
「ROIC経営を導入したいが、何から始めればよいかわからない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
ROIC経営とは、投下した資本に対してどれだけ効率よく利益を生み出せているかを示す指標「ROIC(投下資本利益率)」を軸に、資本効率と収益性の最大化を目指す経営手法です。近年、東証によるPBR改善要請や投資家の評価軸の変化を背景に、オムロン・日立製作所など国内大手企業が次々と導入を進めています。
ROIC経営の全体像を把握したい方は、ぜひ最後までご一読ください。
ROIC経営とは
ROIC経営とは、ROIC(投下資本利益率)を経営指標にして、資本効率と収益性の最大化を目指す経営手法です。事業に投じた資本に対して、どれだけの利益を生み出せているかを基準に、投資配分や事業評価、戦略的な意思決定を進めます。

利益額の大きさではなく、資本の使い方の効率を軸に経営判断をする点が、従来の経営手法との違いです。
ROICとはReturn On Invested Capitalの略称で、日本語では「ロイック」と読みます。株主からの出資と金融機関からの借入を合わせた投下資本に対して、本業で得た税引後営業利益がどれくらいの割合かを示す財務指標です。

ROICの値が高いほど、投下した資本を効率よく活用して利益を創出できていると評価されます。
注目されている背景
ROIC経営が注目されている背景には、投資家・行政・市場の意識や制度の変化があります。
| 項目 | 背景 |
| 伊藤レポートの発表(2014年) | 経済産業省が「企業はROE8%以上を目指すべき」と提言。収益性の向上が経営課題として広く認識されるようになり、ROEへの注目を契機に、事業別の資本効率を管理できるROICへの関心も高まった。 |
| 東証によるPBR改善要請(2023年) | 東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に対して改善を要請。資本コストを意識した経営姿勢が求められている。 |
| 投資家の評価軸の変化 | 投資家が利益額ではなく「資本に対する利益率」を重視するようになり、企業側もROICを経営指標に取り入れる動きが広がっている。 |
こうした流れを受け、日立製作所やオムロンなど国内大手企業が、ROICを主要KPIに据えた経営を実践しています。
引用:持続的な企業価値向上に関する懇談会
引用:PBR1倍割れ企業1800社、なぜ東証が改善要請?
ROICの計算方法
ROICは以下の計算式で算出します。
ROIC(%)=NOPAT(税引後営業利益)÷投下資本×100
| 構成要素 | 内容 | 計算式 |
| NOPAT(税引後営業利益) | 本業から得た利益のうち、税金を差し引いた純粋な収益 | 営業利益×(1−実効税率) |
| 投下資本 | 事業に充てた資金の総額 | 有利子負債(銀行借入)+株主資本(出資金) |
例えば、投下資本1,000万円に対してNOPATが100万円であれば、ROICは10%です。同じ1,000万円の投下資本でも、NOPATが50万円に下がればROICは5%になります。
ROIC経営では、利益額の多さだけで判断するのではなく、投下した資本に対してどれだけ効率よく利益を生み出せているかという視点が重要です。
ROIC計算の理想値
ROIC計算の理想値は、一般的に8%以上が目安とされています。
ROIC計算において、最低限クリアすべき基準はWACC(加重平均資本コスト:株主や債権者が求める最低限のリターンの平均)を上回ることです。ROICがWACCを超えていれば、投下した資本以上の価値を生み出せていると評価します。
ただし、業種や企業の成長段階によってROICの水準が異なるため注意しましょう。
| 業種・状況 | ROICの目安 |
| 製造業・インフラ・不動産 | 12〜15%以上を目標とする企業も多い |
| 倉庫・運輸関連(日本上場企業平均) | 2.4%前後 |
| 成長投資期の企業 | 一時的なROICが低下しても許容される場合がある |
業種ごとに資本集約度や事業構造が異なるため、ROICの水準を一律の基準で比較することは適切ではありません。

自社の属する業種の平均値やWACCとの差を踏まえながら、目標値を設定することが重要です。
ROI・ROA・ROEとの違い
4つの指標はいずれも収益性を測るものですが、分母に使う資本の範囲と分子に使う利益の種類がそれぞれ異なります。
| 指標 | 計算式 | 評価対象 |
| ROIC | 税引後営業利益÷投下資本 | 本業に投じた資本全体の効率 |
| ROE | 当期純利益÷自己資本 | 株主資本に対するリターン |
| ROA | 当期純利益÷総資産 | 全資産に対するリターン |
| ROI | (投資による収益-投資額)÷投資額 | 個別投資案件の採算性 |
各指標を目的に応じて使い分けることで、経営分析の視点が広がり、より精度の高い意思決定につながります。

ROIC経営を行うメリット3つ
ROIC経営を導入することで、企業の収益性評価や資金調達、投資判断の精度が高まります。ROEやROAだけでは見えにくい「本業の稼ぐ力」を数値で可視化できる点が、ROIC経営の強みです。以下からは、ROIC経営を行う代表的な3つのメリットを解説します。
①企業価値が向上する
ROIC経営を行うことで、資本効率の改善につながり、企業価値が向上します。ROICは、不採算事業の見直しや成長分野への資源集中を促し、投下した資本からどれだけ効率よく利益を生み出しているかを示す指標です。
例えば、複数事業を展開する企業がROICを事業別に算出すれば、ROICが低い事業の縮小・撤退を判断できるため、高収益事業への最適な投資配分が可能になります。

ROICを起点に事業ポートフォリオを整理することで、本業の収益力が高まり、投資家からの評価も向上するのです。
②融資の審査でアピールできる
ROIC経営を行うことで、融資審査で自社の将来性や信頼性をアピールできます。理由としては、ROIC自体が数値の操作が難しい指標であるためです。融資審査では、金融機関が自社の収益性と資本効率を客観的なデータで確認します。ROEは自社株買いで見かけ上の数値を引き上げられますが、ROICは投下資本(有利子負債+株主資本)を分母とするため、調整の影響を受けません。
ROICがWACCを上回る水準であれば、投下した資本以上の利益を生み出せている企業として信頼性が高まるのです。
③適正な収益性を判定できる
ROIC経営を行うことで、自社の適正な収益性を判定することができます。理由としては、ROICが本業の利益のみを評価対象とする指標であるためです。分子にNOPAT(税引後営業利益)を使うため、財務活動による利息収入や特別利益などの影響がなく、事業活動そのものの収益力を正確に測れます。
ROAは事業負債を含む総資産を分母とするため、財務的な操作の影響を受けやすいです。一方、ROICは投下資本(有利子負債+株主資本)のみを分母とするため、こうした操作の影響を受けません。

さらに、事業ごとにROICを算出できるため、A事業とB事業それぞれの収益効率を事業間で比較し、資源配分の優先順位を判断できます。
ROEやROAでは見えにくかった事業別の収益実態を把握できる点が、ROIC経営の特長です。
ROIC経営を行う際の注意点2つ
ROIC経営は資本効率の向上に有効な手法ですが、導入・運用にあたって押さえておくべき注意点があります。指標の性質を理解せずに活用すると、経営判断を誤る可能性があるため注意が必要です。以下では、ROIC経営を行う際の注意点を2つご紹介します。
①資本や指標を正確に理解する必要がある
ROICはROEやROAに比べて構成要素の定義や範囲の理解が求められる指標であり、各要素の意味を誤って捉えると計算結果が実態とずれてしまいます。そのため、資本や指標を正確に理解することが重要です。
例えば、投下資本は有利子負債と株主資本の合計ですが、買掛金などの事業負債は含みません。この区別を把握していないと、分母の数値が不正確になり、ROICの算出結果が実態とかけ離れてしまいます。
また、ROICはWACCと組み合わせて評価することが重要です。ROIC単体では投下資本に対する収益性しか判断できず、リターンが資本コストを上回っているかどうかまでは判断できません。そのため、WACCと比較することで、はじめて企業が価値を創出できているかどうかを正しく評価できます。

社内研修やワークショップを通じて、経営層から現場担当者まで指標の意味と計算構造への理解を共有することが、ROIC経営を機能させる前提条件です。
②ROICが常に効果を発揮するとは限らない
ROICが常に効果を発揮するとは限らない理由は、企業の成長段階や業種によって、ROICが実態を反映しないケースがあるからです。企業の成長フェーズとROICの有効性は、以下のとおり異なります。
| 成長フェーズ | ROICの有効性 |
| 創業期・成長期初期 | 先行投資が多くROICが低くなりがちで、評価指標として適さない |
| 成長期中期〜安定期 | 投下資本に対する利益が安定し、ROICが有効に機能する |
| 衰退期 | 事業縮小に伴い投下資本が変動しやすく、ROICの数値が実態を反映しにくいため、ROICだけでの判断は不十分 |
また、有形固定資産への依存度が低く投下資本が相対的に少ないサービス業やIT企業では、分母となる投下資本が小さいため、ROICが実態以上に高く算出される場合があります。
そのため、ROICは事業の特性や成長段階を踏まえたうえで、他の指標と組み合わせて活用することが効果的です。

ROIC経営を成功させるポイント4つ
ROIC経営は導入するだけではなく、正しく運用してこそ経営改善の効果を発揮します。指標の活用方法や評価の設計を誤ると、数値の改善が目的化し、本来の企業価値向上につながりません。以下では、ROIC経営を成功させるポイント4つをご紹介します。
①評価期間の設定
評価期間の設定は、ROIC経営を正しく機能させる上で重要です。推奨される評価期間は3〜5年の中期設定で、単年評価は避けましょう。設備投資や新規事業への投資は、実際に利益が生まれるまでに数年かかります。評価期間を1年に設定すると、投資額が膨らんだ年にROICが低く算出され、将来性のある事業を誤って縮小・撤退対象と判断される可能性があるため注意してください。
例えば、工場の新設や生産ラインの増強を行った年は投下資本が増加するため単年ではROICが下がって見えますが、3〜5年のスパンで評価すれば、投資の成果を正確に測れます。適切な評価期間を設定することが、ROIC経営の実効性を高める前提条件です。
②関連指標の活用
関連指標の活用により、ROICだけでは見えにくい経営課題を把握できます。
ROICと併用すべき主な指標は、以下のとおりです。
| 指標 | 役割 |
| ROE(自己資本利益率) | 株主視点での収益性を確認する |
| ROA(総資産利益率) | 全資産の効率性を広い視野で把握する |
| WACC(加重平均資本コスト) | 資金調達コストとROICを比較して、価値創出を判断する |
ROICは本業の資本効率を測る指標として優れていますが、株主への説明責任はROEで補い、全社資産の効率性はROAで確認するなど、目的に応じた使い分けが必要です。
③ROIC逆ツリーの活用
ROIC逆ツリーとは、ROICを構成要素に分解し、各部門のKPIに落とし込む手法で、オムロン株式会社が考案・体系化したものです。ROIC逆ツリーの活用により、経営層と現場のKPIを連動させ、全社一体でROIC向上に取り組める体制を作れます。
構成要素の分解の流れは、以下のとおりです。
- ROICを「営業利益率」と「投下資本回転率」に分解する
- 各要素をさらに「売上原価率」「在庫回転率」などに細分化する
- 各部門が管理できるKPIに紐づけて目標値を設定する
ROIC逆ツリーを活用しない場合、現場担当者は経営目標を自分の業務と結びつけられず、改善活動が経営層だけに留まってしまいます。各部門の日常業務をROIC向上に直接関連付けられる点が、ROIC逆ツリーの強みです。
④WACCを上回る利益を目指す
ROIC経営を導入する際は、ROICとWACCの関係を正しく理解する必要があります。
WACCとは加重平均資本コストの略で、株主への配当や金融機関への利息など、資金調達にかかるコストを加重平均した指標です。ROICが「利益の効率性」を示すのに対し、WACCは「資金調達のコスト」を示します。

ROICがWACCを上回っていれば調達コスト以上のリターンを生み出せているため、企業価値を創出できていると判断することが可能です。
例えば、WACCが5%の企業がROIC3%の事業を継続すれば、資本コストを回収できない状態が続きます。ROICの数値を単独で追うのではなく、常にWACCを上回る水準を維持することが、ROIC経営の根幹です。
ROIC経営の成功事例2つ
オムロン・日立製作所の2社は、ROICを軸に資本効率と企業価値を向上させた代表例です。それぞれの取り組みをご紹介します。
①オムロン株式会社
オムロンはROICを経営管理の中核指標に据え、10年間で企業価値を大幅に向上させました。
オムロンが行った取り組みは、以下のとおりです。
| 取り組み | 内容 |
| 評価軸の転換 | ROICを主要KPIに設定し、全事業をROIC水準でS〜Cにランク付け |
| 逆ツリーの展開 | ROICを「営業利益率」「投下資本回転率」に分解し、各部門のKPIへ落とし込み |
| 成果 | ROICは2020年度に7.8%まで改善。BPS(1株当たり純資産)は2010年比で約2倍に拡大 |
オムロン統合レポート2021によれば、VG2020の10年間でROIC目標10%を目指し、事業ポートフォリオを見直した結果、TSRはTOPIXを大幅に上回りました。ROIC逆ツリーで現場と経営をKPIで連動させた点が、オムロンのROIC経営における成功要因です。
引用:オムロン株式会社 統合レポート2021
②株式会社日立製作所
日立は2024中期経営計画においてROIC10%達成を主要目標に掲げ、WACCを上回るリターンの継続創出を目指しています。
| 取り組み | 内容 |
| ROIC実績と目標 | 2022年度実績7.6%。2024中計でROIC10%達成を目標に設定 |
| ROICツリーの活用 | ROICを構成要素に分解し、各事業の社内KPIへ展開、現場レベルの具体的アクションに落とし込む |
| WACC低減戦略 | D/Eレシオ0.5倍水準・Net Debt/EBITDA倍率1.0〜2.0倍を財務規律として設定し、調達コストを抑制 |
| 株主還元の強化 | 過去1年TSR:20.0%、過去10年年率TSR:11.6%を達成 |
「キャッシュ創出力の強化とROIC経営の深化」を2024中計の重点課題に明示し、グループ全体で資本コストを意識した経営を推進しています。ROICツリーによる部門別KPI展開と財務規律の徹底が、持続的な企業価値向上につながっている取り組みです。
引用:日立 統合報告書 2023(2023年3月期)

ROIC経営を採用するべき企業
ROIC経営は、資本効率の改善や投資家からの評価向上を目指すすべての企業にとって有効な経営手法です。
業種や規模を問わず、以下のような特徴をもつ企業に適しています。
- 複数の事業を抱え、資本配分の優先順位を明確にしたい企業
- 上場企業としてPBR(株価純資産倍率)改善を求められている企業
- M&Aや設備投資など大型投資の採算管理を強化したい企業
- 事業部門ごとに収益責任を明確化したい企業
上記のいずれかに該当する場合、ROIC経営の導入を検討する価値が高いです。例えば、製造業やインフラ業のように固定資産を多く抱える業種では、投下資本(有利子負債+株主資本)に対する利益率を把握することで、資産効率の課題を発見しやすくなります。
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| 取り組み | 内容 |
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まとめ
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