専門的な知見の補完と組織の構築を求め、
外部人材を執行役員として採用。
その効果と“お試し稼働”サービスの利点とは
MIRARTHホールディングス株式会社(旧・株式会社タカラレーベン)
執行役員 経営管理本部長 兼 グループ人事戦略部長 兼 社長室長 山地 剛 氏
今回取材にご協力いただいたMIRARTHホールディングス株式会社(旧・株式会社タカラレーベン)は、2022年に創業50年を迎えた歴史ある企業です。不動産事業をコアとしつつ、事業の多角化なども積極的に展開。2022年10月には持株会社体制へ移行し、不動産業界という枠にとどまることなく進化を続けています。
そのMIRARTHホールディングスグループにおいても、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は重要なテーマ。2021年5月に発表した中期経営計画において「DX推進による生産性の向上と新たなサービスの創出」を柱のひとつに掲げ、DX推進組織を設けて取り組みを行っています。その旗振り役の一人が、社外から執行役員として迎えたプロフェッショナル人材です。
人事部門とDX推進部門を管掌し、外部人材の採用を担当したのは、MIRARTHホールディングス株式会社で執行役員 経営管理本部長 兼 グループ人事戦略部長を務める山地剛さん。その山地さんに、外部人材採用の経緯や、採用にあたって利用した「大人のインターン」についてお話をうかがいました。
MIRARTHホールディングス株式会社(旧・株式会社タカラレーベン)
1972年の創業以来、一貫して「誰もが無理なく安心して購入できる理想の住まい」をコンセプトに、人生の「宝」となる住まいの提供を手がける。グループの主な事業は、自社ブランドマンションおよび一戸建新築分譲住宅の企画・開発並びに販売、エネルギー事業、ホテル事業、建替・再開発事業、海外での不動産販売事業など。2004年3月に東証一部上場。2022年10月に持株会社体制へ移行し、商号を「株式会社タカラレーベン」から「MIRARTHホールディングス株式会社」に変更。「不動産総合デベロッパー」の枠を超え、「人と地球の未来を幸せにする未来環境デザイン企業」への進化を目指す。
※役職は、インタビュー実施当時(2022年12月)のものです。
外部のプロフェッショナル人材に役員就任をオファーした理由とは
その強化の一環として、ITに力を入れてDXを推進するという方針が中期経営計画の柱の一つとして掲げられ、DX推進を担当する部門を編成。しかし、ITについて明るく、DX推進の旗振り役となってチームや業務を率いていくことのできる人材が社内にいないという実状がありました。
それだけなら、外部人材に業務委託で入っていただくという選択肢もあったかもしれません。しかし当社としては、これから中長期的にDXを推進するにあたり、社内で組織をつくり上げていく必要があると考えていました。そのためには、ITに関する知識や経験はもちろん、チームを率いていくマネジメント能力も有する人材にエグゼクティブクラスとして会社の中に入っていただき、マネジメントも含めて体制をつくっていっていただきたかったのです。
他方、従来の中途採用のように、求人サイトなどを活用して社員を募集するという選択肢もあるでしょう。当社はこれまでにも中途採用を多数行っており、採用経験もありました。しかしながら今回は、すでに運営ノウハウがある不動産事業の現場部門での採用ではなく、DX推進という新たな部門での採用。しかも、エグゼクティブクラスに就いていただく人材の募集です。
組織をつくり上げていただくためにも、またエグゼクティブクラスの就任という面からも、当社としてはある程度長い期間、仕事をしていただきたいという思いがありました。そのため、人物を慎重に見極める必要を感じていました。もちろんそれは、入っていただく人材の方にとっても同様で、思うような働き方が当社でできるかどうか懸念をおもちになるところもあるはずです。
そこで、みらいワークスの「大人のインターン」を利用して、人材を募集することにしました。正社員採用を前提として、まずはプロフェッショナル人材に業務委託で入っていただく。そして“お試し期間”の間、一緒に仕事をして、お互いに合意すれば正式に社員として入っていただく、という流れを踏むことで、フィットするかどうかをお互いに見極める時間がもてる「大人のインターン」は、非常に望ましいサービスではないかと考えました。
人材の能力やフィット感を見極められる“お試し期間”の重要性
まず、エグゼクティブクラスの役割を務めることができるようなプロフェッショナル人材であれば、業界知識やビジネスモデルは少し勉強すれば理解してもらえるであろうと思ったのが1つ目の理由。2つ目の理由は、井関さんに入っていただくDX推進業務においては、既存の先入観がないことがプラスに働くのではないかと考えたからです。
不動産業界はDXが遅れていると言われている業界。そしてDXは、デジタルの活用を通じて組織やビジネスにイノベーションや変革を起こすものです。そのDXの推進という点でいえば、業界での経験値が高く先入観があるほど、変革やイノベーションを起こしづらいという面があるのではないかと考えたのです。
ですから、業界知識があることよりも、既存のやり方を知らないところから業務プロセスや成果物をフラットに見たうえで、どう変えていくかを考えていける力のほうが大事だととらえておりました。
今回の募集でお会いしたのは井関さんだけ。私が人事部門とDX推進部門を兼務で管掌していたために話が早かったというところもあると思いますが、当社はよくも悪くも決断がスピーディーで、「まずはやってみて考えよう」という社風があります。担当役員も即決でした。
そうして実際に入っていただき、まずは“試用期間”として業務委託からスタートしました。基本的には正式採用を前提とした業務委託ではありましたが、こちらの求めるものと違うと思うところがあれば、そういう結論に至らない可能性もありました。しかし、蓋を開けてみると期待していた以上の人材でした。
井関さんのすばらしいところは、ITやDXに関してすぐれた知見を備えているだけでなく、社員をきちんとみてくださるところ。仕事は一人でするわけではありませんし、中長期的には人材を育成して組織として強化するところにつなげていただく必要がありました。
その点、井関さんは、仕事の推進には人をきちんとみることや人を巻き込んでいくことが大事だと認識されていて、当社でもマネジメントの役割をしっかり果たしてくださるだろうという感覚がありました。井関さんは、当社に足りなかった部分を埋めてくださるというレベルをはるかに超えていたのです。それが最終的な、そして大きな決め手になりました。
プロ人材の参画で、経営戦略とリンクしたDX推進のロードマップ策定が可能に
井関さんが業務委託として当社業務に参画したのが2021年12月。そして4カ月間、業務委託として一緒に仕事をしていただき、2022年4月に正式に入社、執行役員に就任いただきました。最初の参画段階から数えると1年が過ぎています。この間の、DX推進における最も大きな変化は、DX推進やIT戦略の全体の画、ロードマップを描けるようになったということです。
当社で実務を担当する社員のなかには、ITの知識をもつ優秀な社員もおりました。しかし、会社の中期経営計画に基づいたIT戦略、DX推進のビジョンを描き、その旗振り役となることができる人材がいなかったのです。
井関さんはその点をすぐ理解してくださり、会社のビジョンや中期経営計画とDX推進の関係を理解したうえで、各計画とリンクさせたDX推進の画を描いてくださった。コンサルタント経験が豊富である分、経営について非常に精通しており、こちらが求めるものを的確に提示してくださったと感じました。
ちなみに井関さんは、その画を描くにあたり、2カ月余りの時間をかけて、役員から部長クラスまで全員にヒアリングを行いました。DXの進め方を検討するためには、各部門にどのような課題があるか、各部門がどのようなことをしていきたいかということを聞く必要があるためです。井関さんは当社に来て早々ヒアリングを提案し、ご自身でどんどんアポをとってヒアリングを進めてくださいました。その仕事の進め方も非常に心強く感じました。
経営陣も、DXを推進するという意思決定はしていたものの、具体的なところはあまり認識できていない部分がありました。しかし井関さんが参画し、ヒアリングなどを通じてコミュニケーションをとるなかで、ITやDXに対する理解も深まるようになりました。その結果、井関さんにも「こんなことをしてほしい」といったさまざまな声が投げかけられるようになっています。
それ自体はいい変化だととらえていますが、DXは一部の人間がするものではなく、皆で一緒に進めていくもの。そういう意味では、DX推進部門はボールを投げられる側ではなく、投げる側です。
ですから今後は、社内の各部門とコミュニケーションをとり、「DXはあなたの仕事の中にもあるものです」「DXは一緒に進めて、一緒に変えていくものなんですよ」と伝えていくことで、井関さんが描いた画をもとにDX推進を各責任者の“自分ごと”にしていくことも課題であると感じています。
会社組織のなかでプロフェッショナルの力を発揮してもらうために必要なこと
私自身、転職で入社した中途採用者ですが、販管部門で経営企画や人事を担当するなかで、かなりの部分をまかせてもらっています。自分の力を生かして仕事をしたい、自分でビジョンや計画を描いてそれを実現するような仕事をしてみたいと考える方にとっては、挑戦しがいのある会社です。
フリーランスとして活躍しているプロフェッショナルの人材は、すばらしいキャリアやすぐれたスキルを備えた、一個人としてのプレーヤー能力が高い方ばかり。そういうプロフェッショナルの能力を最大限に生かすのであれば、特に当社のように、会社の中に入って仕事をしていただく場合は、ある程度の裁量を与えるなどして、「自分の力を生かしてやりがいのある仕事に挑戦できるところだ」と思ってもらえるような環境を整えるのも大切か思います。
ただ、会社において仕事というのは一人でするものではなく、チームとして動けることが大事です。そしてチームというのは、名選手ばかりが集まっても名監督がいなければまとまらないものです。
当社のように実力主義的文化の強い会社では、成果を出した人材が評価され、結果としてプレーヤー能力の高い人間が昇進しやすい傾向があります。しかし、名選手が名監督になるとは限りません。大事なのは、人材をうまくマネジメントし、その能力をうまく生かせる人がマネジメントの役職に就くことではないか、と人事担当者としては考えています。
外部のプロフェッショナル人材の活用を考える際も、根本的なところで大事になるのは社内のマネジメントであり、「やった人がえらくなる文化」から「人の才能を見出し、人を育てる人がえらくなる文化」への転換ではないかと思うのです。
それともうひとつ、プレーヤーとしての能力の高いプロフェッショナル人材であれば、きれいなプランをつくって提案することはいくらでもできるでしょう。しかし肝心なことは、提案されたプランが自社の状況にフィットしているかどうか、自社で実現できるものかどうか、ということです。
組織の中では現実問題として、組織の文化や人間関係への対処を避けて通ることはできません。組織の特性、企業文化など現状を把握したうえで、その現状にフィットする、いい意味で“計算高い”提案でないと、結局のところ成果に結びつかないのです。その点を理解して動けることが、本当の意味でのプロフェッショナルだと思いますし、プロフェッショナル人材を活用する企業としても、その点を踏まえて人材を見極めることが大切だと思います。