今の就活に「自ら結果に責任を持って選びとる力」が必要な理由
2024.3.18 Interview
3月、企業説明会が解禁され2025年卒の大学生の就活が本格スタートしました。就職活動市場は、学生に有利な売り手市場が続くと見られています。
「若者(39歳以下)の声をエンパワーメントするため」日本若者協議会を立ち上げ、若者の政治参加、教育、労働など多方面から政策提言を行なっている室橋祐貴氏と、みらいワークス代表取締役社長の岡本祥治が、これから社会に出る若者に向けて「新しい働き方」について対談した内容をお届けします。
子どもを意思決定に参加させるという権利が重視されない日本
岡本:2024年の新成人人口は106万人(総務省推計)、前年から6万人減少し過去最少となりました。有権者に占める高齢者の割合が増加した日本では、若年層の意見は政治に反映されにくくなり世代間の不公平につながることが長年問題視されています。日本若者協議会は、若者の声を政治に反映させることを目指して活動するということですが、どのような経緯で設立されたんでしょうか?
室橋:2015年11月に設立したのですが、当時私は27歳。少子高齢化にまつわる、さまざまな日本の問題に新しい問題はないのに、なぜいまだ解決されていないのかと考えていました。たとえば、メンバーシップ型だけでなくジョブ型も組み合わせた雇用システムを確立しなければ、能力ある若者の不満が出てくるし、勤続年数に応じて給料が上がっても期待される成果や行動が伴わない中高年社員が生まれてしまうといった問題は、1960年代に提言されているんです。
政策決定過程において若い世代が参加できていないから目の前の利益重視で、10年後、20年後の未来を見据えた意思決定ができていないのではないかと考えました。当時、若者に対し投票への啓蒙活動を行う団体はありましたが、若者の利益を代表する団体がなかったので立ち上げたというのが設立経緯です。
岡本:たしかに、「若者の利益を代表するような団体」と言われてもすぐには浮かびませんね。なぜ日本には存在してこなかったのだと思われますか?
室橋:ひとつには国民の行動が政治に影響を及ぼしているという意識が低いという背景があるように思います。自分が行動することで社会が変えられると感じられないから、政治家や社会に主張を届けるデモ活動にも日本は消極的ですよね。一方で、日本の子ども、若者をどのように支援するかという目線、とくに貧困支援などの団体は数多く存在します。ただ、「子どもの権利」を主体としたアプローチは少ないんです。
子どもは未熟で大人は育てる立場にあるという前提が大きすぎて、子どもを意思決定に参加させるという当然の権利への認識がおろそかになっているように感じます。昨年「こども基本法」が施行され子どもの声を聴くことが政府・自治体で義務化、子どもの権利を周知することの必要性も明言されました。欧州と比べると40年ほど遅れています。
リカレントが進まない背景に受験偏重教育
岡本:日本では、国の定めた教育課程に沿った標準化された授業が提供されています。子どもの興味関心に沿ってカリキュラムが選べるように選択科目が提供されてもいませんし、地域や学校による特色、違いはほぼないと言っていいでしょう。
定型化したものを与えられ、与えられたものを受け入れ続けた結果、大人になって自己決定権を手にしても「自分の興味関心に合致したキャリア選択」ができない。大手企業に勤めるためには偏差値の高い大学にいく必要があるから学生時代には受験のために学ぶけれど、そうすると就職後は学ぶモチベーションがない……。働き始めてからのリカレント・リスキリングが活発化しないのも、このあたりにつながってくるのかもしれませんね。
室橋:言われたことを守るのは得意だけれど、自ら結果に責任を持って選びとる力を育ててきていないんですよね。背景には、戦後の成功体験があります。量産体制を支える工場で働く人々は、ミスなくそつなく動けて、トップダウン型で、個性はいらないと考えられていた。それらは変化の激しい時代にはそぐわないのに、教育モデルはそこにとどまっています。
今年はじめ、台湾総統選挙の時期に台湾を訪れました。数百人の学生が立法院(国会)に突入して政府に抗議するという「ひまわり学生運動」からちょうど今年の3月で10年。この学生運動は、中国に急接近する当時の国民党政権に反発して起こしたものでしたが、統一地方選挙での国民党大敗、政権交代を実現させています。この成功体験があるから台湾は、国民の行動は政治に影響を与えられると信じる若者が多いように感じました。
日本では、1960年の安保闘争からの学生運動の激化を受けて民主化教育から管理教育へシフトしているんですよね。高校生の政治活動は教育上望ましくないとして、クラブ活動を必修化し放課後の行動も管理、抑圧する方向に進みました。日本財団の18歳意識調査によると「政治や社会に関することは、自分の行動次第で変えることができる」と考えている若者は49%(第54回「国会と政治家」報告書)。約5割が「変えられる」とは考えていないんです。
岡本:私自身、大学時代はやりたいことが見つからず、コンサルティングファームに就職したから今の大学生を前にしたら偉そうなことは言えないんですが(笑) 振り返ると20代は、1カ所に腰を落ち着けることなく新しい経験を追求する「エクスプローラー(探検者)」だったなと思います。30歳で起業してその後5年かけて、やりたいことにたどり着いた。自分のやりたいこと探しを強制的にやらされる環境を作らないと、今の日本ではみずから選び取った道を歩むというのはなかなか難しいのかもしれないなと感じます。
室橋:そうですね。今の教育制度だと難しい気がします。
保守的な企業選びに大きなリスク
室橋:働き方でいうと、終身雇用モデルもメンバーシップ型雇用でジェネラリストを育てるのも限界がきていますよね。1社で仕事をし続けるのではなく複業する人も増えるでしょうし、ジョブ型雇用で専門的なスキルを持つスペシャリストを育てていく方向にあるのかなと感じます。
知人にも何人かいますが、地方に住みながら都市部の会社で働いている人も増えているなと実感しています。普段は地方でリモートワーク、たまに出張で東京都内に出てくるとか。場所や時間にしばられることなく働く人が増える流れは間違いなくありますよね。
岡本:そうですね。「なぜ働くのか」というところを突き詰めて考え、「この仕事は社会にどのようなインパクトを与えられるのか」といったような働く意味や意義を重視する若者は確実に増えている印象がありますね。加えて、ご飯を食べるため、生活のための仕事を「ライスワーク」、好きなことや生きがい、人生を通じてやり遂げたいと思う仕事を「ライフワーク」と言っていますが、ライスワークだけでなくライフワークを求める人が増えているのもいい流れだなと感じています。
一方で、大学などで学生さんを前にお話させてもらうときに感じるのが、安定を求めて大企業に勤めたいと考える保守的な人がまだまだ多いということなのですが、室橋さんはそのあたりどのように感じていますか?
室橋:私のまわりは、働くことに社会的意義を求める人が多い印象ですね。ですが、進学校を出て偏差値の高い大学に進んだ人の多くは、親など周りの期待に応えて総合商社などの大企業、あるいは高所得の外資系企業に入社して20代後半で結婚、定年まで働く……型通りの正解をいまだに選んでいる人が多い気はします。
受験勉強では正解は1つで、その正解は与えられるもの、自分の頭で考えてたどり着くものではないから、就職もその延長線上で捉えている。親世代はそれでよかったけれど、将来やりたいことがわからず潰れそうにないからと大企業を選ぶ若者たちはリスクヘッジしているようで、逆にこれからは大きなリスクがあると思うのですが、直面しないとそのあたりの危機感が理解できない。
とはいえ、良くも悪くも日本の場合、退職金や年金、育児手当、住宅補助などの福利厚生がまだまだ手厚いので、大企業を飛び出すと厳しい側面があります。このあたり、企業ではなく社会制度として整備していく必要がありますよね。
親の考えを優先させる良い子では、やりたいことは見つからない
岡本:大企業はまだいい。地方の中小企業を見渡すと、搾取する世代と搾取される若者世代という対比があきらかです。都市部では給料が上がっていくからまだいいけれど、安い給料でほかに選択肢なく勤め続ける若い世代は過酷ですよ。
親だったり教師だったり、大人のいうことを聞くだけで自分の頭で考えないことがどれだけ危険かを考えて欲しい。就職でさえ親の考えを優先させるような「良い子」になって、親の思いを満たす必要はないんです。親の言う通りにすれば自分が幸せになれるわけじゃない。
室橋:「自己決定権」が大事ですよね。2018年の「独立行政法人 経済産業研究所」が行なったアンケート調査で、幸福感を決定する要因の重要度として学歴や所得の高さより自己決定をしてきたかどうかが大きく影響するという結果があります。人にやれと言われて働く10時間は辛いけれど、自ら進んでやりたいという意欲を持って働く10時間は楽しい。
人事部に言われた配属先で、ときには転勤によって住む地域さえも自分では決められないなかで働き続けていたら幸福度は下がって当然だと思います。企業側は、優秀な若者を採用したいと思うならキャリアの選択、働く場所の選択などを与え20代、30代はじめ頃から活躍できる場を提供する必要がありますよね。
岡本:一方で、企業側から「南米支社に行ってこい!」といわれて、半ば強制的につらい思いをしながら海外勤務を乗り越えることで成長できたという人もいますよね。意せずして挑戦の場を与えられ、自分自身を変えるきっかけとなるのは貴重なことだとも思うんです。そのチャレンジの場で潰れていってしまう人もいるから、バランスが大事でしょうが。
室橋:地方と中小企業の話でいくと、山形県鶴岡市の取り組みは1つの事例として参考になりそうですね。慶應義塾大学先端生命科学研究所を軸に、Spiber(スパイバー)などベンチャー企業群を生み出し20~30代が移り住んでいると聞きます。既存企業の新規事業創出や変革も大事ですが、新しい産業を生み出す、呼び込むほうが地方活性化効果は高そうです。
定型型にはまらずエクスプローラーになる
岡本:新しいことをやると批判される一方で、当たり前のことだけをやっていたら40代後半に差し掛かったところで会社側は早期退職を促してくる。若いうちにやりたいことは何か、得意なことは何かを考え抜いて仕事や働き方を選んでいかないと、本来の力を発揮できない場所で70歳までしがみつかなければいけなくなってしまう。それでは、企業側も労働者側も損をするルーズルーズの関係です。変わらずに既定路線をいかないとダメで「初志貫徹が美」といった感覚、価値観はいつどこで生まれたのか、個人的には不思議でしょうがないんですよね。
上司と部下、人間関係ベースでの人事評価はまだまだなくなっていないと感じますし、専門性高く今、まさに必要な知識や技術を持っているから出世させようというタスクベースでの人事評価が当たり前の社会になかなかならない。
室橋:変化しないことのリスクに目がいっていない気がしますね。男性が長時間会社で働いて女性は家庭内のことに時間を割く標準型とされるモデルは、国として限界を迎えているのになかなか変わらない。18歳で高校を卒業し、22歳で新卒入社した会社で働き続けるという定型型にはまらず、自分のやりたいことを見つけるために20代はいろいろな会社で働いて、20代後半で大学進学を目指してもいい。経済学部から医学部に変えて医師になる道を選んでもいい。小学校入学も6歳になる年の4月だけと限定しなくてもいいと思うし、中学校3年をもう一回やって高校進学する選択肢も欲しい。
今は、人それぞれの違いを認められず定型型を逸脱すると生きづらい状況が日本にはありますが、違いを前提とした社会制度に変えていくことが必要だと思います。少子高齢化や東京一極集中が進むなかで、若者や地方などの少数派の意見をどのように反映していくかも大事です。
岡本:「言ったことを何でも素直に聞く人が昇進・出世する」企業では今後の成長は見込めません。自立した人材を採用するには、人を囲い込むような採用ではダメで選ばれる会社にならなければならないのに、いまだ変わらず世の流れを逆行しているようなところもあります。
室橋:日本の労働市場ではマーケットメカニズムがうまく機能していないんですよね。国政から採用活動にまで経団連(日本経済団体連合会)の意向が影響し、最適化されています。経団連加盟のトヨタ自動車は時価総額ランキング1位を維持し続けていて、米テスラのような企業が躍り出るのは難しい。米Uberなどライドシェアも、日本では法規制や業界団体の反発で市場は育たない。
5年先なら既存産業の延命措置の政策でいいのですが、その先シュリンクするのがわかっているのに生き残らせる。20年後、30年後を見据えた判断軸で決定されているのか疑問です。企業も個人も変化しなければ淘汰されて当然。労働者の多様なニーズをくみ取って良い働き方を探ることが産業競争力を高めるには不可欠だと思います。
岡本:何でも言うことを聞く良い子のままでいたら、今後の成長が見込めない企業で働き続け逃げ場がなくなったということになりかねませんね。正解は自分で見つけることが大事。
室橋:偏差値で大学を選ぶのは日本くらい。東京大学に進学することがみんなにとって正解ではありません。世間の波に流されて、退職後やりたいことが見つからないということにならないように、自分にとっていいことは何なのか、自分で正解を作っていくことが大切ですね。
(敬称略)
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