【導入事例付き】コンピテンシー評価とは?評価項目例やメリット、デメリットまで解説
ビジネスコラムColumn
最終更新日:2024.08.28
人事/組織構築/業務改善

【導入事例付き】コンピテンシー評価とは?評価項目例やメリット、デメリットまで解説

ハイレベルな人材の行動特性をもとに評価項目を設定し、評価を行う「コンピテンシー評価」をご存知でしょうか?コンピテンシー評価は、納得感のある人事評価制度づくりや人材の適材適所への配置などさまざまなシーンで役立ちます。

しかし「自社に合うのか」「導入にかかる手間が心配」など、さまざまな不安を抱えている企業も多いはずです。

そこで今回は、コンピテンシー評価を導入するメリット、デメリットに関して詳しく紹介します。コンピテンシー評価を導入する際の注意点も紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。


1.コンピテンシー評価とは?

コンピテンシー評価とは、レベルの高い業務成果を出す人材の行動特性(コンピテンシー)をもとに、評価項目を設定して行う人事評価のことを指します。

成果を出している人材の行動特性をもとに評価を行なうことで、同じように優秀な人材を育成することを目的としています。

ちなみに、コンピテンシー評価の基本的な評価要素は以下の通りです。

  • タイムマネジメント
  • リスクテイクの判断
  • 対人交渉能力
  • 説明責任を果たす能力
  • ストレス管理

コンピテンシー評価の導入は、社員のパフォーマンス向上や適切なキャリアパスなどに効果的です。納得感のある人事評価制度づくりにもつながるため、生産性アップを図りたい企業はぜひ導入を検討してみるとよいでしょう。

コンピテンシー評価と能力評価(職能資格制度)の違い

コンピテンシー評価と能力評価(職能資格制度)には以下のような違いがあります。

コンピテンシー評価 能力評価(職能資格制度)
評価内容 行動特性 知識、スキル、能力
評価基準 具体的 抽象的
項目例
  • 相手の話を傾聴できる
  • 業務を効率的に遂行する
  • チームワークを醸成できる
  • 実行力
  • 協調性
  • 責任感
メリット
  • 効率的、戦略的な人材育成
  • 評価に対する納得度向上
  • 生産性の向上
  • ゼネラリストの育成
  • 長期的な人材育成
  • 人事異動、組織改編に対応
デメリット
  • 導入、メンテナンスの負担
  • 柔軟な対応が困難
  • 人件費の高騰
  • 評価に対する不公平感

コンピテンシー評価は、具体的な行動特性を対象として評価する制度です。そのため、能力評価よりも効率的に評価できると同時に、被評価者の納得度も高くなります。また、評価基準が自社の求める人物像となるため戦略的な人材育成が可能となり、企業全体の生産性も向上するでしょう。

ただしコンピテンシー評価はテンプレートが存在せず、各企業ごとに独自の評価基準を策定する必要があります。導入やメンテナンスの際には評価モデルの検討、開発を行ったり、実施に向けて調整を行ったりなど負荷が大きいことから、柔軟な対応ができないことには注意しましょう。

一方で能力評価(職能資格制度)は、知識やスキル、能力を評価対象としており、基準が抽象的です。能力評価(職能資格制度)は、組織内で多様な業務を経験させる「ジョブローテーション」によって、さまざまな部署に対応できるゼネラリストを育成する目的があります。

さまざまな業務に就かせることが前提となっているため、勤務年数が長くなればなるほど等級が上がることが一般的です。そのため、長期的な視点での育成に向いています。ただし、その分年功序列になりやすい傾向があり、従業員のモチベーション低下や不公平感を生みかねません。

2.コンピテンシー評価が必要な3つの理由

これまで能力評価を採用していた企業においても、コンピテンシー評価を必要と考えるケースが増えています。コンピテンシー評価が注目される理由としては、以下のような理由が考えられます。

ここからは、コンピテンシー評価が必要な3つの理由を解説します。

評価基準の明確化と公平性の担保

1つ目の理由は、評価基準の明確化と公平性の担保です。

能力評価は、知識やスキルなどの総合的な力を評価します。長期的な評価としては有効である一方、評価基準が抽象的であるため評価者の主観が入り込み、評価にバラツキが発生しやすいことが課題です。そのため、被評価者から見ると不明確な基準で評価されることとなり、不公平な印象を受けてしまいます

一方で、コンピテンシー評価は具体的な行動によって評価するため、評価基準が明確です。そのため、評価者の主観が反映されづらく、評価のバラツキを抑制できます。また、
被評価者にとっても評価根拠がわかりやすいため納得度が高く公平性も担保されており、行動改善や生産性の向上も期待できる
でしょう。

年功序列の防止

2つ目の理由は、年功序列の防止です。

能力評価の基準となる知識やスキルの高さは経験の量が影響するため、勤続年数が長い従業員が比較的評価されやすい傾向にあります。そのため、勤続年数が短い従業員は、たとえ高い成果を挙げても長年勤めている従業員に比べて昇給や昇格が難しく、評価や処遇に対して不満を抱きモチベーションが低下するケースが少なくありません。

一方で、コンピテンシー評価は、企業の方向性に沿ってポジティブに行動する従業員であれば、たとえ勤続年数が短くても関係なく評価されます。勤続経験に左右されにくい行動特性を評価する仕組みであることから、成果や努力に見合わない年功序列を防止する効果があるといえるでしょう。

人件費の抑制

3つ目の理由は、人件費の抑制です。

能力評価は、経験を積んでいくことで能力も上がっていくという考えが軸となっているため、年功序列に加えて日本特有の終身雇用が適用されやすい等級制度となっています。たとえ役職が低い従業員でも、勤続年数が伸びるほど自動的に人件費が高くなる仕組みです。そのため、企業が成熟し従業員の平均年齢が上がっていくと、生産性に関わらず人件費負担が大きくなります。

一方で、コンピテンシー評価は従業員の具体的な行動や能力を評価するため、企業の業績と人件費がある程度連動します。単なる
年功序列制度の場合は業績が悪くても一定のコストが発生しますが、コンピテンシー評価であればムダなコストを削減し人件費を抑制することが可能です。

3.コンピテンシー評価が活用できるシーン

コンピテンシー評価が活用できるシーンは、主に「採用面接」「人材育成」「人事評価」の3つです。ここからは、コンピテンシー評価が活用できるシーンについて詳しくみていきましょう。

採用面接

コンピテンシー評価は、採用面接のシーンで活躍します。自社で設定したコンピテンシーモデルの行動特性と就活生の行動特性を照らし合わせ、能力や適正を判断します。

採用面接でコンピテンシー評価を活用すると、採用担当者や面接官ごとに生じやすい評価軸のズレによる評価のばらつきを最小限に抑えられるメリットがあります。あらかじめ見るべきポイントを共有しておけば、採用担当者や面接官にかかる負担の軽減や採用に迷う時間の削減にもつながるでしょう。

また、採用面接時におけるコンピテンシー評価の導入は、求職者側の満足度アップにも効果的です。たとえば、コンピテンシー評価をもとにしたフィードバックを行うことで、なぜ不採用になったかが見える化され、求職者側が今後の就職活動に活かせるようになります。

人材育成

さらに、コンピテンシー評価は人材育成のシーンにおいてもおすすめです。

そもそもコンピテンシー評価は、ハイレベルな人材の行動特性をもとにした評価基準です。つまり、ハイレベルな人材の行動特性自体を評価基準として設定しておけば、社員側もどのような行動をすれば評価に繋がるか理解することができます。

また、評価制度に応じた昇格や昇給などを設定しておけば、社員としてのモチベーションアップにもつながり、会社全体の成果の向上にもつながるでしょう。

人事評価

コンピテンシー評価は人事評価のシーンでも効果を発揮します。

ハイパフォーマーの行動特性をもとに評価項目を作成しているため、自社の求める成果に直結する行動ができているか客観的に評価可能です。さらに、評価基準が明確化されているため、評価者ごとのバラツキが抑制され、人事評価に対する従業員の納得度が高まる効果も期待できます。

なお、コンピテンシー評価はハイパフォーマーのノウハウや思考を社内に共有することにも有効です。従業員が自身の人事評価のためにコンピテンシー(行動特性)に沿って行動することで、企業の生産性向上が期待できるでしょう。

4.コンピテンシー評価を導入する5つのメリット

コンピテンシー評価を導入するメリットは、主に以下の5つです。

以下から詳しく説明するので、コンピテンシー評価の導入を迷っている企業は、ぜひ参考にしてください。

人事評価の納得感が強くなる

コンピテンシー評価の導入は、社員の人事評価への納得感を強めることができます。

「どのような行動が成果に繋がっているのか」「その行動を行なった理由」など、行動や思考について分析したうえで評価基準を設定するため、評価項目も具体的になり、主観での評価が少なくなるからです。

評価する側による主観が入らないことで公平性の高い人事評価ができ、社員側の不満も少なくなるでしょう。それにより、離職者の減少や社員のモチベーションを下げることも期待できます。

優秀な人材を効率的に育成できる

優秀な人材を効率的に育成できるのも、コンピテンシー評価を導入するメリットです。導入により「何をすれば評価が高まるのか」を明確にできれば、社員のモチベーションを高めることができるのです。

また、成果達成までの道筋がわかりやすくなるため、導入しない場合に比べて社員の検討違いな行動や無駄な行動を防ぐ効果も期待できます。企業にあった評価基準を設けることで、効率的に優秀な人材を育成できるようになるでしょう。

さらに、コンピテンシー評価の導入は高いスキルを持っていながらそれを活かしきれていない社員のサポートや能力開発にも効果的と言えます。そういった人材は、自分の持っているスキルを正しく使えていないことが多いです。そのため、コンピテンシー評価を活用して正しい方向へと導いてあげることで、本来の高い能力を存分に発揮できる可能性があります。

会社全体の成長にもつながるため、社員のモチベーションアップや人材育成の効率化を図りたい企業はぜひ導入を検討してみてください。

人事側の負担を軽減できる

コンピテンシー評価の導入は、人材採用業務をおこなう人事担当者の負担軽減にも効果があります。評価として定められた行動特性を「行なっているか」「行なっていないか」とで評価ができるため、曖昧な判断になったり、検討違いな評価をしてしまうことを防げるでしょう。

また、自社が必要とする優秀な人材を効率的に採用できるようになるため、業務の効率化はもちろん、会社全体の生産性アップにもつながります。

経営ビジョンや戦略と方向性を合わせやすくなる

経営ビジョンや戦略と人材育成の方向性を合わせやすくなる点も、コンピテンシー評価導入のメリットです。

これまでの能力評価は知識やスキルなどを評価するものであり「実行力」「協調性」など普遍的かつ抽象的な評価でした。そのため、企業を取り巻く環境に応じて変化する経営ビジョンや戦略と連動するものではありません。場合によっては相反するものとなる可能性もあります。

一方でコンピテンシー評価は、企業の戦略に沿った行動をベースに評価基準を設定します。そのため、従業員と自社の経営ビジョンや戦略を共有し、どのような行動を企業が求めているのかを浸透させることが可能です。結果として、企業と従業員の間で人事計画や経営ビジョン、戦略の方向性を一致させる効果があります。

生産性の向上が見込める

コンピテンシー評価の導入により、生産性の向上が見込めます。

コンピテンシー評価は、企業の業績に貢献するハイパフォーマーの行動や思考を直接基準とする手法です。そのため、コンピテンシー評価を通して従業員へ求める業務への取り組み方や姿勢を具体的に提示することで、従業員を成果につながる行動へ効率的に導けます。さらに、従業員が成長することで、生産性の向上も見込めるでしょう。

また、コンピテンシー評価の結果から一人ひとりの行動特性が把握できるため、課題に対応した効果的な従業員育成や、的確な人材配置に活用することも可能です。さらに、人事採用の場面においても、企業にフィットする人材を選定できるようになるでしょう。

コンピテンシー評価によって従業員全体のパフォーマンスが向上することが、企業の業績拡大に貢献します。

5.コンピテンシー評価を導入する3つの課題とデメリット

ここからは、コンピテンシー評価を導入するデメリットを3つ紹介します。

これらを理解しておかないと、導入に手間取ったり、導入後に後悔する羽目にもなりかねないため、必ずチェックしておいてください。

制度導入までに手間がかかる

1つ目のデメリットは、コンピテンシー評価の制度導入までに手間がかかることが挙げられます。

コンピテンシー評価を導入する場合、自社のコンピテンシーモデルや項目を制定しなければなりません。そして項目を設定するためには、以下の工程も必要になります。

  1. ハイパフォーマーの選定
  2. ハイパフォーマーへのヒアリング
  3. 行動特性の分析
  4. 内容の検証や調整

上記の工程は非常に時間がかかるものであるため、社員のリソースを大幅に割くことになります。とはいえ、始めるまでの期間を短期間に設定してしまうと、中途半端な評価方法となってしまうため、十分な時間を確保し準備を進めることが重要です。

運用の難易度が高い

2つ目のデメリットは、運用の難易度が高いということが挙げられます。

コンピテンシー評価の正確性を高めるためには、定期的な評価項目の修正が必要です。なぜなら、社会情勢や経営状況の変化、会社の変化に伴い、社員に求められる行動も変わるからです。

しかし、コンピテンシー評価は評価項目が細かいため、修正にかなりの手間がかかってしまうことは理解しておかなければいけません。

納得感が低いと不信感の原因になる

3つ目のデメリットは、評価内容の納得感が低いと企業への不信感に繋がる点が挙げられます。

コンピテンシー評価は、従業員にとって重要な人事評価などに活用されるものである一方で、数値では表せない行動目標で構成されている点が特徴です。そのため、評価者の主観やバイアスが評価に影響するリスクがあり、公平性や客観性が損なわれかねません。

適正な評価運営が保たれない場合「評価基準が不明確」「評価結果に納得できない」などの不信感が従業員に生まれてしまいます。結果として、従業員全体のモチベーション低下につながり、企業の生産性を低下させる事態に発展する可能性もあるでしょう。

コンピテンシー評価の導入にあたっては、従業員に十分な理解と協力が得られるような準備が大切です。

6.コンピテンシー評価の導入手順と流れ

コンピテンシー評価を導入する場合、まずは推進チームを結成させる必要があります。チームを結成する際は、評価すべきポイントが分かっている部門責任者を中心にすることが重要です。また、これまでに成果を挙げている社員にも依頼することで、成果を追う上で適切な評価基準が設定できるでしょう。

なお、コンピテンシー評価を導入する流れは以下の通りです。

1.ハイパフォーマーへのヒアリング・分析

コンピテンシー評価の評価項目は、ハイパフォーマーへのヒアリングの結果をもとに作成します。より良い評価項目を作成するためにも、しっかりとハイパフォーマーに対してヒアリングを行いましょう。

なお、ヒアリングの際は「何をしたか」だけでなく「なぜその行動をとったのか」という思考パターンも分析することがポイントです。思考パターンを分析し、他の社員も同じような思考になるよう教育していけば、企業としても高い成果につなげることができるでしょう。

2.コンピテンシー評価項目の洗い出し

ハイパフォーマーへのヒアリングが完了したら、次はコンピテンシー評価項目の洗い出しを行います。その際は、どのような行動特性やスキルが成果を挙げるに至ったかを分析する必要があります。

また、項目を洗い出す際は、より具体的な項目にする必要があり「出来ている」「出来ていない」で判断できるなど、明確な答えが出せるような項目にすると良いでしょう。具体的な項目にすることで、社員側も評価に対して納得しやすくなります。

ですが、職種や役職ごとに1から検討するのは手間がかかるため、評価項目について悩んでいる方は、コンピテンシーディクショナリーを活用するのもおすすめです。次項で詳しく解説するため、ぜひ参考にしてみてください。

コンピテンシーディクショナリーとは

コンピテンシーディクショナリーとは、コンピテンシー評価のために必要とされるコンピテンシー(行動特性)を洗い出し、体系的に整理したものです。1993年にライル・M・スペンサーとシグネ・M・スペンサーが提唱したもので、以下の6領域20項目で構成されています。

コンピテンシー領域 コンピテンシー項目
達成、行動
  • 達成思考
  • 秩序、品質、正確性への関心
  • イニシアチブ
  • 情報収集
援助、対人支援
  • 対人理解
  • 顧客支援志向
インパクト、対人影響力
  • インパクト、影響力
  • 組織感覚
  • 関係構築
管理領域
  • 他者育成
  • 指導
  • チームワークと協力
  • チームリーダーシップ
知的領域
  • 分析的志向
  • 概念的志向
  • 技術的、専門職的、管理的専門性
個人の効果性
  • 自己管理
  • 自信
  • 柔軟性
  • 組織コミットメント

上記のように、さまざまな業種、職種に対応できるように体系化されている点が特徴です。自社のコンピテンシー評価項目を検討する際には、コンピテンシーディクショナリーを参考にすることで、有効なコンピテンシーが効率的に策定できるでしょう。

ただし、コンピテンシーディクショナリーはあくまで参考として活用するものであり、自社の方向性や職種に適した項目を取捨選択することが重要です。

3.コンピテンシーモデルの作成

コンピテンシー項目を洗い出したら、コンピテンシーモデルを作成します。コンピテンシーモデルとは、実務ベースの概念を具体的に表したお手本のことです。

精度の高いコンピテンシー評価を作るためにも、あらかじめコンピテンシーモデルを作成しておきましょう。

なお、コンピテンシーモデルには主に以下の3種類があります。

実在型コンピテンシーモデル

実在型コンピテンシーモデルは、実際に社内で高い成果を上げている人に対してヒアリングを行い、その結果をもとに作成されるモデルです。リアルなモデル設計が可能であり、目標達成に向けた行動特性をイメージしやすいため、評価を受ける側の納得感を得やすいのがメリットです。

また、あくまで評価基準が無理のない範囲になるのもメリットと言えるでしょう。

理想型コンピテンシーモデル

理想型コンピテンシーモデルは、事業戦略や経営ビジョンなどから導き出された理想の人物像をもとに作成されるモデルです。企業の理想を反映しやすい反面、現実離れしたモデルになりやすいことに注意しましょう。

理想を言えば、求めるものに限りはありません。しかし、あまりに高い評価基準になってしまうと、基準を達成できないことで社員の不満を募らせる結果にもなります。

理想型コンピテンシーモデルを作成する際は、理想を追求しすぎないことを念頭に置いておきましょう。

ハイブリット型コンピテンシーモデル

ハイブリット型コンピテンシーモデルは、現実型と理想型のそれぞれのメリットが組み込まれた、3種類の中で最もクオリティの高いモデルです。実在するモデルをベースとして、理想とするモデルの要素を組み込んで作成します。

ハイブリット型を作成する際も、現実と理想のバランスによく注意する必要があります。理想とする要素の度がすぎれば、社員から不服の声が寄せられる結果となりかねません。

しかし、バランスが良いモデルを作れた場合には、企業の生産性が飛躍的に上がる可能性もおおいにあるため、おすすめのモデルと言えるでしょう。

4.企業の方針や経営戦略とのすり合わせ

コンピテンシーモデルを作成したら、企業の方針や経営戦略とのすり合わせを行いましょう。企業としての長期的な目標とコンピテンシーモデルが一致しているか確認することで、企業との不調和が起きず、成果を出す近道となるでしょう。

5.評価シートの作成、運用、改善

企業の方針や経営戦略とのすり合わせが終わったら、実際に評価シートの作成、運用、改善を行いましょう。

また、評価基準は社員に伝えておくことが重要です。評価基準を明示しない企業も少なくありませんが、評価基準を明確にしなければ社員が今後行なうべき行動が分からず、評価制度を制定した意味がありません。

なお、評価後のフィードバックも重要です。今の評価はどうなのか、今後どういった行動をすべきかといったことが分かれば、社員の成果も上がりやすく満足度アップにつながります。

7.コンピテンシー評価シートの書き方

コンピテンシー評価シートとは、コンピテンシー評価を運用するために利用するシートです。役職や職種に応じて「評価項目」「評価軸」「尺度」が示されています。

「評価項目」は、評価の対象となる具体的な行動特性です。コンピテンシーディクショナリーなどを参考に、ビジョンや戦略に適合した行動特性を選択しましょう。

「評価軸」は、行動特性の具体例です。役職や職種に合わせて「相手の求めているものを正確に判断して対応する」「しっかりと傾聴する」など、イメージしやすい行動の例を提示するのが良いでしょう。

また「尺度」は1、2、3、4などの数値やS、A、B、Cなどの記号で示す基準であり、全員に共通した基準だけでなく、個別に設定することも可能です。共通した基準の場合は、期待値に対してどの程度従業員が行動できていたかを「できた」「期待値を上回った」「期待値を下回った」などで評価します。個人基準の場合は、一人ひとりの課題に対してできるだけ具体的な評価基準を設定することで、納得感や公平性の高い人事評価となるでしょう。

8.コンピテンシーモデルのサンプル(具体例)

「実際のコンピテンシーはどのような基準が設定されているの?」と疑問に思っている方も多いかもしれません。例えば、WHO(世界保健機構)では「WHOグローバルコンピテンシーモデル」として以下の3モデルに分けて基準が設定されています。

ここからは、3つのモデルごとに項目を紹介していきます。

コアコンピテンシー

「コアコンピテンシー」とは、すべての職種や役割に求められる行動特性を示した基準です。7つの項目から構成されており、具体的な内容は以下のとおりです。

  • 確実で有効な方法でコミュニケーションを行う
  • 自分自身をよく知り、管理できる
  • 成果を出す
  • 変化する環境の中で前進する
  • 連携とネットワークを育てる
  • 個性や文化の違いを尊重し、奨励する
  • 手本となり模範となる

それぞれ項目について、定義や適切な行い、不適切な行いが明文化されています。WHOはさまざまな文化を背景に持つ従業員が働く組織ですが、明確なコンピテンシーがあるため、評価者によって判断にバラツキが発生する可能性は低くなっています。また、従業員にとってWHOで勤務するうえで求められている行動が理解できるため、組織内の意思統一が図りやすいでしょう。

マネジメントコンピテンシー

「マネジメントコンピテンシー」とは、組織の管理職に求められる行動特性を示した基準であり、管理職はコアコンピテンシーとマネジメントコンピテンシーの2軸で評価されます。以下の3つの項目から構成されており、具体的な内容は以下のとおりです。

  • エンパワメント的で、やる気の高まった状況を作り出す
  • 資源の効果的な活用を確実に行う
  • 部門組織をこえた協働を築き、推進する

マネジメントコンピテンシーでは、組織の方向性や戦略を理解したうえで、部下への働きかけや部署外の協力者との協働を通じて、成果を出すことが求められています。自らの成果だけにとどまらず、周囲を巻き込んで生産性向上に貢献するコンピテンシーは、多くの企業において参考となるでしょう。

リーダーシップコンピテンシー

「リーダーシップコンピテンシー」とは、リーダーの役割を持つ方に求められる行動特性を示した基準です。リーダーはコアコンピテンシーとリーダーシップコンピテンシーの2軸で評価されます。以下の3つの項目から構成されており、具体的な内容は以下のとおりです。

  • WHOを将来的な成功へ推し進める
  • 改革や組織的学習を進める
  • 保健のリーダーシップ上でのWHOの地位を高める

リーダーシップコンピテンシーでは、組織を取り巻く環境を理解したうえでビジョンや方向性を創造し、自ら組織を牽引する行動が求められています。また、社会に対するコミュニケーションが求められている点も特徴です。従業員や組織をマネジメントする立場ではなく、組織経営に携わる立場のコンピテンシー(行動特性)といえるでしょう。

9.コンピテンシー評価を導入する際の4つの注意点

続いて、コンピテンシー評価を導入する際の注意点をご紹介します。

思わぬトラブルを回避するためにも、3つの注意点を押さえておきましょう。

成果状況を確認する

コンピテンシー評価を導入する際は、成果状況を確認することが大切です。制度を導入する以上、成果状況を確認し、成果が出ていない場合は改善が必須となります。

会社としての目標達成や社員のモチベーションアップを叶えるためにも、定期的に成果状況を確認し、フィードバックを実施しましょう。

なお現在コンピテンシー評価を導入検討されている方や実際に導入していて、改善方法が分からないなど課題を抱えている方は、ぜひみらいワークスにお問い合わせください。みらいワークスが提供しているプロフェッショナル人材マッチングサービス「Free Coinsultant.jp」には、19,000名以上のプロ人材が所属しているため、お悩みにあわせた人材のご紹介が可能です。

コンピテンシーモデルに執着しない

コンピテンシー評価を導入する場合、コンピテンシーモデルに執着しないことも重要です。モデルはあくまでも理想像であり、誰しもが完璧にこなせるわけではありません。

仮に実在型コンピテンシーモデルを採用していても、社員全員が同じような行動や思考になることは難しいため、あくまで評価の目安として採用することをおすすめします。モデルに執着しすぎることで、評価があがらない人材に対しての扱いが悪くなってしまうと、かえって社員のモチベーション低下につながりかねないので注意しましょう。

経営戦略や市場の状況に合わせて改善を行う

コンピテンシー評価を導入した場合、経営戦略や市場の状況に合わせて改善を行う必要があります。コンピテンシー評価は環境の変化に弱いため、定期的に見直さないとすぐに陳腐化してしまいます。

企業のさらなる成長を図るためにも、半年に1回、少なくとも1年に1回は見直すようにしましょう。

経営戦略や市場の状況に合わせて改善を行う

コンピテンシー評価を導入する際には、社内でコンピテンシー評価を周知させることが重要です。

コンピテンシー評価は、評価者と被評価者の双方が十分に理解して初めて意味のあるものとなります。評価者がコンピテンシー評価の目的や評価項目の選定意図を理解していないと、コンピテンシー評価という手段が目的化しかねません。また、被評価者がコンピテンシー(行動特性)と成果の関連性を理解できていなければ、行動の目的や意図を見失いモチベーションが低下してしまうこともあるでしょう。その結果、成果につながらなくなる可能性があります。

そのため、コンピテンシー評価の導入にあたっては、目的や効果を丁寧に説明するとともに、評価項目のねらいと評価基準を明確にしましょう。また、一度周知したら終わりではなく、従業員の入れ替えや昇進に合わせて繰り返し浸透させる体制が必要です。

10.コンピテンシー評価の導入事例

大手企業や中規模のベンチャー企業、自治体などでも幅広くコンピテンシー評価は活用されています。そこで本項目では、コンピテンシー評価の導入事例を3つ紹介します。

▽コンピテンシー評価の導入事例

楽天グループ株式会社

1つ目の事例は、楽天グループ株式会社です。楽天グループ株式会社では、半年に一度、パフォーマンス評価とコンピテンシー評価を用いて社員の評価を行っています。

行動指針で「成功のコンセプト」として掲げる5つのコンセプトにそれぞれ評価項目を設け、AAA、AA、A、BBB、BB、Bの6段階評価を実施し、評価を実施するだけでなく、社員に対して評価基準を共有することで、社員のモチベーションアップも図っています。

さらに楽天グループはパフォーマンス評価も行うことで、行動特性だけではなく社員の能力に関しても評価しています。「行動はできているが能力が発揮できていない」という場合に行き過ぎた評価とならないようリスクヘッジをしていると考えられます。

コンピテンシー評価を行なったからと言って、必ずしも成果がついてくるとは言えません。そのため、別軸での評価制度を併用することは非常に大切と言えるでしょう。

富士ゼロックス

2つ目の富士ゼロックスでは、全社員に対して共有する「共通コンピテンシー」と各部門に対して共有する「専門コンピテンシー」の2項目から構成されるコンピテンシーを設定しています。

経営戦略に基づいて個々の役割を設定し、その役割を担うための条件や基準をコンピテンシーを用いて明確にしています。評価基準を明確にすることで、適材適所に人材を配置できるようになったことはもちろん、社員としても希望するキャリアを実現するために行うべきことが明確になり、会社に対する満足度が向上しています。

栃木県宇都宮市

3つ目の事例は、栃木県宇都宮市です。

栃木県宇都宮市では、役職ごとに共通で評価を行う「ベーシックコンピテンシー」と、業務に応じて必要な項目を設ける「ファンクショナルコンピテンシー」の2項目で構成されるコンピテンシーを活用しています。ファンクショナルコンピテンシーは、職務を担うにあたって必要な行動特性を明確にして目標を設定することで、人材育成にも活用しているようです。

また、栃木県宇都宮市では、上司、同僚、部下など、さまざまな立場の人の意見を募って評価を行う「360度評価」も採用しています。上司に当たる人間が自分で自分を評価することにより、不適切な評価とならないよう仕組み化されています。これら2つの評価基準を用いることで、不公平な評価となることを防ぎ、社員満足度が高く風通しのよい職場となっています。

まとめ

今回は、コンピテンシー評価を導入するメリット、デメリットについて詳しく紹介しました。

コンピテンシー評価とは、高いパフォーマンスを発揮している人材の行動特性をもとにした評価基準で社員を評価する人事評価のことを指します。

公平な人事評価が行なえたり、効率的に人材育成をできるということで、近年では導入する企業も増加傾向にあります。

▽コンピテンシー評価の導入事例

評価基準が明確になるため、社員としてもどう行動すべきか分かり、人事評価への納得感が高くなるでしょう。企業としても、ハイパフォーマーの離職を防げたり、業績の向上につながったりするため、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

なお、コンピテンシー評価の導入検討中の方、具体的にどう進めるべきか悩んでいる方は、人事の経験豊富なプロ人材に協力を仰いでみてはいかがでしょうか。みらいワークスが行っているプロフェッショナル人材マッチングサービス「Free Consultant.jp」では、あらゆる分野のプロ人材が19,000人以上在籍しているためあなたの企業の課題を解決できる人材も必ず見つかります。興味がある方はぜひ以下から、無料相談にお申し込みください。


(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

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