Vol.2 能力がある人材ほど、働き方や仕事を選べる時代へ。
企業も遅れず恐れず、新しい挑戦を取り入れて。
エンタープライズ・デジタル・ソリューションズ本部
チーフ コマーシャル オフィサー アジア 三井 俊男 氏
※役職は、インタビュー実施当時(2019年9月)のものです。
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
1982年、米GE(ゼネラル・エレクトリック・カンパニー)と横河電機株式会社の合弁により、横河メディカルシステム株式会社として設立(2009年、現在の社名に変更)。グローバル企業の強みを生かしてCT・MRI・超音波診断装置の開発・製造・販売・サービスおよびバイオテクノロジー関連事業を展開し、大手ヘルスケアカンパニーとして日本の医療の課題解決に取り組む。本社を東京・日野に置くほか、全国約60か所に営業・サービス拠点を有する。2018年12月期売上高は1392億円、従業員数は約2000名。
アメリカでの就業経験も長い同社執行役員の三井俊男さんと人事本部の小田さんに、フリーランス人材活用のポイント、コンサルティングファームとフリーランスの違い、副業に対する考え方、今後の展望などについて、幅広くお話をうかがいました。
プロとの仕事や副業を通じて得た「学び」をビジネスに活かしてほしい
三井さん(以下、敬称略):別の部署でも見ている人は見ているもので、フリーランスの方の働きぶりに「すごい人が入ったと聞きました」「うちでも手伝ってほしい仕事があるのですが」といった話がすぐにきました。それ自体も歓迎すべきことですが、一方で私としては、ミッションに向かって主体性をもって動ける彼女のような人材をさらに増やしたいと考えています。
小田さん(以下、敬称略):フリーランスという言い方ではありませんでしたが、個人事業主として起業した者はおりました。あと、社員として勤務するかたわら、副業でほかの仕事を始めているという者もでてきています。御社の副業に対するスタンスを教えてください。
小田:当社では、社内規定の範囲内での副業を認めており、副業をもつ社員がでてきています。報酬を得ること・増やすことが目的というよりも、社会貢献や自分の学びを目的とした仕事がしたい、自分のライフワークとなる仕事を請けたいと考えての副業が多いです。内容としては実にさまざまで、週5日は当社で働き、週末の時間を使ってコンサルティングの仕事を請け負っているケース、医療機関で技師として働きたいというケースなどがあります。会社としては、当社で高いパフォーマンスを発揮しているというのが大前提で、当社のビジネスに影響のない範囲で認めています。同時に、副業のような越境体験を通じて得たいろいろな経験や学びを当社のビジネスに持ってかえってきてもらえることを期待しています。人材を求める企業と話をしていると、フルタイムのフリーランサーだけではなく、副業として仕事を請けられる方のほうがニーズに合致するというケースも少なくありません。御社のように柔軟な考え方で、副業を「ぜひ」と言ってくれる企業が多くなれば、企業とビジネスパーソンのハッピーなマッチングがより増えるだろうと感じます。しかしながら、副業解禁が盛んに謳われ、副業推進を打ち出す企業も増えつつあるなかにあっても、本音のところでは「社員には副業をしてほしくない」と考える経営陣がいまも散見されます。
小田:「本当は副業をもってほしくない」というのは、本業がスローダウンすることへの恐れなのでしょうね。
三井:私自身は、「副業をもってくれるからこそ、本業がもっとできるようになる」と見ています。外に人脈がある人、いろいろな観点をもてる人というのは、馬力が全然違いますから。入ってくる情報量も違ってくるでしょう。
社外のコンサルに求めるもの、社内の事業運営に求めるもの
三井:今回私たちが必要としていたのは、コンサルティングというよりも、実際に中に入って自分でやり遂げられる方です。コンサルティングは、お金さえ支払えばいくらでもお願いすることができますが、「最初だけ外から支援しますので、あとは中でどうぞ」となることが多い。そうではなく、実際に会社の中にがっちり入って仕事を回し、事業を進めてくれる方でないといけなかったのです。実際の事業運営では非常に泥臭い仕事も生じます。物事を前に進めるために、道なき道を切りひらき、泥にまみれることも厭わない方を欲していたのです。その辺にすっと置いてあるものを「動かしてください」と言って動かせるような人なら、いくらだっているわけですから。今回入ってくださったフリーランスの方は、そうしたニーズに十分応えてくださっています。彼女のようなタレントが、フリーランスも含めた柔軟な雇用形態に興味をもち、我々が一緒に仕事をすることができたのは幸運だと感じます。みらいワークスとしても、企業と人材のマッチングの難しさは強く感じているところです。プロフェッショナル人材を必要としている会社もあり、仕事を探している人材もいるのですが、それらの需要と供給がそのまますんなり結びつくケースはほとんどありません。その点は、スペックの決まった商品やサービスを希望条件で探すのとはまったく違います。企業と人材の間にみらいワークスが入り、需要と供給がうまく合致するような“ストーリー”を仕立てることで、企業とプロフェッショナル人材の双方がハッピーになるマッチングが生まれる。今後もその点には注力していきたいと考えています。
三井:ソリューションセリングですね。当社のビジネスでもその必要性は大きく感じるところですが、人材の場合は多種多様ですからなおさらでしょう。カタログに書いてある商品をスペックで選んで、「はい、こちらの商品をどうぞ」というわけにはいきませんから。そのマッチングの妙は、人材を求めている企業にとっても、働くプロフェッショナル人材にとっても、心強いサービスだと感じます。今回、フリーランスの方に仕事に取り組んでもらううえで、何か気をつけられた点はありますか?三井:フリーランスの方に仕事をお願いする際に重要なのは、ミッションを明確に伝え、共有することです。仕事のスタイルは1人ひとり異なりますが、プロフェッショナルの方に対して細かいタスクを都度指示するのは仕事が進めにくくなり、モチベーションの低下を招きかねません。会社側としても非効率的です。もちろん、仕事をするために必要なフォローは行なうべきですが、フリーランスの方がパフォーマンスを最大限発揮し、結果としてビジネスに貢献してもらえるようにするための進め方を考える必要があると思います。日本企業では、マネージャーが細かい指示を出したり都度の進捗報告を求めることが多いですが、フリーランスの方と仕事をするうえでは、定めたゴールへ向かう道筋を担当者に任せ、アウトプットで評価するというマネジメント手法を理解する必要もありますよね。
人材の流動性を高め、多様な経験を生かせる社会になってほしい
三井:アメリカで同じ仕事をしているチームと日本で仕事しているチームとを比べると、派遣就業者の割合は日本のほうが多く、アメリカは多くのパーマネントの社員を雇っています。
アメリカには雇用にフレキシビリティがあるから、社員を雇いやすいのです。対して日本は、正社員の雇用にフレキシビリティがないので、派遣就業者で調整せざるを得ません。こういうところが変わっていくと、会社側も雇用というものをもっと柔軟に考えられるようになり、流動性を高められるのではないでしょうか。
また日本では、一旦乗った“線路”にずっと乗っていかないと脱落者と見なされがちです。この価値観を変え、働く人がもっと転職しやすくなるようにしないといけません。
アメリカの場合は、「この“線路”に一旦乗ったけれども、自分には合っていないな」とわかったら、あるいは「トライしたけれども失敗した、今度はこっちでトライしてみたい」と考えたら、“線路”を移ることに何の抵抗もないどころか、むしろ奨励されています。その背景にあるのは、「経験は大切なものである」「違う道を歩んできた経験をもつ人は重要な人材である」という認識や、「かつて失敗した人は次こそは成功するのではないか」という期待です。日本の場合は、ひとつの道を究めてスペシャリストになるというのが王道だとされます。しかし、ビジネスの寿命が短くなってきている今、そうして進んできた末にその事業自体がだめになったら、その道のことしか知らないスペシャリストはどうなってしまうのだろうと懸念します。私が採用に関わるときは、多様な経験をしてきた方、ちょっと変わった経験をしていてその経験を次の新たな仕事に活かしたいと考えるような方に、できるだけ多様な機会を与えられるようにと考えています。
人は過去の成功体験にとらわれてしまうと、変化を恐れ、新しい方向に動きづらくなることが往々にしてあります。社員にしろフリーランスにしろ、それまでの経験を活かして新しい挑戦をすること、既存の事業や業務を新しい方向にもっていくことを考えて欲しいと思っています。
会社に所属していると仕事の領域が一定の範囲に決められてしまうことが多いですが、フリーランスの場合は実力さえあれば自分で仕事を選び、多様な仕事に携われる可能性があります。実力のある人ほど、会社から出て新しいチャレンジをする動きは加速していくと考えています。
小田:フリーランスのあり方は、5年前、10年前と比べれば大きく変化しており、今まさに追い風が吹いていると感じます。けれど日本ではまだまだ、社会保険などの仕組みも正社員のほうがメリットを受けやすい構造になっています。経済産業省も「柔軟な働き方を推進したい」という考えをもち、さまざまな取り組みを進めていますが、そうしたインフラをフリーランス人材に向けて整えてもらうことができれば、一層フリーランスの活躍が進むでしょう。それは、会社にとっても、働くビジネスパーソンにとっても、プラスに働くはずだと思います。