男女共同参画社会が叫ばれて久しく、女性管理職の比率は年々増加しています。
それでも日本国内における女性管理職の比率は12.7%に留まっており、世界各国と比較しても低い水準のままであることが課題となっています。女性ならではの視点を活かしたり、女性が働きやすい環境を作り上げたりするためには、今後も積極的な女性管理職の登用が望まれるでしょう。
本記事では、日本において女性管理職の比率が低いままである理由について解説します。女性活躍に向け企業が取組むべき対策などにも触れるので、自社のことをイメージしながら参考にしてみてください。
【関連記事】
>生成AIが人事にもたらす影響とは?活用法・事例・人事担当者が今後求められるスキルを解説
>人事評価にAIは活用できる?メリット・デメリット・事例を徹底解説!AI搭載型サービス3選も紹介
1.企業における女性管理職の比率は12.7%!?
引用:厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査 企業調査結果概要」
厚生労働省が実施している「令和4年度雇用均等基本調査」によると、課長相当職以上の管理職において、女性が占める割合は12.7%であることがわかりました。令和3年度の調査からは0.4ポイント、令和2年度の調査からは0.3ポイント、平成21年度の調査からは2.5ポイント上昇していることがわかります。
同様に、役員として就任している女性比率を見ると21.1%いることがわかりますが、部長相当職に限定すると8.0%にまで下がります。役員として就任する女性とそれ以外の役職に就く女性との比率には、大きな乖離があることがわかりました。
産業別の女性管理職の割合
一方で、下記の産業別女性管理職割合では、業種ごとに女性管理職の比率に大きな差があることも判明しています。
引用:厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査 企業調査結果概要」
突出して女性管理職の比率が高いのは「医療、福祉」業界です。もともと女性比率の高い業種であることや、女性のキャリアパスが既にある程度確立していることが大きな要因と言えるでしょう。
反対に「建設」「製造」「電気、ガス、熱供給、水道業」「複合サービス事業」などの男性が占める割合の高い業種では、女性管理職の比率が低いことがわかりました。
これらのことから分かるのは「女性だから管理職にしない」という差別的要素を含んでいる訳ではなく、適した人材を性別問わず管理職に任命しているということです。女性が活躍する職場では女性管理職が多く、男性が活躍する職場では男性管理職が多いのは当然と言えるでしょう。
しかし、女性はライフスタイルの変化に応じてキャリアアップを諦めざるをえない場合も多く、男性に比べて管理職になれるチャンスが少ないことも現実です。
女性管理職を有する企業割合は52.1%
引用:厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査 企業調査結果概要」
企業における女性管理職(課長相当職以上)の比率が12.7%と低い一方、女性管理職(課長相当職以上)を有する企業の割合は52.1%あることがわかります。
ここからは、女性を管理職として登用する企業の数自体は増えているものの、役職者における男女比だけで見るとまだまだ女性の数が少ないことが見てとれます。つまり「課長相当職以上の役職に就いている人は社内に50人いるが、そのうち女性は1人だけ」というケースが珍しくないということであり、全体における女性比率という点ではまだまだ課題が多いと言えるでしょう。
2.諸外国との女性管理職の比率を比較
引用:NHK『企業の女性管理職の割合12.7% 厚労省「国際的には低い水準」』
NHKでは、労働政策研究・研修機構(JILPT)による「国際労働比較」を参考に、日本の女性管理職の割合は国際的に見て低い水準であると報じています。
フィリピン53%、スウェーデン43%、アメリカ41.4%、オーストラリア40%、シンガポール38.1%と比較すると、いかに日本の女性管理職の比率が低いかわかります。日本政府も「女性版骨太の方針」などを掲げて対策していますが、今後も引き続き対策するべき項目と言えそうです。
3.日本企業における女性管理職の比率が低い原因とは
ここでは、日本企業においてなぜ女性管理職の比率が低いのか、主な原因を解説します。
女性管理職の比率が低い理由
日本ならではの考え方や労働環境をもとにして解説していくので、ぜひチェックしてみてください。
根強い男女の役割意識
近年は少しずつ解消されつつあるとはいえ、男女の性別差に基づいた根強い役割意識があることも事実です。「男性は外で働き、女性は家庭を守る」「女性は家庭を守る必要があるから、働くとしてもパート、アルバイトで十分」という考え方を持つ人はまだまだ多いでしょう。
このような男女の役割意識は、工業化時代より前に生み出されたものです。重い荷物を運ぶ過酷な労働や危険な作業が多い時代においては、体力のある男性が外で働くことが最適とされていました。配偶者控除制度や第3号被保険者制度も「会社員の夫と専業主婦の妻」という家族構成を前提として作られており、税制や社会保険制度と雇用慣行が連動していたのも事実です。
しかし近年は目覚ましい技術発達に伴って機械化が進んでおり「ポスト工業化社会(脱工業化社会)」としてサービス産業が増えたことに伴って、女性でもできる仕事が多くなりました。
ポスト工業化社会とは、工業化を経て産業社会がさらなる発展をとげ、情報や知識、サービスなどを扱う第三次産業の締める割合が高まった社会のことを指します。工業を中心とする社会から発展することで、むしろ女性の力が必要とされるシーンも増えており、学歴と経験を積んで社会進出する女性が増加しています。
しかし、急速に変わりつつある雇用慣行と、これまで一般常識とされてきた性差別的な考え方および社会の制度が連動してないことにより、現在のギャップが生まれています。
このようなギャップから脱するためには、一人一人が柔軟な考えを持つ必要があることはもちろん、日本政府やメディアからの発信、企業としても対策を行う必要があります。
特に企業では、男女問わず最大限のパフォーマンスを引き出せる環境をつくることが重要です。福利厚生の充実や女性のキャリアアップ制度など、女性が活躍できる環境をつくることで、昔ながらの男女の役割意識もおのずと薄まり、女性管理職が増えることにもつながるでしょう。
管理職における負担が大きく家庭との両立ができない
参考: 日本経済団体連合会「2019年労働時間等実態調査集計結果」
管理職は残業、休日出勤が多く、労働条件面での負担が大きいのも事実です。上記は2019年までの統計ですが、明らかに一般社員より管理職の方が労働時間が長いことがわかります。
本来であれば時間外労働の上限は「1ヶ月最大45時間(または年間320時間)」と定められていますが、管理職には原則として労働時間の上限規制がありません。他にも、休憩、休日、深夜労働、残業代および休日出勤手当の支払いに関する労働基準法の一部が適用外となってしまうため、いわゆる「働かせ放題」になりやすいのが課題となっています。
厳密には企業側に管理職の労働時間管理も含めた責任があるとはいえ、管理職になると労働時間が長くなりやすいのは事実です。妊娠、出産、結婚、子育て、介護など大きなライフイベントの担い手が女性であることの多い日本では、管理職の労働時間が長すぎることが女性管理職の比率を押し下げる要因になっています。
そのため、企業では管理職における労働時間の上限規制を定めたり、業務内容を明確化することが重要です。それにより管理職の負担を減らすことができれば、ライフイベントが多い女性でも管理職として活躍しやすくなるでしょう。
女性が管理職になる前段階の教育制度がない
急激に女性が社会進出している一方で、企業側の教育、研修体制が整っていないのも課題のひとつとなっています。女性が管理職になることを前提とした教育制度がなく、ミスマッチの多い研修になっているケースも少なくありません。
たとえば「管理職は男性がなるもの」と考えている女性が多いことに対して、それらの認識を正すのも教育のひとつです。しかし、多くの企業で実施されている研修では、マネジメントスキルや指導力の向上といった「役割」に対するものが多い傾向にあります。
また、極端な場合「男性は営業部門や研究部門に配属させ、女性は事務部門に配属させる」など画一的な人材配置になっている企業もあります。スタートの段階から女性は社内で経験を積むことができず、男性と比べて評価されにくい社風の企業もあるでしょう。
女性管理職の比率を上げることは、女性というだけで評価されてこなかった優秀な人材を引き上げることになり、企業としても成績を挙げるチャンスです。今一度自社の女性に対する教育制度が的を得たものかどうか確認してみましょう。
身近にロールモデルがいない
女性管理職の数が少しずつ増えているとはいえ、身近にロールモデルがいるとは限りません。「産休育休を取ってから復職してどんどん出世した女性が社内にいない」「介護と仕事を両立している先輩社員がいない」となった場合「どうせ出世は無理」と諦める女性が増えてしまいます。
または女性本人が出世を希望したとしても、会社側が「前例がないから」と尻込みしてしまうなど、思わぬボトルネックが発生することも珍しくありません。
結果、ライフイベントが発生した瞬間にキャリアが途絶えてしまうなど、女性ならではのつまづきが多くなっていきます。管理職になって活躍しているイメージを与えられない限り、女性の管理職の比率を上げることは難しいでしょう。
社内にロールモデルとなる人材がいない場合は、社外から人材を呼び込むことも一つの手です。しかし、なかなかそのような人材を採用できる機会は少ないため、社外講師に講習を依頼するといった方法を取るのもおすすめです。
4.女性管理職を増やすために解決すべき課題
引用:厚生労働省「平成27年度ポジティブ・アクション 見える化事業 女性の活躍推進に向けた取組施策集」
女性管理職を増やすためには、主に下記の課題を解決する必要があります。
【女性管理職を増やすために解決すべき課題】
下記でひとつずつ解説するので、自社に当てはまるポイントがないか確認してみましょう。
女性社員の管理職への昇進意欲の向上
女性社員の管理職への昇進意欲は、男性に比べて少ない傾向にあります。そのため「昇進させようにも意欲がないからさせられない」と考えている企業側も少なくないでしょう。
モチベーションが低いまま無理に昇進させても、部下のマネジメントやプロジェクト管理に支障をきたす他、よりモチベーションの高い男性社員に対しても不平等だと考える企業は多いです。
一方「女性社員の管理職への昇進意欲が低い要因は企業側にある」という考え方もあります。
女性向けの福利厚生が充実していて、妊娠、出産、子育てや介護と両立しやすい会社であれば、管理職になって手取り額を上げたい、求める待遇を勝ち取りたいと考える女性が増えるでしょう。誰でも管理職になることを前提に若手の教育、研修をしたり、ワークライフバランスを取りやすい働き方を認めたりすれば、男性でも女性でも昇進意欲が向上します。
つまり、企業側による「女性管理職の歓迎ムード」を出すことが、女性の昇進意欲を上げる第一歩となるのです。
両立支援制度利用者の代替要員確保やサポート体制作り
女性がワークライフバランスを保ちながら働くのを応援したいときは、代替要員の確保も欠かせません。たとえば女性が産休、育休や介護休暇を取得する場合、他の社員の負担が大きくなります。しかし、常に余裕のある人員計画ができていれば、人手不足に悩まされることもなく、産休、育休などを歓迎できる企業になるでしょう。
また、コミュニケーションツールやクラウドをフル活用し、産休、育休中や在宅勤務中でも社内情報にアクセスしやすいサポート体制を構築することで、復職時のギャップや社内情報格差も是正できます。
反対に、代替要員の確保やサポート体制が不十分なまま両立支援制度ばかりが先行してしまった場合「男性や独身者がフォローに回ることが多くて不平等だ」「産休、育休を取るなんて会社にとって迷惑だ」など要らぬ確執を生んでしまうので注意しましょう。女性ばかりが優遇されるように感じてしまう制度にするのも問題です。
女性活躍推進の体制整備や担当者の時間確保
社内に女性活躍推進委員会がなく、誰がどこまで担当すればよいのか明確になっていないことにより、女性管理職登用の遅れにつながっているケースも少なくありません。思い切って女性活躍推進委員会を設置したり、人事部門のなかに専門のプロジェクトチームを置いたり、具体的な行動を意識してみましょう
また、女性活躍推進委員会の設置は、自社が女性活躍について積極的であるという姿勢を社内外に示すことができるのもメリットです。女性ならではのキャリアプランについて理解する、理想的な福利厚生を考える、年齢や階層に合ったマネジメント方法を考える、などさまざまな行動を示せれば女性側の安心感も高くなるでしょう。女性側の安心感につながれば、優秀な人材の確保にも役立つため、企業の今後を考えるなら女性活躍推進は優先的に進めていくべき内容と言えます。
部署による女性の能力発揮機会の差
部署ごとに女性の能力発揮機会に差がある場合、なるべく格差をなくしていくことが大切です。仕事内容によっては、どうしても「男性に向いている仕事」と「女性に向いている仕事」が分かれてしまうケースもあるでしょう。力仕事の多い職種ではどうしても現場に女性が出る率が少なくなり、女性管理職が生まれにくい背景が生じてしまいます。
とはいえ、自社の仕事のうち100%が男性向きである、という企業はほとんどありません。女性でも無理なく働けるよう体制を整えたり、教育、研修の機会を平等にしたり、性別に関係なく能力を発揮できるよう対策することは可能です。または事務部門出身の女性管理職を増やすなど、別の角度から女性の能力発揮機会を支援する方法もあるでしょう。性別だけで昇進チャンスに差が出てしまわないよう配慮しつつ、個人の特性を活かした人事配置にすることが大切です。
女性応募者の少なさ
積極的に女性管理職を登用したいと考えている企業でも「次世代リーダー向け求人に対する女性の応募が少ない」「社内で立候補するのも男性ばかりで女性からの挙手がない」というケースが多いです。まずは女性が考える理想的なキャリアプランを知り、自社の仕事と何がマッチしていないか、可視化していきましょう。
女性の考えるキャリアプランとマッチした求人、制度であれば、当然女性の応募も増えていきます。自社の理想を押し付けるだけでなく、ニーズにあった求人(または制度)としていくことで、多様な人材が活躍できる会社として成長します。
5.まとめ
日本の女性管理職の比率は12.7%と諸外国に比べてまだまだ低く、今後更なる対策が求められます。市場が多様化しているからこそ、女性含む多様な人材を活用することで企業も成長することでしょう。
現在、女性管理職の登用を検討している企業は、自社でボトルネックとなっているポイントがないか、社内からどんなニーズがあるかを可視化しながら、自社なりの対策を行うことをおすすめします。「女性管理職を増やす」ことを目的にして無理な女性管理職登用を増やすのではなく「多様な人材がマネジメントスキルを活かせる環境を作ること」を意識してみてください。
なお、女性管理職の登用を図るにあたって、どのような進め方をするべきか、どのような研修制度を制定するべきかなどお悩みがある方は、みらいワークスにお問い合わせください。みらいワークスでは、国内最大級(19,000名以上)のプロフェッショナル人材データベースを運営しているため、貴社の課題に適した人材のご紹介が可能です。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)