「自社の売上を伸ばしたいけど、どのような戦略が良いか悩んでいる」という方におすすめなのが、オーガニックグロースによる経営戦略です。
オーガニックグロースとは、自社の経営資源のみを活用して成長を成し遂げることを指し、中長期的に経営基盤を安定させ、売上向上や会社の成長につなげられる特徴があります。一方でM&Aグロースによる経営戦略のように、短期間での成長を目指すのは難しいため、企業の成長フェーズに合わせた戦略をとることが重要です。
当記事では、以下についてご紹介します。
- オーガニックグロースとは何か
- オーガニックグロースのメリット、デメリット
- オーガニックグロースとM&Aグロースのどちらがおすすめか
オーガニックグロースのメリットやデメリットはもちろん、M&Aグロースとの違いを知ることで、より最適な経営戦略を選択できるため、参考にしてください。
■目次
オーガニックグロースとは?
オーガニックグロースとは、自社のリソース(ヒト、モノ、カネ)だけを活用して成長することです。創業間もないスタートアップやベンチャーのように、資金力に限りのある企業が行う成長戦略として知られています。
従来の日本企業の多くは、オーガニックグロースを採用してきました。自社のリソースを活かしながら、リスクを最小限に抑えつつ、中長期で企業を成長させることを目的としてきたからです。
しかし、近年ではオーガニックグロースだけで企業の成長を牽引するのが難しい現状があります。少子化による市場規模の縮小、デジタル化の遅れなど、諸外国と比較して日本を取り巻く環境は厳しさを増しているためです。
そんな状況を踏まえて、オーガニックグロースと比較されるのがM&Aグロースです。資金力に余裕のある企業が採用する手法で、企業の合併や買収を繰り返しながら事業を拡大させ業績を伸ばしていきます。
両者の違いについては、次の章で解説します。
オーガニックグロースとM&Aグロースの違い
オーガニックグロースとM&Aグロースの成長戦略は、真逆のアプローチを採用しています。最も大きな違いは、経営資源を内部に求めるか、外部に求めるかです。オーガニックグロースの場合は、内部のリソースを活用する成長戦略なのに対し、M&Aグロースは外部の企業や法人を積極的に買収、合併し、短期間での成長を達成する戦略と言えます。
以前は、M&Aと言えば「敵対的買収」などと言われ、ネガティブな印象を持たれる方が多かったです。しかし、現在ではM&Aに対する抵抗感は「ある」「ない」ともに拮抗しており、イメージは変わりつつあります。世間や市場からの見え方がネックとなりM&Aに踏み出せていないのであれば、再考してみても良いでしょう。
ただし、どちらの戦略を選択するかは、企業の成長フェーズや社会情勢などによって変わってきます。たとえば成長初期の段階では資金があまりないことが予想されるため、自社のリソースのみで成長を目指すオーガニックグロースが向いています。一方事業拡大に伴いすぐにリソースを確保したい場合には、M&Aグロースが向いているでしょう。
なお、場合によってはオーガニックグロースで社内のリソースを最大限に活用しつつ、M&Aを積極的に行い更なる成長を目指すなど、オーガニックグロースとM&Aグロースを併用する戦略も選択肢のひとつです。
オーガニックグロースを採用した場合の成長率の計算方法
オーガニックグロースを採用した場合、どのくらい効率的に内部のリソースを活用できたのか、その指標となるのが売上成長率です。売上成長率の計算方法は、以下の通りとなっています。
[(当期売上高ー前期売上高)÷ 前期売上高 ]× 100
※単年度の成長率の場合
上記の売上成長率から、M&Aによる買収、売却の影響や為替変動の変動を取り除いたものが、オーガニックグロースを採用した場合の実質売上成長率です。これまでの成長率と比較して、数値が伸びているのであればオーガニックグロースに成功していると言えるでしょう。逆に、数値が下がっているのであれば、どこに問題があったのか、一度自社の取り組み方を見直してみることをおすすめします。
ただし、オーガニックグロースは中長期的な成長を目的とした戦略のため、短期間での成長はあまり見込めません。直近の数値と比較して一喜一憂しないよう、留意しておきましょう。
オーガニックグロースの5つのメリット
オーガニックグロースには、5つのメリットがあります。
メリットを理解すると、より効率的な経営戦略を立案できるでしょう。次項から詳しく解説していくので、ぜひチェックしてください。
1.コスト面でのリスクを抑えられる
オーガニックグロースは、自社のリソース(ヒト、モノ、カネ)だけを活用して収益を上げる手法のため、M&Aのように多額の資金は必要ありません。コスト面でのリスクを最大限抑えられるため、金銭面に不安のあるベンチャー企業やあまり予算の割けないプロジェクトの場合でも活用しやすいでしょう。
しかし、コスト面のリスクを抑えられる一方で、得られるリターンはM&Aと比較して小さくなります。限られたリソースや予算をいかに有効活用するかで、企業の成長度合いは変わってくるでしょう。
2.会社の一貫性を保ちやすい
M&Aは組織文化の違う者同士が経営統合を行うことから、一貫性が保ちにくく期待された効果が得られない可能性もあります。一方でオーガニックグロースは自社のリソースだけで完結するため、企業の一貫性が保ちやすい特徴があるでしょう。
代々受け継がれてきた経営理念や、独自の企業風土などを大事にする企業にとっては、最適な経営戦略と言えます。
3.事業内容の方向転換がしやすい
オーガニックグロースを採用すると、社内のみで意思決定が完結するため、スムーズに事業内容の方針転換が行えます。たとえば、経営に行き詰まりを感じている場合や、事業内容が市場のニーズにマッチしていない場合など、方向転換しないことがリスクになることも考えられます。
反対に、外部の投資家から経営支援を受けている場合、投資家の考えや方針が優先されるため、事業内容の方針転換は難しくなります。周りを説得できるような根拠を持っておくなど、自社の状況を見ながら事業転換に関する対策をあらかじめ練っておくと良いでしょう。
万が一意思決定が遅れてしまうと、ビジネスチャンスを逃したり、無駄な予算を使用したりしてしまうなどの恐れがあるため、事業の方向転換のしやすさは非常に重要です。
4.中長期的に仮説検証を繰り返しながら成長できる
投資家から支援を受けている場合、求められるのは短期間での結果ですが、ビジネスモデルによっては短期間で成果を出すのが難しいことも考えられます。しかし、オーガニックグロースは外部の人間が関与しないため、短期間の結果にはこだわらず中長期的に仮説検証を繰り返しながら成長することができます。
なお、中長期的な成長による効果は、以下の通りです。
- 経営戦略への理解促進
- 次世代を担う人材育成
- 従業員との意思の共有
どれも短期間では達成が難しく、具体的なアクションプランを策定する必要があることから、オーガニックグロースが最適と言えます。
5.投資家を気にせずにビジネスができる
投資家から支援を受ける場合、金銭的なメリットはあるものの経営の自由度が下がり、投資に見合った成果を求められることから、常に投資家の動向に気を配る必要があるでしょう。
その点オーガニックグロースでは、投資家を気にせずにビジネスができるメリットがあります。中長期的な目線での事業の育成や、リスクを最小限に抑えたい企業にとって有効な手法です。自社が本当に目指したい方向へ向かって経営を進めていくこともできるため、どんな企業でありたいかを一度じっくりと考えてみると良いでしょう。
オーガニックグロースの4つのデメリット
これまでにご紹介したオーガニックグロースのメリットは、投資家が介在しないことを前提にお話しました。その半面、外部からの支援がないことで4つのデメリットが生じます。
以上を踏まえて、オーガニックグロースを採用するか検討しましょう。
1.大きな改革には向いていない
近年では、IT技術の進歩やAIの登場により、常に市場が変化しています。その変化に適応するために、社内制度の刷新やDX、働き方の見直しを行うには、リソースを最大限に活かすしかありません。しかし、外部のリソースを活用するM&Aグロースとは異なり、オーガニックグロースでは自社のリソース(ヒト、モノ、カネ)しか利用できないためリソース不足に陥りやすく、大きな改革には向いていないでしょう。
対照的にM&Aであれば企業買収や合併により、自社のリソース以外も活用できるため、大きな改革を成し遂げられる可能性は高いと言えます。自社がどの程度の改革を求めているのか、一度客観的に考えてみると良いでしょう。
2.成長に時間を要する
オーガニックグロースを経営戦略に採用すると、外部リソースを活用するのではなく自社のリソース(ヒト、モノ、カネ)しか活用しないため、次のような懸念があります。
- 短期間で市場に自社の商品を認知してもらうのが難しい
- 大規模な設備投資ができない
- 高いスキルを持った人材を確保できない
以上のように、企業の成長に欠かせない分野への投資ができないため、成長に時間を要するのです。
反対に、M&Aグロースであれば短期間での成長が期待できます。多額の資金を投じ企業をM&Aすることで、他社のリソースを直接取り入れ、認知度の向上や設備投資、人材確保を同時進行で行えるためです。
自社は本当にオーガニックグロースが適しているのかを判断するためにも、成長戦略や成長までにかけられる時間を確認しておくことをおすすめします。
3.資金や人材が不足しやすい
オーガニックグロースは中長期的な成長を目指しているビジネスモデルのため、短期的に利益を得ることは難しく、資金が不足しやすい傾向にあります。特に創業間もない企業は、資金繰りが苦しくなると倒産や廃業のリスクが高まるため注意が必要です。
また、資金が不足すると優秀な人材を獲得することが難しくなり、人材不足に陥ることも考えられます。オーガニックグロースでは、短期、中長期どちらのフェーズにも対応した経営戦略を策定することが重要と言えるでしょう。
4.信用獲得までに時間がかかる
オーガニックグロースでは、マーケティングに投資できる資金に限度があるため、顧客からの信用を獲得するまでに時間がかかります。特にスタートアップやベンチャー企業など、創業したての企業が直面する課題と言えるでしょう。
資金に頼らずとも信頼を獲得するには、次のような対策を講じるのがおすすめです。
- 高品質な商品、サービスを提供する
- SNSを利用したマーケティングの実施
- 業界、トレンド研究
起業当初においては、地道な活動が信用力を高める近道となります。すぐに効果が表れなくても、根気強く企業努力を重ねていきましょう。
オーガニックグロースとM&Aグロースのどちらがおすすめ?
オーガニックグロースとM&Aグロースのどちらが良いかは、一概には言えません。それぞれ対照的なメリットとデメリットがあるため、自社の経営状況や成長フェーズによって、戦略を選択するのが最適でしょう。
オーガニックグロースは、コストを安く抑えたい、中長期的に成長したい企業にとっては有効な戦略と言えます。反対にM&Aグロースは、成長速度が早く新規事業立ち上げに向いていることから、短期間で成長したい企業には効果的です。しかし、オーガニックグロースと比較して、多額の資金が必要になるためリスクが伴います。
どちらの戦略を取り入れるかは自社の状況を的確に把握する必要があり、状況次第ではどちらか一方だけでなく両方取り入れた方が有効な場合もあるでしょう。もし自社で判断するのが難しい場合は、外部のプロ人材に相談するのも1つの手です。戦略を間違えて失敗するリスクを最小限まで抑えられるほか、知見が豊富なためより詳細なメリットやデメリットを教えてもらえるかもしれません。
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新規事業やスタートアップ企業の場合はオーガニックグロースがおすすめ
スタートアップ企業とは、新規事業を立ち上げたばかりの中小企業で、革新的な技術をもとに短期間での成長を目指す企業のことです。
創業したての時期は、十分な実績や利益が出ていないために、資金繰りが厳しい傾向があります。そのため、必然的にコストのかからないオーガニックグロースを採用するスタートアップ企業が多いです。
スタートアップ企業がオーガニックグロースを採用した場合、効率よく収益化できるかどうかは、どのような成長戦略を選択するかによって大きく変わります。以下は、オーガニックグロースによる成長戦略の一例です。
- コア事業に資本を集中させる
限られた資本をコア事業に集中投下することで、効率よく収益を目指せます。 - 人材を育成する
中長期的な視点で人材育成計画を策定します。人材育成のポイントは、理想と現状を的確に把握し、達成可能な目標を設定することで、従業員のモチベーションを維持することです。 - PDCAによる継続的改善
PDCAを通じて継続的な改善を実施し、持続可能な成長を目指せます。目標を定量化し、実現可能な計画を立てることが重要です。 - ガバナンスを強化する
社内ルールの明確化、外部監査による透明性の確保、責任の明確化など、管理体制を整備することでガバナンスを強化できます。
M&Aグロースのように資金力による多角化ができない場合や、中長期で成長を目指す企業はオーガニックグロースを検討しましょう。
オーガニックグロースを戦略に取り入れた企業の事例5選
ここからは、実際にオーガニックグロースを、戦略に取り入れている企業の事例を5つご紹介します。
各業界を牽引している有名企業ばかりのため、ぜひ参考にしてください。
1.ネスレ日本株式会社
ネスレ日本株式会社は、スイスに本社がある世界的に有名な食料、飲料企業の日本法人です。ネスレでは5つの管理指標を採用しており、そのひとつにオーガニックグロースが含まれています。
オーガニックグロースでは、成長率を計算する際に、為替変動の差益や差損を加味しません。仮に為替を評価指標に入れてしまうと、販売数量に変動がなくても、円安、円高により売上高が影響を受けます。世界各国にある現地法人をグローバルな視点で適正に評価するために、オーガニックグロースを戦略に取り入れているのです。
また、ネスレはグループ全体でオーガニックグロースを前年度第四四半期から1.4%も上げており、特定の市場のシェアを高めることでNo.1の座を維持しています。実質内部成長率は‐2.0%であるものの、2024年の見通しはオーガニックグロース約4%、営業利益率は上昇を予測しているなど、運営状況は概ね好調です。
事業運営の効率化と企業の成長への投資に注力した結果、全体的な利益率の改善にも成功しており、リソースの割り振りに成功している事例だと言えるでしょう。
2.USEN-NEXT HOLDINGS
USEN-NEXT HOLDINGSは、コンテンツ配信や有線放送など、音楽配信事業を主軸に手掛けている企業です。2000年代初頭のUSENは、M&Aや業務提携により多角化を進めていました。しかし、現代表取締役の宇野康秀氏が社長に就任してからはオーガニックグロースを経営戦略に取り入れており、祖業である音楽配信事業に注力しています。
2022年からは長期経営計画「Road to 2025」を立ち上げ、純利益を150%成長させる目標を掲げています。収益源である音楽配信事業を主軸にして、成長が期待できるコンテンツ配信やICT事業にリソースを投下する計画です。計画の目的は、サステナビリティ活動を強化し、持続的な成長を達成することであると公表されています。
2025年8月が最終年度となるためまだ結果は発表されていませんが、オーガニックグロースの根幹の考え方でもある「中長期での成長」を、具体的に実践している企業のひとつと言えます。
3.キャムコムグループ
キャムコムグループは、人材紹介、人材派遣、事務作業のアウトソーシングサービスを提供している企業です。オーガニックグロースの考え方を取り入れ、同業他社を買収、合併せずに、2019年には売上収益1,000億円にも達しました。
その要因は、従来型の製造分野への人材派遣から、複合提案型の人材紹介会社へ転換したことにあります。たとえば、以下の事業領域にサービスを展開しています。
- 業務変革コンサルティング領域
- 採用コンサルティング領域
- 事業開発領域
どの事業領域においても自社のリソースを最大限に活用し、BPOやHRテックなどのサービスを展開しています。その結果、2001年から買収に頼ることなく連続黒字経営が続いている点がポイントです。2026年度には売上収益2,000億円を目指しています。
4.株式会社プロテリアル
株式会社プロテリアルは、モビリティやエレクトロニクス、産業インフラ分野などに高機能材料を提供している鉄鋼メーカーです。以前は日立金属と呼ばれていましたが、2023年に社名を現在のプロテリアルに変更しました。
成長戦略にはオーガニックグロースを採用し、中長期での持続的成長を目標としています。オーガニックグロース拡大に向けて、以下の改革に取り組んでいる点がポイントです。
- モノづくり力の構築
IOT化や革新的な生産ライン導入により、生産性の向上を目指しています。 - R&D(研究開発)の強化
イノベーションを起こすための革新的な研究体制の構築を行います。 - ソリューションサービスへの転換
鉄道車両のトータルソリューションサービスを提供します。
プロテリアルは「世界トップクラスの高機能材料会社の実現」をテーマに掲げ、グローバル展開による収益力向上を目指し変革に取り組んでいます。その結果、2022年度には売上収益1兆円を突破しており、オーガニックグロースが成功している事例と言えるでしょう。
5.BASE株式会社
BASE株式会社は、誰でも簡単にショップを開設できるネットショッピングサービス「BASE」を運営している会社です。中長期的な成長を目指してオーガニックグロースを取り入れており、2023年のGMV(流通取引総額)は2,771億円と、前年度のGMVの2,000億円弱よりも12.8%上昇させることに成功しています。
具体的に行った施策は、下記の4つです。
- 組織内でのチーム作成によるカスタマーサクセスの改善
- プロダクト改善
- 新規決済サービスや資金調達サービスの開始
- 獲得系Webマーケティングの効率化
ユーザーを第一に考えた施策によりBASEのショップ開設数は120万を超え、前年度よりも229%増加しています。利用者のことを第一に考えた仕組みであるからこそ口コミによってBASEの利用者は広がっており、サービス認知度も向上している点がポイントです。自社の体制を見直し、顧客ニーズに沿ったプロジェクトをピンポイントで開始することで、大きく成長した事例と言えます。
まとめ
今回の記事では、オーガニックグロースについてご紹介しました。オーガニックグロースは、自社のリソースを最大限に活用しながら、中長期で持続的に成長できることを目的とした戦略です。
オーガニックグロースを採用すると、以下のメリットが得られます。
スタートアップ企業や創業間もない中小企業など、資金力に乏しい企業にとって有効な戦略と言えるでしょう。反対に、資金力を活かした大規模な変革を行うには、M&Aグロースによる戦略が望ましいです。
どちらの戦略を採用するかは、自社の成長フェーズや現況を慎重に把握する必要があります。場合によっては、両方の戦略を採用するケースも考えられるでしょう。
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