「おカネをもらう=プロフェッショナル」と考える人が見落としている重要な視点
2024.6.17 Interview
終身雇用、週休2日、9~17時の8時間勤務……これまでの働き方の「当たり前」は今、大きな転換点を迎えています。それにつれて、プロフェッショナルの定義も変化しているようです。元日本マイクロソフト業務執行役員の澤円氏、ディズニーストア等の社長を歴任されてきた上田谷真一氏、am/pmジャパン(現ファミリーマート)元社長の相澤利彦氏という、超一流プロフェッショナルと仕事をされている3人に、それぞれが考える「プロフェッショナル」について聞きました。
(この記事は、2024年2月6日に開催した『プロフェッショナルの祭典2024』パネルディスカッション1「プロフェッショナルとは」をもとに構成しています)
自分の仕事を「抽象的」に語れるか
「会社員など本業だけでなく副業や複業、あるいはフリーランスなど多種多様な収入源を確保できるようになった今、報酬をもらえるようになったらプロフェッショナルだというのは浅い考えのような感じがしています」と、澤円氏は話を切り出した。それを受けて上田谷真一氏は「結果をちゃんと出す、ミッションを最後まで達成するのがプロフェッショナル」だと言い、相澤利彦氏は「経験が豊富なのがエキスパートでそこに専門性が加わるとスペシャリスト、さらに結果に責任をとるというのを加えるとプロフェッショナル」だと続けた。
三者三様のプロフェッショナル像を具体化するため、「周りにいるプロフェッショナル」にはどんな人がいるか問いかけると、まず澤氏が格闘家の青木真也さんの名前を挙げた。
「彼は、格闘技をやることを芸事という言い方をします。試合に出てリング上で戦って結果を出すことだけじゃなくて、インタビュー、note(ノート)やVoicy (ボイシー)での情報発信などリング外で観衆やファンに向けて行うこともすべて含めて芸事と定義しているんです。格闘技という芸をちゃんとおカネに変えるいくつもの方法を持っているわけですね。そうすると、格闘家として引退した後もその培った芸事で稼いでいけるんです。
プロ野球選手やプロサッカー選手などの選手生命は短く、引退した後の職に困る人がすごく多い。それはなぜかというと、プロ野球選手、プロサッカー選手として自分のやっていることを抽象化できていないからです。たとえば、4番バッターでホームランを何本打ったという実績は引退後に持ち越しておカネに替えることはできません。現役だからこそ年俸に反映される。そういう具体的な実績ではなく、自身の経験を多くの人にわかるように抽象化して言葉として引退後に持ち越せるようにすると一生、プロフェッショナルな野球人、プロフェッショナルなサッカー人として生きていけるんだと思います」(澤氏)
ミッション遂行のためには犠牲もいとわない
この話を受けて相澤氏の口から出た名前は、なんとイチローだ。
「会食の席でイチローさんに、なぜそんなにヒットを打てるのか聞いたことがあります。そうしたら、ほかのプロ野球選手は打ちごろの球を待っているけれど、僕は打ちにくい球を待っていると言ったんです。つまり、プロ野球では打ちごろの球なんてそうそうこないから、待っていたら差し込まれて三振したりする。イチローさんは打ちにくい球がくるコースを想定し、どのように体を崩して打てばいいかシミュレーションしているそうなんです。イチローさんは打ちにくい球でも打たされているわけではなくて、体を崩して打ちにいっているからヒットをたくさん打てるんだそうです。
これ、コンティンジェンシープラン(Contingency Plan:不測の事態が起こったときにできる限り迅速に通常業務に復旧させその被害を最低限にとどめること)ですよね。この視点で、打ちにくい球を待てるように技を極めるところがなんてプロフェッショナルなんだろうと思いました」
一方、上田谷氏が挙げたのは「イギリスの元海兵隊」の人々だ。
「一緒にビジネスをやってきて思うのが、リアルに戦争を知っているイギリスの元海兵隊の将校の方々はプロフェッショナルだなと思います。なぜかというと、ミッション遂行にこだわればこだわるほど、犠牲がゼロでは済まないことを実感としてわかっているからです。
同じようなことがビジネスでも言えるな、と。犠牲を伴わずみんなにいい顔をしようとすると経営者も政治家も後世に残るような仕事はできない気がするんです。たとえば政治家の場合、民営化や消費税に最初に切り込んでいった政治家はその後の選挙で大敗しても、ときを経て評価されるようなことがある。経営者の場合も、1つの事業から撤退して別の事業にすべての資源を移すといったリストラをやった瞬間は、新規事業はすぐに儲かるわけではないから何てことをしたんだと言われるかもしれません。ただ、5年、10年と経つと中興の祖と言われたりする。つまり、犠牲を厭わずにミッションを遂行できる人がプロフェッショナルだと思います」(上田谷氏)
とはいえ、上田谷氏がいう「犠牲を厭わないタイプの経営者」は、日本ではなかなか存在しづらいのが現実だろう。斜陽産業だったとしても、創業者から続く既存事業を私の代でなくすわけにはいかないと考える経営者のほうが多い。それに対する答えとして、上田谷氏は次のように言う。
「日本の場合、創業社長でもないかぎり経営者がそれほどの権限を持たないことが多いことがネックとなっているのでしょう。最近の動きとして、上場会社で取締役会の3分の1以上の独立社外取締役を選任する企業が増えてきています。社外取締役が企業価値を上げるためにリスクを伴う決断を後押しするケースが出てきていますよね。企業と利害関係のない社外取締役が、社内の論理に引きずられることなく手が打てる流れはいい兆候だと思います」(上田谷氏)
三者三様のプロフェッショナル意識
プロフェッショナルとして活躍し続ける3人が、プロフェッショナルであり続けるために意識していることは何かと聞くと、相澤氏はプロフェッショナルの語源が「聖職者」にあると話し始めた。
「プロフェッショナルの語源はラテン語のprofessusで、宗教用語なんです。神に対して告白、宣誓した人、聖職者を指していたようです。その聖職者のイメージが強いからか、僕自身がプロフェッショナルとして意識しているのは、利他。相手の立場に立つということ。自分だけのことを考えて判断するのではなく、まわりのこと、他人の幸せを願う利他の心を判断基準にするということを意識しています」(相澤氏)
この利他の心に共感するのが澤氏だ。
「ビジネスは1個残らず社会貢献だと私は考えています。何もかも、すべてにおいて。だからまずは、自分は社会貢献に参加しているんだという意識を持つ。そして次に、今やっている仕事が社会貢献にどのような形でつながっているのか、つねに意識しながらやる。ここまでがイチ社員。マネージャーになったら、どのような組み合わせで会社の仕事が社会貢献が成り立っているか仕組みを理解する。経営者ともなれば社会貢献の方向性を打ち出し、それをすべての社員に浸透させる。
もうひとつ私が意識しているのがセンスです。このセンスの話をするときに対比として出すのがスキルなのですが、たとえていうとスキルは10万円のシャツなんです。シャツ1枚10万円もするものは、デザインも質もいいでしょう。そのシャツを10枚買うと100万円しますがローンを組めば買おうと思えば誰でも買える。ただ、毎日外出するときにシャツ1枚で生活することはできないわけです。パンツやジャケット、TPOに合わせてネクタイ、スカーフ、靴下など、さまざまな組み合わせが決まってこその10万円のシャツなんですね。
自分の手持ちのワードローブに何があるかを知っていて、あのパンツと組み合わせたら映えるなと思って初めて10万円のシャツを買う。この組み合わせのパターンを知っているか否かはセンスの問題になります。スキルはいくつ持っていても単体では何も役に立たない。スキルを持った人がプロフェッショナルなのではなくて、それらスキルを組み合わせて提示できるセンスを持った人が、プロフェッショナルだと私は考えています」(澤氏)
続く上田谷さんのプロフェッショナルとして意識していることは、「大義と場数」の2つだ。
「プロフェッショナルとして最後までやりきれるかどうかは、大義があるかどうかにかかってくると考えています。そこにあるのが大義ではなく中途半端なプレッシャーだと、ひよっちゃってズルをしてしまう。でもそれは本当にズルい人間だからということではなくて、自分のストレス耐性の限界を超えそうになったときの防衛反応みたいなもので、この程度でいいかなと保身に走るんだと思います。
だけど厳しい状況になったとき、俺はなんのためにここにいるのかを考えると持ちこたえられるんですよ。ここでまた、おこがましくも軍人さんたちの話なのですが、戦いの最前線で先頭に立ったら昇進するとか報奨金がもらえるということでは命ははれないと彼らは言います。命をかけるギリギリのところでは必ず大義が必要になる。イギリス人でありながらアフガニスタンで戦うときは、これをやったら2階級昇進と言われても戦えないけれど、ろくに学校にも行けず殺されてしまう子どもたちを目の前にしてこの土地の子どもたちが安心して学校に行けるようにすることが俺たちの仕事だと部隊長が言った瞬間、全員が奮い立ったというんです。極限に近いところに追い込まれたとき、何のために自分はここにいるのかを意識することが1つ。
もう1つ意識しているのは、場数を踏むということ。新しい仕事をやるときって毎回、危機におちいった!と思うんですが次の新しい仕事に向かうころには、意外となんとかなったなと思うことが多いんですよね。そうやって乗り越えたときには、もう一段パワーアップしているのを自分自身で感じ取れる。それに、そういった危機的状況でひよったか、やり切ったかを見てくれている人も必ずいる。苦しくても失敗しても逃げないでやっていると、次の仕事の依頼につながったりもします」(上田谷氏)
どうやったら「プロフェッショナル」になれるのか
最後に、プロフェッショナルになるにはどうしたらいいのか3人に聞いた。口火を切ったのは相澤氏だ。
「2年前に大腸がんのステージ3Cと診断されているんです。今、この場にいない可能性も高いほどの状況でした。死と隣り合ったとき、人間はいつか死ぬんだと気づいてしまったとき、俺は何のために生きてきたんだっけ?人生で何を残せるかな?といったことをすごく考えました。結論として、先ほど話をしたプロフェッショナルであり続けるために意識していることにつながってくるんですけどね。
気づいたのが日々、自分と対話してこなかったなということ。自分と対話しないとライスワーク(生活するために必要な仕事)で人生が終わってしまう。何のために生きているのか、何を残すかを考えていくとライフワークにつながっていく。プロフェッショナルになるには、自分と対話すること、これに尽きると思います」(相澤氏)
上田谷氏は、「チームのリーダーになること」という、まったく違った視点を提示した。
「僕の定義でいうと、犠牲を払ってでも結果を出すのがプロフェッショナル。1人で結果を出すのはなかなか難しいことです。スポーツ選手だとしても芸術家だとしても1人で完結して結果を出しているわけではなく、誰か支援してくれる人、手伝ってくれる人がいて達成しています。
となると、プロフェッショナルになることは、イコール良きリーダーになることだと考えます。リーダーとして、人の心に火をつけたり、自分の頭の中に描いていることを簡潔な言葉で人に伝える。こういったことができるようになることは、段階を踏んでプロフェッショナルになる道のような気がします」(上田谷氏)
プロフェッショナルになるにはどうしたらいいか、最後に澤氏は次のようにまとめた。
「『死ぬ瞬間の5つの後悔』という本を読んだことがありますか? 5つの後悔のなかに、「自分に正直な人生を生きればよかった」「幸せをあきらめなければよかった」というものがあるんですが、プロフェッショナルとして生きる場合、この2つは自然と両立するものだと僕は思います。人生をかけてやりたいと思ったことに打ち込むということを自分が正直に選んだとしたら、仮にそれが時間切れで途中で終わったとしても後悔はしないし、おそらく幸せなんだと思うんです。
反対に取り返しがつかないのが、やらなかったこと後悔すること。やったことを後悔する場合、もう1度トライすることで後悔がなくなるかもしれません。でもやらなかった後悔は取り返せない。プロフェッショナルになりたいと思ったらまず、自分に正直にやりたいと思うことを選んでやってみる。これがもっとも重要なことじゃないかなと。
とくに日本人は、なにごとにも正解がある前提での教育を受けてきているので、誰かが用意してくれた何かでないと間違いなんじゃないか、いけないのではないかと思いがちなんですよ。人生に正解はないし、誰かが用意してくれた道だから必ず幸せになれるということもないんです。社内でも転職でも、自分で仕事を選んで自分に正直にやりたいことをやる、社会にとってもいいことをやろうじゃないかというスタート地点での思いが重要だと思います」(澤氏)
Ranking ランキング
-
「おカネをもらう=プロフェッショナル」と考える人が見落としている重要な視点
2024.6.17 Interview
-
さすがにもう変わらないと、日本はまずい。世界の高度技能者から見て日本は「アジアで最も働きたくない国」。
2018.4.25 Interview
-
評価は時間ではなくジョブ・ディスクリプション+インパクト。働き方改革を本気で実践する為に変えるべき事。
2018.4.23 Interview
-
時代は刻々と変化している。世の中の力が“個人”へ移りつつある今、昨日の正解が今日は不正解かもしれない。
2018.4.2 Interview
-
働き方改革の本質は、杓子定規の残業減ではなく、個人に合わせて雇用側も変化し選択できる社会になる事。
2018.3.30 Interview