後編:これからの社会では、自分のスキルの棚卸ができるかどうかが重要。「自己理解」は最高の資産。

2018.9.7 Interview

フリーランス研究家 黒田 悠介 氏
東京大学文学部卒業。「フリーランスを実験し、世に活かす」という活動ビジョンを掲げて自分自身を実験台にしているフリーランス研究家。新しい「事業」と『働き方」を推し進めることを生業としている。「事業推進」の分野では、スタートアップ企業から大企業まで、新規事業のディスカッション・パートナー(プロの“壁打ち”相手)として、年間30社の事業立ち上げを支援。思考の枠組みを提供したり、逆に壊したり発想を転換させたりするのが役目。また、文系フリーランスに関する実験結果を発信するメディア「文系フリーランスって食べていけるの?」を運営し、登壇も実績多数。約2,000人の日本最大級フリーランスコミュニティ「FreelanceNow」発起人であり、多彩なメンバーがディスカッションで繋がる約160人の会員制サロン「議論メシ」代表も務める。
※役職は、インタビュー実施当時(2018年6月)のものです。
◆FreelanceNow◆
約2,000名が所属する日本最大級の実名制フリーランスコミュニティ。さまざまなジャンルのフリーランスが集結しており、依頼できる仕事も多様。企業もフリーランスも紹介料や仲介料を完全無償で提供するセルフサービス型で、短時間で適切なパートナーにマッチングすることが可能。「仕事とつながる、仲間とつながる」というビジョンを掲げて、フリーランスにとっての新たな拠点となることを目指す。
< FreelanceNow webサイト https://freelancenow.discussionpartners.net/ >
◆議論メシ◆
多彩なメンバーがディスカッションで繋がる約160人の会員制サロン。課題解決の体験を通じてスキルを高め、メンバー同士のコラボで新しい仕事やプロジェクトを生み出し、キャリアの発展と自己実現をサポートする実践型のコミュニティ。オンラインだけではなく、オフラインでの活動も重視している。創設当初の名称「議論でメシを食っていく人が集まるサロン」から転じて「議論メシ」。企業向け無償ディスカッション実施中。
< 議論メシ webサイト https://www.gironmeshi.net/ >
※弊社、プロフェッショナル人材へのインタビュー「プロフェッショナリズム」にもご登場いただきました。『日本最大のフリーランスコミュニティの発起人が語る「フリーランスの未来」』
2,000人のフリーランスを抱えるコミュニティ「FreelanceNow」を率いる黒田悠介さん。前編では、ご自身のキャリアと築いてきたコミュニティについてお話をうかがいました。後編では、フリーランスの「自己理解」についてお話をうかがいます。フリーランスとして生きるためには「自己理解」が大切だと黒田さんは考えています。また、今後はフリーランスではなく「ポートフォリオワーカー」が増えると予想しているとのこと。新しい働き方はどのような広がっていくと予想しているのか、黒田さんに聞いてみました。
研究の目的は「働き方が多様化する社会」

フリーランスについての研究は、最終的にはどう活かされるのでしょうか。
黒田さん(以下、敬称略):研究のベースには「働き方の多様性を高める」いう考えがあります。ただそれだけでは漠然としているので、「副業研究家」などと名乗る場合もあります。私はフリーランスが好きなのでフリーランスの話をしてみようと思いました。フリーランスになりたい個人の相談に乗ることもありますし、フリーランスを活用したい企業に対して活用法の相談にも乗ります。一億総活躍社会でフリーランスは重要な働き方のポジションになりますから、行政、すなわち経産省と対話をしてどう活用するかといった話をします。個人と企業と行政のそれぞれにアプローチして働き方の多様性を高め、それを私がフリーランスの領域で取り組むことにしています。
これからフリーランスの働き方はどのように進化するのか、お考えをお聞かせください。
黒田:副業的な文脈になると考えています。一つの仕事をずっとしている人は、スキルが陳腐化してしまうと沈んで行ってしまうので、2つ、3つと色々なことをしながら「ポートフォリオワーカー」として動くのが次の姿だと思っています。これからの社会は、副業解禁が進み、会社員の一方でフリーランスの仕事もしている人が増え、フリーランスという言葉も使われなくなり、ポートフォリオワーカーが増えてくるでしょう。フリーランスが色々な拠点を持とうとするのもポートフォリオワーカーにつながると思います。1人で2枚目、3枚目の名刺を持つようになるのがフリーランス、会社員それぞれの進化であると考えています。自分の信念としては「誰でもできる」と思っています。自分がどう働けるかは、カードの切り方次第ではないでしょうか。私のように対面のコミュニケーションが得意であれば、リアルな場で仕事を取ればよいと思いますし、反対にそういうものが苦手な方はテキストやオンライン上でやり取りしてもよいと思います。最近だとVtuber(バーチャルYouTuber)がありますが、顔を出さなくても、あのように名前もハンドルネームで仕事をすればよいのではないでしょうか。たとえばクラウドソーシングでは“ディスカッション・パートナー”という項目がないので、私は登録できません。でも、向いていると思うものがあればその職業が作れてしまうのが、今の時代のよいところだと思っています。私はコミュニケーション手段と新規事業の経験を持っているので、そのカードを使ってディスカッション・パートナーとして活動していますが、役の作り方が違うだけとも言えます。
いちばん大切なことは「自己理解」をすること

これからの世の中に置いては、自分のスキルの棚卸ができるかどうかが重要だということですね。
黒田:自己理解は最高の資産だと思っています。これさえできていれば自分のカードが把握できます。どれを捨ててどれを活かせば良いのかはわかるでしょう。反対にこれがはっきり把握できていないと意味不明な資格を取りに行ってしまったりします。行動、実践しないと自己理解はできないので、もっとやるべきだと思います。
自己理解と商品化ができているフリーランスはコミュニティに何人くらいいますか。
黒田:1割2割くらいだろうと思います。
カードをどのようにきれるかは大切ですね。「自分はライティングが得意だな」とライティングだけをしている人よりも、ライティングの経験があって子育ての経験がある、介護もしていた、となれば「人の一生を書けるライター」としてのポジションを築けます。自分の経験と知識の商品化が大切です。
黒田:大半の人がクラウドソーシングで名乗っている肩書であったり、あるいは副業でやっている人です。フリーランスで独立して、自分を売れている人は少ないですね。
今ある商品に自分を当てはめに行く人が多いということでしょうか。
黒田:私の場合も「資料作りません」「議事録作りません」と最初から明言しています。お断りするし、契約書も項目を消し、電話も受け付けません。メッセンジャーのみで仕事をしています。結果としてそれがブランディングにつながることが後からわかるのです。周りの方もそれをわかって声かけをしてくれるので、困ってしまうような仕事は来なくなりました。今はとても楽ですが、地道なセールスが必要ですね。手持ちのカードをどう使うかが重要です。カードがあってどれを選ぶかで「フリーランス研究家」「ディスカッション・パートナー」「議論メシ」のどの肩書きを名乗るのかが決まります。そして結果としてポートフォリオワーカーとなるわけです。キャリアを設計しやすくなりますね。境界線をまたぐ人がこれから活躍する世の中になりますので、自分が何と何の越境者になるのかを考えて設計するとよいのではないでしょうか。
ストックよりもフロー「稼げる能力」を持っておく

黒田さんのような方が、みらいワークスでも将来必要になると考えています。フリーランスを集めキャリアカウンセリングをする集団が、次に必要なのではないでしょうか。
黒田:人の一生をかけたキャリアコンサルが必要だと思い「キャリアシナリオコンサルティング」というものを考えたことがあります。すごろくみたいなもので、どのように行き来しながら自分の人生を設計するかというものです。現在と未来をつなぐためにどんなシナリオが必要かをすごろくのように書いてみたのですが、コンセプトを理解してもらうのが難しく、仕事として動かすことは見送りました。
お金の話ももちろん重要ですが、少しずつでもお金を稼げるシステムが必要です。お金をストックすることを考える際に、いくら貯めればよいのかがわからない時代です。ですから私はストックよりもフローのほうに注目しています。いつでも必要な分稼げるだけの能力を持っておこうという考え方です。ファイナンスは家族単位で考えればよいのではないでしょうか。
「個」はどこまで拡張できるか

コミュニティの運営を始めたのは何がきっかけだったでしょうか。
黒田:この先コミュニティが重要視される時代が来ると踏んでいるので、コミュニティの運営能力を獲得するために始めました。運営している「議論メシ」では、集団でディスカッション・パートナーのようなことをしていて、色々な企業に出向き、皆で解決します。「企業、NPOの課題を無償で解決します」とテーマと場所だけいただいて、そこに伺うのです。コミュニティのメンバーにとって貴重な機会なので、経験を買うために無償で行なっています。例えば出版社さんに伺って、出版以外の接点をどのように開拓するかのお話をしたり、シリコンバレーのスタートアップが日本にどうやってローカライズするかの議論であったりさまざまです。5,6人で出向いてディスカッションして帰るのですが、メンバーにとっては貴重な機会でとても楽しいようです。その後、個別で企業と顧問契約やアドバイザー契約に至る人もいます。また、一緒にディスカッションをすることでつながりが深まり、メンバー間のコラボレーションが生まれます。「議論メシ」のメンバーになるためには、月4,000円が必要です。会員は現在160名くらいで、会社員が33%、経営者が27%、フリーランスが25%、残りが官僚と学生です。「この日にどこどこの企業さんに行く」というスケジュールを公開し、希望者は応募フォームに知見などを記入します。それをもとにクライアントと相談し、参加メンバーを決めています。「社内で煮詰まった案件をディスカッションしたいけれど、コンサルタントにお金をかけたくない」という場合もありますし、CwithBのオープンイノベーションとして招かれることもあります。一人ひとりは天才でなくとも、5人集まって天才になれればよいのではないのでしょうか。つまり「集合天才」です。集合天才をそれぞれの課題に合わせて連れていけばマッチすると思います。儲けようと思ったら、非効率でやりようによってはもっと稼げる方法もありますが、あえてその点は放棄しています。
誰かが間に入らなくてはできない仕事だけ、弊社のようなエージェントが担うようになれば、新しい価値が出てくるのではないかと思います。
黒田:これからのポートフォリオワーカーに共通することだと思いますが、全部の仕事をやるには1日24時間では足りないはずです。ですからプロジェクト間の連携で、こっちがうまくいけば、こっちもうまくいく、というシステム作りことを目指したいと思います。すべてが関連し合ってうまくループが回って加速していく状況が作れればよいですね。議論メシでディスカッションして必要になったものが明確になれば、フリーランスの人材を活用しリソースを埋めることができます。フリーランスのコミュニティは個人としてどこまでできるのかを考えているので、あえて企業っぽくならないようにしています。なので法人化もしません。それでもFacebookグループに2,000人のフリーランスと300件の案件が集まっています。今私たちが取り組んでいるのは、「どこまで個が拡張するか」という壮大な実験なのです。
<前編:フリーランスの一大コミュニティの発起人が語る自己理解の大切さとは>
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