後編:変化を素直に受け止め順応できる人が、「元々持っている良さ」を持ち続けながら自然体で働ける環境を作る。
2018.8.31 Interview
株式会社サイバーエージェント 取締役人事統括 曽山 哲人 氏
1974年、神奈川県横浜市生まれ。上智大学文学部英文科卒業。1998年4月、新卒で株式会社伊勢丹(現・株式会社三越伊勢丹)に入社、紳士服販売とともに通販サイト立ち上げに参加。1999年4月、社員数20人規模であった株式会社サイバーエージェントにインターネット広告の営業担当として入社。営業部門統括を経て、2005年、人事本部設立とともに人事本部長に就任。2008年、CA独自の取締役交代制度「CA8」で取締役に選任され、3期6年務める。2014年より執行役員、2016年から取締役に再任、以降現職で人事採用・人材育成の活性化に取り組む。2016年10月からは、子会社である株式会社CyCASTの代表取締役社長を兼任し、人事担当者向けコミュニティ「HLC」の運営に携わる。主な著書に『強みを活かす』(PHPビジネス新書)、『クリエイティブ人事:個人を伸ばす、チームを活かす』(光文社新書)がある。
※役職は、インタビュー実施当時(2018年7月)のものです。
◆株式会社サイバーエージェント◆
1998年設立。インターネット広告事業を中心に急成長を遂げ、2000年東証マザーズ上場、2014年東証1部への上場市場変更。現在は、国内トップシェアを誇る「インターネット広告事業」に加え、Webサービス「Ameba」やインターネットテレビ局「AbemaTV」の運営を行なう「メディア事業」、さまざまなスマートフォンゲームを提供する「ゲーム事業」を主軸にさまざまな新規事業を展開。「インターネット総合サービス企業」としてインターネットという成長産業に軸足を置き、時代の変化に合わせた新たなサービス、新規事業を生み続け会社を拡大している。子会社数は約100社、連結役職員数は4576人(2018年3月時点)。
1998年創業のサイバーエージェント(以下、「CA」)は、藤田晋社長によるリーダーシップのもと、多岐にわたる事業と子会社を生み出すメガベンチャーとしてその存在を確立しています。そんなCAは数多くの起業家や著名人を輩出する“人材の宝庫”としても知られています。CAで人事を統括する曽山哲人さんもその一人。もとは営業担当としてCAに入社したという曽山さんですが、いまや人事業界で知らない人はいないといわれるほどの著名な存在です。そんな曽山さんに、CAが生み出す数々の独自の人事制度や、全員が大切にしているビジョンとミッションステートメント、CAでの採用活動や、組織や人材に対する思いについて、さまざまなお話をうかがいました。
「素直でいいやつ」に自然体で働いてもらえる会社でありたい
人材採用において、御社が求めている人材像を聞かせてください。
曽山さん(以下、敬称略):私たちが設けている採用基準のひとつが、「素直でいいやつ」というものです。これは藤田がよく言う人物評ですが、くれぐれもイエスマンということではありません。物事の変化や周囲の意見を素直に受け止めることができる人、さらに言えば変化に順応できる人ということです。市場の変化をあるがままに受け止めることができなかったり、周囲の意見を「絶対にそんなことはない」と頑なに拒んだりするのは、素直ではない。受け止めたものをどう解釈するかは能力や時流によりますが、まず受け止めることが大事です。CAはそういう「素直さ」を求めています。ただ、人の素直さというのはなかなか見えるものではありません。そこで、採用活動で面接やインターンに関わる人には、「あなたが一緒に働きたいと思える人を選んでください」とお願いしています。面接官一人ひとりが「自分が一緒に働きたいと思う人」を挙げていった末に5、6人に絞られれば、その人たちはだいたい「人から『一緒に働きたい』と思われる人」「素直でいいやつ」でしょう。これはずっと採用の基準に置いています。
面接官のうち1人でも「この人とはちょっと働きたくない」と思ったら、どんなに能力があっても採用しない?
曽山:考え方としてはそれが基本ですが、現実的には「面接官との相性がたまたま合わないだけ」ということもあります。ですから、選考で落ちた人がもう一度採用にエントリーできるという再チャレンジの機会も設けています。その方々には、前回の面接をふまえて今どのように感じているかといった質問もします。そういうやりとりで、目の前のことを受け止める素直さを持っている人かどうかをもう一度見させてもらっています。
「CA全体としてこういう働き方を目指したい」といったイメージ、思い描く姿はありますか。
曽山:特に明文化してはいませんが、社員には「できる限り自然体で働いてほしい」という思いがあります。設けるルールは最低限のものにして、あとはもう自由にしようと。それが一番無理がなく、才能も発揮されやすいと考えるからです。これは藤田の思想でもあり、私も大事にしています。それに、「素直でいいやつ」を採用するわけですから、入社後もいいやつでいてほしい。そのためには画一的なやり方を強要するのではなく、その人らしさを維持してもらったほうがいいだろうと思うのです。また、CAとして大事にしている思いを明文化したものとしては、「ミッションステートメント」があります。先の採用基準についてはミッションステートメントでも「能力の高さより一緒に働きたい人を集める。」と掲げていますし、「『チーム・サイバーエージェント』の意識を忘れない。」というステートメントは、ルールで縛らないけれどもチームプレイを重視しようという思いの現れです。
新卒採用を人事主導から現場主導へ“民主化”したYJC
人材採用について新しくつくった制度があるとうかがいました。
曽山:制度というか取り組みですが、英語3文字で「YJC」というものを始めました。これは「良い人材を」「自分たちで」「ちゃんと採用する」の略で、これまでは人事主導であった新卒採用を現場と人事が一緒になってやっていこう、経営も人事も事業部も関係なくみんなで新卒採用を強化しようというプロジェクトです。YJCでは新卒採用するためのチームを編成し、執行役員や事業責任者などがチームリーダーを担います。チームメンバーは全部署から選抜された社員で構成され、1チームあたり25人ほど。そのチームが自分たちで採用設計を練り、募集要綱をつくって、採用の人数を競い合うのです。2017年12月から第1期のYJCを稼働させて、今年の4月で終了しました。全社で200人の採用を9チームで達成するため、1チーム平均20人強というのが採用目標でしたが、なかには1チームで40名以上採用していたチームもありました。
それは、事業部ごとにダイレクトリクルーティングをするイメージですか。
曽山:事業部ごとではなく、部署横断というのがポイントです。全社の採用を部署横断の採用チームで行なうというイメージで、各チームでCAとしてどういう人材を採るべきかを議論し、それをもとに採用戦略を立て、母集団形成を行い、採用するというものです。各チームが広告営業、ゲーム等の領域を問わず全社の未来の仲間を採用します。スタートアップの人材採用は、ある段階で経営者から人事に権限委譲されることが多く、そこから事業のことを直接知らない人事が、いわば“中央集権”な形でで採用を続ける状態が長く続くことがほとんどです。現場の社員からしてみれば「もっとこういう人材を採用してほしい」という思いが出てきてもおかしくありません。CAでは中途採用は事業部単位で行なっていますが、新卒採用は人事主導でした。そこへ事業部の社員から、『あした会議』を通じて「僕らも関わらせてほしい」という提案があったのです。その結果、人事が主導していた新卒採用を事業部のメンバーが一緒になって進めることになりました。これを僕は「採用の民主化」と言っていますが、実行した結果とても良い採用になったと感じています。YJCには、採用の質・量を高める以外にも効果がありました。ひとつは、チームでの採用活動を通じて、他部署の人間との交流が生まれたこと。部署横断でメンバー構成された採用チーム内で交流が生まれ、他部署の先輩や後輩と知り合える機会になったのです。もうひとつは、採用に関わる社員のなかに、新入社員という“後輩”への強いつながりの意識が生まれること。採用活動で接してきた多くの“後輩”との仲間意識が高まるだけでなく、きちんと育成しようという思いが強くなるのです。ということは、YJCで入社する社員は、最初から色々な部署に面倒見のいい“先輩”をもっていることになります。YJCの1期生が2019年に入社しますが、彼らを見守ってくれる先輩がそれだけ多い状態で会社に入れるということです。
新しい制度は意図を伝えることで初めて機能する
新しい制度をつくったらそれを現場に落とし込むことになりますが、その点でのご苦労はありますか。
曽山:前提としては、きちんと説明して意図を伝えるというプロセスは必須です。たとえば、YJCは全社を採用に巻き込みますから、ふだんの業務とのバランスをどのように考えればいいかという戸惑いも当然生じることになります。そこで、最初にキックオフの場を設けて、藤田が自分の言葉で社員に意図を伝えることにしました。これによって「社長がそう言っているのなら重要なことなのだな」という理解につながり、意識を盛り上げることができました。とはいえ、何でも藤田が話すというわけではありません。ビジョンやミッションを浸透させたり何かを伝えたりする場面では、誰が話すかというのはとても大切な要素ですが、事業については裁量を担当役員に渡していますから、基本的には藤田は関与しません。藤田が関わるのは、全社的な取り組みが大半です。
御社では「人事制度を考える入り口は経営課題である」というお話がありました。御社ほどの会社だと、経営課題もかなり先まで見据えて意思決定しているのではないかと拝察します。
曽山:「将来的に人口構成がこうなりそうで、その時にこういう問題が起こりそうだから、それに対してどう手を打てばいいか」というように、課題自体の発生が少し先に起こり得るだろうということをあらかじめ見通しておくという課題解決の時間軸もあるでしょう。でも、我々が見ているのは「今」の課題が多いです。着手する課題は、実際に今、もう目の前にあって、「今、この課題を放置しておくと、2、3年後にはだめになる。そうならないよう、今、手を打とう」という時間軸のイメージです。
『実力主義型終身雇用』でずっと働ける会社をつくりたい
御社は終身雇用を目指していらっしゃるのですね。
曽山:そのとおりです。『実力主義型終身雇用』と言っています。前述のとおり、CAは「素直でいいやつ」「一緒に働きたいと思える人」を選び、価値観の合う人に入社してもらいますが、仕事の評価は実力主義。実力がある人であれば入社1年目でも2年目でも活躍の舞台をどんどんつくることができます。ミッションステートメントにも「若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止。」と掲げています。そうして活躍してもらうためには、安心して働ける場所、社員の雇用を守ることが必要です。「『チーム・サイバーエージェント』の意識を忘れない。」の精神でチームプレイに臨んでくれる人材であれば、僕らは雇用を保障します。「挑戦と安心はセット」——僕らはよくこう言いますが、挑戦するためには安心が必要なのです。雇用に不安がなくなれば、色々なチャレンジもしやすいでしょう。ミッションステートメントに「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを。」と入れているのは、そうしたことからです。インターネット業界はこれからさらに広がっていきます。そうなった時には、今よりもっとさまざまな既存産業とつながらなければいけないところが絶対出てくるはずです。つまり、経験と人脈が将来的に絶対重要になる業界だと考えているのです。その時に、信頼関係のできている仲間がどれだけいるかによって、CAの生み出せるものは変わってくるでしょう。
<前編:人事の取り組みで「お互いをリスペクトし合える関係」をつくる>
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