「サラリーマン」を辞めて失ったものと手にしたもの
2023.2.16 Interview
ふと頭に浮かぶ「今の会社で働き続ける毎日でいいのだろうか」という自分への問いかけに、「今さらこの年齢で転職なんて難しい。会社にしがみついて生きるしかない」と自分を納得させる――。“終身雇用制度の崩壊”という言葉が飛び交う時代になってもまだ、会社員として生きていかなければ生活が成り立たないと考えている人は多いようです。
「自分はどう生きたいか、数年考え続けました」と話す小沼敏行さん(44歳)は38歳で独立し、マーケティング領域のフリーコンサルタント、NPO法人代表、山形県新庄市の地域おこし協力隊と3つの顔を持ち、さらに今春、起業する予定です。「仕事を中心に暮らしを組み立てるところから、自分のライフスタイルにはまる仕事は何かを考えた」と語る小沼さんに、やりたいことを実現するための働き方について聞きました。
キャリアを「フルに生かす」ことは考えない
山形県北東部に位置する新庄市、山々に囲まれた田園風景のなかで小沼敏行さんは暮らしています。山形県新庄市に「拠点」を持ったのは1年ほど前。地域おこし協力隊に採用されたことをきっかけに移り住みました。
「父母の出身地が山形県で、いわば僕という存在のルーツがこの地。東京にいないと仕事がない、できないという状態じゃなくなって、自然を感じられる場所で暮らしたいと思ったとき、移住するならここしかないと行動に移しました」
地域おこし協力隊に応募したのは、「ほぼ知り合いがいない地での人脈づくりと、地域のことを深く知るにはただ住むより仕事を通したほうがいいと思ったから」(小沼さん)。広告業界で培ったマーケティングの知識を生かし、移住促進、定住者支援事業に関わっています。マーケティング関連の業務はどんな業界でも必要とされているとはいえ、広告業界と自治体というまったく畑違いの職場。心配はなかったのか聞くと、次のような小沼さんならではの答えが返ってきました。
「そもそも、地域の企業でも自治体でも、これまでのキャリアをフルに生かせる!とは思っていないんですよ。求められていることと自分のキャリアで合致するのは6割程度。それを現場で7〜8割にまで引き上げる。初めに10割を求めていくときついけれど、できるかぎり引き上げるという気持ちなら、集中力で何とかなるというのが経験から得た僕なりの考え方です」
言い訳ができるサラリーマンとできないフリーランス
10割を目指さないからといって仕事に対して手を抜いているわけではないことは、2016年に独立して以来7年以上、名だたる企業の案件をフリーコンサルタントとして受託している経歴からも明らかです。小沼さんが考えるプロフェッショナルは「成果を残せる人材であること」。報酬を支払うクライアントに必要以上にへりくだったり迎合したりすることなく、「つねに対等な関係を築くこと。そのためには、報酬に見合った結果を出す必要がある」と小沼さんは言います。
「サラリーマン時代を振り返ると、時間が足りない、リソースが足りないなど言い訳ができる環境だったなと感じます。結果が出なくても間違いなく毎月の給料が振り込まれ、辞めさせられることもない。フリーランスとして独立してからは、結果が出せなければどんなに言い訳しても次から仕事の発注はない。ですが、結果を出せば出しただけ報酬があがり、クライアントに認められます。こういった働き方に喜びを感じられる人はフリーランスに合っているのではないかなと思います」
リカレントでやりたいことの実現確度を高める
これまでに身につけたスキルや経験だけで何とかなるとも思ってはいません。2020年4月〜2022年3月まで、新規事業を生み出す人材を育成する事業構想大学院大学・事業構想研究科に通い卒業。2023年春には、「山菜の魅力を体現する事業」で起業を予定しています。
「自分はどうありたいのか、広告業界の仕事だけで満足できるのか、どういうライフスタイルが理想なのか……内面を掘り下げて、掘り下げて考えていったら、両親の出生地で自分のルーツである山形、子どもの頃遊んだ山で見ていた山菜が原風景として浮かびました。社会課題を解決したいという欲求もある。起業したいという想いを実現し、成功確度を高めるために大学院で学びました」
原風景に浮かんだ、地域ならではの資源
コロナ禍でも東京一極集中に大きな変化はなく、各地域の限界集落の問題はなかなか解決の糸口を見つけられずにいます。春になると芽吹く山菜は、自然豊かな地域ならではの資源。まずは実験的に、可能性を秘めた「山菜」を生かした事業で、地域活性化の一翼を担いたいと小沼さんは意気込みます。
「東京で、みんながおいしいと言っている人気のレストランで会食していた数年前を振り返ると、それはそれで楽しかったけれど、本心でおいしいと思ってはいないのに周囲に合わせておいしいフリをしていた……なんてこともあったなと思うんです。仕事についても、このキャリアならこのくらいの報酬を手にしていないと人より劣っていると思われると考えることもあったように思います。今回の起業では、見栄をはらず、闇雲にスケールしなくてもいいから楽しく仕事をして食べていけて、結果、社会によい影響を与えられたら理想的だと考えています」
「FreeConsultant.jp」では、小沼さんの独立した経緯やワークポートフォリオについての考え方などをお聞きしています。プロ人材インタビュー記事は【こちら】をご覧ください。
Ranking ランキング
-
「おカネをもらう=プロフェッショナル」と考える人が見落としている重要な視点
2024.6.17 Interview
-
さすがにもう変わらないと、日本はまずい。世界の高度技能者から見て日本は「アジアで最も働きたくない国」。
2018.4.25 Interview
-
評価は時間ではなくジョブ・ディスクリプション+インパクト。働き方改革を本気で実践する為に変えるべき事。
2018.4.23 Interview
-
時代は刻々と変化している。世の中の力が“個人”へ移りつつある今、昨日の正解が今日は不正解かもしれない。
2018.4.2 Interview
-
働き方改革の本質は、杓子定規の残業減ではなく、個人に合わせて雇用側も変化し選択できる社会になる事。
2018.3.30 Interview