前編:「この業務、オフィスで行なう必要はあるのか?」シリコンバレーがきっかけで始まった働き方改革。
2018.5.30 Interview
株式会社ベネフィット・ワン 代表取締役社長 白石 徳生(しらいし のりお) 氏
1967年生、東京都八王子市出身。拓殖大学政経学部を卒業後、1990年パソナグループの株式会社パソナジャパン(現・ランスタッド株式会社)に入社。主に外資系企業に向けた人材サービスの営業に従事し、1993年セールスマネージャーに就任。1995年パソナグループの社内ベンチャーコンテストに応募して大賞を受賞。1996年パソナグループの社内ベンチャー第1号として株式会社ビジネス・コープ(現・株式会社ベネフィット・ワン)を設立、取締役に就任。福利厚生のアウトソーシングという新しいフィールドを開拓。2000年代表取締役社長に就任(現任)。2004年ジャスダック上場、2006年東証2部上場を果たす
(※役職等はインタビュー当時(2018年2月)によるものです)。
◆株式会社ベネフィット・ワン◆
1996年パソナグループの社内ベンチャー第1号として、株式会社ビジネス・コープ(現・株式会社ベネフィット・ワン)を設立。根幹である福利厚生アウトソーシング事業では、会員制の総合福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」は8,572団体、約743万人の会員(2018年4月時点)が利用する。現在はCRM、インセンティブ、ヘルスケアなどの新規事業を次々と展開、2012年からは海外進出も開始している。「良いものをより安くより便利に」を企業理念に、新しい「サービスの流通創造」を目指す。従業員数は、単体743人、連結980人(2018年4月1日時点)。
1996年の創業以来、福利厚生アウトソーシングサービスのトップ企業という地位を堅持しながら、CRMやヘルスケアなどの事業を多角的に展開し、海外進出も行なうなど、日々挑戦のフィールドを広げる株式会社ベネフィット・ワン。同社が提供する会員制の総合福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」は、現在8,572団体、約743万人の会員(2018年4月時点)が利用しています。そんなベネフィット・ワンは、最先端の働き方改革を実施している企業の1社でもあり、社内公募したタイトル「Neo Works」を冠した同社の働き方改革では、さまざまな改革を次々と展開しています。その舵を担う代表取締役社長の白石徳生氏に、働き方改革実施に至る思いや、今後進むべき方向などについて、お話をうかがいました。
インサイドセールスへの転換で気づいた働き方改革の可能性
御社の働き方改革「Neo Works」では、在宅ワークの推進やサテライトオフィスの開設をはじめとして、さまざまな取り組みをされています。こうしたことを実践するに至ったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
白石さん(以下、敬称略):働き方改革を実行しようと思ったきっかけは大きく2つあります。1つは、ベネフィット・ワンの営業スタイルの変化です。もともとの営業スタイルは、いわゆる訪問営業。朝、会社に出社してからお客様のオフィスにうかがって営業活動を行ない、夕方5時ぐらいまでにまた当社のオフィスに帰ってくるというスタイルでした。これを、電話営業などのインサイドセールスに変えていったのです。
どうしてインサイドセールスに変えようとしたのですか?
白石:当社は5年前にシリコンバレーにオフィスを設けて海外進出を開始したのですが、実際に海外の営業スタイルを目の当たりにしたり、現地の駐在員と話をしたりするなかで、今後は日本でも絶対にインサイドセールスが“くる”と確信しました。そうなれば、外勤の訪問営業は減っていくでしょうから、その対応をしなければならない。そこですぐに現場に指示して、インサイドセールス部隊をつくりました。お客様に電話をかけてテレビ会議のアポイントメントを取り、テレビ会議で営業、クロージングまでの一連を行なうという営業部隊です。
営業全体をインサイドセールスに変えたのですか。
白石:今、全体の2割ぐらいがインサイドセールスです。大手企業のお客様の場合は、やはりどうしても相手先を訪問する必要が生じがちなのですが、中小企業のお客様の場合はインサイドセールスで受注を獲得できることが多いとわかってきました。また生産性も非常に高いです。
その生産性の高さが働き方改革につながっていったのでしょうか。
白石:インサイドセールスを実行して気づいたのは、「この業務は、オフィスで行なう必要がないのではないか?」ということです。社員は皆、平均で片道1時間ほど時間をかけてオフィスに通勤しています。そのオフィスは会社が維持しています。オフィスで仕事をするためにみんなでコストをかけていたのです。ところが、インサイドセールスであれば、何もオフィスでする必要はないわけです。自宅で行なえば社員は通勤の時間や苦痛から解放されますし、会社がオフィス維持費用を負担することもない。こうして、インサイドセールスへの転換から、在宅ワークやサテライトオフィスといった展開が進んでいきました。
サテライトオフィスについてお聞かせください。
白石:2018年1月、愛媛県愛南町にサテライトオフィスを開設しました。もともと、愛媛県の松山に我々のオペレーションセンターがあるのですが、そこから2時間くらい行ったところに愛南町があります。まだ20人規模ですが、実際に仕事を開始しています。
OBやOG、育休中社員も有力な人材としてネットワーク化
働き方改革「Neo Works」では、「オフィスからオフィス外へ」という業務の外部化と合わせて、外部ネットワークを含めた多様な人材活用を進め、人材面での業務の外部化も進められています。
白石:仕事をするのが自宅となると、オフィスに全員が集まって勤務していたときのようには管理ができません。そうなると、これまでのような雇用契約や時給制の給与という考え方も馴染まないという話になってくるわけです。それなら雇用契約ではなく業務委託契約で、時給ではなく成功報酬で、オフィス外で営業を担ってもらうというスタイルにしたほうがいいのではないかと考えました。そして、社外にも優秀な人材がたくさんいます。社員一人ひとりがレベルアップしていくことももちろん必要ですが、外部ネットワークを生かすことで事業や企業の成長を加速することができると考えました。当社は今、正社員の新規採用をあえて絞っており、社員は少しずつ緩やかに減少しています。しかしながら、おかげさまで当社は急成長を続けており、業務量は増えています。現場からしてみたら人手が足りませんから、フリーランスの方に仕事をお願いする必要性が高まります。そうした背景が、社外の方への業務委託を進める土壌にもなりました。
活用する外部ネットワークに、御社のOBやOGの方を挙げていらっしゃいますね。
白石:当社の事情もわかってくれていますし、一番仕事をお願いしやすいのです。ですから、最初にここに仕事を頼もうと考えました。そのために、OBやOGの情報をデータベース化しました。仕事を辞め専業主婦だが時間があるので在宅で仕事をしているという人もいますし、独立してフリーランスとして活動している人もいます。OB・OGだけでなく、育休中の社員もいます。そのような人材に声をかけたところ、多くの人が手を挙げてくれました。営業の仕事だけでなく企画の仕事など、お願いすることは多岐にわたります。
ちょっとした空き時間にできる仕事があるというのは、そういった方々にとってもうれしい選択肢になるでしょうね。フリーランスになった方に仕事をお願いするということには、特に抵抗などはありませんか?
白石:当社の前のシステム部長は、もともとまさに個人事業主でした。そのように、フリーランスという人材をさまざまなかたちで取り入れることは以前から行なっていましたので、特に抵抗を感じることはありません。また、会社を辞めて会社を立ち上げるという社員に対して、ベネフィット・ワンとの業務委託契約を持ちかけることもあります。当社としては、その人間の能力がわかったうえで適正だと思える価格で契約できますし、その人間もほかで仕事をすることができますし、仕事にかかる費用は経費化することができます。お互いにハッピーというわけです。
業務の外部委託は、今後も増やしていくお考えでしょうか。
白石:業務を細かく分析していくと、30%ぐらいが非定型業務で、残りの70%は定型業務。いわゆる誰がやってもできるような単純作業です。我々の当面の構想としては、30%の非定型業務、マネジメント業務や開発業務については正社員雇用を継続します。まずは70%の定型業務において、個人などの外部ネットワークを活用し、在宅ワークやサテライトオフィスをベースにしていきたいと考えています。
自社事業の会員活用は、次期事業の布石でもある
業務委託する外部の人材として、総合福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」の会員様にも仕事を委託なさっています。これは非常にユニークな取り組みだと感じました。
白石:おかげさまで、ベネフィット・ステーションの会員様は現時点で約800万人となり、1000万人近くなってきています。この存在が、働き方改革の大きなきっかけのもう1つの要素です。我々は今まで、基本的にはBtoCとして、企業が提供しているサービスを個人に対し福利厚生という形で提供してきました。そのビジネスは、昨年まででおおよそ完成形になってきたので、次の段階としてCtoC、いわゆる個人間取引への参入を考えています。CtoCではメルカリさんが有名ですが、個人から個人への販売、物々交換などをとりもつビジネスです。CtoCで扱われるのは、身の回りの雑貨もあれば、自動車や不動産といった大きな資産もあります。それから、個人が有している知識や時間、労働力などの提供もあります。この作業をちょっとやってほしいとか、写真撮影が得意な人に結婚式の写真を撮ってほしいと頼むようなことです。個人が所有する物的資産というと、住宅や不動産、自動車などが思い浮かびますが、個人がもっている一番の資産はおそらく「労働力」だと思います。それであれば、労働力を外して考えるわけにはいきません。CtoCの物々交換などの延長線で、個人の労働力を提供するようなこともサービスの一環としてやるべきではないかという議論になっていきました。しかし、雑貨や不動産などはCtoCの取り引きが成立しやすいのに対して、労働力は圧倒的に企業が“買い”たいと思うだろうということで、CtoCよりCtoBのほうがイメージしやすいと考えました。その場合、労働法や雇用とか関係なく個人の労働力を企業に対して提供することになります。そのお手本に、まず我々自身がならなければいけない。社内改革をして、個人=「C」の労働力を“買う”企業=「B」になろうと。それを実際に始めているというわけです。会員様に仕事をお願いするということは、見方を変えると会員様に対して仕事を提供するというサービスの一環でもあります。そういう意味でも、会員様にも当社にもメリットがある取り組みです。個人に発注するという点では、みらいワークスの形態に近いかもしれませんね。
そうかもしれませんね。会員のみなさんには、どのような仕事を委託なさっているのでしょうか。
白石:大きくわけて3つあります。企業の契約を獲得する営業業務、旅館・ホテルの新規プランや地域メニューを開拓する店舗開拓業務、それから事務処理業務やリサーチ業務などのオペレーション業務です。どれを見ても、社員が行なうよりは個人の方に担ってもらったほうがいいものです。典型的な例が、飲食店の店舗開拓業務です。たとえば、博多の中洲の飲食店を開拓したいと考えたとき、これまでは東京で採用した社員が福岡に転勤して博多地域の飲食店をまわって店舗開拓していました。しかし、博多地域には会員様がおそらく20万から30万人いらっしゃいます。その方たちに、ご自身が行きたいと思うお店に働きかけてもらって店舗開拓を実現していただき、1件ごとに1万円なり2万円の報酬を払うほうが、どうみても合理的です。昨今、副業を解禁する日本企業が増えているのも追い風になっています。会員様は他の企業に属している方が大半ですから、ひと昔前であれば「なんでうちの社員に仕事させるんだ」と怒られてしまい実現しなかったでしょうね。
店舗開拓は確かにイメージがわきますが、営業のような仕事も会員の方に問題なくお任せできるものなのでしょうか。
白石:従来の外勤営業は社員が全部受け持っていましたが、個人の営業スキルに頼る部分が多く、いわゆる営業力のある人間でないとトップセールスにならないと考えられていました。その「営業力」とは何かというと、情報収集能力と情報発信とコミュニケーション力です。ところが、これもインサイドセールスのような「仕組み」に置き換えていくと、全部テクノロジーで代替可能で、属人的なスキルは不要になります。たとえば、お客様の購買意欲がいつ高まったかというような情報は、マーケティングツールなどを使うことでデータとしてわかるようになります。セールスするのに適したタイミングも、「営業担当者の長年の勘」などに頼ることなく把握することができるのです。そうなったときに営業担当者に求められる最大のスキルは、「会いたい人のアポイントメントが取れること」でしょう。A社の受注を獲得したいと思ったら、「A社の人事担当者にアポを取れる」というのが一番必要なことです。それはベネフィット・ワンの社員でももちろん可能ですが、それよりもA社の社員、OB・OGのほうが間違いなく近道です。そして、ベネフィット・ステーションの会員様には、そのA社社員やOB・OGの方がいます。したがって、そういう面でも、1件につきいくらと報酬をお支払いするかたちのほうが合理的であり、支障どころかメリットが大きいと考えています。
雇用体系の多様化は、日本社会の転換期を乗り切るカギ
世の中の変化を感じながらも、自分のところはなかなか変われないという企業が多いと思います。そのなかで御社が変革を遂げている成功要因を挙げるとしたら、どのようなことですか。
白石:多くの企業には、「会社には必ずオフィスがあって、社員はそこに通勤して」というある種の固定観念があります。この背景には、雇用契約というスタイルだからマネジメントが必要という考えがあると思います。当社には、そういった固定観念はありません。ここまで急激に舵を切ることができたのは、それが大きいと思います。もう1つ、基本的に日本企業の雇用では「時給」がベースになっていますが、今回の働き方改革の1つのコンセプトは「脱時給」だととらえています。時給であるからこそ、社員をオフィスに集めて管理するという発想になる。でも、時給制という概念ではないかたちになってくると、そもそも管理する必要がありません。そこの意識が変わると、管理の概念が変わり、いろいろなことが大きく変わるでしょう。日本企業は、マネジメントの大変革をする時期に入っています。これまでの日本は、比較的人が多く、人手余りという状況のなかで、能力やロイヤリティにもそれほど個人差がない社員をマネジメントして大量生産を実現する、といったかたちで伸びてきたと思います。それが、人手余剰から人手不足と、状況がほぼ180度変わりつつあります。これはおそらく、戦後初めて日本企業が経験するような大きな転換期でしょう。そういう中にあっては、雇用体系をどれだけ多様にできるかというのは大きな点だと思います。最後まで正社員雇用に固執している会社は危険ですよね。
お話をうかがっていると、御社の働き方改革は本当に最先端ですね。社外に対してもオープンに発信しているという姿勢も見習いたい点です。
白石:当社は、福利厚生やBPOなどを事業としてお客様に提供することで、まさに、働き方改革を支援する会社でもあります。働き方改革の最先端を走るようでなければだめだという意識がありますし、実際にその自負もあります。そう考えると、働き方改革は、自分たちにとってプロモーションでもあるわけです。セミナーでの講演だけでなく、Webでの訴求についてもSEO対策を行なっていて、「働き方改革」と検索した方に当社の名前が目に入るようにし、興味をもってもらえるようにしています。加えて、「働き方改革本命銘柄」ということで、この約1年半で株価も上昇しています。働き方改革を実行することが一石何鳥にもなって、会社に利益をもたらしているのです(後編に続く)。
<後編:フリーランス化は加速し、日本は個人中心の社会へ。「企業の地方移転」と「脱正社員雇用」が日本の問題解決の一歩になる>
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