地域と参加者に与える「ワーケーションイベント」の効能──河津町1泊2日で少し見えた地方再生のヒントとは?
2022.12.29 Interview
静岡県河津町と、都市部の副業人材と地域企業を結ぶ副業プラットフォーム「Skill Shift(スキルシフト)」が主催するワーケーションイベントが今年9月に実施されました。それから3カ月経った今、振り返りとして河津町と参加者3人(参加総数は5人)にワーケーションイベントの価値とこれからの河津町に必要なことについて話を聞きました。
河津町の空き店舗活用アイデアを考える
1泊2日のスケジュールで開催された静岡県河津町ワーケーションイベント。「たった1泊2日でも最大限の効果を」と、参加者に期待することは河津町に行って仕事をすることではなく、河津町の観光名所である河津七滝や河津バガテル公園、河津桜のエリアを巡りながら河津の良し悪しを語り合うツアーとしました。
必要なスキルを経営企画とし考えてもらった課題は、ちょっと足を伸ばして河津に来たくなるような空き店舗の活用アイデア。課題を絞ったのは、「あまり風呂敷を広げすぎても、参加者の負担になると考えたから」だと、河津町まちづくりアンバサダーの和田佳菜子さんは説明します。
ツアーの最後には、「こんなショップがあるなら河津町に行ってみようかな!」と思えるショップ案を参加者5人にプレゼン形式で発表してもらい見事、優勝に輝いたのは、旅行関連サービス業の佐久間俊彦さん(仮名)でした。
選ばれたのは、富裕層視点を盛り込んだアイデア
河津町は今回のワーケーションイベントで、軌道にのっていないチャレンジショップを何とかする解決の糸口を見つけたいと考えました。チャレンジショップとは、商売を始めたいが経験がなく、最初から独立店舗で始めることにリスクがある人に対し、行政や商工会議所、町などが家賃や管理費などを一定期間無償、または低額で商店街の空き店舗を貸し出す制度です。参加者は全員スキルシフトに登録している副業・兼業人材。優勝したショップ案を提案した佐久間さんは、本業で富裕層向けのマーケティングや事業開発を行っており、「富裕層視点」をアイデアに盛り込みました。
「空き店舗は駅前ですが駅からの視認性が悪く、それほどの広さもなく、やっていいこととやってはいけないことの制限も多かったので苦戦しました。本業の知見を生かして考えた結果でてきた案が、河津町の玄関口としてさまざまな魅力的なスポットにタクシーで出発するラグジュアリーな待合所、待機スペースとして機能させるといったものでした」(佐久間さん)
ほかには、「町に対する住民の誇りや身近すぎて気付いていない魅力を未来につないでいくようなコミュニティスペースにする」「町内の交流の場にする」「ライダーたちを集めよう!」などさまざまな案が出ました。地域おこし協力隊として河津町に移住し任期終了以降、関係人口創出を主とした委託業務として観光情報発信やワーキングスペース運営などを行っている和田さんは、「ワーケーションイベントをやったことで、町の課題に向き合う機運が高まったような気がしています」とその感想を話します。
アイデア出しを町の施策につなげる
河津町は温泉のある町として栄え、おもに観光産業で成り立っています。繁忙期は「河津桜」が咲き誇る2月。最近は、コロナ禍もあり観光客は激減、2月以外をどう活性化するかが大きな課題です。
これに対し町では、「秘書交流係」を新設するなど、関係人口創出に向けて意欲的に取り組んできました。既存の宿泊施設でのワーケーションの受け入れもその1つ。ただ、「ワーケーションという言葉が独り歩きしていて、どのように町のためになっているのかがイメージできていませんでした。それが、今回のワーケーションイベントでさまざまな視点でのアイデア出しをいただき、町の施策につなげていけるかもしれないという可能性が出てきました」(和田さん)
一方で、ワーケーションイベントに参加した小野田道子さんは、河津町の印象を「町の方々は控えめ。もっと積極的にアピールしてもいいように感じました」と話します。小野田さんは元航空会社の客室乗務員で最上のサービスを提供するプロ。現在はフリーランスで、中小企業向け研修の講師や宿泊施設や飲食関連などのブランディングプランナーをしています。
「チャレンジショップの活用案を考えるというイベントの内容に興味を持って参加しました。仕事で栃木県の温泉旅館のリブランディングや石川県のフィットネスクラブのコンサルティングなどに関わっていることもあり、さまざまな地域の課題に向き合う機会は多ければ多いほど自分の知見が増えます。地元にいる方々は見慣れた場所だからこそ、気づけないこともありますよね。河津町は、天城山から川が流れていて高低差がある町。滝がある景色、温泉、バラの庭園など河津桜だけじゃない魅力的なスポットがたくさんあります」(小野田さん)
近すぎて見えない魅力に気づく
フリーライターとして「旅・食・人」をテーマに全国を取材し続けている柳澤美樹子さんは、河津町の課題を「東京からのアクセスのしづらさを補えるほど、河津町ならではの魅力を見つけられていないこと」だと見ています。ワーケーションの地として企業誘致を考えるのであれば、既存の宿泊施設の活用に加えシェアオフィスの拡充も必要になるでしょう。
「これからのワーケーションは、家族で楽しめるというのも重要なポイントの1つになります。その点、夏は河津七滝でのアドベンチャーなど、子連れで何度でも訪れたくなる魅力作りはいいですよね。河津駅でカーシェアできる、電動自転車を借りられるなど駅に降り立ってからも自由に動ける足を用意するなど、工夫次第で河津桜の季節以外も集客可能だと思います」(柳澤さん)
さまざまな立場、経験を持った人々が集まり意見を出し合うことで、地元の人だけでは気付けない魅力に気づいたり、新たなアクションのきっかけになるのがワーケーションイベントの価値。今も参加メンバー同士での交流は続いていて、参加者にとっても新たな出会いがあったようです。勤めている会社や業界といった1つのコミュニティから一歩出ることで気づきがある。ワーケーションイベントには、そんな効果もあります。
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