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最終更新日:2024.08.07
営業/マーケティング

横浜ベイスターズをわずか5年で経営再建した立役者と具体的施策とは!?

横浜ベイスターズをわずか5年で経営再建した立役者と具体的施策とは!?
“横浜DeNAベイスターズ”のイメージを聞かれると『ピッチャーもバッターもレベルの高いチーム』『優勝できそうでできないチーム』このようなイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか?

2016年から2022年までの7年間でAクラスが4回あり、そのうち2回が2位と着実に強くなっているものの、最後に優勝したのは1998年であり、プロ野球12球団で最も優勝から遠ざかっているチームです。

かつ2000年から2015年までの16シーズン中13シーズンがBクラスであり、10回最下位となってしまっているなど、非常に長い期間“暗黒期”と呼ばれておりました。チームが弱ければ観客を呼ぶことができずに赤字となってしまうため、チーム強化に向けた十分な補強ができず、チームを強くすることができないという負のスパイラルに陥ってしまいます。

そんな横浜ベイスターズが生まれ変わった要因として、2011年のDeNA社による球団買収がありました。球団買収から5年後の2016年、万年赤字続きだった球団を黒字化させ、観客動員数も約180%成長させるなど、わずか5年で経営を再建させています。そこで今回は、横浜DeNAベイスターズの経営再建を5年で実施できた手法とその立役者について解説していきます。




1.横浜ベイスターズの経営遍歴

DeNAに経営母体が変わる前は、TBS社がベイスターズの親会社でした。

TBS時代のベイスターズは赤字続きであり、2011年は売上が約50億円だったのに対して約25億円も赤字という厳しい状況でした。しかしながら、2011年にDeNA社が球団を買収して以降、さまざまな施策を実施し、その結果として2016年には売上が100億円を超えて黒字化を達成しています。観客動員数も2011年が約110万人だったところ、2016年は約194万人にまで増加しており、なんと約76%もアップさせています。ホームグラウンドである横浜スタジアムの稼働率は90%を誇り、これは日本のプロ野球12球団の中でもトップクラスの数字です。

横浜ベイスターズの経営が苦しかった要因として、チームの低迷からくる観客動員数の少なさに加え、ホームグラウンドである横浜スタジアムとの関係性がありました。横浜スタジアムの経営権を所有しておらず、球場での広告収入や飲食、グッズの収入を全て横浜スタジアムの運営権を保持している株式会社横浜スタジアムに渡さなければならないという契約でした。

実はこの契約では、仮に全試合で満員になったとしても「赤字」となってしまう状態であり、球団経営を非常に圧迫してしまっておりました。そこでDeNAに経営母体を移した2011年以降、徐々に球場との契約内容の見直しを実施していき、赤字額を減らしていきました。そして遂に2016年1月に横浜スタジアムの友好的買収に成功して、球団と球場の一体経営に舵を切ることができ、黒字化を実現していくのでした。

2.経営再建を実施した立役者

こうした横浜DeNAベイスターズの経営再建を成し遂げた立役者が、2011年から5年間球団社長を務めた池田 純 氏です。
社長就任時の年齢が35歳であり、プロ野球史上最年少の球団社長だったことや、従来のプロ野球界のやり方に囚われない手法が大きな話題となりました。

池田氏はマーケティングに強みを持っており、大手広告代理店時代には「ハバネロ」ブームの火付け役を行ったようなビジネスパーソンでした。
DeNAの球団社長に就任した池田氏が取り組んだことは、お客様が野球場に来る理由を「単なる野球観戦」から変えたこと、つまりゲームチェンジを行いました。

プロ野球のゲームを観戦する顧客を増やす施策といえば、「チームが勝ち続けて、野球ファンを満足させること」という発想になるのが普通です。
しかしながら池田氏は、野球場を「皆が集まる楽しい場所」に変革することを考え、オリジナルビールの販売やイニング間の演出や音楽で、野球の試合以外も楽しめる仕掛けを作り、ライト層を取り込むことに成功しました。

池田氏が球団社長へ就任した当初は「野球ビジネス未経験の30代社長に何ができるの?」と反発は大きかったそうですが、初めの段階から誰でもわかる形でビジネスの成果を出したということがその後の経営再建を進める原動力になりました。

3.経営再建手法

DeNAへの球団経営権譲渡後に徐々に経営が好転していき、5年間で黒字化していったと上述してきましたが、実際に実施した手法としては以下の4点です。

経営再建手法

マーケティング戦略

1点目は、TBS時代以前のベイスターズでは全く行なわれていなかったマーケティング戦略を取り入れたという点です。まず、球場チケットの販売チャネルを自社でも持ったことで実施できるようになった顧客データの分析をもとに、顧客ターゲットを20代後半から40代のアクティブサラリーマンに設定しました。

もともと野球観戦が好きな方だけではなく、「家族や同僚と一緒にビールを飲みながら盛り上がることが目的」というイメージをペルソナとして、それ以降の戦略、戦術を組み立てていくというまさにマーケティング戦略立案の考え方そのものを実践しております。それが経営権の受託後5年での経営黒字化、経営再建に直結していることは言うまでもありません。

球団と球場の一体経営化

2点目は、球団と球場の一体経営化です。1章の横浜ベイスターズの経営遍歴でも触れましたが、従来、ベイスターズと横浜スタジアムの経営母体が分かれており、球場の使用料の高さなどが理由で、たとえ全試合満員にしても球団としては赤字という状況に陥っておりました。

そこで最終的に取るべき戦略は、「球場運営の買収」しかありませんでした。実は球団と球場の一体経営化の効果は、米メジャーリーグで実証済みです。その効果を取り入れたのはDeNAだけではなく、オリックスによる京セラドーム大阪の買収、ソフトバンクのヤフオクドームの買収と日本の各球団が行っております。

しかしながら、DeNAによる横浜スタジアムの買収は簡単なことではありませんでした。TBS時代にも横浜スタジアムの買収の話が出ておりましたが、ベーブ・ルースなどのスター選手がプレイした歴史もあり、地元の反発が強く難航してしまいとん挫した経緯がありました。当時横浜スタジアム運営会社の株式保有権を約6割も占めていた地元横浜の経済界の重鎮ともいえる人々との積極的かつ粘り強いコミュニケーションを図った成果として最終的には、2016年1月に横浜スタジアムへの友好的TOB(株式公開買い付け)が成立しております。

コミュニティボールパーク化構想

3点目は球団が掲げる「コミュニティボールパーク構想」です。この構想の取り組みにより、球場への来場者数を爆発的に伸ばしていきました。なお、コミュニティボールパーク構想は2017年度のグッドデザイン賞も受賞しています。

コミュニティボールパーク構想のコンセプトは以下の通りです。「野球が大好きな人だけでなく、一度も体験したことのない人も含め、家族や友人、同僚と気軽に集まり楽しめる場をつくりたい。地域や職場における様々なコミュニティが”野球”をきっかけに集い、集まった人たちが”野球”をきっかけにコミュニケーションを育むような、地域のランドマークになりたい。」(※DeNA球団HPより)

コミュニティボールパーク構想の主な施策としては、以下の3点が挙げられます。

新しいスタイルの座席を新設

子連れで楽しめるボックスシートや団体向けのプレミアムシート、飲食しながら楽しめるカウンター席などさまざまなタイプのシートを新設しました。

2019年には、高さ31mからの横浜エリアの絶景を味わいながらプロ野球観戦を堪能できる「ベイディスカバリーBOXシート」やバルコニー付き個室「STAR SUITES(スタースイート)」を新設しております。2023年にもパノラマBOXシートを新設するなど、様々な顧客ニーズに応える座席を年々作っていっております。

球団オリジナルのビールを発売

DeNAの球団買収後、球団オリジナルのビール「ベイスターズ・エール、ベイスターズ・ラガー」を発売しております。合わせてフードメニューのリニューアルも行ない、飲食も楽しめる場所づくりに注力しております。
これまでは、球場でも大手メーカーのビールの提供を実施しておりましたが、球場でしか飲めないビールを発売することで、来場を促すインセンティブを作ることに成功しております。

野球場を有効活用したイベント企画

プロ野球選手との交流が楽しめるイベントだけではなく、グラウンドでテントを張ってキャンプをしたり、天体観測ができるイベントを企画し、実施してきました。ほかにも横浜スタジアムに隣接する横浜公園を活用して夏季にビアガーデンを開催するなど、従来の枠にとらわれない斬新なイベントを開催しています。ターゲットとなるアクティブサラリーマンだけに特化せず、女性の野球人気が高まっているトレンドを踏まえて女性向けイベントも開催し、多くの女性ファン獲得にもつなげています。

4点目は、社内の組織改革です。DeNA買収前のベイスターズのオフィスはIT化が遅れ、パソコンもなくオフィスのセキュリティレベルも低い状況でした。そこでDeNA本社と同じレベルを目指し、他の改革と並行してオフィスやインフラの整備も進めました。

また、池田氏は社長就任後、すべての社員と1対1で面談を実施しています。まずは社員のことを知るために、何を考えているかをヒアリングしました。この面談によって現状の問題点を把握でき、かつ前向きで同じ方向性で考える社員かどうかも判断していたそうです。こうして少しずつ改革に共感する社員を増やしていったことも、組織を一枚岩にして経営再建につなげたポイントだったと考えられます。

ほかにも人事評価制度を見直したり、シーズンオフの気が抜ける期間にあえて人事異動を行なうなどの取り組みも実施しています。新しい人材の登用も積極的に行ない、スピード感があり事業を好転させることができる組織に作り変えることに成功しております。

池田氏の功績は多岐に渡りますが、一番の功績は自身が退いた後にも成長し続ける組織を作ったことではないでしょうか。実際に池田氏は、球団経営が黒字化した2016年に球団社長を任期満了により退任しておりますが、その後も黒字経営を続け継続的に発展し続けております。

4.まとめ

今回、DeNAベイスターズをわずか5年で経営再建に導いた立役者と具体的施策をご紹介してきました。経営再建の立役者である池田氏は、5年間で球団単体の売上を倍増させ、観客動員数も約180%成長させるなど、非常に多くの実績を残しました。

具体的な手法としては、主に以下の4点を実施しております。

これらの手法や考え方はプロ野球ひいてはスポーツ界だけに留まらず、全てのビジネスに通用するものです。経営再建がテーマではあるものの、組織変革や進行中のプロジェクト変革にもお役立て頂けるのではないでしょうか。

もし自社の方のみで組織変革を行うのが難しい場合は、外部のプロフェッショナル活用も検討する必要があるでしょう。

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(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

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