯学習」に含まれるため、リスキリングもリカレント教育も生涯学習の一貫であると捉えることが可能です。

ただしリスキリングは業務に役立つ最先端技術を学ぶことであり、リカレント教育は実務の現場を離れながら仕事に役立つスキルを習得することです。仕事と直接関係ないことも含めて学習する生涯学習とは、本質が異なることを理解しておきましょう。

2.リスキリングとリカレント教育が注目されるようになった背景

ここでは、リスキリングとリカレント教育が注目されるようになった背景を解説します。

常に学び続ける姿勢が大事であるなか、なぜ特にリスキリングやリカレント教育のニーズが増大しているのか確認してみましょう。

リスキリングが注目されるようになった背景

リスキリングが注目されるようになった背景として、2020年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において「リスキリング革命」という言葉が使用されたことが関係しています。

最先端技術に対応できる人材の不足は世界的にも大きな課題となっており、AI、データサイエンスを活用し、DXを実現するための教育が急務とされました。その後、経団連が発表した「新成長戦略」でもリスキリングの必要性について述べられており、日本国内でも注目度が高まっています。

リカレント教育が注目されるようになった背景

リカレント教育が注目されるようになった背景には、2017年に首相官邸が発表した「人生100年時代構造会議」があります。

人生100年時代となったことにより個人の現役時代が長くなり、その時々に合った学び直しが求められるようになりました。一方、仕事と学習を両立する難しさやワークライフバランスの課題から、仕事と学習を切り分けるリカレント教育が注目を集めているのです。

3.企業がリスキリングやリカレント教育を導入する3つのメリット

ここでは、企業がリスキリングやリカレント教育を導入するメリットについて解説します。

コストと手間をかけてでも一般の教育、研修を行うメリットを知り、自社で導入する場合についてもイメージしてみましょう。

①採用コストが削減できる

リスキリングやリカレント教育のニーズが伸びている昨今、教育に力を入れている企業は採用市場で注目されやすくなります。

「従業員教育に力を入れている会社」「個人のスキルアップも応援してくれる会社」などポジティブなイメージに繋がるため、求職者からの応募も多くなります。そのため、質の高い人材を採用しやすくなるほか、ひとり当たりの採用コストも安くなることが大きなメリットです。

また、入社後の教育に力を入れることで従業員満足度が高くなり、離職者が減るのもひとつのメリットとして挙げられます。人が頻繁に入れ替わらないため、そもそも採用にかけるコストも手間も少なくなり、優秀な人が定着しているからこそノウハウもナレッジも蓄積されていきます。さらに、従業員から知人や友人を紹介してもらうリファラル採用などの低コストな採用手法も使いやすくなるため、リスキリングやリカレント教育に力を入れるのは企業にとっても良いことであると言えるのです。

②業務が効率化できる

リスキリングやリカレント教育で業務に必要なスキルを習得した人が増えれば、その分業務効率があがります。時代に合った最先端技術を使いこなしてDX化できたり、業務のミスを予防するシステムができあがったりすることで、従業員のスキルを平準化できるのもメリットです。

スキルのある人材が増えれば増えるほど「人事部門で最適なタレントマネジメントができるようになる」「生産部門でその時々に応じた最適な仕入れ額を自動計算できるようになる」など、自社リソースの最適な分配ができるようになります。なお、リソースの最適な分配は収益向上施策としても有効なため、今の知識だけでは難しい新たなアイデアも生まれていくでしょう。

③社員のキャリア育成につながる

リスキリングやリカレント教育は、社員のキャリア育成としても有効です。個人のスキルアップを意識することで、自己成長や仕事へのやりがいを感じられるようになり、ワークエンゲージメントが高くなります。その結果「昇進、昇給を目指す人が増え、ポジティブな競争が生まれる組織になる」「年齢に関わらず自己成長できることで、キャリアに明るい展望を抱けるようになる」など副次的な効果も現れます。

今の段階で十分な社員教育ができておらず、個人のスキルやモチベーションも欠けているのであれば、リスキリングおよびリカレント教育に力を入れてみるのがおすすめです。業務に直結するスキルを学ぶからこそ業務内で活かせるポイントも多く、学びが仕事に活きる楽しみを感じられるでしょう。

4.リスキリングとリカレント教育を導入する際の3つの注意点

リスキリングやリカレント教育には多くのメリットがありますが、一方で注意点もあります。

デメリットでもあるため事前にチェックし「こんなはずではなかった」というミスマッチを予防していきましょう。

①手間やコストがかかる

当然ながら、リスキリングやリカレント教育には手間とコストがかかります。

リスキリングを導入する場合、高度な専門技術を習得するための学習プログラムや、外部講師を呼ぶ際には、指導料などが必要です。またリカレント教育の場合、休職しながら学ぶことが前提となるため、復職に関する社内規則や人事システムの構築が必要なほか、休職中の社会保険料負担など金銭的な課題も発生します。

リスキリングやリカレント教育を無意味に行い予算を無駄にしないためにも、自社がなぜリスキリングやリカレント教育に力を入れるのか、目的意識を可視化しておく必要があります。そのうえで、リスキリングやリカレント教育で得られそうなメリットや効果、解決できそうな課題をピックアップし、コストと手間をかけるだけの価値があるかを慎重に判断しましょう。

②学習内容を活かせるようにサポートする必要がある

せっかくリスキリングやリカレント教育でスキルアップしても、実務に役立てることができなければ意味がありません。個人のスキルが伸びても会社側が活躍の場を設けられていない場合、会社にとってデメリットとなるだけでなく、個人のやりがいや自己成長を奪う要因にもなります。

また、リスキリングやリカレント教育の制度が形骸化してしまうと「メリットはあるはずなのに誰も前向きにやろうとしない制度」として残ってしまいます。制度が形骸化してしまっては、自社で取り入れた意味が無くなってしまうため、そもそもどんなスキルが必要なのか、得た知識を実務でどう活かすのかまで深掘りして考えた学習プログラムを導入しましょう。

リスキリングやリカレント教育を導入する際は「身に着けたスキルを仕事に役立ててくれるはず」という期待感からズレないよう、一人ひとりが活躍できる環境を整えることが重要です。

③社員が転職してしまうリスクがある

個人のスキルアップが叶った結果、その社員がより条件の良い会社に転職してしまうことも考えられます。

「ヘッドハンティングされてあっさり転職してしまった」「リスキリングしているうちに新しい仕事に興味が出てしまった」という声も珍しくないため、リスキリングやリカレント教育が必ずしも自社のためになるとは限りません。むしろ同業他社に塩を送る結果となってしまい、手間とコストをかけた分だけのリターンが得られないこともあります。

優秀な社員を逃さないためには、リスキリングやリカレント教育を受けてスキルアップした人材を正しく人事評価するシステムが不可欠です。スキルアップを歓迎し、スキルアップの内容やレベル感に応じて少しずつ待遇が上がっていけば、むやみに転職されてしまうリスクを抑えられます。また、学びに応じて配属先を変えるなど、フレキシブルな人材配置案も検討していきましょう。

5.リスキリングとリカレント教育の導入事例4つ

ここからは、リスキリングやリカレント教育の導入事例を解説します。

他社でどのような取り組みをしているのか知り、自社でも役立ちそうな要素がないか目を通してみましょう。

【リスキリング】富士通株式会社

富士通では、エンジニアやプログラマーなどIT系専門職に対するリスキリングに力を入れており、最先端テクノロジーのスキルを習得できる教育プログラム「Global Strategic Partner Academy」を導入しています。

初心者から経験者まで幅広く活用できるエンジニア向け学習コンテンツであり、自分のレベルに合わせて内容を選択できるのがポイントです。より短期間で実務に役立つスキルを習得できるため、個人のやりがいや学習意欲の向上にもつながっています。

なお「Global Strategic Partner Academy」はプログラミング学習プラットフォームなどを提供しているテックピット社と共同で開発されたシステムであり、大手企業とIT分野に強い企業とのコラボレーションで生まれていることがわかります。上手に外部の専門家と協働しながらリスキリングしている事例としても参考になるでしょう。

【リスキリング】Amazon.com,Inc.

Amazonでは2025年までに7億ドルをリスキリングに投下すると発表しており、従業員ひとりあたり約7,000ドルのコストをかけるという規模感から大きな注目を集めました。特に、技術職以外の従業員を技術職へ移行させる「アマゾン技術アカデミー(Amazon Technical Academy)」が話題となり、人材不足で悩みやすいIT系専門職の育成、教育に力を入れています。

また、機械学習スキルを伸ばす「機械学習大学(Machine Learning University)」を社内教育機関として設け、IT系専門職以外のデジタルスキルも底上げできるようにしました。全社的かつ大規模な取り組みであり、リスキリング先進企業として今後も注目されることが予想できます。

【リカレント教育】H&M

スウェーデンの会社であるアパレルブランドH&Mでは、従業員のリカレント教育を促進しています。

もともと有給の取得率が高く、産休、育休、介護休暇などを取りやすい社風であった強みを活かし、外部でのスキルアップを目的とした休暇制度を確立しました。結果、MBA(経営学修士)取得を目的とした大学院進学や専門学校への通学を希望する人が増え、自発的なスキルアップができるような社風になっています。

上記のような学び直しを歓迎するビジョンを浸透できたからこそ、リカレント教育に取り組むと決めた際は、上司や同僚からも背中を押してもらえるのがH&Mの良さのひとつです。大学で学び直しを行いながら30年以上勤務する社員もいるなど、多様な働き方を認めています。

【リカレント教育】ソニー株式会社

ソニー株式会社では「フレキシブルキャリア休職制度」を導入しており、配偶者の海外赴任で退職せざるを得ない社員や学び直しをしたい社員を支援しています。最長5年の休職を認める制度のため、その期間中に大学院や専門学校に通うことができ、個人の興味、関心に基づいて自由な学びができるようになりました。優秀になって帰ってくるであろう従業員を雇い続けることができるので、ソニー側にとってもメリットのある取り組みだと言えます。

この取り組みは、リカレント教育に興味のある層だけでなく海外赴任に不安を持つ層からも高く評価され、約70名もの社員がフレキシブルキャリア制度を活用しています。海外展開しているソニー株式会社ならではの特性を活かしたリカレント教育制度であると言えるでしょう。

6.リスキリングとリカレント教育を導入する際の3つのポイント

最後に、リスキリングやリカレント教育を導入する際のポイントを解説します。

より効果的な人材育成をするため、下記を参考にしてみましょう。

①教育支援を充実させる

自社の業務に必要なスキルが何か、スキルアップのためにはどんな研修プログラムが必要かを可視化し、教育支援を充実させることが大切です。スキルアップに役立つビジネススクールやプログラミングスクールの受講料を一部負担したり、自宅で手軽に使えるeラーニングシステムを構築したりするのも良いでしょう。場合によってはプロの研修会社や人事コンサルティングなどを活用し、自社に必要なことをリストアップしていきます。

②学習環境を整える

リスキリングやリカレント教育が形骸化しないよう、学習環境を整えることも必要です。たとえばリスキリングの場合、年齢、階層、役職、部署問わず参加しやすい研修の場を用意したり、研修に参加した人へインセンティブを付与したりなどの工夫を行うと良いでしょう。社員から見たときに、最小限の手間で気軽に参加できるようになれば、会社全体のリスキリング気運を高められます。

また、リカレント教育の場合、休職後でも復職しやすい制度を整えることが欠かせません。さらに「休職中に仕事を代わってもらう同僚に迷惑がかかるのでは」「特定の人だけお金をかけてリカレント教育してもらう不平等さがあるのでは」という心配を払拭し、なぜリカレント教育するかという目的意識を社内の隅々まで浸透させておくことも必要です。直接リスキリングやリカレント教育を受けない人が同僚の学びを歓迎できるよう、社風の改善からおこないましょう。

③外部リソースを活用する

アウトソーシングできる場所はアウトソーシングし、教育、研修のレベルアップを図ることも大切です。高度な専門技術を習得したい場合、専用のスクールや研修会社を頼った方が短期間で効率よく学べます。同様に、研修プログラムの考案にはコンサルタントを、リスキリング(またはリカレント教育)に伴う社内規則の改定には社労士を頼るなど、別の角度から専門家を頼ることも必要です。

全てを自社で内製化することも可能ですが、内容次第ではかえって手間とコストが膨らんでしまうので注意しましょう。内製化するメリット、デメリットとコストを可視化しながら、より素早く効率の良い方法を選んでください。

7.まとめ

リスキリングやリカレント教育は従業員個人のスキルアップになるだけでなく「業務効率の向上」「採用コストの低下」など自社にとっても多くのメリットがあります。必要性が高まっている今だからこそ支援してくれる外部の専門家も増えており、多彩な選択肢が増えているのでチェックしてみましょう。

みらいワークスでは、国内最大規模のプロフェッショナル人材データベースより、企業課題を解決する、人材マッチングサービスを提供をしています。
「リスキリングとリカレント教育どちらが自社に合っているかわからない」
「理想的なリスキリングプログラムを一緒に考えてほしい」
など、悩みがあるときはお気軽にご相談ください。




(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

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