会社人生「一本道」にならないキャリアマップの描き方
2024.5.7 Interview
今の会社でこのまま10年、20年と働き続ける人生でいいのだろうかーー。そんな考えがふと浮かび不安を抱える人は多いことでしょう。だからといって転職や独立でキャリアアップできる自信はないし、そもそもやりたいこともこれといってない……。
『ライフキャリア:人生を再設計する魔法のフレームワーク』(プレジデント社)などの著者で、会社を辞めずに好きなことも両立するキャリアの作り方を提案している千葉智之さんは「仕事か家庭か、仕事か趣味かではなく、仕事も趣味も家庭もうまくいく道の模索、ORではなくAND人生の模索と実践を勧めたい」と言います。
千葉さんに、個として生き抜く強さを手にいれるためのキャリアマップの描き方について聞きました。
人生100年時代の「キャリア未来地図」全体フレーム
私は総合メディア企業に入社して20年ほどになる会社員です。この本業と並行して3冊の書籍を発行し異業種交流会やそのほかイベントを主催しています。会社員だからできないとあきらめることなく人生を充実させるため、ライフワーク(生きがいややりたいこと)とライスワーク(食べるための仕事)の2軸で考えた働き方を実践中です。
私は著書や研修などでキャリアの描き方を提案していますが、「キャリアの正解」はないと考えています。寿命が100歳にまで延び、人生100年時代を生きるのは史上初のこと。今は私を含めて皆、初めてのことに試行錯誤しながらキャリアについて考え始めるタイミングなのだと思います。なのでここでは、一方的に新しい働き方についてお伝えするのではなく楽しく働く人生の道筋の作り方、その実践法をお伝えします。
まずは次の図をご覧ください。
この「キャリア未来地図」全体フレームは、自分のキャリアを資産としてとらえ棚卸しをするツールです。これまで、私たちは左側のビジネス領域だけでキャリアを語ってきました。たとえば、どうやって出世するか、どうやって会社のなかでスキルを身につけていくかといったように閉じた形でのキャリア論がメインでした。ただそれでは、人生100年時代のキャリアは語り尽くせませんよね。
そこで追加したのがプライベート領域です。自分のキャリアを仕事に限定せず、ビジネス(会社)とプライベート(特技や趣味)両方の未来を描きます。会社のなかだけでなく、ビジネスとプライベート両方の向かう先に未来への可能性が広がっているからです。大事なのは、ビジネス領域とプライベート領域の2軸を高めていくという考え方です。
ご自身の仕事やプライベートについて、具体的に思い浮かべ当てはめて考えてみましょう。ビジネス領域(縦軸)の投資レベル(横軸)に「労働(会社の人材投資)」という言葉があります。これは、新入社員を浮かべるとわかりやすいと思います。経験値がなく、上から与えられた作業をこなす、やらされ仕事をする段階、会社から投資をしてもらっているレベルを労働と呼びます。
この状態から創造レベルに上がって初めて「仕事(ビジネス創造資産)」と呼びます。この状態では、経験を積み、自分で考え決断し執行する。主体的にアイデアを出しマネジメントを行えるレベルを仕事と定義付けています。所有レベルになると、創造したアイデアのマネタイズ化で「起業(法人所有)」したり、出世して「社長(経営権所有)」となった状態です。
右縦軸のプライベート領域も同様に考えていきます。投資レベルにある「学び/趣味(自己投資」)とは、仕事に役立つかもと考え始めたプログラミングの勉強や英会話、サッカーや映画鑑賞、飲食店食べ歩きなどです。そこから創造レベルに上がった「特技(自立資産)」は、学びや趣味のなかから人に教えたり、何かを作り出したりする状態となります。たとえば、ラーメンが好きで食べ歩きをしているとします。全国各地を巡りラーメンを食べ歩いている間は投資レベル。好きが高じて自分で作るようになったら創造レベルですね。さらにラーメン店を開業したらそれは所有レベルです。
創造レベルにまでいくと、仕事と特技の間で相乗効果が生まれます。私の場合、仕事としてプランニングが得意なのですが、プライベートでは人を集めて異業種交流会を開くのが大好き。プライベートで開催したイベントで知り合った人に仕事の企画に参加してもらったり、本業でのイベント企画立案、運営のやり方がプライベートでも生かされたりしていくなかでシナジー効果が出てきます。このようにどちらも強くなっていくと仕事と特技の境目がなくなりキャリア全体が強化されていきます。
具体的に考えてみましょう。経理部に20年在籍している人が所有する資産は経理や財務の知識ですよね。これだけだと社内にも社外にも同じようにできる人がいます。この経理部20年在籍の人が、少年サッカーチームのコーチをやっていたらどうでしょうか。コーチングができて財務知識がある人はその人独自の価値をもつということになります。このように資産を組み合わせて自分ならではのキャリアを構築することを、「オリジナル・アセット」と呼んでいます。
このフレームには、もうひとつ大事なことが含まれています。上記図表の黄色の部分、「自己決定できる領域」の重要性です。神戸大学と同志社大学が2018年に実施した調査によると、幸福感を決めるのは所得や学歴ではなく自己決定度の高さです。つまり、黄色の部分の割合が増えれば増えただけ生き生きと楽しく働けるということ。10年後、黄色の比率を高めるには今、どのような仕事をすればいいのか、どのようなことを趣味から特技とすればいいのかという視点で自分の資産を変化させていくと、幸福感いっぱいのキャリア未来地図が描けるということです。
出世や給料ではなく「キャリア資産」が判断基準
40代後半に差しかかり、昇進や給与など定年までの道筋がある程度見えてきてこのままでいいのかと考えている人もいるでしょう。転職や独立でもうひと花咲かせたいと思っても、家のローンや教育費を考えるとこのまま会社で働き続けるしかない。これでは働くモチベーションが下がって当然ですね。やる気が出ないまま10年、20年と働き続けるのはつらいことです。
こういった方々にこそ自分のキャリアを資産としてとらえ、今いる会社のなかで資産をためるにはどうしたらいいか考えることをお勧めします。出世するには、あるいは給料を上げるにはどうしたらいいかといった会社のなかだけでキャリアを積み重ねることなく、「会社員のうちに、できるかぎりビジネス創造資産を増やすにはどうしたらいいか」を考える。
今、目の前に与えられた仕事は、「キャリア未来地図」全体フレームのなかでいうとどのレベルに当たるのかを考えたら、「報酬が低くボランティアのような仕事だけれど、将来的に自分がやりたいことにつながるかもしれないから受けてみよう」「すごく報酬がいい仕事だけれど、フレームの黄色の部分がまったく増えないからやめておこう」といったように、キャリア形成の判断基準が変わってきます。
会社のなかだけでなく、ビジネスとプライベート両方の向かう先に未来への可能性が広がっています。とって代われない自分、いつでもどこでも楽しくやっていける自分になるため、それぞれのキャリア未来地図を描いてみましょう。
千葉智之(ちば・ともゆき)
1973年広島県生まれ。広島大学経済学部を卒業後、大手総合建設会社に入社し31歳で総合メディア企業へ転職。転勤で広島から東京に移り住み、友達ゼロの状態から3年で3000人以上の交友関係を築き、あらゆる業界にコネクションを持つ。著書に『出逢いの大学』『やる気の大学』(東洋経済新報社)『「キャリア未来地図」の描き方』(ダイヤモンド社)、『ライフキャリア:人生を再設計する魔法のフレームワーク』(プレジデント社)などがある。2011~17年立教大学経営学部兼任講師。
Ranking ランキング
-
「おカネをもらう=プロフェッショナル」と考える人が見落としている重要な視点
2024.6.17 Interview
-
さすがにもう変わらないと、日本はまずい。世界の高度技能者から見て日本は「アジアで最も働きたくない国」。
2018.4.25 Interview
-
評価は時間ではなくジョブ・ディスクリプション+インパクト。働き方改革を本気で実践する為に変えるべき事。
2018.4.23 Interview
-
時代は刻々と変化している。世の中の力が“個人”へ移りつつある今、昨日の正解が今日は不正解かもしれない。
2018.4.2 Interview
-
働き方改革の本質は、杓子定規の残業減ではなく、個人に合わせて雇用側も変化し選択できる社会になる事。
2018.3.30 Interview