
「この業務は◯◯さんに聞かないと分からない」。そんな業務が社内にいくつもあり、担当者が休職・退職したら仕事が止まるのではと不安を感じていませんか。マニュアル化を進めようとしても、現場が忙しく、何から手を付ければよいか分からないという声も少なくありません。
本記事では、属人化の意味と、標準化・専門性との違いを押さえたうえで、属人化が企業にもたらすリスクと、属人化が起こる原因を整理します。そのうえで、解消を優先すべき業務の見極め方、解消を進める5つのステップ、取り組みが途中で止まってしまう失敗要因と対策までを解説します。
一般的な解消手順だけでなく、「限られた工数でどの業務から手を付けるか」という優先順位の付け方や、社内説得に使える公的データも紹介しています。自社の属人化対策を具体的に動かしたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
属人化とは|意味と標準化・専門性との違い
ここでは、まず属人化の意味を確認し、混同されやすい「標準化」「専門性」との違いを整理します。あわせて、属人化の解消が経営課題として注目されている背景も紹介します。
属人化の意味
属人化(ぞくじんか)とは、ある業務の進め方や判断基準、進み具合を特定の担当者だけが把握しており、ほかの人では代わりが務まらない状態を指します。
たとえば、次のような状態は典型的な属人化です。
- 受発注の例外処理のルールを、ベテラン社員しか知らない
- 取引先ごとの値引き条件が、営業担当者の頭の中にしかない
- 月次決算の手順書がなく、経理担当者が休むと締めが遅れる
ここで押さえておきたいのは、業務が難しいこと自体ではなく、やり方が個人の中にしかなく共有されていないことが問題の本質だという点です。属人化した業務には、経験や勘、コツといった「暗黙知(言葉や文書になっていない知識)」が多く含まれています。
中小企業庁の「2018年版中小企業白書」でも、属人化している業務をマニュアル化することで、誰でも手法を学べるようになり、対応できる人材が増えるという趣旨の説明がされています。
属人化の反対にあたる状態は「標準化」です。次の項目で、両者の違いを詳しく見ていきます。
属人化と標準化・専門性の違い
属人化と専門性の違いは、知識や手順が組織の中で共有され、ほかの人でも再現できるかどうかにあります。
- 専門性:特定の分野について、個人が高い知識やスキルを持っていること。それ自体は企業の強みです。
- 属人化:その知識や手順が共有されず、本人がいないと業務が止まってしまう状態です。
- 標準化:業務の手順・判断基準・品質の基準を文書や仕組みにし、担当者が替わっても同じ結果を出せるようにすることです。
つまり、専門性の高い社員がいること自体は問題ではありません。属人化を解消する目的は、専門家を不要にすることではなく、専門家が持つ知識を組織の資産に変えることです。
| 観点 | 属人化 | 標準化 | 専門性 |
|---|---|---|---|
| 定義 | 特定の人しか業務を進められない状態 | 誰が担当しても同じ手順・品質で進められる状態 | 個人が特定分野で高い知識・スキルを持つこと |
| 知識・手順の所在 | 担当者個人の頭の中 | 文書・仕組みとして組織に共有 | 個人(共有されていれば組織の資産にもなる) |
| 担当者不在時の影響 | 業務が止まる・遅れる | ほかの人が代わりに対応できる | 共有の有無によって異なる |
| 組織にとっての位置づけ | 解消すべきリスク | 目指すべき状態 | 強み(共有することで活かせる) |
中小企業庁の「2018年版中小企業白書」でも、業務プロセスの見直しの取組として標準化やマニュアル化が取り上げられ、生産性向上につながる取組として紹介されています。
属人化の解消が経営課題になっている背景
属人化は昔からある問題ですが、近年は解消の優先度が上がっています。主な背景は次の3つです。
1つ目は、人手不足の長期化です。厚生労働省の「令和7年版 労働経済の分析」では、2021年以降、企業規模を問わず人手不足感が強まり、特に中小企業では2024年も強まり続けていることが示されています。帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」でも、正社員が不足していると回答した企業は51.3%にのぼります。担当者が欠けても、代わりの人材をすぐに確保するのは難しい状況です。
2つ目は、経営の透明性への関心の高まりです。中小企業庁の「2025年版中小企業白書」では、「業務の属人化・ブラックボックス化の防止」が経営の透明性に関わる取組として取り上げられています。同白書によると、この取組を行っている企業は5〜6割で、取り組んでいる企業ほど付加価値額の変化率が高い傾向が見られました。ただし、これは取組の有無による傾向の比較であり、因果関係を示したものではない点に注意が必要です。
3つ目は、事業承継やベテラン層の退職です。中小企業庁の「事業承継ガイドライン」では、技術やノウハウ、取引先との関係といった目に見えにくい経営資源(知的資産)を、後継者に引き継ぐことの重要性が示されています。属人化したままでは、こうした資産が引き継がれないおそれがあります。

経営層に提案するときは、①人手不足の数値、②白書が示す取組企業と付加価値額の傾向、③事業承継でノウハウが失われるリスク、の3点を並べると「なぜ今やるのか」が伝わりやすくなります。
出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」
出典:中小企業庁「2025年版中小企業白書 第2部第1章第2節」
属人化が企業にもたらす5つのリスク
属人化を放置すると、日々の業務品質から事業の継続まで、さまざまな場面に影響が出ます。ここでは、属人化がもたらすリスクを次の5つに整理します。自社に当てはまるものがないか、確認しながら読み進めてみてください。
- 担当者不在による業務停止
- 業務の品質・スピードのばらつき
- 業務のブラックボックス化とミス・不正の見逃し
- 退職・異動時のノウハウ喪失
- 担当者への負担集中と評価の偏り
担当者不在による業務停止
最も分かりやすく、影響の大きいリスクが業務の停止です。担当者の急な休職・退職・異動や、繁忙期の重なりによって、その人にしかできない業務が止まったり遅れたりします。
たとえば、請求書の発行や支払処理を1人の担当者が担っている場合、その担当者が長期休暇を取るだけで処理が滞り、取引先に迷惑がかかる可能性があります。
影響は日常業務にとどまりません。災害や感染症の流行などで担当者が出社できなくなった場合、事業の継続そのものが危うくなります。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」では、BCP(事業継続計画:緊急時にも重要な業務を続けるための計画)の考え方として、緊急時でも中核となる事業を継続・早期復旧できるよう、平常時から準備しておくことが示されています。特定の人しか対応できない業務が多いほど、緊急時の代替が難しくなるため、属人化の解消はBCPの観点からも重要です。
業務の品質・スピードのばらつき
担当者ごとにやり方が異なるため、成果物の品質や対応のスピードにばらつきが出ます。
顧客対応では「担当者によって回答が違う」という状態になり、顧客の信頼や満足度が下がる可能性があります。また、手順が文書になっていないと、新しく担当になった人が業務を覚えるまでに時間がかかり、立ち上がりが遅れます。
業務のブラックボックス化とミス・不正の見逃し
業務の中身が担当者以外から見えない状態を「ブラックボックス化」と呼びます。ブラックボックス化した業務では、ミスや非効率なやり方があっても、誰も気づかないまま長期間放置されがちです。
さらに、第三者のチェックが働かないため、万が一不正が起きても発見が遅れるおそれがあります。
IT領域でも同様の問題が指摘されています。経済産業省の「DXレポート」(2018年)では、既存システムが複雑化・ブラックボックス化し、仕組みを理解している人材がいなくなることで、システムの刷新や改修が難しくなる問題が取り上げられています。
退職・異動時のノウハウ喪失
担当者が退職すると、取引先との関係、例外対応の判断基準、過去の経緯といった暗黙知がまとめて失われます。
引き継ぎ期間が短いと、後任者は手探りで業務を組み立て直すことになり、元の水準に戻るまでに時間とコストがかかります。特に、長年同じ担当者が業務を担ってきた場合ほど、失われるノウハウは大きくなります。
この問題は、製造業の技能継承でも課題になっています。厚生労働省の「平成28年度能力開発基本調査」によると、製造業で技能継承に問題があると回答した事業所は54.7%にのぼります(労働政策研究・研修機構〈JILPT〉の調査シリーズNo.194で紹介)。
ノウハウを残すには、教える相手(後任)を早めに決めておくことが前提になります。後任が決まっていなければ、ノウハウは個人の中に残ったままになってしまいます。
出典:労働政策研究・研修機構「ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査結果」
担当者への負担集中と評価の偏り
属人化は、担当している本人にとっても不利益があります。
- 業務が集中して長時間労働になりやすく、休暇も取りにくい
- 業務の中身が見えないため、上司が仕事量や成果を正しく評価しにくい
- その業務から離れられず、新しい仕事に挑戦する機会を得にくい
負担が積み重なると、担当者が疲弊して離職につながり、さらに属人化した業務が引き継がれないまま残るという悪循環に陥ります。

属人化の解消は「担当者の仕事を奪うこと」ではなく、「担当者の負担を減らすこと」でもあります。担当者の協力を得る方法は、後述の失敗要因の章で解説します。
業務が属人化する5つの原因
属人化には、個人の性格や意欲だけでなく、業務量や組織の仕組みに起因する原因があります。原因が分かれば、自社が優先して打つべき対策も見えてきます。ここでは主な原因を5つに分け、それぞれ後の章で紹介する対策とのつながりも示します。
業務の多忙による共有時間の不足
目の前の業務で手一杯になると、手順を書き残したり、ほかの人に教えたりする時間が後回しになります。「人に教えるより自分でやった方が早い」という状態が続くほど、その人にしかできない業務が増えていきます。
この原因に対しては、属人化の解消を「空いた時間にやること」ではなく、業務として時間を確保して進めることが有効です(失敗要因と対策の章で詳しく解説します)。
業務の専門性・複雑さ
法務・経理・システム運用など専門知識が必要な業務や、例外処理が多い業務は、担当者が限られやすくなります。判断の根拠が経験に頼っていて、言葉にしにくいことも理由の一つです。
経験に頼った判断ほど、判断基準を言葉にしてマニュアルに残すこと(ステップ3)が効果を発揮します。
人手不足による少人数体制
1つの業務を1人だけで担当する体制では、担当者以外がその業務に触れる機会がありません。
背景で紹介したとおり、正社員が不足している企業は半数を超えています(帝国データバンク調査)。人を増やして複数人で業務を担う余裕を持ちにくい環境が、属人化を生みやすくしています。
限られた人数で対応するには、優先順位を付けて対象を絞ること(ステップ2)と、重要業務に限った複数担当制(ステップ5)が有効です。
出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」
個人の成果を重視する評価制度
個人の成果だけが評価される制度では、ノウハウを共有する動機が生まれにくくなります。手間をかけて手順書を作ったり後輩を育てたりしても、評価につながらないためです。
なかには、「自分しかできない業務」を持つことで社内での立場を守ろうとし、意図的にノウハウを抱え込むケースもあります。
この原因に対しては、ノウハウの共有や育成への貢献を評価に組み込むことが有効です(失敗要因と対策の章で解説します)。
情報を共有する仕組み・ルールの不足
マニュアルの置き場所や書式、更新のルールが決まっていないと、情報は個人のメールやPC、メモに散らばります。共有しようとする意欲があっても、「どこに・何を・どう書けばよいか」が分からなければ行動に移せません。
まずは置き場所と書き方を決めるだけでも、共有は進みやすくなります(ステップ4)。
属人化を解消すべき業務と残してよい業務
属人化の解消といっても、すべての業務を標準化する必要はありません。限られた人手と時間で成果を出すには、解消すべき業務と、属人化を残してよい業務を見分けることが大切です。ここでは両者の考え方と、自社の状況を確かめるためのチェック項目を紹介します。
解消を優先すべき業務
次のような業務は、属人化の解消を優先すべきです。
- 止まると取引先・顧客・法令対応に影響する業務:受発注、請求・支払、給与計算、決算、顧客からの問い合わせ対応など
- 定型的で手順に落とし込みやすい業務:経理・総務・人事などのバックオフィス業務
- 緊急時に誰でも初動を取れる必要がある業務:システム障害やセキュリティ事故、クレームへの対応など
属人化を残してよい業務
一方で、次のような業務は、無理に標準化しない方がよい場合があります。
- 高度な専門性や創造性が成果を左右する業務:企画、デザイン、研究開発など。細かく手順を決めると、かえって成果が下がる可能性があります。
- 手順がまだ固まっていない新しい業務:試行錯誤の段階で文書化を急がず、やり方が固まってから標準化します。
ただし、属人化を残す業務でも、「誰が・何を担当しているか」と「担当者が不在のときの連絡先・代わりの窓口」だけは共有しておくことが前提です。
自社の属人化度合いを確かめるチェック項目
自社の業務がどの程度属人化しているかは、次の項目で確かめられます。業務ごとに当てはまるものを数えてみてください。
- 担当者が1週間休むと止まる、または大きく遅れる業務がある
- 業務の手順書がない、または1年以上更新されていない
- 特定の人に質問や確認が集中している
- 担当者以外が業務の進み具合を把握できない
- 引き継ぎに3か月以上かかると見込まれる業務がある
- 業務のやり方が担当者ごとに異なる
- 担当者が長期休暇を取りにくいと感じている
- 担当者の退職・異動の予定があるのに、引き継ぎ計画がない
これは本記事独自の目安ですが、当てはまる項目が多い業務ほど、属人化の度合いが高く、解消を急ぐ必要があると考えられます。たとえば、2つ以上当てはまる業務を、次のステップ2で優先順位を付ける候補にする方法があります。チェックの結果は、次の章で紹介する「優先順位付け」にそのまま使えます。
属人化を解消する5つのステップ
属人化の解消は、思いつきでマニュアルを作るだけでは定着しません。業務の現状を把握し、対象を絞り、仕組みにして、定着させるという順序で進めることが大切です。ここでは、次の5つのステップに分けて具体的な進め方を解説します。
- ステップ1:業務の棚卸しと可視化
- ステップ2:解消する業務の優先順位付け
- ステップ3:業務フローの標準化とマニュアル化
- ステップ4:ナレッジ共有の仕組みづくりとツール活用
- ステップ5:複数担当制・ローテーションと定期的な見直し
| ステップ | 目的 | 主な作業 | 成果物 |
|---|---|---|---|
| ステップ1:業務の棚卸しと可視化 | 現状を把握する | 業務の一覧化、担当者へのヒアリング、業務フロー図の作成 | 業務一覧表、業務フロー図 |
| ステップ2:解消する業務の優先順位付け | 着手する業務を絞る | 影響の大きさ×依存度で業務を分類 | 優先順位を付けた対象業務リスト |
| ステップ3:業務フローの標準化とマニュアル化 | 誰でも同じ手順で進められるようにする | 手順の統一、マニュアルの作成 | マニュアル・手順書 |
| ステップ4:ナレッジ共有の仕組みづくりとツール活用 | 知識が使われ続ける状態をつくる | 保存場所・書式のルール化、ツールの活用 | 共有ルール、ナレッジの保管場所 |
| ステップ5:複数担当制・ローテーションと定期的な見直し | 解消した状態を定着させる | 副担当の設定、ローテーション、定期見直し | 担当体制表、見直しの記録 |
ステップ1:業務の棚卸しと可視化
最初のステップは、どの業務を・誰が・どのように進めているかを洗い出すことです。現状が見えないまま対策を考えても、的外れになってしまいます。
まず、部署ごとに業務を一覧にし、次の項目を書き出します。
- 業務名
- 担当者(主担当・副担当)
- 頻度(毎日・毎週・毎月・年1回など)
- 1回あたりの所要時間
- 使っているツール・資料
- 担当者以外に対応できる人の有無
一覧を作るときは、担当者へのヒアリングが欠かせません。手順を聞くだけでなく、次のような質問をすると、本人も意識していない暗黙知を引き出しやすくなります。
- どんなときに判断に迷うか
- 例外として対応しているケースは何か
- ほかの人に任せられない理由は何か
業務の流れは、誰が・何を・どの順番で行うかを図にした「業務フロー図」にまとめると、ムダな工程や重複も見つけやすくなります。中小企業庁の「2018年版中小企業白書」でも、業務プロセスを見直して標準化・マニュアル化を進める取組が、生産性向上につながる取組として紹介されています。
ステップ2:解消する業務の優先順位付け
棚卸しができたら、すぐにすべての業務をマニュアル化するのではなく、「止まったときの影響の大きさ」と「特定の人への依存度」の2軸で優先順位を付けることが重要です。人手が限られるなかで全業務に一度に手を付けると、どれも中途半端になりがちだからです。
具体的には、業務を次の4つに分類します。
- 影響大 × 依存度大:最優先で解消する(例:請求・支払処理、受発注の例外対応)
- 影響小 × 依存度大:次に解消する(例:社内向けの定例資料の作成)
- 影響大 × 依存度小:すでに複数人で対応できているため、手順書の整備状況を確認する程度でよい
- 影響小 × 依存度小:現状維持でよい
「影響の大きさ」は、その業務が止まったときに顧客・取引先・法令対応に支障が出るかで判断します。「依存度」は、担当者以外に対応できる人が何人いるかで判断します。ステップ1の一覧の「担当者以外に対応できる人の有無」と、前章のチェック項目の結果がそのまま判断材料になります。
なお、担当者の退職・異動の予定がある業務は、分類にかかわらず最優先で着手します。

最初の対象は2〜3業務に絞ると、成果が見えやすく、社内の協力も得やすくなります。
ステップ3:業務フローの標準化とマニュアル化
優先する業務が決まったら、手順をそろえて文書にします。ポイントは、マニュアルを作る前に業務のやり方をそろえる(標準化する)ことです。順番を逆にすると、担当者ごとのムダなやり方をそのままマニュアルにしてしまいます。
マニュアルには、手順だけでなく次の内容も書いておくと、暗黙知が残りやすくなります。
- なぜその手順で行うのか(目的)
- 判断に迷ったときの基準
- よくある例外と、その対応方法
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 目的 | その業務を何のために行うのか、なぜその手順なのか |
| 手順 | 作業の順番と具体的な操作(画面キャプチャ・動画も活用) |
| 判断基準 | 判断に迷ったときの基準や考え方 |
| 例外対応 | よくある例外のパターンと対応方法 |
| 関連資料 | 参照する資料・ツール・問い合わせ先 |
| 更新日・更新者 | 最終更新日と更新した担当者(定期的な見直しに使う) |
文章だけで説明しにくい部分は、画面のキャプチャや短い動画を使うと、作る側・読む側の両方の負担を減らせます。
また、マニュアルは担当者本人だけに書かせないことも大切です。後任の予定者がヒアリングしながら書くと、初めて業務に触れる人にも分かる表現になりやすく、同時に引き継ぎも進みます。
最初から完璧なマニュアルを目指す必要はありません。まずは「判断基準」と「例外対応」だけを1業務1枚にまとめ、使いながら書き足していくと、作る負担を抑えながら暗黙知を残せます。
経済産業省・厚生労働省・文部科学省の「2026年版ものづくり白書」でも、技能継承の取組として、マニュアル化やデジタル技術の活用が取り上げられています。
出典:経済産業省・厚生労働省・文部科学省「2026年版ものづくり白書」
ステップ4:ナレッジ共有の仕組みづくりとツール活用
マニュアルを作っても、必要なときに見つからなければ使われません。ステップ4では、作った知識が使われ続ける仕組みを整えます。こうした、組織の中にある知識を共有・活用する取り組みを「ナレッジマネジメント」と呼び、国際規格(ISO 30401:2018)も定められています。
仕組みづくりのポイントは次のとおりです。
- 保存場所・書式・ファイル名のルールを1つに決め、「探せば見つかる」状態にする
- 社内Wiki、業務管理ツール、チャットツールなど、自社ですでに使っているツールを優先して活用する
- 新しいツールの導入は、既存のツールで対応できない場合に絞る
最近は、生成AIを使った効率化も選択肢になります。たとえば、担当者へのヒアリングを録音して文字起こしし、そこからマニュアルの下書きを作る、社内の文書をもとに質問に答えさせる、といった使い方です。
ただし、生成AIの出力には誤りが含まれる可能性があるため、内容は必ず担当者が確認する必要があります。また、社外秘の情報をどこまで入力してよいかのルールも、あらかじめ決めておくことが大切です。総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」も、AIを利用する企業が注意すべき点の参考になります。
出典:ISO「ISO 30401:2018 Knowledge management systems」
ステップ5:複数担当制・ローテーションと定期的な見直し
最後のステップは、解消した状態を定着させることです。マニュアルができても、実際にほかの人が業務を経験しなければ、いざというときに代われません。
定着のための主な取り組みは次の3つです。
- 複数担当制:重要な業務は主担当と副担当を決め、副担当も定期的に実務を担当する
- ジョブローテーション:部署内で担当業務を計画的に入れ替え、複数の業務を経験できるようにする
- 定期的な見直し:マニュアルに更新日・更新者を記録し、半年〜1年に1回はステップ1の棚卸しと合わせて見直す
取り組みの効果は、次のような指標で確かめると、成果を社内に説明しやすくなります。
- その業務を担当できる人の数
- 引き継ぎにかかる期間
- 担当者に寄せられる問い合わせの件数

指標は本記事で提案する一例です。自社で測りやすいものを1〜2個選び、取り組み前後で比べてみてください。
属人化の解消が進まない4つの失敗要因と対策
手順を知っていても、属人化の解消が途中で止まってしまう企業は少なくありません。ここでは、つまずきやすい4つの失敗要因について、「どんな症状が出るか」と「どう防ぐか」をセットで解説します。最後に一覧表で整理します。
更新されないマニュアルの形骸化
症状:作った直後は使われていたものの、手順が変わっても反映されず、やがて誰も見なくなります。古い手順のまま作業してミスが起きることもあります。
原因:マニュアルを更新する担当者と時期が決まっていないことです。
対策:マニュアルごとに管理者を決め、業務の手順を変えたら同時にマニュアルも更新するルールにします。あわせて、ステップ5の定期的な見直しに組み込み、更新日を確認する習慣をつくります。
ノウハウを持つ担当者の協力不足
症状:ヒアリングに消極的で、肝心な判断基準や例外対応の内容が出てきません。
原因:自分の立場がなくなるという不安や、共有しても評価されない制度が背景にあります。
対策:まず、属人化の解消は担当者の負担を減らし、休暇を取りやすくしたり、新しい業務に挑戦したりする機会につながることを丁寧に伝えます。そのうえで、次のような工夫で協力のハードルを下げます。
- 本人に書かせず、後任が聞き手となって書き、本人は内容を確認する監修役にする
- 1回30分程度の短いヒアリングに分け、本業の負担を増やしすぎない
- 上司から取り組みの目的を伝え、マニュアルの作成や後任の育成を評価項目に加えることを先に約束する
現場任せによる推進体制の不在
症状:「手が空いたらやる」扱いになり、数か月たっても業務の棚卸しが終わりません。
原因:推進する責任者と、そのための時間が確保されていないことです。また、現場の担当者だけでは、自分の業務を客観的に整理するのが難しいという面もあります。
対策:経営層や部門長が取り組みの目的と期限を示し、推進担当者を決めて業務時間を割り当てます。属人化の解消は、本業の合間ではなく一つのプロジェクトとして進めることが成功の条件です。社内に推進役を担える人材がいない場合は、業務改善の経験がある外部の人材に、棚卸しや標準化の設計を任せる方法もあります。
過度な標準化による柔軟性の低下
症状:マニュアルが細かすぎて例外に対応できず、現場の工夫も生まれにくくなります。マニュアルの作成・更新の負担も大きくなります。
原因:すべての業務を同じ細かさで標準化しようとしたことです。
対策:ステップ2の優先順位に沿って対象を絞り、「属人化を残してよい業務」は無理に標準化しません。マニュアルには、「必ず守るべき基準」と「担当者の判断に任せる範囲」を分けて書くと、品質と柔軟性を両立しやすくなります。
| 失敗要因 | 起こるリスク | 対策 |
|---|---|---|
| 更新されないマニュアルの形骸化 | 古い手順のまま作業してミスが起きる | 管理者の設定、手順変更時の同時更新、定期見直し |
| ノウハウを持つ担当者の協力不足 | 肝心な判断基準が共有されない | メリットの説明、共有・育成を評価項目に追加 |
| 現場任せによる推進体制の不在 | 取り組みが途中で止まる | 経営層による目的・期限の提示、推進担当と工数の確保、外部人材の活用 |
| 過度な標準化による柔軟性の低下 | 例外に対応できず、現場の工夫が失われる | 優先順位に沿った対象の絞り込み、守る基準と任せる範囲の区別 |
属人化の解消は「フリーコンサルタント.jp」へご相談ください
ここまで見てきたように、属人化の解消には、業務の棚卸しから優先順位付け、標準化、定着までの一連の取り組みが必要です。しかし、本業が忙しい現場だけで進めるのは負担が大きく、「誰が推進するのか」が決まらないまま止まってしまうケースも少なくありません。
取り組みにあたっては、「どの業務から着手するか」「暗黙知をどう引き出して文書にするか」「定着させるために評価や体制をどう見直すか」といった論点を整理する必要があります。社内の人だけでは、日々の業務のやり方を客観的に見直すことが難しい場合もあります。
「フリーコンサルタント.jp」では、事業会社やコンサルティングファームで業務改善・DX推進の実務経験を持つプロ人材を、必要な期間だけ活用できます。業務の可視化や優先順位付けといった上流の設計から、仕組みづくり、社内担当者へのノウハウ移転まで伴走した支援が可能です。
業務の属人化や標準化の進め方にお悩みの企業は、フリーコンサルタント.jpのサービスサイトから無料相談が可能です。
フリーコンサルタント.jpによる業務の属人化解消の支援事例
ここでは、担当者の経験や勘に頼っていた業務を、データや仕組みによって誰でも進められる形に変えた支援事例を2つ紹介します。企業規模や業務は異なりますが、「個人に頼る業務を仕組みに置き換える」という点は、本記事で紹介したステップ3・4と共通しています。
事例①|大手飲食企業:経験と勘に頼った発注業務の仕組み化
200店舗以上・400品目の発注業務を、店舗担当者の経験と勘に頼って行っており、業務が属人化していた大手飲食企業の事例です。データ活用を担える人材が社内に不足しており、改善の進め方が分からない状態でした。
| 当時の課題 | ・データサイエンティスト・データアナリスト人材、AI活用の経験者が社内に不足 ・店舗情報やPOSデータ(販売時点情報管理データ)をもとにした需要予測を、複数人が同じ精度で行うのが困難 ・発注業務が現場の勘に依存し、担当者の休暇・退職で業務が滞るリスクを抱えていた |
|---|---|
| 実施したこと | ・店舗ごとの特徴を踏まえた変数を定義し、データを整理 ・PoC(概念実証:本格導入の前に小さく試して効果を確かめること)を経て、店舗ごとに高い精度で需要予測ができるAIモデルを構築・運用 |
需要予測AIの活用により発注業務の多くを自動化し、担当者の勘に頼らない体制を整えたことで、店舗担当者が接客などの業務に時間を割けるようになりました。
事例②|大手ホテル運営企業:マニュアル整備と研修によるデータ分析業務の標準化
国内でビジネスホテルを運営する大手企業の事例です。デジタルマーケティング強化のプロジェクトを立ち上げたものの、アクセス解析ツールのGA4(Googleが提供するWebサイトのアクセス解析ツール)に詳しい人材が社内におらず、外部に依頼した設定が正しいかどうかも検証できない状態でした。
| 当時の課題 | ・GA4の設定が正しく行われているかを社内で検証できない ・社員がデジタルマーケティングのデータ分析を自分たちで進められない |
|---|---|
| 実施したこと | ・現状と将来の要件を踏まえたGA4設定の検証と、不足している要素の追加 ・GA4のマニュアル作成と、社員向けの研修を実施 |
データ分析の進め方を標準化し、社員教育を並行して進めたことで、特定の人に頼らず社員が自ら分析を進められる体制を整えました。
まとめ
属人化とは、業務の進め方や判断基準を特定の担当者だけが把握し、ほかの人が代われない状態です。専門性そのものが悪いのではなく、知識が共有されていないことが問題であり、解消の目的は専門家の知識を組織の資産に変えることにあります。
属人化を放置すると、担当者不在による業務停止、品質のばらつき、ブラックボックス化、ノウハウの喪失、担当者への負担集中といったリスクにつながります。人手不足が続くなか、事業継続や事業承継の観点からも、早めに手を打つことが重要と考えられます。
解消を進める際は、すべての業務を一度に標準化しようとせず、業務の棚卸しを行ったうえで「止まったときの影響」と「特定の人への依存度」から優先順位を付け、効果の大きい業務から着手することがポイントです。あわせて、マニュアルの更新ルールや評価制度、推進体制を整えることで、取り組みを定着させやすくなります。まずは本記事のチェック項目を使い、担当者が不在になると止まる業務を2〜3個洗い出すところから始めてみてください。










