二拠点暮らしの難点を楽しさに変え10年、見つけた「複業複住」の形
2023.9.10 Interview
首都圏と地方など2つの地域に拠点を持つ「二拠点生活」は、コロナ禍でリモートワークが一般化し、注目度が高まりました。かつては軽井沢などに別荘を持つ富裕層かリタイヤ層でなければ、そのような暮らしは夢だと思えた二拠点生活。ハードルが下がったとはいえ、「現実的に考えると難しそうだ」と二の足を踏んでいる人も多いのではないでしょうか。コロナ禍の前から10年以上、千葉県と東北を行き来する二拠点生活を続けている鷹野秀征さんに続けるためのコツを聞きました。
二拠点先が東北だった理由
鷹野秀征さん(58歳)は、外資系の経営コンサルティングファームなどを経て2001年に独立しソーシャルベンチャーを仲間と共同で設立。2010年に自身の会社を設立し、パナソニックやNEC、NTT東日本など国内の名だたる企業にCSRコンサルティングや社会起業家育成支援サービスを提供しています。このサービスを展開するにあたって鷹野さんは、“会社人よ、社会人になろう!”を掲げていますが、その真意を次のように説明します。
「多くの人は学校を卒業し会社に就職した時点で“社会人になった”と感じているのではないでしょうか。日本には、会社に属して働いている人が社会人という認識が少なからずあるように感じます。会社に所属していることで安心し、さらには依存してしまう時代ではありません。働く意味を社会の役に立つことと思い、会社に寄りかからず自走している人が社会人だと私は考えます」
鷹野さんが千葉県の自宅に加え、宮城県石巻市に拠点を構えたのは2年ほど前。ただ東日本大震災後の2011年から10年以上、週1で石巻市のほか岩手県釜石市、宮城県女川町、山元町、福島県南相馬市など東北各地を訪れていました。2012年に一般社団法人新興事業創出機構(JEBDA)を設立し、被災した東北各地域での大手企業による支援活動のコーディネートや新たな産業を創出するプロジェクトのプロデュースなどを“社会人”としてのライフワークと位置付け、鷹野さんは活動を続けてきました。
「東日本大震災をきっかけに東北とのつながりが強くなりました。もともと独立する前から、大手企業のCSRの取り組み支援や社会事業企画を提供していました。その延長線上に企業で働く社員の方々の震災復興ボランティアのコーディネートがあり、つながりがなかった東北各地と縁ができました」
千葉県から東北まで450kmの移動の楽しみ方
二拠点生活のネックを鷹野さんは「お金と移動時間」だと話します。
「東北に拠点を持っていなかった頃は毎週2泊で宿泊費と旅費あわせて3~4万円、月15万円かかっていました。今週は仙台、来週は福島と行く場所がバラバラだったのでビジネスホテルが合理的だったのですが2年前、石巻市北上町に宿泊施設と飲食店を立ち上げるプロジェクトに参画し、月の半分を石巻市北上町で過ごすことになったのを機に、荷物と着替えを置くことができる場所を事務所兼宿泊場所として借りました。その家賃が7万円弱なので、月にかかる費用はそれほど変わりません」
新型コロナ感染症の拡大以降、千葉県から東北まで450kmあまりを鷹野さんは車で行き来しています。しかも高速代節約のため3割ほど安くなる深夜に移動することも多く、かなりの労力です。それでも鷹野さんは、「二拠点生活ならではの楽しさがある」と言います。
「車は“移動オフィス”になるんですよ。着替えやスーツを積んでちょっとしたバンライフですね。車なら途中、海が見える場所に停めてオンライン会議に参加するといったこともできます。二拠点生活をする前から旅行も車もバイクも好きなのですが、小名浜、大洗海岸など東北の道中ところどころにあるビュースポットを探すのは二拠点生活を始めて知った移動の楽しみ方です。時間に余裕があるときには食事がおいしい宿で1泊することも。繰り返し行き来することで、旅行では見えない景色が見えてきます」
地域の仕事の収入は都市部の3分の1
「地域事業プロデューサー」としても活動している鷹野さんは、「継続して地域とのつながりをつくるには、遊びだけでなく新しい拠点で働くことも必要」だと話します。
「震災ボランティアで地元の方々との関わりがスタートしたのですが、本気で役に立とうという気持ちが伝わるにつれて受け入れてもらえていると感じることができました。もちろん、地域の企業で都市部の大手企業並みの収入を得ることは難しいでしょう。私の場合、地域の仕事で得る収入は都市部の約3分の1。都市部の仕事で生活に必要な収入を得ることで、ライフワークとしての地域事業プロデューサーの取り組みができています。入口はプロボノで信用を積み重ねるなど、複業複住の自分なりのいいバランスを見つけることが二拠点生活を続けるには重要だと感じます」
もうひとつ、鷹野さんがおすすめするのは「その地域の面倒見がいい人、地元のキーマンとつながること」です。価値観の違いでなかなかコミュニティに入っていけない……と二拠点生活や移住を数カ月、1〜2年であきらめたという人も多くいます。
「突然、見知らぬ人が地域のコミュニティに入ると良い噂も悪い噂も飛び交います。良くも悪くも人と人が密接に関わってお互い支え合っている地域では、あっという間に噂が広がって堪えられなくなる人もいるでしょう。そういったとき、地元の方々に信頼されている人やキーマンとつながっていると安心してもらえるんです。自治体の案件や複業案件で地元企業の仕事をするなど、地域で動きやすい肩書きを持つのもいいですね。生活の場を準備するより前に、新しい場所に人脈をつくり“心の二拠点生活”から始めるのが、長く楽しく二拠点生活をするためのポイントだと私は感じています」
二拠点生活10年でまたひとつ夢の実現
“心の二拠点生活”を10年続け、住まいを構えた宮城県石巻市北上町では、地元の、また鷹野さんの夢がつまった宿泊施設「追波湾(おっぱわん)テラス~考える葦(よし)~」のプロジェクトを2021年にスタート。復興住宅をリノベーションし、ペットと 泊まれる一棟貸しの宿泊施設としたこの拠点を軸に、人口が減り続ける地域の新たな交流人口の創出を目指しています。
「復興住宅時代に施設を運営してきたNPO法人りあすの森の理事として、どうすれば滞在客を増やすことができるか、地元の雇用や近隣のにぎわいを創出できるかをつねに考え取り組んでいます。地元の方々に“ありがとう”と言われると、役に立ちたいという思いや私の本気度が伝わっていると感じ、こちらもありがとうという気持ちになりますね。私の場合はご縁があって東北でしたが、客先の企業がある地域や出張で訪れた地域など人によって関係人口になるところはいろいろだと思います。少しでも縁がある地域で人とのネットワークづくりからスタートすると、二拠点生活のハードルは思ったより高くなかったと気づくことがあるかもしれませんね」
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