
近年、カーボンネガティブの実現に取り組む企業が増えています。
「カーボンネガティブ」とは、二酸化炭素(CO2)の排出量よりも吸収量が多い状態のことです。カーボンネガティブへの取り組みには、地球温暖化の抑制だけでなく、企業価値の向上などさまざまなメリットがあります。
本記事では、カーボンネガティブとは何かを簡単にわかりやすく解説します。また、カーボンネガティブ実現のための最新技術や企業の取り組み事例もあわせて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
■目次
カーボンネガティブとは
カーボンネガティブ(Carbon Negative)とは、カーボン(炭素)がネガティブ(マイナス)である状態です。つまり、CO2などの温室効果ガスの排出量より吸収量が上回ることによって、実質的にマイナスにすることを指します。
CO2の主な吸収源には、森林や海洋、土壌などがあり、カーボンネガティブ実現のためには、省エネや従来の電力エネルギーから脱炭素エネルギーへの切り替えなどを行うことが重要です。その上で、植林や沿岸・海洋生態系の保護などによりCO2の吸収量を増やし、地球全体の排出量をマイナスの状態に導くことが求められます。
「カーボンネガティブ」と「カーボンポジティブ」の違い
カーボンポジティブ(Carbon Positive)とは、カーボン(炭素、CO2)に関してポジティブ、すなわち温室効果ガスを吸収する状態を指します。
結論からいうと、カーボンネガティブと実質的に同じ意味を持つ用語です。カーボンネガティブは「排出量よりも削減量が多い」という観点から、ネガティブ(マイナス)という言葉が使われる一方、カーボンポジティブは「排出を上回る吸収によって環境にプラスの影響を与える」という視点で、ポジティブという言葉が用いられます。
なお、カーボンポジティブは環境科学の用語であり、どちらの言葉を使用するかは企業によって異なります。
「カーボンネガティブ」と「カーボンニュートラル」の違い
「カーボンニュートラル」とは、排出された温室効果ガスの量と同じ量を吸収または除去し、実質的に排出量をゼロにする状態のことです。簡単に説明すると、カーボンネガティブは「排出量<吸収量」、カーボンニュートラルは「排出量=吸収量」になります。
地球温暖化の抑制には、カーボンニュートラルの実現が必要不可欠であり、現在では世界中の国や企業が取り組んでいます。そしてカーボンニュートラルの次のステップとして位置付けられるのが、カーボンネガティブです。
3カ国がカーボンネガティブを達成
実現のハードルが高いとされるカーボンネガティブですが、現時点で3カ国(ブータン、スリナム、パナマ)がカーボンネガティブを達成しています。
ブータンは、国土の70%以上が森林や樹木であり、多くの温室効果ガスを吸収しています。森林保護のために伐採物の輸出禁止や、憲法改正により国土の60%を森林とすることなどを取り決め、カーボンネガティブを維持しているのが特徴です。
スリナムは、南米で最も面積が小さい国でありながら、国土の90〜97%を覆う森林は、巨大な温室効果ガスの吸収源として機能しています。ブータンに続き、2番目に炭素排出量が少ないとされています。
パナマは、国土の65.4%が熱帯雨林や湿地、ジャングルです。パナマ政府は、2050年までに5万ヘクタールの森林再生を目指すなど、森林保護の先駆者となっています。
参考:Carbon-Negative Countries 2025|World Population Review
カーボンネガティブが必要とされている理由
今、世界中でカーボンネガティブの実現に向けた取り組みが行われています。では、なぜカーボンネガティブが必要とされているのでしょうか。
最も大きな理由は「地球温暖化の抑制」です。温室効果ガスの排出量の増加により、大気中の温度が上がり、異常気象や海面上昇が起こっています。
温室効果ガスには、メタン(CH4)や一酸化二窒素(N2O)なども含まれますが、70%以上が二酸化炭素(CO2)です。そのため、CO2の排出量削減が地球温暖化の抑制に効果的とされています。
CO2の排出量削減に向けて動き出すきっかけとなった出来事としては、以下の2つがあります。
①2015年に採択された「パリ協定」
一つ目の出来事に、2015年に国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」があります。
この協定は、2020年以降の地球温暖化対策に向けた国際的な枠組みです。産業革命前(18世紀後半以前)と比較し、世界の平均気温上昇を2℃、または1.5℃より低く抑えることが目的です。
気候変動枠組条約に加盟する196カ国すべてが対象で、各国は削減目標を提出しています。また世界全体の目標に「今世紀後半には、温室効果ガスの人為的な排出と吸収源による除去の均衡を達成するよう、排出ピークをできるだけ早期に迎え、最新の科学に従って急激に削減すること」があります。
②2020年の「2050年カーボンニュートラル宣言」
パリ協定を受け、日本では当時の菅総理大臣が2020年に「2050年カーボンニュートラル宣言」を表明しました。この宣言は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロを目指す」という内容です。
日本は「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、さまざまな取り組みを実施しています。2023年度にはCO2の排出量が過去最低になり、2050年カーボンニュートラルの実現に一歩近づいたと報告されています。
参考:2023年度の我が国の温室効果ガス排出量及び吸収量について|環境省
企業がカーボンネガティブに取り組むことで得られるメリット
世界中が取り組むカーボンネガティブですが、国だけでなく企業にもメリットがあります。
地球温暖化抑制以外で、企業が受けるメリットは以下の3つです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
①ESG経営による企業価値の向上
企業がカーボンネガティブに取り組むことは、ESG経営に取り組む企業として高く評価される要因の一つとなります。
ESG経営とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の3要素を重視する経営方法です。カーボンネガティブへの取り組みは、このうちEnvironment(環境)への配慮に当てはまります。
近年では、企業の業績だけでなく、社会貢献度や環境などへの配慮も企業の評価基準になりつつあります。そのため、ESG経営を進めることで、投資家や顧客からの支持を得やすくなるでしょう。
②環境技術の発展によるビジネスチャンスの獲得
自社で新たな技術や製品を開発すれば、大きなビジネスチャンスとなり得ます。環境問題は世界共通の課題であり、技術や製品はグローバルに展開できます。
ただし、カーボンネガティブの実現は一企業だけで実現できるものではありません。企業間や政府組織との連携が必要不可欠です。自社単独では開発が難しい技術や製品であっても、他社や政府と協力することで実現できる可能性があります。
③優秀な人材の確保・人材の流出防止
近年は投資家や顧客だけでなく、求職者も企業の社会貢献度に注目しています。企業の将来性や社会的役割などを、就職活動での企業を選ぶ要素とする人は増えています。カーボンニュートラルよりさらに一歩踏み込んだカーボンネガティブに取り組むことは、優秀な人材の確保にも効果的です。
また、カーボンネガティブへの取り組みは社員のモチベーション向上にも役立ちます。企業が社会的責任を果たす姿勢は、社員のエンゲージメントを高め、人材の流出防止にもつながるでしょう。
企業がカーボンネガティブに取り組むことで得られるメリット
カーボンネガティブの実現に向け、さまざまな企業がネガティブエミッション技術(NETs)の開発に取り組んでいます。
ネガティブエミッション技術とは、大気中のCO2を除去し、地下などに貯蔵するための技術です。そもそも自然界には森林や海洋による吸収、自然風化など自然に行われるCO2の吸収や炭素の貯蔵などの自然プロセスがあります。NETsは、これらの自然な働きに人為的な工程を加えることで、吸収・固定を促進させるものです。
NETsには「自然プロセスの人為的加速」と「工学的プロセス」の2種類があり、代表的なものは以下の5つです。
| 自然プロセスの人為的加速 |
|
| 工学的プロセス |
|
それぞれの技術をみていきましょう。
【自然プロセスの人為的加速①】植林・再生林
植林・再生林は、CO2を吸収する木を増やすことでCO2を削減する取り組みです。
植林とは、伐採後の土地に苗木を植えて育て、人工森林を作ることです。一方、再生林は、破壊された森林を自然の力や人間の活動により再生・回復させることを指します。
植林・再生林を行う際は、その土地に適した品種の選択が重要です。誤った品種選択は、CO2吸収・固定化の効果や水土保全機能などに悪影響を与えるおそれがあります。また、草原や農地に植林する場合は、生物多様性への影響も配慮する必要があります。
【自然プロセスの人為的加速②】風化促進
風化促進とは、玄武岩などのケイ酸塩を含む岩石を粉砕・散布し、自然界では千年〜1万年の歳月をかけて起こる風化を人工的に促進させる技術です。ケイ酸塩は水との反応で、大気中のCO2を吸収します。粉砕により表面積を増やすことで、CO2の吸収量が増加するのです。
風化促進は、新たな技術開発が不要であること、CO2固定量あたりの必要面積が少ないこと、さらにはCO2吸収作用以外に海洋生態系の保全を行えるなどのメリットがあります。しかし、CO2削減効果や環境への具体的な影響などが十分に検証されておらず、実装には課題が残っています。
【自然プロセスの人為的加速③】ブルーカーボン・ブルーリソース
ブルーカーボンとは、沿岸・海洋の生態系が光合成でCO2を吸収し、海底や深海に固定される炭素のことです。2009年の国連環境計画(UNEP)の報告書「Blue Carbon」にて命名され、世界的に注目を集めました。
参考:ブルーカーボンとは|環境省
ブルーリソースとは、海洋エネルギーや海洋生物によるCO2吸収など、海の資源を活用し、地球温暖化の抑制やカーボンネガティブを目指す取り組みです。
UNEPでは、ブルーカーボンの主な吸収源としてマングローブ、塩性湿地、海藻の3つが挙げられています。日本においては海岸線の長さや排他的経済水域の広さなどから、ブルーカーボンに大きな期待が寄せられています。
【工学的プロセス①】BECCS
BECCS(バイオマスCCS)は、バイオマス発電とCO2の回収・貯留技術であるCCS(Carbon Capture and Storage)を組み合わせた工学的プロセスです。
バイオマス発電では、間伐材や飼料作物などのバイオマス燃料を燃やして熱エネルギーを発生させ、それを電気エネルギーに転換します。その際に排出されるCO2をCCSにより回収し、地中に固定したり、エネルギーとして活用したりして、カーボンネガティブの実現を目指します。
参考:ネガティブ・エミッションの達成にむけた全球炭素管理|国立環境研究所
【工学的プロセス②】DACCS
DACCSは、大気中のCO2を直接回収する技術であるDAC(Direct Air Capture)とCCS(Carbon Capture and Storage)を組み合わせた工学的プロセスです。
DACには、化学吸収や化学吸着、物理吸着、膜分離などの手法があり、これらの方法で回収したCO2をCCSによって貯留することで、カーボンネガティブの実現を目指します。
参考:ネガティブエミッション技術について(DACCS/BECCS)|NEDO
DACCSには、植物などを介さずにCO2を回収できることや、除去効果の検証がしやすいなどのメリットがあります。一方で、CO2回収時に多くのエネルギーを消費するため、エネルギー消費削減などの課題も残されています。
企業によるカーボンネガティブの取り組み事例
カーボンネガティブの実現に向けて、国内外の多くの企業が積極的に取り組んでいます。
ここでは、以下の5つの企業の取り組み事例を紹介します。
①鹿島建設株式会社
鹿島建設株式会社は、2008年に世界初のカーボンネガティブコンクリート「CO2-SUICOM」を開発しました。「CO2-SUICOM」は、製造時に多くのCO2を排出するセメントの半分以上を、CO2を吸収する特殊な素材に置き換えています。また、コンクリートが固まる過程においてもCO2を吸収します。「CO2-SUICOM」1㎥が製造時に吸収するCO2の量は、20mの高さの杉の木が1年間に吸収する量と同等です。
同社は社会・環境問題の中から、優先して取り組むべき7つの課題を特定し、その一つに「脱炭素・資源循環・自然再興への貢献」があります。この課題の解決に向け、新たな技術開発などに取り組んでいます。
参考:環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM®(シーオーツースイコム)」|鹿島建設株式会社
大気中のCO2をコンクリートに固定、万博会場で利用 鹿島と川崎重工|BUILT
SDGsと鹿島の事業活動|鹿島建設株式会社
②株式会社クボタ
株式会社クボタは、農業残さを再利用するための研究を行っています。
農作物の生産過程で発生するもみ殻、茎、葉、根などは、一部が堆肥として利用されますが、多くはゴミとして処分されます。同社は、これらの農業残さからメタンや水素を生成し、エネルギー源として再利用する技術を開発中です。また、CO2の吸収などに有効なバイオ炭も生成し、ガス化やバイオ炭生成技術の促進にも取り組んでいます。
農業分野では、CO2排出量をゼロにするのは難しいとされていますが、これらの技術が確立されれば、カーボンネガティブの実現に向けて大きな一歩となることが期待されます。
③花王株式会社
花王株式会社は、2021年に「2040年までにカーボンゼロ、2050年までにカーボンネガティブを目指す」ことを表明しました。
2024年には、CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)技術を用いて回収・精製したCO2を、植物工場「SMART GARDEN(スマートガーデン)」で再利用していることを発表しています。CCUとは、発電所や工場などから排出されたCO2を他の気体から分離して収集し、資源として再利用する技術です。
スマートガーデンで栽培・加工されたエキスは、製品への応用検討と海外販売を進めていくとしています。
参考:回収したCO2を活用した植物工場「SMART GARDEN」を構築|花王株式会社
④セイコーエプソン株式会社
セイコーエプソン株式会社は、2030年までに1.5℃シナリオに沿った総排出量削減、2050年までに「カーボンマイナス(カーボンネガティブ)」と「地下資源消費ゼロ」という目標を掲げています。
2023年には、グローバル全拠点での利用電力を100%再生可能エネルギーにすることを達成し、年間約40万トンのCO2排出量をゼロにしました。また、再生可能エネルギーの活用を目的としたバイオマス発電所の建設を開始し、2027年度の稼働を目指しています。
⑤Microsoft(マイクロソフト)
アメリカのソフトウェア企業であるマイクロソフトは、世界に先駆けてカーボンネガティブに取り組んできた企業です。
2030年までにカーボンネガティブを達成し、2050年までに1975年の創業以来のCO2排出量をゼロにすると表明しています。また同時に、10億ドルの気候イノベーション基金も発表しました。この基金は、初期段階の炭素除去分野の新興ベンチャー企業への支援や供給増加に特化しています。
参考:マイクロソフトにおける炭素除去の取り組み|Microsoft
まとめ
カーボンニュートラルのさらに一歩先をいくカーボンネガティブの実現は、今後ますます重要な課題となるでしょう。積極的に取り組むことで、企業価値の向上や社員のモチベーションアップなど、多くのメリットがあります。しかし、カーボンネガティブに取り組むためには、社内環境の整備や初期投資などが重要です。
「フリーコンサルタント.jp」には、新規事業、技術・テクノロジー、プロジェクト管理などさまざまな分野に特化したプロフェッショナルな人材が在籍しています。「カーボンネガティブに取り組みたいが、どこから始めればいいかわからない」「外部の専門家を活用したい」などのお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。


