「DX戦略って何？」「DX戦略を成功させるためにどうすればいいの？」と悩んでいる方は少なくないでしょう。
DX戦略とは、デジタル技術を用いてビジネスモデルや業務プロセスを刷新し、新たな価値を生み出す行動計画です。DX戦略を策定することで、業務効率や生産性が向上するとともに、経営判断に必要なデータ収集が行えるほか、レガシーシステムからの脱却も期待できます。
本記事では、DX戦略の重要性やメリット、戦略策定の方法や成功のポイントなどを解説します。また、DX戦略策定に取り組んでいる企業の事例や、役立つフレームワークなども紹介しているので、DX戦略の策定を検討している方はぜひ最後までお読みください。
■目次
DX戦略とは
DX戦略とは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを抜本的に変革し、新たな価値を創出するための行動計画です。経済産業省は、DXを「ビジネス環境の変化に対応し、データやデジタル技術を用いて製品、サービスや組織、企業文化を変革し、競争優位性を確立すること」と定義しています。
DX戦略においては、DXを実現するための具体的な方法を明確化し、経営戦略と整合性を取ることが重要です。また、DX戦略は3〜5年程度のスパンで策定し、目標達成に向けた方向性やロードマップなどが盛り込みます。DX戦略を策定することにより、企業内で一貫性のある意思決定が可能となり、継続的なDX推進が実現できるでしょう。
DX戦略が重要とされる理由
DX戦略が重要とされる理由は、DXが単なるデジタル化やITツール導入などではなく、企業文化やビジネスモデルなどの包括的な変革ができるからです。
現在のような高度デジタル化社会では、市場環境が目まぐるしく変化していくため、外部環境の変化への対応力が求められています。
もしDX戦略がなければ、施策が場当たり的になり業務改革に結びつかない可能性が高まりかねません
DX戦略は、会社全体で共通のゴールと道筋を共有し、一丸となって推進するための指針です。そのなかで、部門ごとの役割や具体的な施策を具体的に示すことで、着実に変革を実行できます。長期的な視点で方向性を定め、継続的な取り組みを可能にするためにも、DX戦略は不可欠です。
企業がDX戦略を立案する3つのメリット
「DX戦略は本当に必要なの？」と考えている方もいるかもしれませんが、企業がDX戦略を立案することで、以下のようなメリットが得られます。
- 業務効率や生産性の向上につながる
- レガシーシステムから脱却できる
- 経営判断に必要なデータを集められる
ここでは、3つのメリットについて詳しく紹介します。
①業務効率や生産性の向上につながる
企業がDX戦略を立案する最大のメリットは、業務効率や生産性を大幅に高められることです。
DX戦略に基づいてITシステムやRPA、テレワーク環境などを計画的に導入することで、少ない人員でも安定的に業務を遂行できる体制が整います。
これにより、昨今の経営課題となっている慢性的な人手不足の状況であっても、業務品質を維持することが可能です。
また、業務効率化によって生まれた時間を新規事業や顧客対応などの高付加価値業務に充てることで、組織全体の生産性向上にもつながります。加えて、DX戦略は部門間の情報共有やプロセス一元化も促すため、全社規模での業務効率化と生産性向上を同時に実現可能です。
②レガシーシステムから脱却できる
企業がDX戦略を策定することにより、長期間使い続けられてきたレガシーシステムから計画的に脱却できるのも大きなメリットです。
複雑化やブラックボックス化した旧システムを放置していると、維持コストが膨らみ、IT部門が保守運用ばかりに追われ続けてしまいます。また、旧アーキテクチャは最新のデジタル技術との親和性が低く、将来的な機能拡張や高度活用の妨げとなることもあるでしょう。
DX戦略に沿ってモダナイゼーションを推進することで、保守負担の削減と将来的な技術活用を両立させ、安定的かつ持続的なIT基盤を確立することができます。結果として、企業としての競争力も高められるでしょう。
③経営判断に必要なデータを集められる
DX戦略に基づいてデジタル基盤を整備することで、社内の多様なデータが自動的に一元化され、必要な情報を即座に取得することが可能です。また、人間では困難な高度かつ多角的な分析も可能となるため、経営層は根拠のある経営判断をタイムリーに下すことができます。
市場の変化が激しい現代においては、自社の置かれる現状を正確に把握し、スピーディかつ的確な意思決定を行うことが不可欠です。しかし、人力によるデータ収集や分析は多大な時間と労力がかかってしまいます。
DX戦略を策定することで、経営のスピードと精度が飛躍的に向上させられるでしょう。
DX戦略策定に取り組んでいる企業の事例2選
DX戦略は、業種を問わず数多くの企業で策定されており、DX推進にとどまらずさまざまな効果を生み出しています。ここでは、DX戦略策定に取り組んでいる以下の企業の事例を紹介するため、これからDX戦略を策定しようと検討している方は、策定内容や取り組みなどを参考にしてください。
- 金融業界
- 証券業界
①金融業界
ある金融系企業では、部門ごとで情報管理の方法が異なり、
データの所在や保管形式が統一されていなかったため全社的なデータ活用が難しい状況でした。
そこで、まず全社システムを洗い出し、理想的な情報管理の姿を明確化するとともに、システム要件を再定義しました。そのうえで、詳細なプロジェクト計画を策定し、各部門が目的に合わせて情報収集や活用を行える体制を構築したことにより、情報活用の効率化と今後のデータ戦略の方向性が明確になりました。
単なるシステム刷新ではなく、全社的な視点でデータ整理と利活用を進めるDXプロジェクトへと発展した事例です。
②証券業界
大手証券会社では、決済領域のデジタル化や暗号資産、NFTなどに対応するため、外部からプロフェッショナル人材を参画させ、社員と一体で計画を実行できる体制を整備しました。
その結果、社内メンバーのスキルが向上するとともに、デジタル活用の強化によって30%以上の工数を削減することに成功しています。また、NFTや暗号資産を活用した新サービスの創出や、それを基盤としたビジネス開発にも発展しました。
DX推進を契機に、スキルトランスファーと持続可能なDX基盤の構築を同時に達成した事例です。
【4ステップ】DX戦略策定の方法
ここまでDX戦略の重要性やメリットを説明してきましたが「どのようにDX戦略を策定すればいいの？」と疑問に感じている方も多いでしょう。具体的には、以下のステップで策定していきます。
- 達成するビジョンを決める
- 取り組み領域と取り組み内容を決める
- 推進プロセスの策定
- 評価、改善を行う
ここでは、ステップごとに順を追って解説します。
①達成するビジョンを決める
DX戦略の策定においては、まず企業がDXによって達成したいビジョンを明確に定めます。
ビジョンとは、DXを通じて企業が将来どのような姿を目指すのかという理想像です。あらゆる施策や意思決定の拠り所となるため、自社の強みや市場動向、技術革新の潮流を踏まえて設定することが欠かせません。また、ビジョンは企業理念やミッションとの一貫性を保ちつつ「新たな価値創出」「顧客体験の革新」など具体的な方向性を盛り込みましょう。
なお、策定したビジョンは全社員と共有することで、組織が同じ方向を目指す環境を整備することができます。
明確なビジョンは戦略全体に一貫性を与え、DX推進の成果を最大化させる基盤になるのです。
②取り組み領域と取り組み内容を決める
達成するビジョンを定めたら、次はDXの対象領域と具体的な施策を明らかにします。
まずは、現状と理想の間にあるギャップを把握し、改善が必要な領域を特定しましょう。そのうえで、以下のステップを参考に取り組み内容を決定します。
| ステップ | 内容 |
| デジタイゼーション | アナログな情報をデジタルデータに変換 |
| デジタライゼーション | デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを変革 |
| デジタルトランスフォーメーション | 仮想世界と物理世界を融合させ、IoTなどを通じて業界全体や社会構造そのものを変革 |
限られたリソースを最大限に活かすためには、費用対効果や緊急度を考慮しながら優先順位を明確化し、戦略を立案することが重要です。
③推進プロセスの策定
取り組み領域と施策が決まったら、それらを実現するための具体的な推進プロセスを策定します。
推進プロセスの策定とは、プロジェクトの優先度や期限、作業の進行計画や確保すべき資源、責任者などを明確にし、全体のマイルストーンを設定する作業です。策定にあたっては、戦略期間のゴールから逆算してスケジュールを組み、短期の成果が見込める施策と中長期的に進めていく取り組みをバランス良く設定しましょう。
また、DX推進に必要なツール導入や社員研修など、詳細に実行フローを計画しておくことで、スタート後の進捗管理や評価を管理しやすくなります。
綿密な推進プロセスは、DX戦略を着実に前進させる土台となるでしょう。
④評価、改善を行う
推進プロセスに沿ってDXを実践したら、設定したKPIや評価基準に基づいて成果を測定し、必要に応じて戦略や施策を見直します。
評価においては、顧客価値の向上度や業務改善効果などを含め、定量、定性の両面から判断することが重要です。
評価の結果に応じて、リソース配分や優先順位の見直しのほか、ビジョンや目標自体を修正する柔軟性も求められます。
評価、改善のステップは、DX戦略におけるPDCAサイクルを形成するものであり、継続的かつ効果的な進化につながるものです。そのため、失敗を過度に恐れるのではなく、改善が実現できる体制を整備することで、変化の激しい市場環境にも適応できる競争力が維持できるでしょう。
DX戦略を策定する際の注意点
DXを推進するうえで戦略策定は欠かすことができません。戦略策定の際には、必ず以下の点に注意しましょう。
- ビジネスモデルの変革を見据える
- 持続的な取り組みとして根付かせる
- 失敗を恐れず改善につなげる
DX戦略は、自社のビジネスモデルを抜本的に変革し、企業価値を高めることを目指すことが重要です。そのため、単なる業務効率化や部分的などデジタル化にとどまらないよう意識しましょう。
また、DXは企業成長を支える長期戦略であるため、一過性で終わらせず継続的に社内へ浸透させることが必要です。
新たな挑戦には失敗がつきものですが、失敗を恐れず、その経験を改善に結び付ける前向きなマインドを育んでいくことが、DX戦略を成功へ導く鍵となります。
DX戦略策定に役立つフレームワーク3選
DX戦略にはさまざまな経営要素が関わってくるため、やみくもに策定しても精度の高い戦略はできません。以下のフレームワークを用いて体系的に策定することで、より高い効果が得られるでしょう。
- PEST分析
- SWOT分析
- アンゾフの成長マトリクス
ここでは、それぞれのフレームワークを解説しますので、DX戦略策定の参考としてください。
①PEST分析
PEST分析とは、自社を取り巻く外部環境を4つの視点から整理し、事業環境の変化や市場機会を明確化するフレームワークです。
社会構造の変化や技術革新の進歩などはデジタル化の方向性に直結するため、DX戦略を立案する初期段階で実施することで、どの分野に注力すべきかが判断しやすくなります。
| 要素 | 内容例 |
| Politics（政治） | 政府方針、法改正、国際関係 |
| Economy（経済） | 景気動向、金利、原材料価格 |
| Society（社会） | 人口動態、生活様式、価値観 |
| Technology（テクノロジー） | AI、クラウド、ブロックチェーン |
PEST分析を活用することで、外部環境に適合したDX戦略を構築し、持続的な競争優位を確立できます。
②SWOT分析
SWOT分析とは、自社の現状を内部、外部の両面から整理し、戦略の方向性を導くフレームワークです。内部環境における強みと弱み、外部環境における機会と脅威を明確化し、これらをクロス分析することで今後進めるべき戦略を検討していきます。
| プラス要因 | マイナス要因 | |
| 内部環境 | S（Strength／強み） | W（Weakness／弱み） |
| 外部環境 | O（Opportunity／機会） | T（Threat／脅威） |
SWOT分析を通じて、自社の立ち位置を客観的に把握することで、強みを伸ばし弱みを補うDX戦略の骨子を構築できます。
DX戦略においては、デジタル技術や人材などの強みや、業界動向や新技術などの外部要因が検討ポイントとなるでしょう。
③アンゾフの成長マトリクス
アンゾフの成長マトリクスとは、製品と市場を既存と新規の2軸で分析することで、事業の成長戦略の方向性を決定するためのフレームワークです。
| 既存市場 | 新市場 | |
| 既存製品 | 市場浸透戦略 | 新市場開拓戦略 |
| 新製品 | 新製品開発戦戦略 | 多角化戦略 |
4つの象限をそれぞれ整理し「既存市場へのさらなる浸透」「既存市場への新商品開発」「新商品での新規市場開拓」「新市場への多角化」から方向性を決定します。DX戦略でいえば、新しいデジタルサービスの開発や既存サービスの高度化、未開拓市場へのデジタル展開などが選択肢として考えられるでしょう。
なお、アンゾフの成長マトリクスの活用方法や事例をさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も合わせてご覧ください。
DX戦略を成功させるためのポイント3つ
DX戦略を成功させるためには、以下の3つのポイントを押さえて推進していくことが重要です。
- トライ＆エラーで進める
- 社内体制を整える
- DX人材を確保する
それぞれのポイントについて詳細を解説しますので、せっかくDX戦略を策定したにも関わらず失敗で終わることのないように、ぜひ参考にしてください。
①トライ＆エラーで進める
DX戦略を成功させるには、計画を一度立てたら終わりではなく、トライ＆エラーを繰り返す姿勢が必要です。
DXは新たな価値を創出するための取り組みであり、初期段階で最終形を正確に描くことはなかなかできません。当初立案した計画どおりに進めるだけでは成果が得られない可能性があるため、施策を実行したら成果を評価し、状況に応じて柔軟に軌道修正していく必要があります。
アジャイル的な発想で企画から実行、学習のサイクルを短期間で回し、小さな成功を積み重ねることが、次の成果への近道です。
こうした試行錯誤によりノウハウが蓄積され、取り組み領域の拡大とともに、DX戦略の精度と実行力が向上していくでしょう。
②社内体制を整える
DXを成功に導くためには、明確な方針と実行を支える社内体制が欠かせません。
まず、経営陣がDXによってどのように変革を実現するかという目的と将来像を明示し、経営戦略の一環としてトップダウンで推進する意思を示すことが第一です。
DX推進の姿勢を見せることで、社員の意識統一に繋がります。
そのうえで、全社的にDXを統括する部署を設け、計画策定や進捗管理を担わせましょう。
また、DXは全社的な取り組みとなるため、目標達成に向けては全社員の計画参画と、部門横断の協力体制が必要です。各部門を巻き込んでDXの意義や必要性を丁寧に共有し、全社員がDXを自分事として主体的に行動できる環境を整備しましょう。こうした体制が整えば、組織全体の推進力が高まり、戦略の実行力が飛躍的に向上します。
③DX人材を確保する
DX戦略を成功に導くためには、DX人材の確保は欠かせません。
戦略を牽引するリーダーや実務を担う専門人材など、DX戦略に必要な人材は多岐にわたります。経済産業省とIPAが分類するDX人材は、下表の7種類です。
| 種類 | 主な役割 |
| プロダクトマネージャー | DXやデジタルビジネスを主導 |
| ビジネスデザイナー | DXやデジタルビジネスの企画 |
| テックリード | システムの設計から実装までを統括 |
| データサイエンティスト | データ解析や分析 |
| 先端技術エンジニア | 機械学習など先進技術を担当 |
| UI／UXデザイナー | ユーザ向けシステムデザイン設計 |
| エンジニア／プログラマ | 実装やインフラ構築 |
採用競争が激化する現状では、社内育成だけでなく外部人材活用も検討したほうが良いでしょう。
なお、DX人材については以下記事でも詳しく解説しているため、合わせてチェックしてください。
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まとめ
この記事では、DX戦略の重要性やメリットに加えて、戦略策定の方法やDX戦略策定に取り組んでいる企業の事例などについて解説しました。DX戦略を策定することで、業務効率や生産性の向上とともに、経営判断に必要なデータ収集やレガシーシステムからの脱却が期待できます。
一方で、DX戦略を成功に導くためには、トライ&エラーの意識や社内体制の整備に加えて、DX人材の確保が必要です。もし即戦力人材を探しているのであれば、国内最大級のマッチングサービスであるフリーコンサルタント.jpに相談してみてはいかがでしょうか。
