前編:メンバー全員がお互いに協力し合う存在。 最適な人が力を発揮してくれれば監視も管理も必要ない。
2018.8.13 Interview
株式会社アトラエ 代表取締役 新居 佳英 氏
1974年生まれ、東京都出身。1998年上智大学理工学部を卒業、同年4月株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)に入社。当時社員数150名規模で未上場のベンチャー企業であった同社にてアントレプレナーシップならびに、ビジネスパーソンとしての基礎を学ぶ。2000年7月自ら設立した関連子会社の代表取締役に就任。2003年9月株式会社インテリジェンスを退社し、同年10月株式会社アトラエを設立、代表取締役に就任。長年経験してきた人材紹介事業などの経験をもとに、人材業界において数々の画期的なビジネスモデルを造るなど挑戦を続けている。
※役職は、インタビュー実施当時(2018年6月)のものです。
◆株式会社アトラエ◆
「世界中の人々を魅了する会社を創る」をビジョンに、成功報酬型求人メディア「Green」、組織改善プラットフォーム「wevox(ウィボックス)」、完全審査制AIビジネスマッチングアプリ「yenta(イェンタ)」などの事業を展開する。2016年6月東証マザーズに株式上場、2018年6月に東証1部への市場変更を果たした。2017年9月期の売上高は約18億3000万円、営業利益は約5億6000万円。社名の「アトラエ」とは、スペイン語の「atraer(アトラエール)」という動詞の活用形で、「魅了する」「引きつける」の意。
人材領域において、最新テクノロジーやビッグデータを駆使したイノベーティブなサービスを次々と送り出す株式会社アトラエは、圧倒的な強さでプレゼンスを高め、他の追随を許さない急成長を続けています。2018年6月には東証1部への市場変更を果たすなど、その快進撃は止まることを知りません。そんなアトラエは、「みんなが生き生きと長期にわたって働き続けられるチームにしよう」という理想のもと、従来の日本企業に多いヒエラルキー型組織とは異なる「ホラクラシー型組織」を標榜した組織運営を実行しています。最近では事業だけでなく、その独自の組織運営手法でも高い関心が寄せられているアトラエの新居社長にお話を伺いました。
自分の子供に誇れる組織にしたい
このような組織をつくろうと考えるに至った思いを聞かせていただけますか。
新居さん(以下、敬称略):日本の大半の組織は、強い階層構造になっているヒエラルキー型組織です。あくまでも僕個人の意見ですが、ヒエラルキー型組織では組織の上層にいる人しか面白みもやりがいもないし、給与も高くないと感じていました。就職活動をしていたその当時の僕にはそれが、本当につまらないものに思えました。いつか自分に子供ができた時に、自分の子供を入れたい組織だとはどうしても思えなかったのです。自分の子供や親友など身近な存在の人に対して「ここは働くのにいい場所だよ」と心から誇れる会社をつくらないのは、経営者としてはありえないことです。自分の子供を行かせたいと思えない会社で、人様の子供を採用することになるわけですから。
フラットな組織で困ったことは?
新居:もちろん、現実的に実現するにあたっての細かい試行錯誤は日々たくさんありましたし、テクニック的な部分は工夫や改善を重ねてきました。でも、ヒエラルキーがないことが問題になったことはありません。たとえば昔は、会社の意思決定は、役員を含む全員が参加するミーティングを開き、議論した上で行なっていました。でも、その方法では参加メンバーの知識にも差がありますし、何より意思決定に時間がかかります。スピード感が失われるのはベンチャーとしては致命的ですから、会社の戦略的意思決定についてはボードメンバーという少人数のチームで行なうことにしました。同様に、「会社のシステム的なことに関しては、このチームで意思決定する」といったように、分野ごとに意思決定するチームを分けています。これは、ヒエラルキーで階級をつくっているのではなく、フラットな役割分担に近いものです。
そうすると、ガバナンスという概念はあまりないということでしょうか。
新居:ガバナンスの概念というより、マネジメントという概念がない、管理をする必要がないということです。もちろん、プロジェクトリーダーやマネージャーと呼ばれる人はいて、必要な承認プロセスは適宜踏んでいます。けれど、そうしたポジションは「役割」であって「階級」ではありません。したがって、そうしたポジションに就くことは「出世」ではありません。メンバーは全員が「協力者」、共有・協力し合う存在です。細かい役職設定や権限設定は、チームで何かを成し遂げようとするときにはあまり役に立たないのではないか?・・・僕はそう思うのです。アーティストの集団やスポーツのチームには、まとめ役となるキャプテンやミーティングを仕切るリーダーのような存在はいるにせよ、部長や課長はいませんよね。昔の軍隊で指揮命令系統が細かく定められていたのは、通信インフラなどが不十分で情報収集が困難であった状況で、人の命がかかっている決断を下す必要に迫られていたからでしょう。今はみんなが必要な情報や状況を共有できますから、現場の人たちが判断したほうが早いですし、現場が見えていない人間がわざわざ判断する必要もありません。
最適な人が力を発揮してくれれば監視も管理も必要ない
ピラミッド型、ヒエラルキー型の会社組織では、経営者がすべてに目を行き届かせたい、自分が全てを把握していたいと考えがちです。新居さんは、そのように思うことはありませんか。
新居:まったくありません。仮にそう考えたとしても、経営者が目配せできる範囲には限りがありますし、僕は何でもできるスーパーマンなわけではありません。いくら全方位を管理しようとしても、目配せできる範囲をちょっと逸脱したところでトラブルが起こるのが関の山でしょう。業務ベースで考えても、僕は優秀なエンジニアのように素敵なコードも書けませんし、公認会計士ほど深い会計知識などがあるわけでもありません。ほかのメンバーに比べて僕が圧倒的に秀でているところも、それはもちろんありますが、何かをしたいと考えたときに、僕よりも適している人間、僕よりも真剣に考えている人間がいれば、その案件はその人に任せた方がいいに決まっています。その人たちが力を発揮するのなら、僕が監視する必要も管理する必要もありません。
御社は新卒採用の多い、平均年齢の若い会社だそうですね。御社のような組織運営を実現する上では、人材にも向き不向きがあるかと思います。人材採用にあたり、何か留意されていらっしゃることなどは?
新居:当社のメンバーは現在45人ほどで、新卒採用が65~70%、中途採用が30%前後という比率です。平均年齢はおよそ28歳、20代から30代がメインです。当社のフラットな組織で働くのに向いている人材を考えると、指示待ち型の人や、ミスしたくない人、いわゆる「サラリーマン」タイプの人は難しいでしょう。そしてそういう特性は、その人のもともとの性格が影響することもありますが、過去に勤めていた会社の風土でつくり上げられてしまうこともあります。他の会社で経験を積んだ人には、多かれ少なかれ「会社とはこういうもの」という思い込みがあります。「誰かの指示のもとに仕事をする」「ミスをしないことが評価される」といった“つく法”の刷り込みもあるでしょう。そういう思い込みや刷り込みがある人が当社で働くのは難しいでしょうね。例えて言うならば、野球選手だった人が当社に入り、バスケをプレイすることを求められる。そのぐらい全く違います。
採用のために大阪にも度々出向かれるなど、相当の工数をかけていると伺っています。
新居:おっしゃるとおりです。必要な工数をかけることで、当社は退職率を劇的に低くできている。ですから、工数をかけても割に合うのです。退職者は、この5年間で年間1人いるかいないかです。その退職の理由も色々ですが、当社とは別の環境に身を置いてみたいと考えたり、新しい挑戦をしてみたいというような人もいました。
評価・給与決定プロセスもみんなでつくり上げる
御社には、役員以外の肩書きはなく、「役割」は存在しても「階級」は存在しないというお話ですが、個々の評価や給与はどのように決めているのですか。
新居:メンバーの評価は半年に1回行ないます。評価者を自分で5人選び、その5人から評価を受けるのです。どのような人を評価者に選んでもかまいませんが、適切な評価を行なうために一定のチェックは行なっています。この評価制度をつくったメンバーのワーキンググループが、第三者委員会として「仕事を一緒にしているわけではない、単なる“飲み仲間”に評価を依頼していないか」「5人の評価者全員を年下の人間にしていないか」といったチェックを担い、不適切だと判断すればNGを出します。そうして評価されたスコアが、給与を決める際のベースであり最重要参考資料となります。
評価のスコアで翌年の給与が大きく上下したり、入社1年目の社員でも給与が大きく跳ね上がるようなこともあり得る?
新居:僕らが大事だと考えているのは、「会社に貢献している度合い」を正しく評価し、その序列に応じて給与がバランスよく振り分けられることです。たとえば、プロジェクトリーダーよりプロジェクトメンバーのほうが給与が高いといったケースはたくさんありますが、この原則は崩さないようにしています。評価をスコア順に並べれば、それがすなわち「会社に貢献している度合いの序列」ということに理論上はなるわけですが、実際にはそうなっていないこともあります。そこで、僕らボードメンバーが評価のスコアを見ながら、鉛筆なめなめで多少整えます。それをもとに、最終的に給与が決まります。そうして整えていることは全員が理解し納得しています。僕の報酬は別の体系がありますが、それも定められた計算式で自動的に算出されます。
階級別の給与体系ではなく、明示されたシステムで全社員の給与が決まるというのはいいですね。
新居:誰が会社に貢献しているか、誰が優秀なのか、さぼりがちだけど優秀なエンジニアと必死でがんばっている二流エンジニアのどちらがより貢献しているか、非常に優秀なエンジニアと大きい売り上げをもつ営業担当者のどちらを評価するべきか……、正解は誰にもわからないですよね。自分が100%判断できるとは思えません。だから、みんなで、仕組みで決めるのです。評価も給与も、一つの正解があるというものではありません。正解がないならば、みんなが納得する仕組みをつくるしかない。この仕組みも、社内でベストなものを模索して自分たちでつくった唯一無二のものですし、随時改善しています。仕組みをつくるプロセスに社員に入ってもらうことで、納得感は高まります。もしその仕組みに不満があるなら、その仕組みを変えるかどうかもメンバーみんなで決めればいい。
挑戦を恐れない会社にイノベーションは起こる
御社の組織のあり方は、新規事業の立ち上げなどにおいても効果的に機能するだろうという印象を受けました。
新居:僕がインテリジェンスにいたとき、「こうしたらいいのではないか」と思うことを会社にいろいろ提案したことがありましたが、それに対して「確認して検討するから、ちょっと待っていて」と言われることがよくありました。そのやりとりが個人的には面倒だったし、待っているうちにどんどん時間が過ぎていってしまいます。人材紹介の場面では、求職者から履歴書や職務経歴書の提出を受けますが、昔は手書きの書類を郵送してもらっていました。そうすると、郵送と確認に時間がかかり、不備があればもう1回郵送でのやりとりを繰り返したりして、カウンセリングにこぎつけるまでに2週間かかるといったこともザラでした。それならメールにファイル添付で送ってもらえばいいじゃないかと考えました。上司にそう提案すると、「添付ファイルが使える人は限られている」「時期尚早ではないか」「セキュリティはどうするんだ」といった理由で判断を保留されました。でも、どう考えてもそのほうがメリットがありますし、優秀な求職者であれば添付ファイルは使えますから問題ない。当時はまだどの同業他社もそうした方法を採用しておらず、実行できれば他社より一歩抜きん出ることにもなります。そこで僕は、会社の判断が下るのを待たないことにした。自分の担当しているクライアントに関しては、Excelファイルをメール添付する方法での書類のやりとりを導入してしまったのです。その実績は目に見えて変わりました。その“異常値”で会社も気づいたほどです。けれど、会社は「まだ検討中だといっていたのに勝手に進めてはいけない」と怒りました。新しいことを恐れる社員、判断できない経営陣がいる会社には、イノベーションは起らないと思います。クリエイティブな会社に勝つには、お客様にとってより良いことをためらわずにどんどん実験できる、トライできるようなカルチャーをつくって、クリエイティブの力を発揮することが必要です。ヒエラルキーのある組織では、何か実行したいと思うことがあっても色々お伺いを立てなければいけなかったりしてイライラすることもあるでしょう。我々は、そのようながんじがらめにはしたくありません。当社には、チャレンジする人は褒め称え、失敗は許容するという文化があります。真剣に仕事をしたいと考える人にとっては、当社の仕組みは働きやすい、仕事がしやすい組織であると自負しています。
実験してトライして失敗したとしても、それを褒め称えるということですか。
新居:もちろんです。当社には、「期待を超えろ」「常に挑戦者たれ」「全ての行動に誇りを」「城をつくる意識を持て」「神輿を盛り上げろ」「自らが舵を取れ」という行動指針があります。当社のビジョンを実現するために最低限必要としている行動や姿勢のあり方です。この「常に挑戦者たれ」では、「現状に満足することなく、常に高い意識と志を持ち、『挑戦』することを楽しもう。失敗することを恐れる必要はない。我々は『挑戦も失敗もしない者』よりも、『挑戦し失敗する者』を評価する組織であり続けよう」と掲げています。そして実際に、当社のメンバーはみんな本気で取り組んでくれています。(後編へ続く)
<後編:信頼できる仲間と生き生きと仕事できるチームには、大きな喜びがある。そんな仲間と「組織」と「事業」をつくっていきたい>
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