人手不足解消に新しい視点「障がい者雇用」が業績アップの原動力になる
2023.12.5 Interview
「障がい者雇用は義務だからやっている」と考えている企業は、人材活用力が低いと言われる日が来るかもしれません。業務の細分化を行い、その業務に対して適切な形で障がいを持った人材を活用することで、業績アップにつなげている企業の成功事例が出始めているからです。
障がい者の就労を支援する福祉サービス事業所の利用者と企業とのマッチングサービスを展開する「ミンナのミカタHD」の兼子紘子社長に、障がい者雇用のリアルとメリットについて聞きました。
企業と障がい者の架け橋となる「施設外就労」の価値
「最近では、SDGsの観点から障がい者雇用を行いたいが初めてでどのように進めたらいいだろうか、過去に障がい者雇用を行ったもののうまくいかなかったのだが相談できないかという企業様からの問い合わせが増えてきました」と兼子社長は説明します。
障がい者雇用では、雇用率という数字をただやみくもに追っても長期雇用には結びつきません。障がい者向けの仕事をやってもらうという考えだけでなく、戦力として雇用したい、社員として長期的に働いて欲しいと考える企業が「学びの場」として活用できるのが、現在ミンナのミカタで力を入れている障がい者の「施設外就労」です。
施設外就労ではスタッフ1人に対して障がい者3~5人のチームを組み、客先で仕事をします。作業指示については、顧客企業の従業員がまずスタッフに説明。その後スタッフがチーム全員に作業指示を落とし込む流れとなります。企業側は施設外就労を通して障がい者の方々とのコミュニケーションの方法を学び、障がい者雇用が進んだときに自社の現場社員がどのように対応したらいいかを理解することができます。障がい者雇用を行う前に施設外就労で障がい者の方々が働く姿を見て仕事への取り組み方、考え方などを知り「障がい者雇用の解像度」を高められれば、雇用時のミスマッチを防ぐことができるとミンナのミカタでは考えているのです。
「障がい者手帳を持っている人も持っていない人も、当たり前ですがそれぞれに得意なこと、好きなことは違います。また、やってみたら得意になった、好きになった経験があることでしょう。挑戦した結果失敗することをおそれて、できるとわかっている業務だけに制限したら自信を手にすることはできません。私たちは障がいのある方々をミンナと呼んでいますが、ミンナと企業の可能性の芽を花にする仕事が施設外就労だと考えています」
障がい者が活躍することで儲かる会社
もちろん、人材側の要望だけではなく企業側のニーズにも寄り添います。企業側の課題を聞き、業務内容を細分化。切り出して受注可能な作業要件を提案しています。たとえば業務提携先のブックオフでは、買い取った洋服のサイズ分けをして値札をつける作業を受注。これまで人手が足りずバックヤードに山積みとなって店舗に出せていなかった在庫を、加工して店頭に出せるようになったことで売り上げアップにつなげることができています。
そのほか、無料点検やタイヤ交換、タイヤの積み込み作業などを行うカー用品店では、作業内容に対して、どこでつまづいたのか、何がわからないのかを細く確認し、相談しながら作業を進めたことによって、作業の進め方に対して店舗スタッフ様でも気づかなかった改良点が見つかったと言われました。作業内容がわかりづらいところは、障がい者だからわからないのではなく初見だと誰もが理解しづらいところ、教えるときに工夫が必要なところです。この気づきをアルバイトや新入社員向けの研修に盛り込めば、人材を早く育て即戦力化するのに役立ちます。
「国の障がい者雇用率を満たすためだけの取り組みは、企業にとっても障がい者にとっても世の中にとってもプラスなのかどうか疑問がありました。農園で野菜を作っても販売せずに持ち帰るだけ。事業所で就労のためのレクチャーを受けても現実に働いて稼ぐ場がない。働いて誰かに喜ばれ、お金を稼ぐことで生きがいを感じ、人生が充実するということがあると思うんです。だから企業側とのマッチングにおいても、国に定められている数字を達成するための雇用ではなく、戦力として売り上げに貢献してもらったからそれに見合った対価を支払いますというマッチングを提供していきたいと考えています」
「障がいという言葉と概念を無くす」ことにより生まれる真のSDGs
ミンナのミカタが掲げるミッションは、「日本から障がいという言葉と概念を無くす」です。足や手が不自由でも精神疾患があっても日常生活にも社会生活にも差し障りがないハードとソフトが整備されていれば、そこに健常者との垣根はなく「障がい」という言葉も概念もなくなります。高齢になれば難聴になったり、足が不自由になったりするリスクも高まります。いつどこで誰が障がいを持つかわからない世の中で、しかも少子高齢化が進む日本。障がい者と健常者が垣根なく、それぞれの特徴や個性を生かして働ける環境は誰にとってもWin-Winな仕組みです。
とはいえ、ミッション達成には多くの課題があります。大きな問題の1つが、障がい者の就労を支援する福祉サービス事業所の多くで、運営自体が厳しくなっていることです。
「当社では、障がい者と雇用契約を結び、最低賃金を保証する、就労継続支援A型事業所を1つ、非雇用型で、障がい者に対し、作業に対する適切な対価を支払う就労継続支援B型事業所を1つ運営しています。それに加えて、企業の業務プロセスの一部を一括して受注し全国の就労支援事業所に発注するBPO事業『ミンナのシゴト』も運営しています。
直営の事業所の課題でもあるのですが、スタッフは福祉の知識はありますが適正な価格で仕事を受けるという視点が不足しています。営業経験に乏しく、障がい者の高いポテンシャルを企業にどのように伝えたらいいか、働きに見合った報酬をいくらで提示するか、どうやって単価を上げていくかといった思考を持った人が少ないと感じています。国からの給付金頼みの経営では立ちいかなくなっている今、障がい者福祉=安いのマインドセットの打破が必要です」
国際的なSDGsの流れを受けて、障がい者雇用率達成の厳格化が進んでいます。障がい者雇用率を達成することにこだわった障がい者雇用を進める企業は負担が増えるだけ。一方で、事業に持続的に貢献できる業務で障がい者に新たな活躍の場をつくり、売り上げ拡大、業務効率化、コスト削減など組織の改善につなげる好機ととらえた企業は、将来的に大きなメリットを期待できそうです。
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