2019年に創業したドットアンド株式会社は、新規事業創出支援を専門とするプロフェッショナルファーム。イノベーションと呼べる革新的な事業を連続的に創出していくことを事業の目的とし、再現性と必然性を備えた新規事業創出手法を強みとして、多様な企業の新規事業創出に伴走する。
代表取締役社長の野田祥氏は、アクセンチュア株式会社でのコンサルティング経験を経て同社を起業。プロフェッショナルが組織の垣根を越えて協業する「共同体」的協働を通じ、価値ある新規事業を生み出せる仕組みを社会に実装したいという目標を掲げ、精力的に活動を展開している。今回は野田社長に、起業までの経緯、イノベーションや「共同体」的組織への思いなどについて聞いた。
野田 祥(のだ・しょう)
慶應義塾大学商学部を卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。戦略グループにて、新規事業戦略策定、マーケティング戦略策定、DX構想策定・実行支援、M&A戦略策定等のPJTを複数リード。2015年マネジャー、2018年シニアマネジャー。先が見えない時代において、未来の常識となる事業を次々と生み出していく、新しい形のプロフェッショナルの共同体を作りたい、との想いから2019年にドットアンド株式会社を創業し、代表取締役社長に就任。
「価値ある事業を世の中に届けたい」という思いから、コンサルタントを経て起業
——野田社長は昔から起業を目指しておられたのですか?
いえ、そうではありません。子どもの頃から本を読んだり何かを考えることはよくしていていたのですが、進路についてはあまり考えていませんでした。ただ、独立独歩というか、自分で考えて自分で動くということは好きで、自分が楽しいと思うことをしたい、それができる場所を自分で立ち上げたいというような思いは早い段階からあったように思います。
——大学卒業後、アクセンチュア株式会社に入社されました。
大きい組織で勉強したい、自分で事業を起こす可能性も考慮して経験を積みたい、といった考えもありましたが、一番の動機は、深い思索を重ね、考えに考え抜いて価値あるビジネスを生み出していくような仕事がしたいという思いでした。
アクセンチュアでは戦略部門に属し、主にマーケティング領域を専門としたコンサルティングからキャリアをスタートしました。マネジャー就任後はDXや新規事業、M&Aの戦略策定といった案件を中心に担当しました。
——そうしてシニアマネジャーに昇進されますが、ほどなくドットアンド株式会社を設立されました。どのような思いから起業を決意されたのでしょうか?
9年間務めたコンサルタントの仕事はとても好きでした。定められた期間のなかで目標に向かって全力を尽くし最善の成果物を出す、その過程には厳しさや緊張感がありましたが、大きなやりがいと達成感がありました。
でも、コンサルティングはあくまでコンサルティングで、世の中に対して実際に何か成果を生み出せているのかというと疑問がありました。この仕事に人生を懸けていいのか——そう自問自答したときに、自分はやっぱり、価値ある実益を世の中に生み出したい、人の心を動かし世の中を大きく変えるような事業を世の中に届けていきたい、社会とそういう関わり方をしていきたいという思いが強くあることを確認し、起業を決めました。
——御社は新規事業の創出に特化した事業を展開されていますね。
当社は、企業における新規事業創出の支援を専門とするプロフェッショナルファームで、事業は大きく分けて2つあります。
1つは企業変革アクセラレーション事業。これは、持続的発展を目指し次の柱となる事業を模索するクライアント企業に伴走し、新規事業創出の実現に向けて支援するものです。
もう1つは事業創出スタジオ事業。これは、当社自らがビジネスオーナーとして自己資本を使い、社外のパートナーと協業しながら新たな事業の創出に取り組むものです。
――クライアントはどのような企業が多いのでしょうか?
おかげさまで、創業以来、業種を問わずさまざまな企業からお声がけをいただいており、ライオン株式会社、豊田通商株式会社、アサヒ飲料株式会社、株式会社長谷工コーポレーションなど、大手企業のお客様の新規事業創出をサポートさせていただいています。
再現性・必然性のある手法で、イノベーションと呼べる革新的な新規事業の創出を目指す
——御社の特徴、強みを教えていただけますか?
当社事業の目的は「イノベーションと呼べる革新的な事業を連続的に創出していくこと」。そして当社の新規事業創出のコアは、「イノベーションサイエンス」という手法です。不確実な要素の多い現代において、イノベーションを創出するには考慮すべき多くの“変数”があります。それを前提として状況をよく洞察し、洞察をもとに深く思考をめぐらせ、そのうえで合理的なアプローチをとるというものです。
他社の新規事業コンサルティングでよくみられるのは、コンサルティング会社が事務局となって新規事業立案コンペを開催し、新たなビジネスアイデアを募集するというものです。当社の新規事業創出支援では、クライアント企業がこれまで既存事業の運営で培ってきた強みやアセットをしっかり分析し、マーケットトレンドも踏まえながら構造を整理したうえで、「この領域がいいのではないか」「こういうビジネスをするべきではないか」といった新規事業の“種”を見出します。
このように、合理性を重視した事業創出のプロセスは科学的で、再現性と必然性があります。また、ビジネスを生み育てる最初の一歩として迅速なスモールスタートを実現しやすく、そのビジネスが受け入れられるか、価値ある事業として成立し得るかをスピーディーに検証することが可能になります。この手法は、数多ある新規事業ファームのなかでも当社の特徴であり、強みといえる点です。
もちろん、まったく新しい事業アイデアからビジネスを創出するという方法も否定するものではありませんし、新規事業開発の過程では既存事業の延長線上を進むだけではなく“ジャンプ”することが必要になる局面もあります。いずれの場合も、実績、実益を生み出して世の中に何らかの作用を及ぼす、そういうものをつくっていくというのは、当社が意識しているところです。
——今年2024年からは、新たな取り組みも始められたと伺いました。
はい、グローバルを対象に各業界の市場トレンドを“鳥の目”で俯瞰・分析し、イノベーショントレンドを読み解く「イノベーション動向リサーチ」事業を開始しています。
企業が新規事業創出を目指して模索する際、市場のトレンドをおさえておくことは大きな武器になりますし、新規事業を考える切り口が多ければそれだけ思考を広げやすくなります。その最初の糸口としてご活用いただければと思い、展開を開始したところです。
——今回は、クライアント企業の新規事業創出支援を行う企業変革アクセラレーション事業で人材を求めておられます。当該事業では、どのようにプロジェクトを進行されているのでしょうか?
コミットの形態は多様で、最初の構想策定段階から実際の事業立ち上げ・ローンチに至るまで一貫して携わる案件もあれば、プロジェクトの一部をお手伝いしているようなケースもあります。現在も、特定の新規技術を活用したソリューション事業構想の推進、他業界とのアライアンスによる新たな分野での事業立ち上げなど、複数の新規事業開発プロジェクトを進行しているところです。
そうした各案件について、それぞれチームを組成してプロジェクトにあたります。チームメンバーは社内メンバーと社外のパートナーメンバーで構成され、それぞれがビジネス、UX、テクノロジーなどを担当しますが、テクノロジーの部分で社外のパートナーメンバーに入っていただくことが多いです。チームの規模はさまざまで、案件の状況によって調整しています。
今回の採用を通じて新しく入っていただく方には、新規事業案件を中心に入っていただき、クライアント企業の新規創出支援を担っていただきたいと考えています。その過程で、ベーススキルの獲得に向けて、DX案件、戦略案件、マーケ案件などに従事していただくこともあります。
プロフェッショナルを結ぶ「共同体」的協働が理想。人材に求めるのは能動性・素直さ・思考力
——現在、従業員の方は何名ほどいらっしゃいますか?
正社員は自身を含め4人ですが、社外にパートナーが15人ほどいて、業務委託で仕事をしていただいています。
——今回採用をお考えになったのは、どのような理由からでしょうか?
当社設立の原点として私がもち続けているのは、能力をもつプロフェッショナル一人ひとり、自立した個と個が、垣根なくフラットにチームを組み、お互いの強みを生かし合いながらコラボレーションして高い成果を創出する、プロフェッショナルの「共同体」のような協働のあり方を模索したいという思いです。我々はその「共同体」のなかで個と個を結ぶハブのような役割を担いたいと考えています。
新しい価値を次々と世に生み出すために、もちろん一定の売上を追求し事業継続・拡大を目指しておりますが、我々がありたい姿として思い描いているのはその「共同体」全体での繁栄であって、会社という組織自体を大きくすることではありません。そのため、これまでは採用も積極的には行ってきませんでした。
ただそうすると、社会における当社の存在感はどうしても小さいものになってしまいます。当社は長期的な目標として「もっと、独創、響きあう世界へ」の実現を掲げていますが、これを実現し、世の中に対し一層大きなインパクトを生み出す仕事をするには、会社としての地力をつけて、当社の存在感を高めていく必要があると考えたのです。
そこで当社では、直近3年間の目標として「新規事業をつくる会社として強くなる」を掲げ、社内人員の強化、社外ネットワークの強化、新規事業創出を効果的に推進するためのオファリングの整備などの取り組みを進めています。今回の採用もその一環です。
——求めておられる人物像についてお聞かせください。
当社の行動規範は「自己本位であること」。これは自分勝手に振る舞うという意味ではなく、物事に対し常に主体者として接する姿勢をもち、自分のしたいことに邁進するということです。
この規範の実現に一番大事なのは能動性です。言われた仕事しかしないのではなく、自分の意志、自分のしたいことを明確にもち、それを実現しようと能動的に行動できる力は必須であると考えています。
また、素直さ、謙虚さも必要です。「共同体」的組織のなかで他者と協働し、大きな価値を創出していくことを目指す我々には、他者を尊重する姿勢が不可欠です。加えて、素直さがないと物事を吸収することができず、成長速度が上がりません。
そして思考力。人の受け売りや知識の暗記ではなく、自分のロジックで深い思考を重ねることができる力、さらにいえば思考を重ねた末に自分の意見を加えたアウトプットができる力が必要となります。
先ほどお話ししたように、当社の新規事業創出では事実を観測・分析して、新規事業の“種”を模索します。ある一つの事実をどう解釈するか、そこからどのような示唆を得るか、それをどのようにアウトプットするか、その一つひとつが、創出する新規事業の価値の大きさに影響します。
当社の仕事は、クライアント企業に対する貢献の観点でも、当社の目指すあり方という観点でも、高いバリューを生み出すことが求められます。そのバリューを最大限高める仕事をするためには、こうした思考力は欠かせないものです。
長期的にはビジネスモデルの変革を志向。会社の地力を高め変革を目指す過程を一緒に楽しんでほしい
——具体的なスキルやコンサルティング経験についてはいかがですか?
スキルはあとからでも身につけることができます。もちろん何らかのスキルや経験があればなおいいですが、一番重視するのは今お話ししたようなマインドセットがあることです。特に若い方については、「まだスキルはないけれど、新しいことを覚えたい」「やりたいことがある」といった意欲ある方の応募を歓迎します。
――自分の意志、意欲をもっていることが大事だということですね。
私は、イノベーションの源泉は一人ひとりの強い想い、深い思索であると考えています。そして、仕事に必要なのは責任感と熱意だと思います。合理的に仕事を進めるための深い思索、任された仕事を成し遂ようとがんばる責任感、より大きなバリューを生み出そうとする熱意といったものが、バリューの高い仕事には必要です。
——「御社で仕事をするとこういうおもしろさやメリットがある」というポイントがありましたらお聞かせください。
当社の事業創出スタジオ事業では、社員が新規事業を提案する制度があります。社内承認を経て採用されると、年間最大200万円の予算がつき、実際に事業活動を行うことができます。これは昨年から始めた制度で、実際に採用に至り事業検討を推進中の社員もいます。
今回採用した方には、アクセラレーション事業でクライアント企業の新規事業開発支援を中心に入っていただくことになりますが、この制度を使って“副業”的に自身の考える事業にチャレンジをすることも可能です。
それに、当社には、これまでさまざまな企業の新規事業創出を支援してきた実績があります。何か実現したいものがある方に対し、我々が壁打ち役となることもできますし、我々から知見を引き出してもらうこともできます。ですので、事業を起こしたい方にとっては、お一人で一から事業を始めるよりはスムーズに進めやすい環境ではないかと思います。
——起業志向のある方も御社に向いているといえそうですね。
当社でスキルを身につけて、そのまま当社で活躍していただければもちろんありがたいですが、一定のスキルを習得したら独立して自分の事業を起こしたいというような熱意のある方も歓迎です。
当社の「共同体」志向でいえば、メンバーが将来的に独立したあともパートナーとして協働することもできるかもしれません。そうして「共同体」のネットワークが広がり、世の中に対して価値ある事業を一緒に生み出すことができるようになれば、願ってもないことです。そういう世界をつくりあげていくことを楽しんでくださる方に来ていただけたら、とてもうれしいです。
――今後の展望をお聞かせください。
現在の事業の中心はアクセラレーション事業で、プロジェクト参画の対価としてフィーをいただくコンサルティングファーム型のビジネスモデルです。しかし今後は、成果報酬型や利益シェア型のプロジェクトも展開し、長期的にはビジネスモデルの変革を図りたいと考えています。
また、現在のクライアント企業はほとんどが大手企業ですが、今後は資本参加なども含めてビジネスの主体としてより深い関わりをもつような形態も視野に入れながら、中小規模の企業の新規事業創出にも携わることができればと構想しています。そうした中長期的な視点に立った“種まき”にも積極的に取り組んでまいります。
今回の当社の採用は、かちっと定まった組織の中で定形の業務をこなしてほしいという採用ではありません。地力を高めて価値の高い新規事業を次々と生み出す会社になるために、広い意味でドットアンドという会社の枠を広げていただけるような活動を期待しています。
価値ある新規事業の創出は簡単なことではありませんが、それが実現したときには大きな喜びがありますし、社会に及ぼす影響は大きなものです。その過程を楽しみ、喜びをわかちあえる方と、一緒にいい未来をつくっていきたいです。
ドットアンド株式会社 企業情報
会社名 | ドットアンド株式会社 |
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所在地 | 東京都渋谷区東2-25-3 WAVE渋谷3階 |
役員 | 代表取締役 野田 祥 取締役 石塚 修吾 |
設立 | 2019年1月18日 |
事業内容 | Innovation Scienceを基盤とした、企業変革アクセラレーション事業、事業創出スタジオ事業の運営 |