プロの手を借りてでも、仕事の効率や業績の向上を図りたいと考えている方におすすめなのが、業務委託契約です。業務委託契約には、請負契約と準委任契約、委任契約がありますが、どのような違いがあるのか知らない方も多いでしょう。
この記事では、以下の点についてご紹介します。
- 請負契約と準委任契約の違い
- 契約の違いによるメリット、デメリット
- 契約を結ぶ際の注意点
業務委託契約における請負契約とは?
業務委託契約は、請負契約と準委任契約、委任契約に分かれます。そのなかでも、請負契約とは、発注者が受注者(請負人)へ仕事を委託、受注者(請負人)は仕事を完成させることを約束し、完成すれば仕事の対価として報酬が支払われる契約です。簡単に言えば、成果物を納入すればお金がもらえる契約と覚えてください。
民法では、以下のように定義しています。
準委任契約については、次の章で解説します。
業務委託契約における請負契約の事例
- 建設工事
請負人(受注者)が何らかの建設工事を完成させること約束し、注文者(委託者)が、その建設工事の施工の対価として、報酬を支払うことを約束する契約を言います。 - ソフトウェア開発
一般的なソフトウェア開発委託契約は、システムやアプリ、ソフトなどの仕事の完成を目的とする請負契約を締結します。
業務委託契約における準委任とは?
業務委託契約における準委任契約とは、法律行為以外の事実行為(事務処理)を委託する契約を意味します。請負契約のように仕事の完成、納品ではなく、事実行為(事務処理)を目的としているため、完成しなくても債務不履行にならないのが特徴です。
民法では委任および準委任について、以下のように定義しています。
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
引用:e-GOV 法令検索
(準委任)
第六百五十六条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
引用:e-GOV 法令検索
わかりやすく言うと、準委任契約は作業すればお金がもらえる契約と覚えましょう。
なお、間違われやすい対象として、法律行為を委託する委任契約があるので注意が必要です。
業務委託契約における準委任契約の事例
- 1.プロジェクト管理
企業のプロジェクト管理や、それに伴う資料作成、備品管理、会議などを行うことも準委任契約に値します。プロジェクトを管理すること事態に報酬が支払われるため、準委任契約となります。
2.SES(システムエンジニアリングサービス)
システム開発や設計を行うSE(システムエンジニア)が、顧客先に常駐し技術力を提供する契約です。成果物に対する報酬ではなく、作業に対して報酬が発生します。
3.人事、採用業務
企業の採用におけるシステム設計を行っても、企業の生産性の向上を約束するものではなく、設計した事へ報酬が支払われるため、準委任契約に該当します。
準委任契約は履行割合型と成果完成型に分けられるため、次の章で解説します。
準委任はさらに2つの種類に分類できる
準委任契約は、2つの種類に分類できます。
- 履行割合型
委託事務を行うため、必要になった作業時間を基に報酬が支払われます。成果完成型とは異なり、成果物の納品や成果目標の達成は報酬の発生要件ではありません。 - 成果完成型
委任事務の履行により得られる成果に対して報酬が支払われる契約です。言い換えれば、成果物の納品や成果目標の達成などを条件に報酬が支払われる契約を意味します。
請負契約と準委任契約の違い6つ解説
請負契約と準委任契約には6つの違いがあります。
ここからはそれぞれの違いについて深掘りします。
請負契約と準委任契約の違いを知り、目的に合わせた契約形態を選択しましょう。
①報酬発生のタイミング
請負契約と準委任契約では、報酬の発生するタイミングが異なります。
- 請負契約・・・成果物を引き渡すタイミング
- 準委任契約(履行割合型)・・・委任された行為(仕事)の完了後
- 準委任契約(成果完成型)・・・成果物を引き渡すタイミング
請負契約が成果物を引き渡すことが前提なのに対して、準委任契約の履行割合型は仕事が完了したタイミングで報酬が発生するという違いがあります。また、準委任契約でも成果完成型の場合は、成果物を引き渡すタイミングに報酬が発生する点が特徴です。
②報酬が発生する基準
請負契約と準委任契約は、報酬が発生する基準にも違いがあります。
- 請負契約・・・成果物に対して発生
- 準委任契約(履行割合型)・・・作業時間や工数
- 準委任契約(成果完成型)・・・成果を基準
請負契約は、成果物に対して報酬が発生しますが、準委任契約の場合は履行割合型と成果完成によってそれぞれ報酬の発生タイミングが異なります。履行割合型の場合は、作業時間やかかった工数に応じて報酬が発生し、成果完成型の場合は、完了した仕事の成果を確認した上で報酬が発生します。
なお、各契約を行うにあたって、契約完了後に成果物に追加で成果を求める場合は注意が必要です。
請負契約の場合は、契約内容の変更に伴い再契約が必要になるため契約金額も変更になります。しかし準委任契約の場合は、契約内容の変更に伴い、追加の支払を行うか当初の費用内で対応してもらうか、受注者と相談して報酬金額を決めることができます。
どちらを選ぶかで最終的な報酬が変わるため、慎重に選択する必要があるでしょう。
③受注者の義務
請負契約の場合、受注者は仕事を完成させる義務を求められます。期日までに仕事を完成させられない場合には、債務不履行とみなされ、発注者から損害補償請求を行われる恐れがあります。
対して準委任契約(履行割合型、成果完成型)は、受注者の義務(仕事の完成)はないものの、善管注意義務を課せられています。善管注意義務とは「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務」を略したものと民法で定められています。
簡単に言えば「やって当たり前なことはやってください」と注意を促しているものと言えるでしょう。善管注意義務を怠った場合、受注者は発注者から損害賠償請求をされる可能性があるので注意が必要です。
④契約不適合責任の有無
準委任契約には契約不適合責任は適応されませんが、請負契約には契約不適合責任が適用されます。
契約不適合責任とは、契約とは適合しない成果物と判断されたときに受注者が負う責任です。発注者は受注者に対して、契約不適合責任を果たせていないと判断した場合に、以下の対応を請求することができます。
契約不適合責任で請求できる項目
- 代金の減額
- 履行の追完(補修、代替物の引き渡し、不足分の引き渡し)
- 損害賠償
- 契約の解除
履行の追完とは「求めていたものと違うからやり直してね」と発注者が受注者に請求することを意味しています。尚、契約不適合責任は請負契約に適用され、準委任契約は対象ではありません。
注意すべき点は、受注者が契約に適合しない成果物を発注者に引き渡した場合です。発注者は、成果物が検収後に不適合品であることを知ってから1年以内に受注者へ通知しないと、契約不適合責任を受注者へ請求できません。言い換えれば、請求には期限があるということです。
また、仮に不適合品な状態であるにも関わらずその事実を発注者が知らなければ、契約不適合責任は請求できません。なお、成果物が契約した条件に適合しないことを事前に知りながら、発注者に告げなかった場合には、請求期限の1年を経過していても契約不適合責任を受注者へ請求できます。
⑤再委託の可否
再委託とは、発注者から業務委託をされた受注者が、さらに第三者に対して業務委託を行うことを言います。請負契約では、受注者の責任のもとに下請け業者への再委託は可能となっています。対して、準委任契約においては原則禁止です。
その理由は、それぞれの民法における成立条件からなります。
- 請負契約
当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(第六百三十二条)
引用:e-GOV 法令検索
- 準委任契約
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。(第六百五十六条)
引用:e-GOV 法令検索
以上より、請負契約は「誰がやったか」よりも「成果物の完成」を目指しています。一方で準委任契約は、発注者と受注者の信頼をもとにした契約なので、原則的には再委託はできません。
しかし、昨今は人手不足や技術不足により、双方で合意形成がなされている場合においては、再委託が認められるケースもあります。
⑥途中解約の可否
途中解約の可否は、請負契約、準委任契約では異なります。
- 請負契約
成果物が完成するまでの間であれば、発注者は契約を解約することが可能です。しかし、既に実施されている仕事において発注者に利益が発生している場合は、受注者へ報酬を支払わなければならない可能性があります。 - 準委任契約
双方合意のもとであれば、いつでも契約は解約することが可能です。ただし、相手方にとって不利になる事項があれば、損害賠償を請求される可能性があります。
請負契約には、メリットとデメリットがあります。ここからは請負契約のメリット、デメリットについて解説します。導入する際の参考にしてください。
請負契約のメリット
請負契約では、発注者、受注者(請負人)どちらにもメリットがあります。
発注者
- 管理業務を最小限で行える
請負契約は、受注者が多くの管理業務を担うため、発注者は管理業務を最小限に抑えることができます。限られた経営資源を効率的に活用する点でも、請負契約は発注側にとってメリットと言えます。 - 人的コストを抑制できる
自ら技術やノウハウを持つ人材を確保する必要がないため、人的コストを抑制できます。事前に報酬が決められているため、作業時間や工数が増大したとしても、追加のコストが発生しません。
受注者
- 作業方法や進捗管理の自由度が高い
専門性の高い仕事を行うため、作業方法や進捗管理については受注者に一任されるケースが多いです。そのため、仕事の自由度は高く、受注者の意に沿った形で仕事を進めることができます。 - 進捗が計画より早ければ、利益を増やせる
成果物に対する報酬が事前に決まっているので、たとえばソフトウェア開発の場合、計画よりも早く業務を遂行できれば、リソースに対しての報酬が高い状態になります。 - 再委託による業務効率化
再委託を行うことで、大規模かつ専門性の高い業務への対応が可能となり、請負契約を受注しやすくなります。また、再委託先のリソースを活用し、生産性や品質の向上などを図ることも可能です。
請負契約のデメリット
実際の請負契約を締結する際には、メリット以上にデメリットを理解することが重要です。デメリットを理解することで、契約後のトラブルや想定と違った事態が起こることを防げます。
そこで、請負契約のデメリットについて、発注者、受注者両方の視点で見ていきましょう。
発注者
- 成果物の質が低くなる可能性がある
実際の作業や工程は受注者に一任しているため、完成した成果物が要求したものより質が低くなる可能性があります。成果物の質は受注者の力量に大きく左右されるため、任せる企業の選定はシビアに行うことが重要です。 - コストが割高になる
専門性の高い技術が必要になる仕事だと、それに対応した人材が必要になるので、報酬が高くなることも考えられます。請負契約が長期間にわたる場合は、請負ではなく自前で人材を確保、養成する方が安上がりになる可能性もあるでしょう。 - ノウハウやスキルが身につかない
請負契約は、業務を受注者に一任しているため、ノウハウや経験が身につきません。仮に請負契約による仕事を自社へ移管したくても、ノウハウやスキルがないため難しいと言えるでしょう。しかし、業務を全て一任するのではなく、密な打ち合わせを行うことで、効率よく知見を深めることも可能です。
受注者
- 収益が低くなる可能性がある
成果物に対する報酬が事前に決められているため、作業効率が悪いとコストが高くなり、想定している収益を下回る可能性があります。 - 受注が安定しないため業績に影響がでやすい
発注者からの受注が安定せず、業務を開始できないと業績の悪化に直結する可能性があります。しかし、受注できるかどうかは発注者の裁量に任されるため、受注者にはどうすることもできません。 - 契約不適合責任による損害賠償リスク
契約とは適合しない成果物と判断されてしまえば、受注者は損害賠償を請求されてしまいます。また、場合によっては履行の追完(やり直し)を求められるケースもあるでしょう。
準委任契約のメリットとデメリット
準委任契約では、受注者に一定の業務を委任することから、発注者、受注者双方にメリット、デメリットが存在します。ここからは準委任契約の特性を把握していきましょう。
準委任契約のメリットとデメリット
準委任契約のメリットとデメリットは、発注者、受注者共に次の通りです。それぞれのメリットとデメリットを確認して、準委任契約と依頼したい契約内容の相性が良いか確認してみましょう。
請負契約と準委任契約は企業にとってどちらがおすすめ?
請負契約か準委任契約のどちらかを選択するには、企業が業務委託を行う目的を明確にした上で、適切に判断する必要があります。請負契約、準委任契約の実例を参考に、自社に適した形態を採用しましょう。
請負契約
請負契約がおすすめな場合は、以下の通りです。
- 仕事の過程ではなく、成果物の完成を目的としている
- 専門外の業務を委託し、特定の分野へリソースを注力したい
- 新たな人材確保や教育にコストをかけたくない
つまり、コストをかけずに最短で成果物を獲得したい場合に有効なのが「請負契約」と言えます。
たとえば、請負契約で多いのが「システム開発」「Webサイトの制作」です。自社内でシステム開発やWebサイトの制作を行いたいがスキルやリソースが不足しているといった場合に、専門的な知識を持った人材へ依頼することができます。支払も完成物に対して支払うため、人材を雇うほどのコスト確保が不可能である場合も利用しやすいです。
準委任契約
準委任契約がおすすめな場合は、以下の通りです。
- 仕事の過程を目的としている
- 成果物が明確に決まっていない
- 成果物が途中で変更になる
最終的な成果物が決まっていない場合、途中で成果物が変更になることも考慮して、準委任契約がおすすめです。
準委任契約の代表例として、システム開発などの依頼を行った場合も、開発過程を重視して作業を行ってくれます。納品することで報酬が貰えない請負とは違い、作業工程自体に報酬が支払われるため、良いシステムか開発できるように柔軟な対応を行ってくれます。
契約前に要件や、費用を明確にする請負とは違い、準委任契約は開発の様子を見ながら、構築の内容を調整することも可能です。そのためです、様子を見ながら構築の内容をブラッシュアップして行きたいという場合にもおすすめといえるでしょう。
請負契約、準委任契約を結ぶ場合の注意点
請負契約、準委任契約ともに、契約を結ぶ場合の注意点が3つあります。
偽装請負や契約上のトラブルを抱えないように気を付けましょう。
偽装請負
偽装請負とは、請負で契約しているように見せかけて、実態は派遣労働をさせている状態を指します。
たとえば、派遣労働として契約した場合、労働基準法に準拠すると、週40時間労働のルールが適用され、それを超過すると残業代の支払義務が生じます。しかし、派遣労働を請負契約と偽った場合、雇用関係がないとみなされ、週40時間労働のルールや残業代の支払義務は発生しません。
発注者にとっては有利に働く一方で、受注者にとっては過度の長時間労働を強いられる可能性が高いことから、労働基準法や職業安定法などの違法行為に該当します。そのため、発注する場合は、法律違反にならないように十分に理解した上で契約を行うようにしましょう。
雇用契約
請負契約にも関わらず、実態は雇用契約者と同様な扱いを行った場合は、労働基準法に接触します。
雇用契約であるか判断されるポイントは、以下の通りです。
- 発注者から指揮命令を受けている
- 指定された勤務時間、場所で拘束を受ける
- 報酬が時給で管理されている
雇用契約の場合、雇用主は労働者に対して指揮命令権があるほか、労力に対して報酬を支払う必要があります。一方、請負契約の場合は、雇用主側に指揮命令権がありません。そのため、万が一業務に関する指示を行った場合は、雇用契約であるとみなされます。
そのため、企業側は労働者側に対して社会保険や福利厚生、有給休暇などを与えることが求められてしまいます。
クオリティを担保したままコスト削減を行いたかったとしても、雇用契約者と同様な扱いを行ってしまうことで、却って余計なコストが掛かってしまうことを把握しておきましょう。
労働者の選定をしない
請負契約では、発注者が労働者の選定をしてはいけません。
たとえば、発注者が受注者(請負人)の企業に在籍している労働者に対して、業務への配置割り振りや人数の指定をすることは労働者の選定に該当します。あくまでも、労働者を選定するのは受注者(請負人)です。
業務を担当してくれる労働者の選定は、請負人である企業側に委ねるようにしましょう。
請負契約と準委任契約は使い分けすることが重要
請負契約と準委任契約では多くの点で異なるため、使い分けをすることが重要です。あらためて、請負契約と準委任契約の6つの違いを確認してみましょう。
特に請負契約と準委任契約を使い分けるには、仕事(成果物)の完成が目的なのか、仕事(成果物)の完成義務はなく過程を目的としているのか、どちらかを判断する必要があります。受注者(請負人)に業務を一任する場合は請負契約、業務を一任できない場合は準委任契約を選択しましょう。
どちらにしても、契約を交わす際はトラブルが無いように、契約内容を正しく理解する必要があります。
まとめ
今回は、請負契約と準委任契約の違いやメリットデメリット、注意点についてご紹介しました。まとめると、明確な成果物が決まっている場合は請負契約、成果物よりもその過程を重視する際は準委任契約が適していると言えます。
しかし、どちらも業務委託契約であり、似たような契約と誤解される可能性もあるため、慎重に契約することをおすすめします。
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