経理業務の属人化を解消する5ステップ|失敗要因と対策も解説 - freeconsultant.jp for Business
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最終更新日:2026.10.19
人事/組織構築/業務改善

経理業務の属人化を解消する5ステップ|失敗要因と対策も解説

「経理のことは、あの人に聞かないと分からない」。支払いの手順も決算の進め方も、ベテラン担当者の頭の中とExcelにしか残っていない。担当者の退職や休職が決まったら、月次決算や支払いが止まるのではないか。こうした不安を抱えながらも、何から手を付ければよいか分からない管理部門の方は少なくありません。

結論から言うと、経理業務の属人化は担当者個人の問題ではなく、業務の手順と判断基準を共有する仕組みがないことが原因です。仕組みは、正しい順番で進めれば少人数の経理チームでも整えられます。

本記事では、経理業務の属人化とは何か、経理で属人化が起こりやすい理由と放置した場合のリスクを押さえたうえで、属人化を解消する5つのステップを解説します。あわせて、属人化しやすい経理業務を日次・月次・年次に分けて見極める方法、クラウド会計・アウトソーシング・外部人材といった手段の使い分け、取り組みがつまずく失敗要因と対策も紹介します。

担当者が在籍しているうちに着手するほど、引き継ぎにかかる手間とリスクは小さくなります。自社の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。

経理業務の属人化とは|起こりやすい理由と放置するリスク

この章では、属人化の意味と解消のゴール、経理で属人化が起こりやすい理由、放置した場合のリスクを確認します。経営層に「なぜ今取り組むべきか」を説明する材料としても使えます。

経理業務の属人化の意味と「標準化」との違い

経理業務の属人化とは、特定の担当者しか業務の手順や判断基準を知らず、その人がいないと業務が進まない状態のことです。

経理の現場では、次のような形で現れます。

  • 消費税の区分や勘定科目の判断は、いつも同じ担当者に確認している
  • 振込データの作り方や保存場所を、担当者以外が知らない
  • 決算の進め方が、担当者の記憶と前年のExcelファイルにしか残っていない

属人化を解消したあとのゴールは「標準化」です。標準化とは、誰が担当しても同じ手順・同じ品質で処理できる状態にすることを指します。中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21では、業務の標準化の進め方として、業務の流れを図にして見える化し、標準作業手順書(SOP:作業の手順を文書にまとめたもの)を作り、教育と見直しを続ける流れが紹介されています。

なお、専門性が高いこと自体は問題ではありません。問題は、その知識が共有されずに一人の中に閉じていることです。この区別は、後のSTEP2で「標準化する業務」と「専門性として残す業務」を切り分けるときの土台になります。

出典:J-Net21(中小機構)「業務の標準化はどのように進めたらよいでしょうか。」

経理業務が属人化しやすい理由

経理業務は、ほかの事務作業と比べても属人化しやすい特徴があります。主な理由は次の4つです。

  • 判断と例外処理が多い:勘定科目の判断、消費税の区分、取引先ごとの支払い条件など、経験に頼る判断が日常的に発生します。
  • 少人数で回している:少人数で経理を担う企業では、業務を分担して共有する余裕が生まれにくくなります。共有しても評価されない、業務を手放すと役割がなくなると感じるといった組織面の要因も重なります(失敗要因の章で詳しく解説します)。
  • 年1回しか発生しない業務がある:年次決算や年末調整は年に一度のため、手順が記録されず、担当者の記憶に頼りやすくなります。
  • 法改正への対応が続いている:電子帳簿保存法やインボイス制度への対応で生まれた運用ルールが、担当者ごとに作られたまま文書になっていないことがあります。

背景には人手不足もあります。中小企業庁「2025年版 中小企業白書」の概要でも、人手不足は「依然として深刻な状況にある」とされています。欠員が出ても補充しにくい環境では、一人に業務が集まりやすく、属人化が進みやすいと考えられます。

出典:中小企業庁「2025年版 中小企業白書」概要、国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」、国税庁「インボイス制度特設サイト」

経理業務の属人化を放置した場合の4つのリスク

属人化を放置すると、担当者の不在が「業務停止」に直結します。主なリスクは次の4つです。

  • 業務停止:担当者の急な退職や休職で、月次決算・支払い・税務申告が止まります。支払いが遅れれば、取引先からの信用にも影響します。
  • ミスや不正に気付けない:一人が記帳から支払いまで担っていると、第三者のチェックが働きません。
  • 改善が進まない:手順が見えないため、非効率な作業やシステム化できる作業があっても、誰も判断できません。
  • 帳簿や証憑が散逸する:帳簿や請求書の保存場所を担当者しか知らないと、法律で定められた保存への対応や、税務調査での提示に支障が出る可能性があります。

2つ目のリスクは、内部統制(不正やミスを防ぎ、業務を適正に進めるための社内の仕組み)の考え方と関わります。内部統制の基本の一つに、職務分掌(業務を複数の担当者に分け、互いにチェックし合える状態にすること)があります。一人に業務が集中した経理は、この前提が成り立っていない状態です。具体的な分け方はSTEP4で解説します。

また、国税庁のタックスアンサー「No.5930 帳簿書類等の保存期間」によると、法人は帳簿や取引に関する書類を、確定申告書の提出期限の翌日から原則7年間(欠損金が生じた事業年度などは10年間)保存する必要があります。保存場所や保存のルールを担当者しか知らない状態は、それだけでリスクです。

経営層に取り組みの必要性を説明するときは、次の3点を並べると伝わりやすくなります。

  • 担当者が不在になったときに止まる業務と、その期限(支払日・決算や申告の期限)
  • 職務分掌が成り立っておらず、ミスや不正に気付けない状態であること
  • 帳簿・書類の保存義務への影響と、体制づくりに必要な期間・人手の見込み

出典:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」、国税庁 タックスアンサー「No.5930 帳簿書類等の保存期間」

経理業務の属人化を解消する5つのステップ

経理業務の属人化は、次の5つのステップで解消します。ポイントは、いきなりマニュアルやツールに手を付けず、業務を見える化してから優先順位を決めることです。

  1. STEP1:経理業務の棚卸しと可視化
  2. STEP2:標準化する業務と専門性として残す業務の切り分け
  3. STEP3:業務手順書(マニュアル)とチェックリストの整備
  4. STEP4:職務分掌とダブルチェック体制の整備
  5. STEP5:運用ルールの設定と定期的な見直し

進めるうえでは、誰が主導し、どのくらいの期間を見込むかを先に決めておきます。目安は次のとおりです(会社の規模や業務量で変わるため、自社に合わせて調整してください)。

  • STEP1・STEP2:管理者が主導し、担当者は内容の確認役に回ります。ヒアリングと整理を合わせて、数週間程度を見込みます。
  • STEP3:担当者と副担当が作成し、管理者が確認します。優先度の高い業務から、1か月に数業務ずつ進めます。
  • STEP4:副担当が実際に処理する練習は、月次業務なら最低でも1〜2回の締めを通して行います。副担当が手順書だけで一通り処理できた時点で、その業務の引き継ぎが済んだと考えます。
  • STEP5:手順書の作成と同時にルールを決め、その後は四半期または半期ごとに確認します。

年次決算のように年に一度しか発生しない業務は、実際に一度経験しないと引き継ぎが完了しません。そのため、決算期を1回またぐ前提で計画を立てることが重要です。

STEP1:経理業務の棚卸しと可視化

最初に行うのは、経理業務の棚卸しです。見えていない業務は標準化できないため、「誰が・何を・いつ・どうやっているか」を一覧表にして、属人化している範囲をつかみます。

業務は日次・月次・年次の周期で洗い出し、業務ごとに次の項目を記入します。周期ごとに属人化しやすい業務は、後述の「属人化しやすい経理業務の見極め方」で整理しています。

  • 業務名と頻度(日次・月次・年次)
  • 主担当者と所要時間
  • 使うシステム・ファイルと、その保存場所
  • 判断が必要な点(例:勘定科目の判断、支払い可否の確認)
  • 代わりに処理できる人の有無
業務名 頻度 主担当 所要時間 使うシステム・ファイル(保存場所) 判断が必要な点 代わりにできる人
経費精算のチェック 日次 Aさん 30分/日 経費精算システム 規程に合う支出かの判断 Bさん
支払い処理(振込データ作成) 月次 Aさん 4時間/月 インターネットバンキング、支払い予定表(Aさんのパソコン内) 支払い可否・金額の確認 なし
請求書の発行 月次 Aさん 3時間/月 販売管理システム 値引き・特別条件の反映 なし
月次決算 月次 Aさん 2日/月 会計ソフト、月次決算の手順メモ(紙) 未払い・前払いの計上判断 なし
年次決算・税務申告の準備 年次 Aさん(税理士と連携) 2週間/年 会計ソフト、前年の決算資料 引当金・減価償却の判断 なし

※「代わりにできる人:なし」の業務が、属人化の解消に取り組む対象

進め方のコツは、担当者に一から書いてもらわないことです。担当者はもともと忙しく、それが属人化の原因にもなっています。管理者が30分〜1時間程度のヒアリングを数回行って一覧表の下書きを作り、担当者には内容の確認だけをお願いすると、通常業務を止めずに進められます。

あわせて、主要な業務の流れはフローチャート(作業の順番と分かれ道を図にしたもの)で表します。どこで誰が承認しているか、どこでファイルが受け渡されているかが見えると、手順書を作るときの骨組みになります。J-Net21でも、業務の標準化の第一歩として、業務の流れをフローチャートなどで見える化することが紹介されています。

一覧表ができたら、「代わりに処理できる人がいない」業務に印を付けます。この印が付いた業務が、属人化の解消に取り組む対象です。

出典:J-Net21(中小機構)「業務の標準化はどのように進めたらよいでしょうか。」

STEP2:標準化する業務と専門性として残す業務の切り分け

棚卸しで見つかった業務を、すべて一度に標準化する必要はありません。止まったときの影響と判断の複雑さで、取り組む順番を決めます。

判断の軸は次の2つです。

  • 止まったときの影響:支払い・決算・税務申告のように期限があり、遅れると社外に影響が出る業務ほど影響が大きいと考えます。
  • 判断の複雑さ:手順に落とせる定型作業か、経験に基づく判断が必要な業務かを見ます。

この2軸で業務を4つに分けると、取り組み方が見えてきます。

  • 影響が大きく、定型的な業務(支払い処理、請求書の発行、経費精算のチェックなど):最優先で手順書にまとめます。
  • 影響が大きく、判断が複雑な業務(税務上の判断、決算時の見積もりなど):手順をすべて書き出すのではなく、判断の基準と過去の判断例を残し、税理士など相談先を明確にします。判断例は「論点/判断した内容/理由/参照した資料・相談先/日付」の形で記録すると、後から読み返しやすくなります。
  • 影響が小さく、定型的な業務:手順書づくりやツールでの自動化を、手の空いた時期に進めます。
  • 影響が小さく、判断が複雑な業務:判断の記録を残す程度にとどめ、優先度は下げます。

ここで大切なのは、ベテラン担当者の専門性を否定しないことです。判断が複雑な業務は、担当者の知識そのものが会社の財産です。担当者には「業務を手放す」のではなく、「手順と判断基準を整える側・最終判断をする側」に回ってもらうよう、役割を位置づけ直します。担当者の協力を得る進め方は、後述の失敗要因の章で解説します。

STEP3:業務手順書(マニュアル)とチェックリストの整備

STEP2で最優先とした業務から、手順書を作ります。手順書は、属人化の解消の中心となる成果物です。

手順書には、次の項目を入れます。

  • 業務の目的(なぜこの作業をするのか)
  • 作業を始める条件と締め切り(例:毎月25日の支払いに向け、20日までに請求書を回収)
  • 作業の手順(システム操作は画面の画像を付ける)
  • 判断の基準(例:金額がいくら以上なら上長の承認が必要か)
  • 例外が起きたときの対応(例:請求書の金額が発注と違う場合)
  • 使うファイル・データの保存場所
  • 困ったときの問い合わせ先

作成の負担を減らすには、最初から完璧な文書を目指さないことです。担当者が実際に作業する様子を画面録画やメモで記録し、それを管理者や副担当が文章に整える方法なら、担当者の手間は大きく増えません。生成AIを使って、作業メモや録画の文字起こしから手順書の下書きを作る方法もあります。ただし、生成AIの出力には誤りが含まれる可能性があるため、内容は必ず担当者が確認します。

月次決算のように、毎月同じ作業を繰り返す業務はチェックリストにします。作業の抜け漏れを防げるうえ、どこまで進んでいるかが周りからも分かるようになります。

最後に、手順書の保存場所を共有フォルダなど1か所に決め、どれが最新版かすぐ分かるようにします。担当者のパソコンの中に手順書がある状態では、属人化が形を変えて残ってしまいます。

出典:J-Net21(中小機構)「業務の標準化はどのように進めたらよいでしょうか。」

STEP4:職務分掌とダブルチェック体制の整備

手順書を作っただけでは、ミスや不正は防げません。経理の属人化を解消するうえで欠かせないのが、業務を複数の担当者に分ける「職務分掌」と、確認の仕組みです。

職務分掌の基本は、次の3つの役割を別の人に分けることです。

  • 記帳する人(仕訳や支払いデータを作る)
  • 承認する人(内容を確認して承認する)
  • 支払いを実行する人(振込を実行する)

経理が1〜2名の会社では、3つを完全に分けるのは難しいかもしれません。その場合は、上長が支払いデータを承認する、インターネットバンキングの承認機能を使って作成者と承認者を分けるなど、少なくとも「作る人」と「確認する人」を分けます。

ダブルチェック(別の人がもう一度確認すること)は、すべての業務に行う必要はありません。支払いデータ・仕訳・請求書の発行など、間違えたときの影響が大きい作業に絞ると、負担を抑えながら効果を出せます。

もう一つの柱が、主担当と副担当の設定です。各業務に副担当を決め、月に1回は副担当が実際にその業務を処理します。手順書を読むだけでなく実際に処理することで、手順書の抜けや分かりにくい箇所が見つかります。

業務 主担当(作成) 副担当(代わりに処理) 承認者(確認・承認)
経費精算のチェック Aさん Bさん 経理課長
支払い処理(振込データ作成) Aさん Bさん 管理部長(インターネットバンキングの承認者として設定)
請求書の発行 Bさん Aさん 経理課長
月次決算 Aさん Bさん 経理課長

※副担当は月1回、実際にその業務を処理する

上場企業には、金融商品取引法に基づき、財務報告に関する内部統制を評価・報告する制度(内部統制報告制度)があります。企業会計審議会が2023年に改訂を公表した「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」(2024年4月1日以後に開始する事業年度から適用)でも、職務の分掌は統制活動の一つとして位置づけられています。上場していない中小企業でも、ミスや不正を防ぐための考え方は同じです。

出典:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」、企業会計審議会 意見書(本文PDF)

STEP5:運用ルールの設定と定期的な見直し

属人化の解消は、手順書ができたら終わりではありません。手順書を放置すると、内容が古くなり、再びベテランに聞かないと分からない状態に戻ります。仕組みとして維持するための運用ルールを、最初に決めておくことが重要です。

決めておくルールは、次の4つです。

  • 更新の責任者:手順書ごとに、内容を最新に保つ責任者を決めます。
  • 更新のきっかけ:法改正、システムの変更、取引先や支払い条件の変更、ミスが起きたときには手順書を見直すと決めます。
  • 定期的な確認:四半期または半期に1回、副担当が手順書どおりに処理できるかを確認します。
  • 評価への反映:業務の共有や手順書の整備を人事評価の項目に入れ、共有した人が評価される仕組みにします。

J-Net21でも、標準化した手順は作って終わりではなく、PDCA(計画・実行・評価・改善のサイクル)を回して見直し続けることが重要だとされています。

出典:J-Net21(中小機構)「業務の標準化はどのように進めたらよいでしょうか。」

属人化しやすい経理業務の見極め方|日次・月次・年次・法改正対応の整理

STEP1の棚卸しを始めるとき、「どこから見ればよいか」の手がかりになるのが、業務の周期による整理です。この章では、経理業務を日次・月次業務、年次業務、法改正への対応業務の3つに分けて、属人化しやすいポイントと止まったときの影響を整理します。

周期 主な業務 属人化しやすいポイント 止まったときの影響 優先度
日次 入出金の記帳、経費精算のチェック 勘定科目・消費税区分の判断 記帳の遅れが月次決算に波及 中
月次 請求書の発行、支払い処理、売掛金の消込、月次決算 締め日の作業手順、確認のポイント 支払い遅延による信用低下、経営判断の遅れ 高
年次 年次決算、税務申告、年末調整 年1回のため手順が残りにくい、判断を伴う処理が多い 決算・申告の遅れ、担当者退職時の混乱 高
法改正への対応 電子取引データの保存、インボイスの登録番号の確認 導入時の担当者が作った運用ルールが文書になっていない 保存要件への対応漏れ、仕入税額控除の判定ミス 中〜高

日次・月次業務(記帳・支払い・請求・月次決算)

日次・月次業務は頻度が高く、止まると取引先や社内にすぐ影響が出ます。

日次では、入出金の記帳や経費精算のチェックが中心です。取引ごとの勘定科目や消費税区分の判断が、担当者の経験に頼りがちです。

月次では、請求書の発行、支払い処理(振込データの作成)、売掛金の消込(入金された金額と請求した金額を突き合わせる作業)、月次決算が締め日に集中します。作業の順番や確認のポイントが、担当者の記憶に頼りやすい業務です。

これらが止まると、支払い遅延で取引先からの信用が下がったり、月次の数字が出ず経営判断が遅れたりします。まずは支払い処理と請求業務から標準化するのが、影響を抑えるうえで効果的です。

年次業務(年次決算・税務申告・年末調整)

年次業務は年に一度しか発生しないため、手順が最も残りにくく、担当者の退職で最も困る業務です。

年次決算では、減価償却(設備などの購入費用を使用期間に分けて費用にする処理)や引当金の計上など、判断を伴う作業が多くあります。前年の担当者が残したメモやファイルが唯一の手がかりになっているケースも少なくありません。

対策としては、前年の決算資料とあわせて「なぜその処理にしたか」という判断の理由を残します。また、税理士との役割分担を明文化しておくことも重要です。税理士法では、税務代理・税務書類の作成・税務相談が税理士の業務と定められています。どこまでを社内で準備し、どこからを税理士に依頼するかを書き出しておくと、担当者が替わっても進め方がぶれません。

年末調整は給与計算と関わるため、人事・労務の担当者との分担もあわせて確認しておきます。年末調整の手順は、国税庁のタックスアンサー「No.2662 年末調整のしかた」で確認できます。

出典:e-Gov法令検索「税理士法」、国税庁 タックスアンサー「No.2100 減価償却のあらまし」、国税庁 タックスアンサー「No.2662 年末調整のしかた」

電子帳簿保存法・インボイス制度への対応業務

見落とされやすいのが、法改正によって新しく生まれた業務です。導入時の担当者が運用ルールを作ったまま、文書にしていないケースがあります。

電子帳簿保存法では、メールやWebサイトで受け取った請求書などの電子取引データを、電子のまま保存することが義務付けられています。保存の方法、ファイル名の付け方、原則として日付・金額・取引先で検索できる状態の確保など、新しい運用ルールが必要になりました(売上高などの条件により一部の要件が不要になる場合もあるため、詳細は国税庁の特設サイトで確認してください)。

インボイス制度(適格請求書等保存方式)は2023年10月1日に始まりました。受け取った請求書に記載された登録番号の確認や、仕入税額控除(売上にかかる消費税から、仕入れにかかった消費税を差し引く仕組み)の判定など、取引ごとの確認作業が増えています。

こうした運用ルールは、STEP3の手順書に必ず含めます。制度の詳細は変わることもあるため、手順書には国税庁の特設サイトへのリンクを載せておくと、更新のときにも確認しやすくなります。

出典:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」、国税庁「インボイス制度特設サイト」

経理業務の属人化解消に役立つ4つの手段|ツール・アウトソーシング・外部人材の比較

属人化の解消に使える手段は、大きく分けてクラウド会計・ワークフローシステム、RPA・生成AI、経理アウトソーシング(BPO)、外部のプロ人材の4つです。どれか一つを入れれば解決するものではなく、5つのステップで作る仕組みと組み合わせて使うことが前提です。

自社に合う手段は、足りないものから考えると整理しやすくなります。データが紙やExcelに散らばっているならクラウド会計、手順の決まった繰り返し作業が多いならRPA、作業の人手が足りないならBPO、仕組みをつくる人が足りないなら外部のプロ人材が候補です。

項目 クラウド会計・ワークフロー RPA・生成AI 経理アウトソーシング(BPO) 外部のプロ人材
主な役割 データと処理の記録を一元化 定型作業の自動化、手順書の下書き作成 定型業務の作業を代行 仕組みづくり(棚卸し・手順書・体制設計)を主導
解決できること 担当者のパソコンにしかデータがない状態の解消、承認記録の保存 手作業の削減、手順書づくりの負担軽減 人手不足の解消、一人への依存の回避 社内に推進役がいない状態の解消、期限内の体制整備
注意点 設定・運用ルールが属人化しやすい 標準化されていない業務は自動化できない、作った人しか直せない状態に注意 社内にノウハウが残りにくい、委託先への依存 参画期間中に社内へノウハウを移す計画が必要
向く企業 紙やExcel中心で、データが分散している企業 手順が決まった繰り返し作業が多い企業 定型業務の人手が足りない企業 仕組みづくりを主導できる人が社内にいない企業

クラウド会計・ワークフローシステム

クラウド会計(インターネット上で使う会計ソフト)やワークフローシステム(申請・承認の流れをシステム上で管理する仕組み)を使うと、会計データと処理の記録がクラウド上に集まります。「担当者のパソコンにしかデータがない」状態を解消できるのが大きな効果です。

製品によっては、銀行の入出金明細の取り込みや仕訳の候補の提案ができるものもあり、担当者の判断の一部をシステムに置き換えられる場合があります。承認の記録が残るため、STEP4の職務分掌とも相性が良い手段です。

一方で、ツールを導入しただけでは属人化は解消しません。設定や運用ルールを知る人が一人しかいなければ、属人化の場所がツールの中に移るだけです(後述の失敗要因で詳しく解説します)。

導入費用については、国の「デジタル化・AI導入補助金」(旧IT導入補助金)で、会計ソフトなどの導入費用の一部が補助の対象となる場合があります。公募要領で対象や要件を確認したうえで検討してください。

出典:中小機構「デジタル化・AI導入補助金」公式サイト、中小企業庁「デジタル化・AI導入補助金」概要資料

RPA・生成AI

RPA(パソコン上で人が行う定型的な操作を、ソフトウェアに自動で実行させる仕組み)は、データの転記や突き合わせなど、手順が決まった作業の自動化に向いています。J-Net21でも、業務の標準化と組み合わせてRPAを活用する方法が紹介されています。

ただし、RPAは手順が標準化されていない業務には使えません。また、ロボットを作った人しか中身を直せない状態になると、ロボットの中身が分かる人が一人しかいないという、新たな属人化が起こります(対策は後述の失敗要因の章で解説します)。

生成AIは、作業メモからの手順書の下書き作成や、社内からの問い合わせへの回答補助などに活用できます。出力の正確性は人が確認する前提で使います。

出典:J-Net21(中小機構)「業務の標準化はどのように進めたらよいでしょうか。」

経理アウトソーシング(BPO)

BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング。一般に、業務の一部を外部の専門会社にまとめて委託することを指します)を使うと、記帳・支払い・給与計算などの定型業務を外部に任せられます。担当者一人に依存する状態を避けられるため、社内の人手が足りない企業には有力な選択肢です。

委託するには、業務の範囲と手順を委託先に伝える必要があります。その過程で手順が文書になり、結果として標準化が進む面もあります。

注意したいのは、社内にノウハウが残りにくい点と、委託先への依存です。委託先の担当者が替わると品質が変わるなど、属人化の場所が社外に移るだけになる可能性もあります。経営判断に関わる判断業務は社内に残すようにします。

なお、前述のとおり税務の業務は税理士の業務であり、税理士法第52条で税理士でない者が税理士業務を行うことは禁じられています。BPOは日々の経理作業の代行が中心と捉え、税務は税理士と役割を分けて考えます。

出典:e-Gov法令検索「税理士法」

外部のプロ人材の活用

「属人化を解消したいが、社内に仕組みづくりを主導できる人がいない」。この悩みを抱える企業は少なくありません。IPA(情報処理推進機構)によると、「DX動向2025」では日本企業の85.1%でDXを推進する人材が不足しているとされています。こうした悩みに応える選択肢が、経理・財務や業務改善の実務経験を持つ外部のプロ人材の活用です。

BPOとの違いは役割にあります。BPOが「作業を代わりに行う」手段であるのに対し、外部のプロ人材は「棚卸し・手順書づくり・体制設計を主導し、社内で回る仕組みを作る」手段です。一定期間だけ参画し、仕組みを作ったうえで社内に引き渡す使い方ができます。

次のような企業に向いています。

  • 社内に推進役がおらず、担当者も通常業務で手一杯の企業
  • 担当者の退職などで、期限までに体制を整える必要がある企業
  • ツールの導入とあわせて、業務の流れそのものを作り直したい企業

出典:IPA(情報処理推進機構)ディスカッションペーパー(DX動向2025)、IPA(情報処理推進機構)「DX動向2025」

経理業務の属人化解消でつまずく5つの失敗要因と対策

属人化の解消は、始めることよりも、続けて定着させることのほうが難しい取り組みです。この章では、つまずきやすい5つの失敗要因を「症状→原因→対策」の順で解説します。自社の取り組みに当てはまるものがないか、点検しながら読んでみてください。

失敗要因 放置した場合のリスク 対策 対応するステップ
手順書の更新停止による形骸化 ベテランに聞く状態に逆戻り 更新の責任者・きっかけ・定期確認を最初に決める、副担当が定期的に実際に処理する STEP4・STEP5
担当者の協力不足による業務共有の停滞 手順書が作れず、解消が進まない 目的を伝える、担当者を責任者に任命、共有を評価に反映、管理者主導のヒアリング STEP1・STEP2・STEP5
ツールの先行導入で残る属人化 属人化の場所がツールの中に移るだけ 棚卸しと標準化を先に行う、設定内容も手順書の対象にする STEP1〜STEP3
退職決定後に始める引き継ぎの遅れ 年次業務が引き継がれず、決算・申告が混乱 普段から主担当・副担当の体制をつくる、退職決定後は影響の大きい業務から引き継ぐ STEP2・STEP4
全業務の同時着手による現場の疲弊 取り組みが途中で止まる 影響の大きい業務から順に、繁忙期を避けて無理のない単位で進める STEP2

手順書の更新停止による形骸化

症状:手順書を作ってから1年ほどたつと、システムの画面や取引先の条件が変わり、手順書どおりに処理できなくなります。結局、ベテラン担当者に聞く状態に戻ってしまいます。「手順書の最終更新日が半年以上前」「副担当が手順書だけでは処理できない」といった状態があれば要注意です。

原因:手順書を「作ること」がゴールになり、誰が・いつ更新するかが決まっていません。

対策:STEP5の運用ルール(更新の責任者・更新のきっかけ・定期的な確認)を、手順書を作り始める段階で決めておきます。副担当が定期的に手順書を使って実際に処理すると、古くなった箇所が自然に見つかる仕組みになります。

担当者の協力不足による業務共有の停滞

症状:ヒアリングの時間を取ってもらえない、手順書の内容があいまいなまま進まない、といった状態が続きます。「ヒアリングの予定が何度も延期される」「手順書に『担当者に確認』という記述が多い」場合は、この状態に当てはまる可能性があります。

原因:担当者の側に「業務を手放すと自分の役割がなくなる」という不安があることが少なくありません。もともと業務が多く時間がないことや、共有しても評価されないことも原因になります。

対策:属人化の解消は担当者を置き換えるためではなく、担当者が安心して休めるようにし、より付加価値の高い業務に移れるようにするための取り組みだと、最初に伝えます。そのうえで、担当者を手順書づくりの責任者に任命し、業務の共有を人事評価の項目に入れます(STEP5)。ヒアリングは管理者が主導し、担当者の作業時間を確保します(STEP1)。専門性を「残す業務」として尊重する姿勢(STEP2)も、協力を得るうえで欠かせません。

担当者が抱えてきた苦労を認める一言があるだけで、協力の度合いは大きく変わります。

ツールの先行導入で残る属人化

症状:クラウド会計を導入したものの、設定や運用ルールを知っているのは導入を担当した一人だけ。RPAも作った人しか直せず、属人化の場所がツールの中に移っただけになっています。「ツールの設定画面を触れるのが一人だけ」「ツールの不具合時の対応手順がない」場合は要注意です。

原因:業務の棚卸しと標準化をする前にツールを選んでいます。設定内容や運用ルールも文書になっていません。

対策:STEP1〜3を先に進め、標準化した手順に合ったツールを選びます。ツールの設定内容や運用ルールも手順書の対象にし、副担当が設定を確認できる状態にしておきます。

退職決定後に始める引き継ぎの遅れ

症状:担当者の退職が決まってから引き継ぎを始め、短い期間で終わらずに、年次決算など年に一度の業務が引き継がれないまま残ります。

原因:年次業務は、その時期が来ないと実際に体験しながら引き継ぐことができません。普段から副担当がいないことも原因です。

対策:退職が決まる前から、主担当・副担当の体制を作っておくことが最大の対策です(STEP4)。すでに退職が決まっている場合は、残りの期間で次の順に引き継ぎます。

  1. 支払い処理・請求業務など、期限があり止まると社外に影響が出る業務
  2. 月次決算など、毎月発生する業務
  3. 年次決算・税務申告などの年次業務(前年の資料と、処理の判断理由の記録を必ず受け取る)

引き継ぎの完了は、「説明を受けた」時点ではなく「後任が手順書を見て一人で処理できた」時点で判断します。月次業務なら、後任が1〜2回の締めを実際に処理するまでを引き継ぎ期間と考えます。退職が決算より前の場合、年次業務は実際に経験できないため、前年の決算資料・判断理由の記録・税理士との役割分担表の3つを受け取ることを最低限の目標にします。

社内だけで期限内に終えられない場合は、外部の専門家の支援を検討します。

全業務の同時着手による現場の疲弊

症状:すべての業務の手順書づくりを同時に始め、通常業務と重なって途中で止まってしまいます。「作りかけの手順書が多く、完成したものが少ない」状態はこの典型です。

原因:取り組む順番が決まっていません。決算期などの繁忙期に始めていることもあります。

対策:STEP2の切り分けで、影響の大きい業務から順に進めます。繁忙期を避けて計画を立て、1か月に数業務ずつなど、無理のない単位で進めることが定着への近道です。

経理業務の属人化解消は「フリーコンサルタント.jp」へご相談ください

経理業務の属人化を解消したいと考えていても、担当者は日々の業務で手一杯で、社内に仕組みづくりを進められる人がいない。担当者の退職までに残された時間も限られている。こうした状況では、社内だけで5つのステップを進めるのは簡単ではありません。

取り組みにあたって整理すべき論点は、次の3点です。

  • どの業務から標準化するかの優先順位と、残すべき専門性の見極め
  • 少人数でも成り立つ職務分掌と、主担当・副担当の体制づくり
  • クラウド会計・RPA・BPOなどの手段の組み合わせ方と、社内への定着

フリーコンサルタント.jpでは、実務経験が豊富なプロ人材が、必要な期間だけチームに参画します。業務の棚卸しから手順書づくり、ツールの導入、運用の定着まで伴走し、社内にノウハウを残す形で仕組みづくりを進められます。

まずは自社の状況を整理するところから、フリーコンサルタント.jpへお問い合わせください。

フリーコンサルタント.jpによるAI導入・DX推進支援の事例

経理業務の属人化と同じく、「特定の人の経験や勘に頼っていた業務を仕組みにする」「外部の知見を取り入れながら、社員が自走できる体制をつくる」という課題を抱えていた企業への、AI・DX活用の支援事例を紹介します。

事例①|大手飲食業界企業:経験と勘に頼っていた発注業務の属人化を、需要予測AIで解消

200店舗以上を展開する大手飲食業界企業では、約400品目の発注業務を店舗担当者の経験と勘に頼って行っており、業務が属人化していました。データ分析の専門人材が社内に不足し、AIの本格運用に向けたデータ活用の進め方も分からない状態でした。

当時の課題 ・データサイエンティスト(データ分析の専門家)やAI活用の経験者が社内に不足
・店舗情報・POSデータ(レジの販売記録)をもとにした需要予測を、複数人が同じ精度で行うことが困難
・発注業務が現場の勘に依存し、担当者の休暇・退職で業務が滞るリスクを抱えていた
実施したこと ・店舗ごとの特徴を踏まえた変数を定義し、データを整理
・PoC(概念実証:本格導入の前に小規模で効果を確かめる検証)を経て、店舗ごとに高い精度で需要予測ができるAIモデルを構築・運用

需要予測AIの活用により発注業務の多くを自動化し、作業時間を削減しました。担当者の勘に頼っていた判断を仕組みに置き換えたことで、バックオフィス業務の負荷が軽くなり、店舗担当者が接客などに時間を割けるようになっています。

事例②|大手通信キャリア企業:社員が自走できるデジタル活用組織(CoE)の立ち上げ

大手通信キャリア企業では、業務効率化を目的に、デジタル活用組織(CoE:Center of Excellence。複数部門の知見を集約する専門組織)の立ち上げを決定しました。しかし、組織の立ち上げとデジタル技術の活用の両方を推進できる人材が社内に不足していました。

当時の課題 ・デジタル領域の知見と組織立ち上げの経験を併せ持つ人材が社内に不足
・業務効率化ツールの開発・運用体制をゼロから構築する必要があった
実施したこと ・CoE組織の立ち上げから全体設計・運用構築・実運用までを一気通貫で伴走支援
・事業部門への課題ヒアリングをもとにツールを開発する仕組みを構築し、社員が自走できる体制へ知見を移転

CoE組織の立ち上げと運用の安定化により、組織立ち上げ前と比べて業務工数を約25%削減しました。社員が主体的に運用できる体制が整い、外部人材への依存から段階的に脱却しています。

経理業務の属人化解消や、業務を仕組みで回す体制づくりでお悩みの場合は、フリーコンサルタント.jpにお気軽にご相談ください。

まとめ

経理業務の属人化は、担当者個人の問題ではなく、業務の手順と判断基準を共有する仕組みがないことから生まれます。放置すると、担当者の不在が支払い・決算・税務申告の停止に直結し、ミスや不正にも気付けない状態が続きます。

解消は、①業務の棚卸しと可視化、②標準化する業務と専門性として残す業務の切り分け、③手順書とチェックリストの整備、④職務分掌とダブルチェック体制の整備、⑤運用ルールの設定と定期的な見直し、の5つのステップで進めます。すべてを一度に進める必要はなく、支払いや請求など影響の大きい業務から順に取り組むことが定着への近道です。

クラウド会計・RPA・BPO・外部のプロ人材といった手段は、この仕組みづくりと組み合わせてこそ効果を発揮します。担当者が在籍しているうちに着手することが、引き継ぎのコストとリスクを最も小さくします。

【記事監修者】
(監修者名・プロフィール・経歴を記載。確認できる経歴情報がない場合は本項目を削除、または社内の該当者情報に置き換えてください。)

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