Webサイト制作の案件を中心に、ときにWebテクノロジーを用いたモノづくり案件も行うUX創造企業・株式会社ライデン。同社のポートフォリオには華々しい実績が多く並び、クライアントからも「ライデンに頼めば、なんとかしてくれる」という期待のもと、チャレンジングな案件の問い合わせも多いという。
しかし、クライアントからの期待に対して100%で応えていく裏では、リリース30分前まで完成せず、メンバーだけでなくクライアント含め、その場にいた全員が冷や汗をかくような案件も過去を振り返ればあった。
そういったヤバい状況を切り抜けてきたプロデューサー兼ライデン代表取締役である井上雄一朗氏は、「プロデューサーの仕事って接客業。クライアントに安心してもらい、クリエイターが働きやすい環境をつくるのが役目」と語る。
そこで今回、様々な修羅場を経験している井上氏に、これまでどのようにしてヤバい状況を乗り越えてきたのか、プロデューサーの仕事とは何なのか、お話を伺った。
6割の確信を持って仕事を受けるが、残り4割は確信ないので、結局デスロードに突入することもあった
―― ライデンに問い合わせがくる案件の特徴はなにかありますか?
「ライデンなら、なんとかしてくれるだろう」と、チャレンジングな案件のご相談が多くあります。Webサイトの制作案件がメインではありますが、Webテクノロジーは使うけどブラウザだけで完結しないモノづくりの案件というのも時々ありまして。
そういった案件は、どうすればできるのかわからない状態でご相談をいただくんですね。もちろん軽々しく「いいすね、できますよ!」なんて言えないので、仕事を受ける前に技術検証して、6割くらいの確信が今いる信頼できるメンバーと共に持てたら「やりましょう!」と仕事を受けます。
だけども、それはつまり残り4割が確信のない状態ですから、全てがそうではないですが、結局案件の途中で想定通りにはいかずデスロードに突入することもありましたね(笑)。根拠のない自信はあるので試行錯誤すればできるだろう、とは思っているのですが、仕事なので期日が決まっていますから、試行錯誤する時間がないわけですよ。
そのため、クライアントにも「大丈夫かこいつら」「事故か?!」と不安を感じさせてしまうこともあって、ヤバいなという状況になることもあるんです。
―― そういったとき、プロデューサーとして井上さんはどのように振る舞うのですか?
実際に案件がはじまったら、プロデューサーの仕事って2つだと思っていて。1つは、いかにクリエイターを応援するか。もう1つは、いかにクライアントに安心してもらうか。むしろ、それくらいしかできることがないのですが。
プロデューサーである自分自身はなにも手を動かしていないので、心配しても仕方がないわけです。それであれば、信頼できるエンジニアやデザイナーを応援したほうが生産的だなと。もちろん、新しく入った人に丸投げみたいなことはしませんが(笑)。
またクライアントに対して、プロデューサーの仕事というのは “行間を読む” こともあるなと。クライアントが「黒」と言っているけど、「黒は現実的ではないから」と拒否するのではなく、「100%の黒じゃなくても75%のグレーであれば目的は達成できますよね」という着地点を探るのもプロデューサーの仕事だと思います。
収録30分前に完成。クライアント含め「これは間違いなくヤバい」という雰囲気だった
―― 過去に「マジでヤバかった」という案件はどういったものがありますか?
SEIKOさんの案件で「腕時計でDJプレイに挑戦する」という企画がありました。しかし1ヶ月ほどヒアリングしていくと、DJというよりは「時計でスクラッチする」というのがゴールだったんですね。
そこで超簡単なプロトタイプとして、時計の物理的部品を使ってスクラッチするイメージ動画をつくったんです。
その時点でヤバいわけですが、さらに製作自体もなかなかうまくいかなくて。どれだけ試行錯誤してもダメで、「こんなにエンジニアが頑張っているのにできないのは、本当に無理なんじゃないか?」と思ったんですね。
そこでプロデューサーの僕までもが「やばい、どうしよう」となっちゃうと、本当に頓挫してしまうので、僕は現場にいかないようにしていました。たまに差し入れを持っていって、現場の空気がどよーんとしていたら、すぐ帰ったり。
クライアントに進捗報告する打ち合わせがある日も、一応エンジニアに確認するんですね。だけど「打ち合わせなんてやる意味ないよ! 何もできていないんだから!」と。まずいなと思いながら、どうしようもないのでクライアントには「できていません」と報告するしかなくて、クライアントの皆さんにも衝撃が走るんですよ。会議室一体が「これは間違いなくヤバい」という空気になってましたね。
そこで「全然大丈夫です、やらなきゃいけないことは明確なので、本番では大丈夫です」とクライアントにしっかり伝えて、ポーカーフェイスを保ち、少しでも安心してもらうようにしました。撮影したメイキング映像を見るとめちゃくちゃ引きつってる顔してますけどね、僕。

引きつった顔がわかるメイキング映像(現在非公開)
結局、収録30分前くらいに完成しまして、プロジェクトは大成功。当日までできるかどうか分からなかったのですが、それでも最後まで僕たちを信じてくださったクライアントには感謝していますし、ギリギリに完成したことに対しても怒られるというよりは、むしろ感謝してくださって。ホッとしました。
―― 最後までクライアントの方々に信じてもらえたのは、なぜだとお考えですか?
一心不乱に取り組んでいるので誰も怒れないのかもしれません(笑)。これは別の案件ですが、Google Nexusを使ってツリーをつくるという案件では、ツリーの中で松本というライデンのエンジニア 兼 役員が寝泊まりして製作していたんですよ。
クライアントも、こんな姿を見たら「だ、大丈夫ですか…? 生きてますか、ライデンさん……?」みたいになりますよね。
そして、そんなエンジニアの姿を見ても僕自身は何もできることがないので、コンビニでおにぎりとかお味噌汁とかを買い漁って、お湯を沸かして、芸能人の楽屋みたいになんでも揃えてみたり、ずっとトイレ掃除したり。
また、ギリギリまで取り組む案件の現場って殺伐としてくるので、殴り合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気のときもあるんですよ。そういうときは、スッと間に入って「ブレイク! ブレイク!」と即席レフェリーになります。
「プロデューサーは接客業」少しでも関わる人たちに気持ちよくなってもらうために
―― 井上さんが考える、「良いプロデューサー」とはなんですか?
「プロデューサー」と聞くと、どこか文化人っぽい、偉い人みたいな肩書きの印象がありますけど、僕はプロデューサーって接客業だと思っているんですね。もちろん、クリエイティブをプロデュースできるというのは前提条件でありますけど、もの凄いサービス精神で接客できるというのが良いプロデューサーの条件だなと個人的には思っていて。
そのため、実際に手を動かしているクリエイターへリスペクトを持って、彼らが気持ちよく働ける環境づくりを臨機応変にやるのもプロデューサーの仕事。
特に受託案件だとクリエイターたちのフラストレーションが溜まる瞬間ってどうしてもあるので、「先輩! 足もませていただきます!」とか言ってマッサージしたり、特に意味はないんですが記念撮影したり。少しでも和みをもたらし、フラストレーションを解消できるように努めてます。
あと、クライアントや外部のパートナーに迷惑をかけてしまったときは、よく土下座をするんです、僕たち。もう “迷惑をかけている” というのは動かしようのない事実なので、それであれば普通にすいません、と謝るだけでなく、少しでも気分を変えてもらえたらいいなと思い。
そして土下座の動画を送ったりするのですが、やっていて気づいたのは土下座にもTPOがあるなと。あ、でも最近は土下座しなくても済むようになってきました(笑)。
一見、仕事には直接関係ないことのようにも思われますが、関わる人たちに気持ちよく思ってほしいんですね。いまはおかげさまで案件の幅も広がってきており、ライデン1社で完結する案件というのは少なく、外部のパートナーと一緒に仕事をする機会も多くあります。
そのときに、ライデンとはもう仕事したくない!と思われたら最悪じゃないですか。それよりも、「ライデンと仕事して、キツかったけど気持ちよかったな」という後味を感じてほしいなと思うんですね。
お金以外で「ライデンとまた仕事したい」と思ってもらうためにはそれしかないじゃないですか。
―― これまでクリエイターやクライアントに言われて嬉しかった言葉はなにかありますか?
すごく印象に残っているのは、あるクライアントから打ち上げのときに「コンペのときは “ライデンだけはやめとけ” って部下に言っていたけど、ライデンに頼んでよかった!」と言っていただけたことです。
コンペのときに、他の企業はスーツをビシッと来ているような状況にも関わらず、僕は短パンに野球帽だったので、「今日来ていたあいつはダメだ」みたいな感じで言われていたらしいんです(笑)。
結局、部下の方がライデンを推してくれたみたいで案件をまかせてもらえたのですが、クライアントが嬉しいなと思うことを心がけていたからか、最終的には喜んでいただけたので良かったなと。
「ソワソワしても、何もしないで待つことも重要」100%出し尽くしたら、もうなるようにしかならない
―― あらためて、ヤバい状況でプロデューサーはどう振る舞うべきだとお考えですか?
ヤバい状況では、もうプロデューサーはメンバーを信じることしかできません。
しかし、外部からのプレッシャーにさらされると、人間ですからやはり萎縮してしまって、いいものをつくれないじゃないですか。そこでプロデューサーは下手な芝居を打ってでも、みんなに安心してもらえる環境をつくってチームメンバーを信じる。それが一番大事かなと思います。
プロデューサーとしてできることを100%を出し尽くしたら、もうなるようにしかならないわけですよ。むしろ、100%出し尽くしたら、不思議と「失敗しねえ!」と思えるようになるんですよね。
だからクリエイターに対しても、プロデューサーは100%出せる環境をいかにつくってあげるかが大切。ときに厳しく接することもあれば、クリエイターを邪魔しないよう、本当は内心ソワソワしていてもあえて何もせずに待つこと、一言で言えば “バカのフリをする” ことが重要だったりするなと。
そして、クリエイターが100%のものを出してくれたら、誠心誠意感謝することを大切にしています。「ありがとうございます!」の気持ちを絶対に忘れずにクリエイターと接すること。
その積み重ねで良いチームが育っていくと思いますし、エンジニアの松本みたいな、無茶苦茶な仕事を楽しみながら乗り越えてきたメンバーたちがいるからこそ、いまのライデンがあるのだなと感じています。