後編:企業と働き手が依存し合わず“適度な距離感”を保つことがキー。それは、多様な働き方に欠かせないスキル。
2018.6.22 Interview
株式会社ツナグ・ソリューションズ 取締役 兼 ツナグ働き方研究所所長 平賀 充記(ひらが あつのり) 氏
1963年生まれ。世田谷区在住。同志社大学卒業後、1988年リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。人事部門で新卒採用を担当、米NY留学を経て「FromA」各地域版で創刊に携わり、編集長を歴任。2008年からはリクルートの主要求人媒体の全国統括編集長を兼任。2012年リクルート分社化に伴いリクルートジョブズ設立、メディアプロデュース統括部門執行役員に就任、2013年リクルートジョブズ ジョブズリサーチセンター所長に就任。2014年ツナグ・ソリューションズ取締役に就任。役員として経営の一翼を担いつつ、2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任。長年のキャリアから「多様性のある生き方、働き方」について思い入れをもち、パート・アルバイトをはじめとした多様な働き方の未来を調査研究する。著書に『非正規って言うな!』、『サービス業の正しい働き方改革・アルバイトが辞めない職場の作り方』(いずれもクロスメディア・マーケティング)がある。
※役職は、インタビュー実施当時(2018年4月)のものです。
◆株式会社ツナグ・ソリューションズ◆
2007年創業。「アルバイトをヒーローに!」を掲げ、業界初の「アルバイト・パート専門の採用コンサルティング会社」として事業を展開する。「採用設計」「工程管理」「募集受付」「面接代行」「戦力化支援」「組織診断」をワンストップでサポートできるビジネスモデルとその実効性には定評があり、クライアントの高い支持を獲得している。2011年「東京都中央区ワーク・ライフ・バランス推進企業」に認定、2017年東証マザーズ上場。2017年9月期の連結売上高は69億7600万円、グループ合計の従業員数は338名(2018年3月末時点)。
◆ツナグ働き方研究所◆
株式会社ツナグ・ソリューションズを母体とする組織として、2015年に設立。アルバイト・パートを中心とした「多様な働き方のミライを描く」をビジョンに掲げ活動を調査・研究活動を展開。そもそもアルバイト・パート労働市場や「有期雇用」「非正規雇用」については、日本の中でもさまざまな議論があるにもかかわらず、専門的研究機関がほぼ存在しないことへの問題意識から、この領域におけるリアルを明らかにしつつ、働き方のミライを描いていくための研究・発信を行なう。
人材業界初の「アルバイト・パート専門の採用コンサルティング会社」を掲げ、アルバイトやパートを中心に人材採用に関する包括支援を行なうツナグ・ソリューションズは、クライアントから高い評価を得ており、2017年には東証マザーズ上場を果たしました。そのシンクタンク機能を担うのが、2015年に設立された「ツナグ働き方研究所」です。これまであまり関心をもたれることのなかったアルバイトやパート人材のリアルな現場や今後のあり方にフォーカスした調査・研究を行ない、「働き方のミライ」を描くための情報を発信するツナグ働き方研究所。ツナグ・ソリューションズの取締役であり、ツナグ働き方研究所の所長も務める平賀充記さんに、アルバイトやパート、フリーランスやフリーターといった人材について、幅広くお話をうかがいました。
フリーターやフリーランスは「仕方なく」ではない「果敢な選択肢」
我々みらいワークスのWebサイト「FreeConsultant.jp」に登録しているフリーランスの方々のなかには、「フリーランス」という働き方を自ら選択している方も多くいらっしゃいます。ところが世の中ではいまだに、「優秀ではないから、仕方なくフリーランスをやっているのだろう」と思う方もいます。
平賀さん(以下、敬称略):フリーランスの語源を調べたら、「ランス」は「槍」という意味でした。王に忠誠を誓って召し抱えられる人に比べて、主君をもたず自分の槍の力だけで生きていく兵士というのは、圧倒的な力がなければやっていけなかったでしょう。現代のフリーランスの方々も、本来的には、雇用されている従業員の方よりも高い能力をもっていて、それを武器に人生を渡り歩いている方なのだろうと理解しています。
同様に、フリーターと呼ばれる方々も、世の中からは「弱者」という捉えられ方をしていることが多いですが、アルバイトやパートといった働き方をしている方にもさまざまなケースがあり、自ら選択の自由を行使してその働き方を選んでいるという方もいるのではないでしょうか。
平賀:フリーターのなかにも、社員として雇われるのではない生き方を自ら選択している方は当然いらっしゃいます。そもそも「フリーター」というワークスタイルは、登場した時にはすごく能動的な働き方だったんです。もともとの語源はリクルート発行のアルバイト情報誌「FromA」から生まれました。当時の編集長が「フリーアルバイター」を「フリーター」と略し、FromA創刊5周年記念映画のタイトルを「フリーター」と冠して1987年に公開したのです。フリーターという言葉はそこから世に出回るようになりました。その当時の「フリーター」は、会社に守られて安心・安全に働くということよりも、雇われる働き方から一歩進んだ自由な存在として世に生まれました。組織全般に起こる事象として「2:6:2の法則」と呼ばれる経験則がありますが、「6」が一般的に会社に就職していく人だとしたら、当時のフリーターは上位の「2」、つまり優秀な人材というイメージだったのです。ところが、バブルが崩壊して景気が後退すると、フリーターは「就職できない人」の代名詞になってしまったのです。つまり下位側の「2」のポジション。そこから一気にイメージが下がっていきました。一般的に、景況感のいいときには人々のチャレンジ心が高まり、フリーターやフリーランスを志向する方が増えるのだと思います。一方、景気が後退すると人々は生活に対する不安が増大し、どこかにしがみついて生きたいと考えるようになる。そうした状況下では、会社に所属することで安心を得られるのだと思います。フリーターやフリーランスに対する世の中の“誤解”には、バブル崩壊やリーマン・ショックといった劇的な景気後退が、少なからず影響しているでしょう。そういった意味で今の好景気は、果敢な選択肢を後押しする力となるのではないでしょうか。
企業と働き手、それをとりまく世の中とのギャップ
企業がさまざまな人材を確保するうえでは、フリーターやフリーランスの方々がもつ多様な価値観を、企業側もある程度理解しながらお付き合いしていく必要があると考えますが、多くの企業にはその理解がまだまだ足りていないように感じます。
平賀:おっしゃるように、「企業はフリーターを忌避している」というのが一般的なイメージかもしれません。しかし、そうではない価値観や考え方を持っている企業も実は非常に多いのです。アルバイト・パートに対する企業の捉え方も、業種などのセグメントによって違いがあります。たとえば、我々がお手伝いしているサービス業では、フリーターの方に社員になってほしいと思っているケースが少なくない。サービス業の企業は就職先としてあまり人気の分野ではないので新卒採用も難しく、アルバイトやパートとして働いている方を社員登用するケースが多いです。彼らのことを戦力として認めているためです。雇い手側が「ぜひうちに」と思っている一方で、働き手が「ここはいやだな」と思いながら働いているケースも実は少なくなくて。世の中のイメージと実際の状況が逆になっているというわけです。中小企業でも、「うちで社員になってください」「いやいや、ちょっとここでは」というようなケースは散見されますし。
世の中のイメージとはギャップがありますね。そのギャップはどうして生まれたままになってしまっているのでしょうか。
平賀:ひとつは、日本型の雇用慣習の影響でしょう。「大企業の社員」「正規雇用」というブランドで印象が大きく左右されているのです。そもそも歴史的に「雇用」とは「身分」と密接なつながりを持っている側面もあるのですが、戦後の日本の働き方に対する価値観がいまだ岩盤のように残っています。「どんな仕事をしているか」より「どの会社で働いているか」というような。
確かに、日本は所属に対する価値に重きが置かれているようにも思います。ただ、日本も戦前は個人商店が多く、会社に所属する働き方がこれだけ増えたのは戦後になってからのことですよね。そう考えると、会社に雇用されていることをそれほど重視するというふうに価値観が一気に変わり、それが根強いというのも不思議な気がします。
平賀:企業が雇用を守ることで働き手にパフォーマンスを発揮してもらうという従来の日本的雇用モデルが、戦後に実にうまく機能したので、企業はこのモデルを大事にしようとしたのです。しかし、大事にしようとすればするほど、その裏では非正規雇用のような流動的な人材を配置していくことになった。大きな“歯車”の仕組みを補うように非正規雇用が配置され、さらにそこに、年収格差が莫大に開いてしまいました。
多様化する働き方、企業と働き手の距離感の捉え方は一様ではない
ツナグ働き方研究所では、アルバイトやパートのシンクタンク機能として、従来あまりなかったレイヤーの研究を担っていらっしゃいますが、その活動を通してわかったこと、新たにお感じになったことなどはありますか。
平賀:改めて実感しているのは、働く側と雇う側の距離感です。端的に言うと「どうせアルバイトじゃん」というように、アルバイトやパートという存在や働き方を「どうせ」付きで捉えているようなイメージです。
企業も働く方も、両方がそう捉えているのですか。
平賀:両方です。誤解しないでほしいのですが、この「どうせ」を否定しているわけではないのです。働く職場や属している企業と、働き手である個人の間には、当然ある程度の距離感があります。従来の日本型の雇用慣行では、その距離が圧倒的に近すぎるものでした。「企業は働き手を一生面倒みるから、働き手は企業の言うことを何でも聞けよ」というような世界です。メンバーシップ型と言われますが、お互いに依存しすぎているように感じます。少子高齢化で主婦や高齢者といった働き手の活躍が必須の時代に、こんな関係性が通用するわけがないのですから。そういった意味で、アルバイト・パートの働き方の距離感は、今後の雇用の在り方を示していると申しましょうか。アルバイト・パートという働き手はある程度の割り切りで働いていて、一方で雇う側もあまり無暗な期待しないといった、持ちつ持たれつの適度な関係が形成されているともいえるわけです。とはいえ、やはり承認欲求というのか、「会社から期待されて、その期待に応えるような仕事がしたい」という思いは、アルバイトやパートとして働いている状況でも当然湧き上がってきます。それが働くことの本質でもあるわけです。そこなんですよね。期待することは良しとして要望が強くなればブラックになってしまう。適度な折り合いのようなものをうまく見つけられると、雇う側も働く側もハッピーになるのではないかと思うのです。だからこそ正社員の領域ではなく、アルバイト・パートといった領域を研究する意義があるのだと思います。今後の日本においては、この距離感の研究が肝になってくるでしょう。
雇う側と働く側の距離感というのは、捉え方が一様ではなく難しいですね。
平賀:例えば、各人からさまざまな意見や不満が出てきたとして、入ったばかりの新人と、慣れてきてリーダーポジションを任されたようになった社員では、各々考えるレイヤーも会社に対しての思いも違いますよね。こういったことも雇う側と働く側の距離感の多様性に通じるところがあるのかなと思います。マネジメントとしては、その点を見誤らないようにして切り分けながら接する必要があります。多様な働き方、ダイバーシティが求められる中で、そうした距離感を適切に捉えていくというのは極めて重要なことです。
自分らしい等身大の働き方ができる会社にしたい
米田社長や平賀さんが在籍されたリクルートでは、正社員もそうでない方も全員がバリバリ働いているという印象があります。御社で働く方も、やはりそういう方が多いのですか。
平賀:どちらかというと逆ですね。以前一緒に仕事をしていた関係からジョインするメンバーもいますので、リクルート出身者が多めではありますが、リクルートのやり方を強要するということはまったくなく、どちらかというと等身大の働き方をしたい、落ち着いて仕事をしたいと思っている従業員が多いですね。だから「自分らしくやればいいんじゃないの」「好きにやっていいよ」という雰囲気です。社員からは、「思うようにやったらいいよ」という社風が背中を押してくれるという声も聞きます。オフィスワーク未経験の方も積極的に採用しています。たとえばアパレルで接客の仕事をしていたのだけど、そろそろ「事務の仕事がしたい」と思ったとします。でもすぐに就ける仕事にはなかなか出会えません。事務職の有効求人倍率は非常に厳しいスコアですから、未経験で雇ってもらえるというのは、かなり難易度が高いはずです。しかし我々はそういった人も受け入れたい。もちろん最低限必要なラインはありますが、やりたいと思ったことを支援できるような会社にしたいという思いがあります。
リクルートの方がつくった会社の場合、社風がリクルートっぽくなっていくことも多いように思いますが、御社は違うのですね。
平賀:リクルートでの働き方は、いわば体育会系といいますか、「無酸素でも走り続けられます」みたいな人ばかりで。ビジネスパーソンという言葉がありますが、自分はよくリクルートで働く人のことをビジネスアスリートと言ったりします。そういう環境でずっと働いてきて、それはそれですごくエネルギーの湧き出てくることも多くて、自分にとっての財産でもあります。本当に良い経験でした。そういう働き方を望む人は、それで良いのではないかと思います。けれど、世の中そういう人たちばかりではありません。真逆の生き方、働き方をしたいという人がいて、そういう人もちゃんと生きられる会社をつくりたいと考えています。休暇制度もリターン・パスポート制度も、「休むことも仕事のうち」「戻ってきたくなったらいつでも待っているよ」という思いがあってのものです。そういうことを文化として大事にしているのです。人材にやさしくありたい、セーフティネットのような存在でありたいと意識しています。それは「多様な働き方のミライ」を描くことに繋がっていると思います。
<前編:仕事も制度も会社が与えるのではなく働き手が三つから作り出すことで「働きやすい会社」が生まれる>
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