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その裏側を支えるプロデューサー、デザイナー、エンジニアで形成されるクリエイティブチームは、ボトムアップで日々施策を考え、実施し、分析・改善を繰り返しているが、デザインマネージャーの金子氏は「ボトムアップ型の組織は同じ方向を向きにくい。だからこそ、チームビルディングが重要である」と語り、デザイナーがチームビルディングを主導しているという。
なぜ弁護士ドットコムではデザイナーがチームビルディングを主導しているのか。今回、弁護士ドットコムの法律相談チームにて、デザイナーでありながらチームビルディングを現場で主導している青木麗紗氏、そしてデザインマネージャーを務める金子剛氏にお話を伺った。
ボトムアップ組織のデメリットは「同じ方向を向きにくいこと」。はじめは衝突も多かった
―― まずはじめに、弁護士ドットコムのクリエイティブチームは一体どんなチームなのでしょうか?
金子:弁護士ドットコムではマトリックス組織、すなわち縦軸と横軸の両軸で組織を形成しています。縦軸では事業ミッションごとに組織が区切られており、各ミッションに対してデザイナー、エンジニア、プロデューサーの最低3人1組がプロジェクトチームとして存在しています。
そして横軸で “デザインチーム” といった職種ごとのチームがあり、実務を行うチームではなく、教育や評価、採用といったことを目的としたチームとなっています。
青木:事業ミッションで言うと、私が所属している法律相談チームではユーザーが法律相談をするときの物理的、心理的、金銭的ハードルを下げる、すなわちユーザーが弁護士に相談しやすい環境をつくることがミッションとなっています。
ユーザーの中には、弁護士に相談するべきか悩んでいる間に事態が深刻化してしまったり、DV被害に遭われているのに加害者に対する恐怖心から相談できなかったりと、様々な理由から弁護士に相談することを躊躇されてしまう方がいらっしゃいます。
そこで私たちは、少しでもユーザーの方々が弁護士に相談しやすくなるよう、課題を見つけ、施策を企画・実施し、さらに分析・改善するということを行っています。

デザイナー 青木麗紗氏
―― 青木さんはもともと受託のWeb制作会社にいらっしゃったそうですが、弁護士ドットコムに入社して驚いたことは何かありますか?
青木:受託のWeb制作とは仕事の進め方すべてが違うなと感じました。特に違いを感じたのは、デザイナーであろうと、自ら課題を見つけて施策を企画・実行することです。
私が当時いた制作会社ですと、デザイナーの仕事は極端に言えばディレクターから降りてくるワイヤーフレームに従ってつくるだけ、という感じでしたので、ユーザービリティテストをしたり、ユーザーインタビューを通じて課題を発見し、いかにユーザーに価値を届けるかといったことは行っていませんでした。
また、弁護士ドットコムは上から「こうやってください」といったトップダウン型で進めるのではなく、ボトムアップで作っていく方針です。自分たちで施策を考えて実践するという環境があるのも、そういった弁護士ドットコムの文化があるからだなと感じています。

デザインマネージャー 金子剛氏
金子:各事業ミッションに対してクリエイティブチームを編成するという組織に変わったのは2年前のことで、実は当初はいまほどうまくいっていなかったんです。というのも、ボトムアップ組織のデメリットは、各々のメンバーが同じ方向を向きにくいこと。チームビルディングをしっかりと行わないと、各々が勝手な方向に走っていってしまいます。
さらに事業会社のモノづくりは、多様なアイデアに基づいて進めていくべきだと思うのですが、どうしても多様性のある、様々なタイプの人間がいると、掛け算をうまく作用させるのは難易度が高く、何も生まれないということにもなりかねません。
実際、職種も違う、バックグラウンドも違う、年齢も違うメンバーがミッションチームとなって一緒になった当初はうまくいかないシーンも多くありました。
「チームメンバーは一番近いユーザー」デザイナーがチームビルディングを主導する
―― 具体的にどういったメンバー間の衝突がありましたか?
青木:私が所属するチームは入社して1年前後のメンバーが集っていたこともあり、お互いの関係性がまだ形成されていない状況でした。そのため、お互いのコミュニケーションの方法が理解できていなく、お互いの思いがうまく噛み合わないことがありました。
チームメンバーとのコミュニケーションがうまく噛み合わないことが続くうちに、「この人、私のことが嫌いなんじゃないか?」と考えるようになり、さらには「このメンバーと一緒に仕事をしていけるだろうか」「少し距離をとりたい」と思ったことがありました。
でも少人数のチームだからこそ、関係性が微妙なままでは施策が進められないし、どうにかしないといけないと思っていたときに、メンバーの一人の調子があまりよくなさそうだったので、何か抱えている悩みがあるなら聞いてみようと思い、「弱みを見せあう会をやりませんか?」と提案してみました。
それから、お互いをしっかり理解し合うためには話しやすい環境をつくることが大事かなと思い、オフィスの近くのカフェに行って話をするようになったんです。会議室だと時間が限られているので、話の途中で時間切れになってしまう心配がなかったのもカフェにした理由の一つです。
もちろん、最初から信頼関係が築けているわけではないので、すぐに本音で話し合えたわけではないのですが、回数を重ねるごとにいろいろ話せる間柄になっていって。
そうして徐々に「この人はこういう価値観だから、こう思っているのかな」と俯瞰して相手のことを考えられるようになりました。
金子:青木とはよく「メタ認知を意識しよう」という話はしています。主観で考えてしまうと、どうしても「こう言われた」「そんなこと言っていない」といった話し合いになってしまうからです。
俯瞰で物事を見られるようになると、適切な処方箋が見つけられたりします。これはユーザーインタビューと同じ。自分よがりのデザインではユーザーは行動してくれませんから、まずユーザーのことを理解することが大切です。
そして、デザイナーってユーザーに伝えたいことを伝えるのが仕事であり、言ってしまえばチームメンバーというのは一番近くにいるユーザー。だからこそ、コミュニケーションを潤滑にするというのは、デザイナーが最も適した仕事だと思います。
また、デザイン思考でいう「共感」「問題定義」「創造」「プロトタイプ」「テスト」のステップを高速で回していくということがデザイナーは大切だと思いますが、それはチームビルディングにも同じことが言えるんです。
そこで、エンジニア、プロデューサーの間に立つデザイナーであるからこそ、デザイナーが全体のファシリテーションを行う立場だと考え、デザイナーがチームビルディングを主導するような組織へと変えていきました。
多様性のある組織の最初の課題は「共通言語が整っていないこと」。言葉が揃い、マインドセットが揃っていく
―― 青木さんがチームビルディングとして意識していることはなんですか?
青木:多様性のある組織というのは「共通言語が整っていない」ということが最初の課題として必ず生まれます。そのため、チームビルディングでは共通言語を整えていくことが大切で、まずチームとしての言葉を整えていくためにも、チームビルディングに関する書籍など、同じ本をふたりで一緒に読む読書会を行っています。
一緒に本を読んでいると、「こういうのがチームに足りてなかったね」などという会話が生まれ、マインドセットも揃っていくんですよね。
また、会議などで業務的な話し合いはもちろんあるのですが、パーソナルな対話をする機会は意識して設けないとなかなかありません。そこで各メンバーと1on1で対話する機会を設け、共通言語を整えることもそうですし、お互いの価値観を理解できるよう、お互いの悩みであったり、心配事を話していく機会を大切にしています。
ただし、相手の話を聞いていると、ついつい自分の意見などを言いたくなってしまうのですが、そうすると話が終わってしまいます。そこで、しっかりと相手の話を聞く、すなわち「傾聴」を意識するようにもしています。まさにユーザーインタビューと一緒なんですよ。
―― そういったチームビルディングをデザインの通常業務と並行して行うのは大変ではないですか?
青木:そもそも “チームのデザイン” というのもデザイナーの仕事だと捉えていたため、チームビルディングとデザイン業務を分けて考えてはいませんでした。そして会社にとって「働く人」がすべて。一緒に働くメンバーが生き生きと働ける環境をつくるというのは、相手のためだけでなく、自分にとっても大事なことだなと。
また、弁護士ドットコムで働くクリエイターは、基本的に裁量労働制で働いているからこそできる、というのもあります。メンバーとのコミュニケーションの機会を設けるために、仕事中にカフェに行ったり、散歩にでかけたりするんですけど、裁量労働でないとなかなか厳しいかもしれません。
「コミュニケーションを潤滑にするハブになりたい」デザイナーにしかできない仕事とは
―― あらためてこれまでのチームビルディングの道のりを振り返ってみて、いかがですか?
青木:最初の頃は、いっぱいいっぱいでした(笑)。ただ、振り返ってみると、「形成期」「混乱期」「統一期」「機能期」「散会期」と組織の進化のフェーズを5段階にわけて考える ”タックマンモデル” というフレームワークがあるのですが、私たちのチームはタックマンモデルでいう混乱期のフェーズだったんだなと。
最初の頃は、お互いの思いがうまくかみ合わず衝突してしまいましたが、いまはようやく統一期に入って、困ったときに助け合えたり、やっていることに対して応援し合えたりと、一緒に働いていて「楽しい」と思えるようになりました。
チームビルディングって私たちがやっている法律相談と同じで、「これは他のメンバーに相談すべきことなんだっけ?」と悩んでいるうちにどんどん深刻化してしまうんですよね。
だからこそ、気軽に話せる関係、相談し合える関係というのはとても大事ですし、そういった環境があるのとないのとでは、最終的な結果も変わってきてしまいます。一人ではやっぱり仕事はできないので、振り返ってみると「一緒にやってきたメンバーの助けがあったからできたな」と思えることも多いですね。
そして弁護士ドットコムのメンバーはみな会社のビジョンに共感して入社しているということもあり、いまは仕事がうまく進んでいるなと感じています。
―― 青木さんは今後どのようなデザイナーになっていきたいですか?
青木:いま社内での個人目標でも、デザイン的な目標ではなく、すべてコミュニケーションの目標に振っているのですが、そういったコミュニケーションスキルというのは最終的にデザインに繋がることだと考えています。
そして、ある外部の勉強会で「プロデューサーとエンジニアを繋げられるのはデザイナーしかいない」というお話がありました。
まさにそれだなと思って、私自身もプロデューサー、エンジニアのコミュニケーションを潤滑にする存在、ハブとなるようなデザイナーになりたいと考えています。