「テクノロジーとクリエイティブで、セカイを良くする」というミッションを掲げる株式会社GIG。同社は2017年4月に創業し、2年後の2019年7月時点で70名(インターン含む)と急成長を遂げているクリエイティブ企業である。
受託制作をはじめ、プロフェッショナルフリーランス向けスキルシェアサービス『Workship』なども展開。そんなGIGのクリエイティブ事業部を統括するのは、創業間もないタイミングでジョインした小林新氏だ。
GIGに入社し初めてのアートディレクターというポジションを経験、この2年間で急成長を遂げるGIGの組織づくりに大きく貢献し、現在はクリエイティブ事業部の全体を統括する立場として邁進しているが、「マネジメントは試行錯誤の連続であった」と小林氏は語る。
そこで今回、アートディレクター、またマネージャー、事業部長としてこの2年間どのようなことを考え、また急成長する組織の事業部を統括する立場として何を意識しているのか、何が見えたのか、お話を伺った。
良いクリエイティブを生み出すことはもちろん、「後進の育成」もアートディレクターの重要な責務である
―― これまでのキャリア遍歴を教えてください。
学生時代にまで遡ると、武蔵野美術大学で映像の勉強をしていて、将来は映画監督やCM監督になりたいと思っていました。ただ、就活でCM制作会社などを受けてみたのですが、「体力的に無理だな」と察知して(笑)。
一方で小学生の頃からMacに触れていたこともあって、デジタル領域のものづくりをしようということで、大学卒業後は独学でWebやデザインを勉強し、映像制作も行っているWeb制作会社に入社しました。まずは映像アシスタントとして入社したのですが、デザインやコーディングをやったりとなんでもやるという感じで、3年間でWebに関することがひと通りできるようになったんですね。
そしてもっとデザイン力を高めようと、次は社員が全員デザイナーという会社に転職しました。そこでは4年間務めまして、デザイナーとして次は一体どこへ向かったらいいんだろうというタイミングでGIGのことを知りまして。
代表の岩上から連絡をいただき、ふらっとオフィスに行ったらその日に採用になってしまって、気づいたらGIGに入社していました(笑)。
ただ、これまでいた会社はどこもすでに企業文化が出来上がっている状態でしたが、当時2017年のGIGはまだ創業間もない頃で、岩上からも「組織づくりから一緒にやっていきたい」というお話をいただいたため、面白そうだなと思いジョインすることを決意した、というのがあります。
それからアートディレクターとして制作に関わり続け、2018年にマネージャーとなり、2019年6月からは事業部長としてクリエイティブ事業部全体のマネジメントを行っています。GIGに入ってアートディレクターというポジションに初めて就いたため、最初は「アートディレクターとはなんだろう?」と試行錯誤しながら進めていました。
―― この2年間で、「アートディレクターとは」の答えは何か見つかりましたか?
会社によってもアートディレクターの定義って違うと思うんですけど、僕はアートディレクターの役割は3つあると、いまは思っています。
1つめに、クライアントが求めているもの、特に具体化されていない要望を汲み取り、イメージを広げてあげて、そして最終的なアウトプットに落とし込んであげること。
2つめに、デジタルの領域であるならば、前後、例えば情報設計や、エンジニアリング等の知識も持ち合わせ、プロジェクトチームの中で良き潤滑油になれること。
そして3つめに、後進の育成を含むチームマネジメントです。クライアントが求めるものをつくるだけなら、必要十分な「リソース」さえあれば良いわけです。
しかし、デザイン領域はどんどん進化していくため、その進化に対し「リソース」ではなく、進化し続ける「人」で立ち向かわなければいけませんし、その土台となる仕組みが必要です。
たとえば各デザイナーに課題を与えてあげたり、新しいデザイナーがジョインしたときに他のメンバーと協業するための仕組みを用意してあげるなどもアートディレクターの責務。
メンバーにデザイン領域の進化は各々でキャッチアップしてね、とするのではなく、仕組みとしてどうキャッチアップさせるかということもマネジメントの1つだと思いますし、そういった後進の育成もアートディレクターの役割であると考えています。
―― 後進の育成で具体的に行っていることはどういったことがありますか?
1つめは、デザイナーにつきっきりで毎月課題を出していました。たとえば「レイアウトについて考えよう」「写真について考えよう」など課題を出し、そのためにはこの本がいいよ、と課題図書も出してあげているんですね。そうやって必ずしも出題者の主観のみにならないように注意しながら、インプットとアウトプットを繰り返し取り組ませることも行っています。
もう1つは、「いいプロジェクトマネジメントとは?」「いいデザインワークフローとは?」といった、ざっくりとしたことについて考える課題を投げかけています。考えの枠だけを設定してあげて、その考えた結果の答えがそのメンバーの成果だよと。
そしてその成果は、僕が考えるレベルを毎回越えていますし、管理ではなく、土台と方向性を作ることの爆発力を身に染みて感じています。
フレームワークがそのままフィットするとは限らなかった。いまいるメンバーに合わせたマネジメントが大事であると痛感
―― ポジション的には2018年よりマネージャーになられていますが、マネジメントで苦労したことは何かありますか?
最初はマネジメントに関する書籍を読んで勉強するところから始めた感じで、いろいろ試行錯誤の連続でした。特に難しかったのは、メンバーの目標設定。自分が課されている目標をメンバーに落とし込まないといけない一方、メンバーがやりたいこと、できること、やらないといけないことのバランスをうまくとって目標を決めるというのが、とても難しくて。
特に我々のような受託制作がメインの場合、決まった案件が常にあるというわけではありません。そのため、年間の目標設定というのが難しく、最初のころはそもそも達成できない目標を設定してしまって不満がでたりと、メンバーの目標設定に苦労しました。
また、目標設定がしっかりしていれば、メンバーはその目標に向かって自走するため、上司が細かく管理する必要がないわけです。そこで目標設定が一番重要なマネジメントの仕事であるととらえ、本人の仕事人生も考えながら、適切な目標を決めていくということを大事にしてきました。
―― マネージャーから事業部長へとなられたいま、 “GIGのクリエイティブ事業部のマネジメント” として大事にしていることはなんですか?
1つは、いまいるメンバーにフィットする、メンバーの実力に合わせたマネジメントが大事であると感じています。というのも、世の中にはマネジメントのフレームワークっていろいろあると思うのですが、そのフレームワークがそのままGIGのいまのメンバーに当てはめようとしても、当てはまらないんです。
「心理的安全性をつくる」とか「マイクロマネジメントをしない」とかは大事ではあるのですが、日々そういったことを実行していく、セオリーを守るというのは非常に難しいことだなと日々痛感しています。
そのため、まずはメンバーの状況をしっかりと把握してあげることが大事であると思うので、週1回15分だけでも良いから状況を報告する会を設けたり、節目節目にしっかりとした1on1をするなど、キャッチアップするための仕組みを仕込んでおくことを意識しています。
もう1つは、方向性を示すこと。これまではマネージャーとして、目の前の課題を解決するためになんとか「やりくり」するということは、チームの力に頼りながらもできていました。
しかしいまは事業部長として、むしろ自分が属人的に関わるのではなく、みんなの意識、向かう先が揃うようなビジョンの必要性を感じています。正直、現時点ではまだスタート地点に立ったばかりのため、「我々はどこに向かっていくのか」ということをここから考えないといけないなと思っています。
マネージャーは、メンバーの仕事人生を幸せにしてあげる責任を担っている
―― 受託制作というビジネスモデルであるからこそ、マネジメントとして取り組んでいることはありますか?
受託制作だと、どうしても同じような仕事が舞い込んできやすいため、メンバーにとっては「来年も同じようなことをやっていそうだな」という不満が溜まりがちだと思うんですね。そこで、メンバー本人自身が自分のスキル領域を超えて頑張り、ひいては新しいレベルの仕事につながるよう、「組織貢献」という軸で会社にいかに貢献しているかを評価するようにしています。
たとえばデザインのワークフローをメンバーに考えさせたりと、組織にとって後々価値があるものを生み出していくこと。そうでないと、もちろん組織は成長しませんし、メンバー本人もただ目の前の案件をこなすだけになってしまい、自分の領域から一歩踏み出すようなことができません。
また、デザイナーやディレクターといったロールの名前にとらわれず、メンバーができること、やりたいことをマネージャーがしっかりと見極め、それに対してチャンスを与える場を設けることが重要であると考えています。
過去に実際にあったのが、あるディレクターの強みをよくよく考えてみると、ディレクション業務だけでなく、クライアントの課題に対してしっかりと解決策を提案できるような、コンサル的な一面を持っていて、結果的に大きな受注に繋がったことがありました。
そういった自分の強みって、本人ではわからなかったりすることもあります。そこでマネージャーが頭を働かせて、「こんなことに適性がありそうだな」「この人はこういうことやりたいんだろうな」と想像してあげて、日々の仕事だけでなく、4〜5年後も見据えた長期的なキャリアプランを本人と一緒に考えていく姿勢は大事だと思います。
―― 小林さんがそこまでメンバーに寄り添う動機は何かありますか?
これまでのキャリアで、自分のことを理解されていないまま管理されていたことや、相談できるような安全性が保たれていなかった環境にストレスを感じていた、というのが原体験として大きくあります。
週7日のうちの5日間、週40時間以上を費やす仕事時間って、人生においてすごい大事だと思うんですね。そんな人生の大事な時間であるからこそ、マネージャーはメンバーにどう仕事時間を過ごさせるかを考えるべきであると思いますし、メンバーの仕事人生がより幸せになるようにアシストしてあげる責任を担っていると思います。
みんなで議論し、連携して進めることで負荷なく、よいものをつくることができる
―― クリエイティブのアウトプットに関して、マネジメントの立場で大事にしていることは何かありますか?
プロジェクトメンバーみんなで議論することです。一人ひとりが課題を考えることも大事ですが、その考えたアイデアをぶつけ合うことも大事だなと思っていて。
クライアントが求めているものが必ずしも本質的に課題解決に繋がるものとは限りません。深掘りして考えたら、より課題解決に繋がるような別のアイデアが出てくる可能性があります。
また、ロールごとにイメージしていることは違いますし、やりたいこと、やりたくないことがあったりします。たとえばデザイナーとしては「このページからデザインを進めたい」と思っているのに対して、ディレクターからしたら「このページから先方に提案したい」といった、それぞれが “やりやすい” 進め方というのがあり、後フェーズの人に負荷がかかってしまうケースって比較的起こりやすいわけです。
そうならないためにも、みんなで話し合い、連携しながら進めることが重要。そうすることで不必要な負荷をかけることなく、スムーズなスケジュール進行が可能になり、結果的に良いアウトプットに繋がると思っています。

位置情報マーケティングを手がける『Cinarra Systems Japan』のコーポレートサイト制作を担当。クライアント含めメンバー全員で議論し、一般的に理解しづらいビジネスモデルをサイトでいかに表現するかを追求した

人事向けメディア『hutas』サイトのコンセプトメイキングからデザインまでを担当。メディアとしての様々な可能性を探るべく、度重なる議論とアウトプットを重ね、ベストなデザイン案を模索した
―― 最後に、今後の展望を教えてください。
自分がWeb業界に入った頃はFlash全盛期で、インタラクティブなサイトが溢れ、広告賞などの盛り上がりがあり、ある種分かりやすい魅力がありました。
いまは良くも悪くも成果主義で、チャレンジングでやりがいはあるのですが、「いまいちハネないな」というモヤモヤもあるにはあります。
それらを解決するヒントを探るためには、いま一度「クリエイティブとは? その可能性はどこまで及ぶのか?」といった根本に立ち返るべきと考えています。
その上で、いまいる強力なメンバーとGIGの今後の成長とかけ合わせたときに何ができるか、また「こんな人が入ってきたら、こんなことがGIGとしてできるのでは?」ということを考えながら、クリエイティブ事業部、ひいては会社全体の未来を描いていければなと考えています。