日本の99.7%が中小企業である中、そのうち約7割の企業に人事評価制度がない もしくは機能していないと言われている。年功序列の組織体制や働き方が大きく変化している近年、生き生きと働けている社会人はどれほどいるのだろうか。
今回はそんな社会課題に切り込み、人事制度(等級、評価、報酬)の構築とシステムを活用した効率的な運用支援の両輪で人事コンサルティングを行う株式会社あしたのチーム代表 赤羽 博行氏にインタビュー。事業にかける想いについて聞いた。
赤羽 博行(あかはね・ひろゆき)
大学卒業後、株式会社オービックビジネスコンサルタントにて財務・管理会計を中心に基幹系システムの開発、ソリューション提案、導入コンサルティングを担当。
その後、スカイライトコンサルティング株式会社に入社。ディレクターとして最大規模のビジネスユニット責任者を担当し、業務/システムのコンサルティング、ベンチャー企業の立ち上げ、新規事業の立ち上げ、事業計画策定、戦略策定など上流フェーズまで多岐に渡る多くのコンサルティング実績をもつ。
設立直後の2009年から株式会社あしたのチーム 社外取締役として参画し、2014年4月より常勤取締役、COO、CFO、CTO、CHROを兼務歴任し2020年11月より代表取締役社長CEOに就任。
人事制度構築と運用支援の両輪でお客様をサポート
——まず御社の事業内容を教えてください。
人事コンサルティングとして、「人事制度(等級、評価、報酬)の構築」と「クラウドシステムを活用した伴走型の運用支援」の2つを主な事業としています。
一般的なコンサルティング会社では、仕組み(当社では人事制度)を構築して、その後の実行はお客様に託すケースが多いと感じます。コンサルティング会社側で実行までは守備範囲外ということもあるでしょうし、お客様の予算の都合でアフターサポートまで対応できないこともあると思います。その場合仕組みを構築した後に成功するかどうかはお客様次第になってしまうため、「本当にお客様の成功の役に立っているのか」と疑問を持つコンサルタントも多いと思います。
当社は、人事制度を使ってどのように経営課題を解決するか、というところまでお客様と一緒に伴走することを心がけています。実際に運用する中で陥りやすい要注意ポイントを担当者側が把握し、運用で困ることがないように先回りして課題解決のサポートをしています。
——「お客様の役に立っているのか」という課題感は、大手のコンサルティング会社から独立して起業される方がよく感じられている課題の1つですよね。
私自身も前々職・前職でコンサルティングを行う中で、「本当にお客様のためになっているのか?」という疑問を常に持っていました。コンサルタントが提案したシステムを導入すれば物事を効率的に進められ便利になるはずですが、お客様の社内で適切に運用され、活用されないと意味がありません。私自身の経験から、仕組みを作って終わりではなく、「人事制度構築」と「クラウドシステムを活用した効率的な伴走型の運用支援」の両輪が必要だと考えています。当社では導入後の運用支援の部分でもコンサルタントが活躍しています。
——御社のクライアントはどのような企業が多いのでしょうか?
大企業から社員数100名未満の中小企業まで、幅広く支援させていただいております。大企業の場合は人事部があり人事制度が整備され、かつ人事のリソースが確保されているため、運用に関する心配事が少なく、クラウドシステムの導入のみ行うケースが多いです。一方で社員数が比較的少ない中小企業の場合、人事部がなかったり、人事担当者が他業務と兼任していたりする企業も多々見受けられます。そういったお客様には、人事制度の構築から運用支援まで行うケースが多いです。
——たしかに中小企業には人事部がない会社も多いと聞きます。
日本企業の99.7%が中小企業ですが、そのうち約7割の企業で人事制度が整備されていなかったり、機能していなかったりすると言われています。特に社員数100名以下の規模では、社長ご自身が社員の顔と名前を覚えていることも多く、社長が人事評価などの業務にも関わるケースもあります。そこで人事評価制度が定められていない場合、少なからず社長の主観の入った評価になってしまいがちです。そうなると、社員の立場では、どうすれば評価が上がるのか下がるのかも不明な中で、何をモチベーションに仕事を頑張ればよいか分からなくなるのです。人事評価制度がないと社員1人ひとりの目標管理なども行っていないため、指示通りに仕事をして時間になったら帰る。そんな働き方になってしまう社員も多くなってしまうのではないでしょうか。人事部がないことは問題ではありません。兼任でも構いませんが、会社を成長させるためには働く社員の意欲を高める人事制度を設定することが重要です。
会社の根幹である人事制度にこだわる想い
——御社が支援を行う際に、目指しているお客様の「ゴール」はありますか?
お客様が直面している課題を解決するのはもちろんのこと、人事制度を発端に好循環が生まれるようにしたいと考えています。
たとえば「『今から3か月後までに〇〇を達成しよう』と目標を設定し、達成できれば昇給」という評価制度をつくるとします。社員の方は昇給を目指し目標達成に向けて頑張ります。すると社員が成長し、会社全体の生産性が上がります。生産性が上がると利益が上がり、昇給や賞与の原資が生まれ、社員に還元することができます。このように組織における好循環を起こしたいというのが、私たちが愚直に取り組んでいる部分です。
——生産性といえば、最近ではDX化が進んで業務内容も徐々に変化しているため、人事評価制度も変えていく必要があると聞きます。
はい。昔は良くも悪くも、全社員どの部署も同じ項目で評価されている面がありましたが、部署が違えば担う役割も異なります。同じ部署内であっても1人1人における役割が同じとは限りません。またDX化から少し逸れますが同一労働同一賃金の観点もあります。現状に則して正当に評価するためには目標や役割の要素分解を行う必要がありますが、この評価シートをつくるのはなかなか時間や手間のかかる作業です。経営側がその必要性に気づかない限りはなかなか着手されることはないでしょう。
——そうですね。正当に評価されない現状を見て辞めてしまう優秀な若手も多いと聞きます。
私も新卒入社した会社を辞めることになったきっかけは、完全年功序列で同期の昇給スピードは一律同じであったためです。こういった仕組みのため努力を重ねて成果を出しても先輩たちの給与を超えることはなく、生産性の高さも給与には一切考慮されません。
また生産性を上げて仕事を早く切り上げる人と、マイペースに仕事をして残業をしている人とでは残業代の有無で給与が異なるだけではなく、「遅くまで頑張っているな」と残業をしているほうに有利なバイアスがかかるという状況にも、疑問を感じていました。
さすがに現在はこのような考え方はなくなっていると思いますが、優秀な人材を確保するためには、人事評価制度を一度制定したら安心でなく、時勢に合わせて常にアップデートし続けることが重要です。人材不足が常態化している中で、特に中小企業の経営者にそのことを伝えていきたいです。
「本気で人事コンサルティングに携わりたい」という想いから選んだ新たな道
——赤羽社長はもともと外部の取締役としてあしたのチームに入っていたとお聞きしました。どのような経緯で社長になられたのでしょうか?
前職でコンサルタントとして勤務していた時に、小学校の同級生から起業の連絡をもらったのが始まりです。先述の通り組織の人事評価や報酬決定の制度に対する疑問や課題を抱えていた中で、まさにその課題へ切り込んでいくような事業だったため、友人を応援するために出資を行いました。
すると、リソースも足りないので会社を手伝ってほしいと言われ、当時勤めていた企業に副業申請をして社外取締役として参画し始めました。5年ほど携わる中で、サラリーマンの片手間で関わるのではなく本気で取り組みたいと思い前職を辞め、常勤取締役になりました。そこから営業、運用、財務、開発など全部を見て、現在に至ります。
——何社ほどのお客様を抱えていらっしゃるのですか?
2008年の起業から現在まで、のべ4,500社ほどのお客様を支援させていただきました。私は2009年から社外取締役として参画しましたが、その頃の売上における95%は人材紹介や求人広告での収入。2009年ごろは初期盤の人事評価システムなどは開発しつつも、売上は今と違う分野で担保されている形でした。
しかし2014年、本気でプロダクトを開発して人事コンサルティングをやっていこうということで、私が正式にジョインし、そこからコンサルタント採用や育成などに本腰を入れて進めてきました。
——2014年ごろからプロダクトとコンサルティングの両輪が本格的に動き始めたのですね。
2014年当時もシステム自体はリリースされており、システムとコンサルティングのどちらも手掛けてはいました。ただシステムが欲しい人はシステム、コンサルティングが欲しい人はコンサルティングというように、2つは連動していない状態だったのです。そのため、システム開発の分野は何種類ものSaaSを使っていてメンテナンスができていない部分が多かったり、コンサルティング分野ではお客様の人事評価制度を策定したものの現場での運用課題に適時に気づいて対応ができていなかったり、といった問題がありました。
そこで、お客様に当社のクラウドシステムを使っていただき遠隔で人事評価制度の運用状況が分かるようにする「双方が活用するプラットフォーム」という手法を思いつきました。クラウドシステムを活用して伴走支援しながらコンサルティングを行うことでお客様の負担も少なくできるのではと考えました。
ビジョンの達成に向けて、楽しく働ける人とともに成長したい
——伴走型支援が御社の大きな特徴だと思いますが、改めて大手とは違う魅力を教えてください。
大手のコンサルティングファームでは人事部の方などと関わることが多いと思いますが、直接社長と関われるというのは当社ならではの強みだと考えています。 当社の場合、現状は中小企業のクライアントが多く、社長がパートナー企業と直接会話し意思決定するようなケースが多いため、商談やコンサルティングをする相手が社長というのが日常です。やりがいがありますし、組織人事の考え方やスキルが身につきます。私もジョインした際は苦労したのですが、人事評価はまさに会社の心臓部分。それまでは社長が1人で頭の中だけで思い描いていた自社を成長させる評価基準などをヒアリングして、言語化しながらつくっていくのは難しさがあります。また人事評価制度は社長にとって肝煎りのプロジェクトであるため、コンサルタントも社長と同じ熱量で向き合わなければ、プロジェクトの成功はあり得ません。社長と同等といえるような視点・目線を持つことも重要です。そういった努力をして、伴走者として信頼関係を築けると、私たちが社長の右腕のような存在になることも珍しくありません。
実際に当社を卒業して独立する方も多く、将来起業したい方にも向いているといえます。中小・ベンチャー企業が抱える生々しい課題と向き合いながら一緒に組織づくりをしていくことで、大手では身につかない組織人事のスキルが身につくのではないでしょうか。
——働き方についてもお聞きします。1人あたりどれくらいのプロジェクトを持っているのでしょうか?
人により、また時期によって異なりますが、ピーク時には1人20社以上のプロジェクトを掛け持ちしているコンサルタントもいます。顧客とは毎月1回の打ち合わせを設けるのが基本で、プロジェクトは各個人の力量に応じて割り振るといった形です。これまでは業界ごとに専門のコンサルタントを配置することは行っていませんでしたが、コンサルタントの業務効率とクライアントへの提供サービスの精度を上げるため、今まさに社内で「柱制度」というものを立ち上げています。人気アニメの“○柱”のようなことです。製造業の知識を身につけたい場合は製造業に詳しい方のもとで教わる、ITの知識を身につけたい場合はITに詳しい方に教わるといったように、業種ごとに知識を深め、専門性を高めるような取り組みをしています。
—―コンサルティングの効率化において、社員の自主性を尊重しているのですね。最後に、どんな人と働きたいかを教えてください。
やはり最終的には、当社の掲げているビジョンとバリューに共感できるかを重視しています。単なるコンサルティングではなく人事領域での伴走支援にこだわっているのは、当社のビジョン「誰もが “ワクワク” 働ける世界を創る。」を当たり前にしたいという目的があるためです。まずはそういったビジョンに共感できる方と一緒に仕事をしたいと考えています。
加えてビジョンへの共感だけではなく、当社が掲げているバリューへのマッチ度を見ます。まず1つ目に“Customer-Centric”。お客様にどれだけコミットできるかはまず大切にしたい部分です。次に“Sense of Ownership”。斜に構えるようにアドバイスのみを行うスタンスはあまり好きではありません。自分もお客様の会社の一員だと思いながら、自分の言葉で仕事をしてほしいと思います。3つ目の“Integrity”は、誠実な対応をしてほしいという意味です。4つ目の“Trust&Respect”は、コンサルティング会社はどうしても個人事業主の集まりのようになりがちなのですが、色々な部署と連携しながら仕事をしています。尊敬や信頼をしてメンバー同士で任せ合えるような関係性が望ましいと考えています。そして最後に、“Exciting”。誰もがワクワク働ける世界を創る我々自身が“楽しく働く”ことが大切です。
会社を代表して経営者層を相手にコンサルティングを行うことは、決して楽しいことばかりではなく、困難や自分自身の壁にぶつかることも多いでしょう。そういった経営者層と渡り合えるようにするには結局のところ、自分自身のレベルを上げるしかありません。しかし、組織ひいては自分ととことん向き合った先に大きな成長があるのではないでしょうか。一緒に楽しく働きながら、誰もがワクワク働ける世界を実現できればと考えています。
株式会社あしたのチーム 企業情報
会社名 | 株式会社あしたのチーム |
設立 | 2008年9月25日 |
代表者 | 代表取締役社長 CEO 赤羽 博行 |
役員 | 取締役 臼田 大輔 取締役 荒木 克彦 取締役 雨宮 玲於奈 取締役 後藤 洋介 取締役 末永 麻衣 監査役 関谷 哲郎 監査役 原 幹 監査役 江黒 崇史 アドバイザリーボード 栗原 博 アドバイザリーボード 森 英文 |
顧問弁護士 | フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー弁護士 大村健 |
資本金 | 1億円(資本準備金含む) |
事業内容 | ・人事評価制度の構築・運用「あしたのチーム®」 ・人事評価クラウド「あしたのクラウド® HR」 ・1on1コーチング「あしたのコーチ™」 ・パフォーマンスマネジメントプラットフォーム「Cateras™」 |