「NTTコミュニケーションズと三菱倉庫」プロフェッショナル人材を活用する大手2社のリアル
2023.4.20 Interview
今や外部人材の活用は名だたる日本の大手企業で進められています。人材活用の課題やこれからの人材に求められること、ビジネス環境の変化についてNTTコミュニケーションズと三菱倉庫の事例に迫りました。
(2月6日のプロフェッショナルの日に開催した「プロフェッショナルの祭典2023」トークセッションより)
「社内に該当スキルを持った人材が不足」の声
「新規事業創出にあたって業務内容が大きくガラッと変わってきています。その業務内容に合わせた人材を育てようとはしていますが、事業変革のスピードの方が早く、自社内リソースだけでは解決できないのが壁でした」と、NTTコミュニケーションズのスマートワールドビジネス部スマートエデュケーション推進室室長の大原侑也氏は切り出した。
NTTコミュニケーションズでは、ICT技術を活用した教育クラウドプラットフォームサービス「まなびポケット」の提供など教育分野のDX化、5G/XR/Al/セキュリティ技術などの先進技術を活用した街づくりや自動運転支援など、社会課題の解決に向けた取り組みに力を入れている。
「私が仕事を始めたのが2001年。当時はインターネット草創期で、Webサイトに接続してトップページが表示されるまで5秒以上かかるという状況でした。そこからネットワークは著しく進化し、事業としても様々なICTソリューションを展開し、さらにはプラットフォーム化やDX化と20数年間で世の中もビジネスも大きく変わりました。そういった環境の変化に合わせて、最近では社会課題の解決に取り組むことに特化した組織ができたり、専門性を重視したジョブ型の人事制度を取り入れたりと、社内の状況も変わってきています」(大原氏)
みらいワークスが今年2月6日のプロの日を記念して大企業1000人を対象に実施した「フリーランス・プロ人材活用実態調査」では、フリーランスのプロ人材を活用したことがない経営層・役員クラスのうち31%が今後の活用を希望。これは前2022年の調査の17%から倍増しており、デジタル人材を中心に年々ニーズは高まっていることがうかがえる。また、フリーランスのプロ人材を活用する理由について62%と半数以上が「社内に該当スキルを持った人材が不足している」ことを挙げている。
ビジネス環境にとどまらず組織や個人などあらゆるものを取り巻く環境が目まぐるしく変化し予測困難な現状をVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字)時代と呼ぶ。このVUCA時代を生き残るために大企業では、柔軟で迅速なビジネスを実施できる体制が求められている。ただ深刻な労働人口の減少により、1年先の人員計画を立てることも難しいのが実状だ。
三菱倉庫に足りないIT知識を持った理系人材
「社内リソースだけでは足りない」と、三菱倉庫の企画業務部業務開発チームマネージャーの板垣嘉治氏も言う。
三菱倉庫は135年という長い歴史ある企業だ。たとえばウイスキーなど洋酒を輸入する際の海外から日本の港まで配送する際の船や飛行機の手配、通関を経てコンテナターミナルから引き取り、卸売業者への持ち込むといったグローバルなロジスティクス事業を展開。賃貸オフィスや「横浜ベイクォーター」や「神戸ハーバーランド」といった商業施設運営など不動産事業も手掛けている。2019年からはイノベーターとして先陣を切って物流業界を変えていこうと、新規事業開発やVCへの出資やアクセラレータープログラムに参加するなどスタートアップとのパートナーシップも積極的に進めている。そういった中でぶち当たるのが「社内にIT知識を持った理系人材が少ない」という壁だ。
「歴史ある会社という背景があり、比較的保守的な人が入社していると思います。ただ世の中に合わせて物流業界も臨機応変に対応できるよう、新しいことにチャレンジしていく方向へ意識を変えるタイミングにきています。社内外の人を巻き込んでやるスタートアップとの取り組みなどは、チャレンジ精神旺盛な彼らから刺激を受け、変化のきっかけづくりになるような気がしています」(板垣氏)
新規事業開発を進める上で重要なポイント
大原氏も板垣氏も、新規事業創出を担うチーム。2人が考える「新規事業開発を推進する上で重要なポイント」は何だろうか。
「社会にどういった価値を提供し続けることができるか、常に問い続けていますね。社会に一歩先の未来を指し示すことが私たちのやるべきことなんだろうなと思います。そのためには社内アセットだけで実現することは難しい。社内外の力を借りて、大きく産業界全体を巻き込んで進める必要があると感じています。特に新しいことを推し進めるのが難しい教育分野においては外部の力は大切です。新しいチャレンジとしてタブレットを活用し授業をデジタル化して成績が下がったら大問題です。先生方や地域の方々とともに成功事例を作って、一歩ずつ横展開していくしか道はありません」(大原氏)
一方で板垣氏は「人材スキルの見える化」を重要なポイントとして挙げる。
「物流の現場でいちばん大事なのは、お客様の商品を毀損することなく取扱い、指定された時間にお届けすることなんです。単純なことの様に見えますが、日々、社員のアイデアや好事例を共有、拡散し、そういった情報を主体的に取りにいける仕組みを作り、改善を続けることが重要なんですね。一方で新規事業開発はまだまだ道半ば。まずは、社内人材のスキルの見える化を行い、どの部門の誰に聞いたら進めている新規事業に関する情報を得られるか、どの部門にいる人材を投入すればこの事業が進むのか、見えるようにするのが必要だなと感じています」(板垣氏)
「VUCA時代」に必要な人材
通信業界と物流業界。まったく異なる事業展開をしながら、「社内リソースが足りない」という同じ課題を抱えている2社。それぞれ、どういった人材が求められているのだろうか。
「これまではある意味、決められたことを確実に実行できる“画ー的な”人材が求められてきたように思います。これからは“自律性と専門性”がキーワードとなりそうですね。一人ひとりが会社にどのように貢献したいかをイメージし、そのイメージを実現するために個を伸ばす… … といったイメージですね。実際、当社では社員の副業も進んでいて、本業とは別に、一定の時間を自ら希望する業務にチャレンジし個を伸ばしている社員が出てきています。ジョブ・ポスティング(社内公募)制度も進めています。会社や上司からアサインされたことをやるということではなく、自分の意志で動き働くことで大きな成長につながっていると感じます」(大原氏)
一方で板垣氏は次のように話す。
「特定の業界のお客様ではなく、さまざまなお客様がいるので、会社としては多くの分野の知識を持っていないと仕事が取れないという背景があります。キャリア採用で専門性の高い人材を増やしていくなど、ダイバーシティを高めて新しい事業を生み出せる人を育てていかなければと強く思いますね」(板垣氏)
大企業でも喫緊の課題となっている人手不足対策。一歩先んじることがVUCA時代に適応するためには必要だろう。
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