「なぜ、私たちの会社は存在するのか?」自社の存在意義を明確に答えられる企業はどのくらいあるでしょうか。
近年注目されている「パーパス経営」は企業の存在意義を明確にし、その目的に向かって全社一丸となって取り組む経営手法です。パーパス経営を取り入れることで、企業は従業員のモチベーション向上や顧客との共感など、多角的なメリットを得られます。
しかし、その実現には慎重な計画と実行が欠かせません。本記事では、パーパス経営の基礎知識からメリットとデメリット、パーパスの導入手順を解説します。
さらに、具体的な成功事例を詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
パーパス経営とは?
パーパス経営とは、企業活動の根幹となるパーパス(存在意義)を明確にし、それを軸とした経営を実践する手法です。従来の企業経営が「何を」「どのように」提供するかに重点を置いていたのに対し、パーパス経営は「なぜ」その事業を行うのかを明確にする点が特徴です。
ここからは、さらに詳しくパーパス経営について解説します。
パーパスの重要性と企業への影響
経営理念との違い
パーパスの重要性と企業への影響
近年、多くの企業がパーパス経営に注目する背景には、持続可能な成長への期待があると考えられます。パーパスは企業活動の根幹を支える重要な要素であり、経営方針の決定や従業員のモチベーション向上、さらには顧客との関係構築に至るまで、さまざまな影響を及ぼしています。
特に社会課題の解決と事業成長を両立させることが求められる現代では、その重要性がさらに高まると言えるでしょう。以下の表では、パーパスが企業に与える主な影響について、具体的にまとめています。
影響領域 | 具体的な効果 |
---|---|
経営方針意思決定の基準として機能 | 特定の期間終了まで継続 |
組織文化 | 従業員の行動指針となる |
ステークホルダー | 共感と信頼の獲得 |
事業展開 | 事業の方向性を示すブランド価値 |
ブランド価値 | 企業イメージの向上 |
経営理念との違い
経営理念とパーパスは似ているようで異なる概念であり、それぞれの役割を理解することが重要です。以下は「経営理念」と「パーパス」の違いを表形式でまとめたものです。
項目 | 経営理念 | パーパス |
---|---|---|
定義 | どのように事業を行うかを示す行動指針 | なぜその事業を行うのかを示す存在意義 |
目的 | 社内向けの行動基準や未来志向のビジョンを提示する | 社会との関係性を重視し、現在の価値や使命を明確にする |
対象 | 主に従業員や関係者 | 社会全体(顧客や地域社会など) |
時間軸 | 将来に向けたあるべき姿 | 現在における意義や価値 |
例 | 「お客様第一主義」「革新を追求する姿勢」など | 「地域社会の課題解決」「持続可能な未来の実現」など |
重視する視点 | 内部での統一感行動の方向性を強化 | 社会における企業の存在価値や使命感を訴求 |
パーパス経営が求められる5つの理由
企業を取り巻く環境の変化により、パーパス経営の重要性は年々増しています。パーパス経営が求められる5つの理由を見ていきましょう。
- SDGsとの共存
- DXと企業変革
- ミレニアル世代の増加
- ESG投資の評価軸
- VUCA時代への対応力
SDGsとの共存
2015年の国連サミットでSDGsが採択されて以降、企業の社会的責任は新たな段階に入りました。SDGsが掲げる17の目標は、企業にとっては避けて通れません。パーパス経営はこれらの目標達成と、事業成長の両立を可能にする具体的な方法論として注目を集めています。
実際、パーパスを明確に定義している企業は、SDGsの目標と自社の事業戦略を結びつけることに成功しています。特に環境問題や社会課題の解決において、パーパスは企業の行動指針として重要な役割を果たすでしょう。さらに、SDGsへの取り組みは投資家からの評価にも直結し、企業価値の向上にもつながっているのです。
引用:国際連合広報センター:SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン
DXと企業変革
最近のデジタル技術の進歩により、企業は大きな変革を迫られています。ただ単にデジタル化を進めるだけでは、真の意味でのDXは実現できません。デジタル化の推進においては単なる技術導入にとどまらず、変革の必要性やデジタル化によって達成したい目的を明確にすることが重要です。
パーパスは、DXの本質的な意義を明確にする指針となります。技術導入の目的を明確にし、組織全体で変革の方向性の共有により、効果的な推進が可能です。単なるツールの導入に終わらせないためにも、パーパスという指針が重要な役割を果たしています。
ミレニアル世代の増加
1980年代から2000年代初頭に生まれたミレニアル世代が労働市場の中心となるにつれ、企業労働者の価値観も大きく変化しています。
「就活生の企業選びとSDGsに関する調査」によると、企業の社会貢献度の高さが就職志望度に影響したと回答した就活生は約65%となっています。 ミレニアル世代は、企業の社会的使命を重視して就職先を選んでいることがわかるでしょう。
パーパスは、こうした新しい世代の価値観に応える重要な要素であり、世代間の価値観の違いを橋渡しする役割も果たしています。
参照:経済産業省通商白書2021年版|第Ⅱ-2-1-15図 企業の社会貢献度の高さによる就職志望度への影響
ESG投資の評価軸
近年、投資家の企業評価基準は財務指標だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を考慮するESG投資が注目されています。ESG投資とは、これらの要素を基に企業を評価し、投資判断を行う手法です。世界のESG投資額は年々増加しており、2022年には約35.3兆ドルに達しました。
パーパスを明確に掲げる企業は、長期的な価値創造への意思を示すことで、ESG投資家から高く評価される傾向があります。特に環境問題や社会課題に積極的に取り組む企業は、投資家からの信頼を得やすいでしょう。
さらに、パーパス経営は株価のボラティリティ低下にも寄与し、市場変動に対する耐性を高めます。このように、投資家にとってパーパスは企業の持続可能性を測る重要な指標となっているのです。
参考:ESG資産、2025年には53兆ドルに達する可能性
VUCA時代への対応力
VUCA(ブーカ)とは、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)という4つの言葉の頭文字を組み合わせた言葉です。今の時代は「市場の変化が激しく、先の見通しが立てにくく、様々な要素が複雑に絡み合い、何が正解かわかりにくい」そんな状況を表現する言葉として使われています。
このような先行きが見えにくい時代において、企業にとってパーパス(存在意義)は重要な指針となっています。 明確なパーパスを持つ企業は環境変化に柔軟に対応し、ぶれない経営が可能です。
たとえば、コロナ禍において「お客様の健康を守る」というパーパスを掲げる企業は、迅速にオンラインサービスへの移行を決断し、新たな形で顧客サポートを実現しました。これは、パーパスが単なるスローガンではなく、実践的な経営指針として機能している証といえるでしょう。
パーパス経営のメリット
パーパス経営は、企業が存在意義を明確にすることで、持続可能な成長を目指す経営手法です。社会課題の解決を軸に事業活動を行うと企業の価値が向上し、競争力の強化にもつながります。
ここからは、パーパス経営がもたらす具体的なメリットを挙げます。
- 従業員のモチベーション向上
- 顧客ロイヤルティの向上
- リスク管理の強化
- イノベーションの促進
従業員のモチベーション向上
パーパス経営は、従業員のモチベーションを向上させる効果があります。社会的価値の創造に携わることで、単なる給与のための仕事以上の意味を見出せるからです。パーパス経営を実践する企業では、社員が自分の仕事と社会貢献のつながりを深く理解し、日々の業務に取り組んでいます。
パーパスに基づき、上司からの指示を待つのではなく自ら考え行動します。さらに一人ひとりが、自分の仕事が社会にどのような影響を与えるかを意識すると組織全体の活力が高まるでしょう。
この変化は、業務改善や顧客サービスの質にも良い影響を及ぼします。単に作業をこなすだけではなく、その先にある社会的意義を考えることで、より創造的な提案や改善が見込めるでしょう。
顧客ロイヤリティの向上
パーパスを明確に掲げる企業は、顧客ロイヤルティの向上が期待できます。理由として商品やサービスの品質に加え、企業の社会的な姿勢に共感する消費者が増えているためです。
特に若い世代では「何を買うか」から「なぜその企業から買うのか」へと選択基準が変化 しています。たとえば、環境配慮型の商品やフェアトレード商品を選ぶ、地域社会に貢献する企業を支持するなど、価値観に基づく選択に変わってきました。
この結果、価格や機能だけでなく、企業の理念や社会貢献が重要視されるようになっています。さらに、現代ではSNSなどを通じて企業の活動が広く可視化されることで、直接的に消費者の共感を呼び、顧客ロイヤリティが向上するでしょう。
リスク管理の強化
パーパスに基づく経営判断は、企業の多様なリスク管理の強化につながります。環境問題や社会課題に関連するリスクを早期に発見し、事前の対策を講じることで、突発的な事態にも柔軟かつ迅速に対応可能です。
たとえば、気候変動に伴う規制強化や、サプライチェーンにおける人権問題といったリスクにも備えやすくなるでしょう。さらに、不測の事態が発生した際にもパーパスという明確な軸があると企業全体で一貫性のある意思決定や行動ができます。一貫性があると、内部の混乱を防ぐだけでなく、外部からの信頼を損ないません。
また、企業活動に社会的価値の視点を取り入れることで、レピュテーションリスク(評判の損失)も大幅に低減されます。消費者や社会が企業を信頼する基盤が強化されるため、結果的に企業の持続可能性や長期的な成長が期待できるでしょう。
イノベーションの促進
パーパスは、企業のイノベーションを加速させる原動力にもなります。社会課題の解決という視点から事業を見直すことで、従来の枠組みを超えた発想が次々と生まれるようになりました。
特に新規事業の立ち上げではその効果が顕著で、部門を超えた協力体制が自然に生まれるなど、組織間の連携も強化されています。また異業種との協働も活発化し、社会課題の解決という共通目標を持つと、より創造的なアイデアが生まれやすい環境が整うでしょう。
パーパス経営のデメリット
パーパス経営は、企業の存在意義を明確にし、長期的な価値を創出するための有効な手法ですが、デメリットも存在します。課題を認識して適切に対処することが、パーパス経営を成功に導くためには欠かせません。
ここからは3つのデメリットを詳しく解説します。
- 短期利益とのバランス
- 社員意識改革の課題
- 成果測定の難しさ
短期利益とのバランス
パーパス経営では、短期的な利益と長期的な社会的価値の両立が大きな課題です。社会貢献活動は時間とコストを要し、その成果が即座に現れないため、短期的な収益を重視する株主や投資家との間で意見の相違が生じることがあります。
環境保護や地域支援などの取り組みがコスト増や収益減少を招く可能性もあるでしょう。また、掲げたパーパスを十分に実行できない場合、顧客やステークホルダーからの信頼を失う「パーパスウォッシュ」のリスクも存在します。
これらの課題を解決するためには、現実的で実現可能なパーパスを設定し、短期と長期の利益を両立させる明確な計画が必要
です。また、株主や従業員との対話を重ね、パーパスがもたらす長期的な価値を共有し、理解と協力を得ることが重要となるでしょう。
社員意識改革の課題
パーパスを企業文化に浸透させるには、粘り強い取り組みが欠かせません。しかし従来の成果主義から、社会的価値を重視する姿勢への転換は簡単にはいかないでしょう。
特にベテラン社員と若手社員、営業部門と管理部門の間でパーパスへの理解度に温度差が生じやすい傾向があります。以下は、パーパスを社内への浸透施策の実施の調査結果です。
リソース不足やパーパスの必要性、重要性に対する理解の低さが主な課題となっています。
これを克服するには、継続的な対話を通じて共通認識を育み、世代や部門を超えてパーパスの価値を共有することが重要です。
成果測定の難しさ
パーパス経営の効果を明確に測ることは難しい課題です。社会的インパクトや社員の意識変化は、売上や利益といった従来の業績指標では十分に評価できません。そのため、新しい評価基準の導入が求められていますが、現時点ではまだ発展途上です。
こうした背景から、社会的評価や従業員の行動変化など、定量的な指標だけでなく定性的な成果にも目を向ける必要があるでしょう。長期的な視点で、地道に成果を確認し続けることがパーパス経営の成功に不可欠となります。
パーパス経営の導入手順
ここからは、実際にパーパスを導入する際の手順を紹介します。
- 目的の明確化とステークホルダーの役割
- 全社での共有と浸透
- 経営戦略への統合
- 日常業務への落とし込み
目的の明確化とステークホルダーの役割
パーパス経営の導入には、綿密な準備が不可欠です。まずは自社の現状を正確に把握し、目指すべき方向性を明確にしていく必要があるでしょう。
その過程では従業員や顧客、取引先など、あらゆるステークホルダーの声に耳を傾けることが大切です。各ステークホルダーとの対話を通じて、より実効性の高いパーパスが形作られていきます。形だけの導入に終わらせないためにも、丁寧なプロセスを踏むことが成功への近道となるでしょう。
全社での共有と浸透
パーパスの浸透には段階的なアプローチが効果的です。経営トップが頻繁にメッセージを発信し、具体的な事例を交えながら、パーパスの意義を伝えていく必要があります。形式的な伝達に終わらせないためにも、双方向のコミュニケーションを重視すべきでしょう。
また、教育研修プログラムも重要な役割を果たします。新入社員研修から管理職向けのワークショップまで、各層に合わせた学びの機会を設けることで、理解は着実に深まっていきます。日常的な対話の中でも意識してパーパスを話題にすると、自然な形で浸透が進んでいくでしょう。
経営戦略への統合
パーパスを経営戦略に落とし込む過程では、具体性が鍵となります。中期経営計画への反映や事業ポートフォリオの見直しなど、実践的なアクションに結びつけていかなければなりません。
社会課題の解決と事業成長の両立を目指し、実現可能な戦略を描いていく必要があるでしょう。また、組織体制の整備も忘れてはいけません。推進体制を明確にし、部門横断的な連携を促進することで、パーパスの実現に向けた取り組みが加速します。
各部門の目標設定にもパーパスの要素を組み込み、全社一丸となった推進体制を築いていきましょう。
日常業務への落とし込み
パーパスを実効性のあるものにするには、日々の業務レベルまでの落とし込みが重要です。業務プロセスの見直しや判断基準の明確化を通じて、社員一人ひとりの行動に反映させていく必要があります。
評価制度との連動も欠かせないポイントです。パーパスに基づく評価項目を設定し、定性的な評価も取り入れることで、社員の行動変容を促していくことができるでしょう。表彰制度などを活用し、優れた取り組みを共有することも効果的です。
パーパス経営の成功事例 〜日本の企業3選〜
ここからは、実際にパーパス経営を取り入れた成功事例を紹介します。
- 無印良品の人にも地球にも優しい暮らし
- 伊藤園の茶畑から生まれるサステナビリティ
- ユニリーバの持続可能な生活への貢献
無印良品の人にも地球にも優しい暮らし
無印良品は、「感じ良い暮らし」というパーパスを掲げ、環境と人を大切にする取り組みを展開しています。たとえば、再生素材を活用した商品開発では、廃棄される素材を新たな製品として再生し、年間約1,000トンのプラスチックを削減しました。
また、各店舗で地域の食材や工芸品を積極的に取り扱い、地域の生産者や職人との協働を進めています。この取り組みは地域経済の活性化につながり、2022年には全国200以上の生産者との取引を実現しました。
さらに、店舗を地域のコミュニティスペースとして開放し、地域住民が集まり、環境や社会について考え対話する場を提供しています。無印良品の活動は、環境配慮や地域貢献にとどまらず、企業価値の向上にも大きく貢献しました。特に環境意識の高い若い世代からの支持を集め、新規顧客の獲得にもつながっています。
伊藤園の茶畑から生まれるサステナビリティ
「お茶で世界を笑顔に」というパーパスを実践する伊藤園は、日本の茶産地が直面する深刻な課題に取り組んでいます。2001年から「茶産地育成事業」を開始し、これまでに全国約30か所で耕作放棄地を茶畑として再生し、年間約450ヘクタールの茶畑を維持管理しているのです。
独自の契約栽培方式で生産者との長期契約により、市場価格に左右されない安定した買い取り価格の保証もしています。この仕組みで若手農家の参入障壁を下げ、年間約200名の新規就農者を支援することに成功しました。また環境面では、有機栽培の技術指導や支援体制を確立し、農薬使用量の削減や、茶畑での生物多様性調査を定期的に実施し、在来種の保護にも力を入れています。
ユニリーバの持続可能な生活への貢献
ユニリーバは「持続可能な生活を当たり前のものにする」というパーパスの実現に向けて、具体的な数値目標を掲げました。2025年までにすべての包装材をリサイクル可能、再利用可能、堆肥化可能なものに切り替える計画を進めており、既に70%以上の達成率を記録しています。
また工場での取り組みも徹底し、2030年までに全世界の製造拠点での再生可能エネルギー100%使用を目指し、既に40か国以上の拠点で切り替えを完了予定です。さらに、製品1個あたりの水使用量を2008年比で50%削減することに成功しました。
消費者教育にも力を入れており、環境に配慮した製品の使用方法や廃棄方法について、パッケージやウェブサイトを通じて積極的に情報を発信しています。この発信により、ユニリーバの取り組みは、消費者の環境意識向上へ貢献しているのです。
まとめ
パーパス経営は、企業の持続的な成長に欠かせない経営手法です。社会課題の解決と企業価値の向上を両立させ、すべてのステークホルダーとの関係強化を実現する可能性を秘めています。
しかし、その実践には長期的な視点と緻密な戦略が必要です。パーパスの策定から組織への浸透、評価制度の確立まで、段階的なアプローチが求められるでしょう。パーパス経営の導入や運営には、社員一人ひとりの意識を育て、目的意識を共有することが重要です。
企業パーパスの策定や社内外での浸透について、自社内だけでの対応が難しい場合は、外部プロフェッショナル人材の招へいを検討する必要があるでしょう。
株式会社みらいワークスは、国内最大級のプロフェッショナル人材DBを運営している企業です。お気軽にご相談下さい。
(株式会社みらいワークス フリーコンサルタント.jp編集部)