前編:退職しても復帰できるリターン・パスポート制度。やっぱり戻りたいと思える会社を作りたい。
2018.6.20 Interview
株式会社ツナグ・ソリューションズ 取締役 兼 ツナグ働き方研究所所長 平賀 充記(ひらが あつのり) 氏
1963年生まれ。世田谷区在住。同志社大学卒業後、1988年リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。人事部門で新卒採用を担当、米NY留学を経て「FromA」各地域版で創刊に携わり、編集長を歴任。2008年からはリクルートの主要求人媒体の全国統括編集長を兼任。2012年リクルート分社化に伴いリクルートジョブズ設立、メディアプロデュース統括部門執行役員に就任、2013年リクルートジョブズ ジョブズリサーチセンター所長に就任。2014年ツナグ・ソリューションズ取締役に就任。役員として経営の一翼を担いつつ、2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任。長年のキャリアから「多様性のある生き方、働き方」について思い入れをもち、パート・アルバイトをはじめとした多様な働き方の未来を調査研究する。著書に『非正規って言うな!』、『サービス業の正しい働き方改革・アルバイトが辞めない職場の作り方』(いずれもクロスメディア・マーケティング)がある。
※役職は、インタビュー実施当時(2018年4月)のものです。
◆株式会社ツナグ・ソリューションズ◆
2007年創業。「アルバイトをヒーローに!」を掲げ、業界初の「アルバイト・パート専門の採用コンサルティング会社」として事業を展開する。「採用設計」「工程管理」「募集受付」「面接代行」「戦力化支援」「組織診断」をワンストップでサポートできるビジネスモデルとその実効性には定評があり、クライアントの高い支持を獲得している。2011年「東京都中央区ワーク・ライフ・バランス推進企業」に認定、2017年東証マザーズ上場。2017年9月期の連結売上高は69億7600万円、グループ合計の従業員数は338名(2018年3月末時点)。
◆ツナグ働き方研究所◆
株式会社ツナグ・ソリューションズを母体とする組織として、2015年に設立。アルバイト・パートを中心とした「多様な働き方のミライを描く」をビジョンに掲げ活動を調査・研究活動を展開。そもそもアルバイト・パート労働市場や「有期雇用」「非正規雇用」については、日本の中でもさまざまな議論があるにもかかわらず、専門的研究機関がほぼ存在しないことへの問題意識から、この領域におけるリアルを明らかにしつつ、働き方のミライを描いていくための研究・発信を行なう。
街のコンビニから企業の事務担当者まで、至るところでアルバイトやパートという働き方をしている人材が活躍しています。現在の日本企業の現場は、こうした人材の存在なしには成り立たないといっても過言ではないのです。にもかかわらず、その採用や育成についてはどこか軽んじられている――。そんな現状に問題意識をもち、当時人材業界初の「アルバイト・パート専門の採用コンサルティング会社」となったのがツナグ・ソリューションズです。現場スタッフも含めたすべての方がいきいきと働ける社会を目指して事業を展開するツナグ・ソリューションズは、自社においても働きやすい会社づくりを大切にしており、「周りの人を喜ばせる」「周りに注意を向ける」「遊びを取り入れる」をワークポリシーに、ユニークな独自の制度を取り入れるなどの活動を積極的に実施しています。今回は、ツナグ・ソリューションズの取締役であり、そのシンクタンク機能である『ツナグ働き方研究所』の所長も務める平賀充記さんにお話をうかがいました。
アルバイト・パートを「人材」としてフォーカスしていく
御社は、人材業界初の「アルバイト・パート専門の採用コンサルティング会社」を掲げ、数多くのクライアントに支持され業績を伸ばしてこられました。
平賀さん(以下、敬称略):アルバイトやパートの人材採用のお手伝いを専門的に行なっている企業がほとんどなかった中で、社長の米田(光宏)が「アルバイトをヒーローに!」を掲げて設立したのがツナグ・ソリューションズです。
その一方でツナグ働き方研究所を設立し、アルバイト・パートといった非正規雇用にフォーカスしたシンクタンク機能も担っていらっしゃいます。こちらは平賀さんが所長に就任されていますが、設立の経緯を教えていただけますか。
平賀:アルバイト・パート専門の採用コンサルティングサービスがなかったのと同様、アルバイト・パート労働市場に特化した調査研究機関も、日本にはほとんど存在しませんでした。以前在籍していたリクルートには「リクルートワークス研究所」というHR領域を代表するシンクタンクがあります。しかし、どうしても調査研究の対象となりがちなのは、日本のトップ企業やハイキャリア人材なんです。その他の研究機関においても、フォーカスしているのはもっぱら新卒採用や中途採用の領域。アルバイト・パート労働市場は、あまり脚光が当たってこなかった領域なのです。
これだけアルバイトやパートを戦力としていても、関心をもたれ辛いのですね。
平賀:企業から見たらアルバイト・パートは、正直な話、「人材」というより「原価」にあたる考え方をしていることが多いのです。例えば新卒に代表される正社員は、少なくない人件費をかけて採用育成がなされます。企業にとっての「中核人材」だからです。一方、「現場のオペレーションを担うアルバイト・パート」は、牛丼屋さんにとっての「牛肉」であったり、コンビニの「おにぎり」であったり、その事業を回していくための1アイテムとして捉えられていると感じることが少なくありません。我々からすると、アルバイト・パートで働く人がそういうふうに思われているのは、当然本意ではありません。そもそも最近よく使われる「非正規雇用」の「非」って、ひどい表現じゃないですか。そういった問題意識のもと、アルバイト・パートカテゴリにスポットをあてて、彼らが働くうえでの価値観をきちんと捉え、世の中へ発信していきたい、という思いからツナグ働き方研究所は生まれました。そもそも21世紀の日本は、少子高齢化と産業構造の変化を受け「一億総活躍」が求められる社会です。そういった多様な働き方を尊重し支援することが絶対的に必要となってくるのです。だからこそツナグ働き方研究所では、アルバイトやパートで働く人を「人材」と捉え、職場の戦力としている企業のノウハウを調査・研究していくことによって、日本の未来にむけて何かアドバイスできることがあるのではないかと考えています。
退職者が「戻りたい」と思うような働きやすい会社にしたい
御社における雇用のあり方については、どのようにお考えですか。
平賀:我々が創業時から大切にしているのは、そもそも多様な働き方を受け入れていきたいということでした。そのためには、できるだけ“ホワイト”な職場であることが重要です。旧来の日本型企業では、大半を占める男性社員が「徹夜してでもどうにかしていけばいい」という働き方でもって、なんとか回っていたわけです。しかし現代の日本では、そういったストロングスタイルが成立するわけがありません。そんな偏った働き方ではなくて、どんなコンディションの人でも受け入れていきたい。思えば無意識のうちに、今で言うところの「働き方改革」を実践しようとしていたのかもしれません。
御社では、どのような働き方があるのでしょうか。
平賀:正社員、契約社員、パートナー、業務委託の方と、雇用形態も多岐に渡ります。それから特徴的なのは、OB・OGが業務委託契約を結びサテライトで働いているというケースです。今、フリーランスの方や副業をもっている会社員も増えてきましたよね。彼らはクラウドソーシングのサービスを使って仕事のマッチングを行なっていますが、まさに社内ネットワークによるクラウドソーシングのような感覚で仕事をお願いしています。
会社を辞めた方が再び働くことができるというのはすばらしいですね。
平賀:当社は、事業特性からも女性従業員が多く働いています。彼女たちが結婚・出産なのどライフイベントなどによって、いったん退職するケースは当然あります。他にも何らかの理由で家庭に入る方もいます。でもそういった女性がまた仕事をしたいと考えるケースは少なくありません。サテライトワークだけでなく、会社に戻ってくる方も多くいます。
退職された方が、再度御社に入社するということですか。
平賀:当社には、退職しても復帰が可能な「リターン・パスポート制度」という仕組みがあります。退職するときにパスポートをお渡しして、「戻りたいときに戻ってきてください」とお伝えするのです。パスポートには一応有効期限があり、勤続年数などに応じて1年や3年というように設定されています。
そういう制度があると退職された方も戻りやすく、より多様な選択肢を考えやすくなるでしょう。御社にとっても経験者の方が戻られるケースが増えるのは心強いですね。
平賀:そのとおりです。長く働いていると“ガス”がたまってしまうことも当然あります。そうなると「1回外を見てみたい」と考える社員も出てきます。でも実際に退職して外に出てみると「ツナグ・ソリューションズはやっぱり過ごしやすい会社だったんだ」みたいな。そういうことは退職前に説明しても、なかなか本人には届きませんから。「じゃあ1回、外を見ておいでよ」というわけです。当社としては、戻りたいと感じてもらえる会社でありたいし、そういう環境を整えるという必要があるというのは、いい意味での緊張感も生まれます。
有休プラス特別休暇・・・従業員の声から生まれる独自の制度
御社には、「働きやすい会社」をつくるための独自の制度が設けられているそうですね。どのような制度があるのでしょうか。
平賀:注目度が高いのは「LOVE休暇」です。これは、社員が大切に思う方の誕生月に休むことができる休暇で、年1回取得できます。相手はご家族や恋人など、誰でもかまいません。当社は社員を大切にするのはもちろんですが、社員の先にいる方も大切にしたい。この制度のおかげで、その方にも我々が大切にしているというメッセージを理解してもらうことができます。それは、その方から社員が応援してもらえるということに繋がるのです。そのほかにも、映画を見に行ったり美術館に行くために半休を半年に1回取得できる「カルチャー&エンタメ半休」や、髪を切りに行ったり整体などの施術を受けたりするために月1回、半日休むことができる「理美容半休」などもあります。映画や美術館、商業施設は休日混みあいますので、平日に休みがあると行きやすくなりますよね。文化・教養に触れれば右脳を活性化することにつながりますし、美容院やネイルサロンに行くのは心身のリフレッシュになります。
それらは、有給休暇とは別に設けられた休暇なのですね。
平賀:はい、別途プラスされる休暇です。加えて、LOVE休暇はプレゼント代として上限1万円、カルチャー&エンタメ半休は1回上限5000円、それぞれ会社から支給されます。それもあって社員の人気は高く、多くの社員が制度を活用しています。昨年2017年は、約8割の従業員が、年1回この3つのいずれかの休暇を取得しました。休暇を取得するためには業務の引き継ぎが必要になってくるのですが、それが業務シェアや属人化の防止につながる効果も生んでいます。
そうした制度は、どのようなきっかけで導入に至ったのでしょうか。
平賀:大半は社員の声から生まれたものなんです。当社は創業当時から、1人1人が自立して自ら高みを目指す組織を目指しています。会社の事業も、自分たちが働きやすい組織も、自らつくっていこうという意識を従業員が積極的にもてるようにして、組織や制度、事業を社員の声からつくるとことを実践しています。「一人ひとりの自立性を応援する自走組織集団」といっているのですが、会社から与えられるままに仕事をするのではなく、自立して動き、楽しんで仕事をしていくことで、1人1人の小さな力の積み重ねが会社として大きいものになる。それを従業員自身や会社の成長の源にしていきたいのです。
コンテストや社長面談で従業員の声を聞き、制度や事業の“種”にする
新しい制度が欲しいといった声は、どのように上がってくるのですか?
平賀:年1回、「SEEDS(シーズ)コンテスト」という全従業員参加型のコンテストを開催しています。これは、会社の制度や新規事業の“種”を従業員の提言から集めて、それをみんなで育てようという取り組みです。たとえば、「こういうお休みがほしいです」というような提案があったとして、「これは実現に値する」というものであれば選考されます。“SEEDS(種)”としたのは、本当に思いつきレベルでいいよという趣旨からです。きちんとしたアイデアを提出するのはなかなか難しいものですが、「日々思っていることをちょっと言ってごらん」と垣根を下げたら提案もしやすくなる。実際、多くの提言が集まるようになり、今では毎回約100個程の提案が出るようになりました。とはいえ“種”ですから、選考されたアイデアには相談役やメンターをつけて、実現できるように育てていくんです。そして、最終審査を通過したものが新しく制度に加わっていきます。
制度も試行錯誤を重ねながらつくってこられたのですね。そのほか、働く方々の声はどのようなものがありますか?
平賀:当社は、今まで社長が従業員と定期的に面談する機会を設けてきました。
社長という要職に就く方が、何百人もの従業員と1時間近く面談をするのは大変なことです!
平賀:それだけ本気度が高いということです。僕が社長をほめても仕方ないのですが、彼はただ声を聞くだけではなく、聞いた声を必ず実現しようとする姿勢がすごい。内容によっては叶えられないこともありますが、必ず実現に向けて動き、極力実現にこぎつける。現場の従業員を大切にして、そこからいろいろな声を拾い上げることと、それを実現することということに、非常に力を入れています。過去に、ある従業員から冷蔵庫のスペースが足りないという声が出ました。従業員が急激に増えた時期だったので備品の整備が追いつかなかったんです。翌日、社長の指示で総務部門が冷蔵庫の手配をしていましたね。そのように働くうえでの細かい点もちゃんと聞いてくれるから、いいことも悪いことも、小さい細かいことまで言いやすい環境が出来ているように思います。実は、この従業員面談は、今期から我々取締役が引き継ぐことになりました。しかしこれは、従業員の数が増えて社長一人で対応できなくなったからではないのです。彼はずっと続けたかったんだと思いますが、我々経営陣の成長を促そうとしているのでしょう。どれだけ聞きだしてあげられるか、責任重大です(苦笑)。
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